2人の練習……
若い2人は、アメリカの生活も慣れて来た様子。
4月も終わり、5月に入った。だからといって、佐伯と甲斐は変わらない。いつも通りに生活をしている。
アカデミーでは、色々と勉強になっている。特にトレーナーの勉強で、どれだけトレーナーが大変で、どれだけ選手を見ているか、改めて理解していた。
選択格闘技でも、2人には意味の有る物になっていた。
カポエラの授業、佐伯…………
カポエラは基本、足技が中心で蹴りが主体の格闘技である。
また、独特のリズムがありブレイクダンスにも似た動きがある。実際、みんなブレイクダンスが上手かった。
佐伯はこの授業でリズムと足の使い方を覚えていく。早いテンポやわざとずれたリズム等でも、自分の動きを崩さずに行っていく。
ボクシングの試合でも、どんなにリズムを狂わせても対応出来そうである。
合気道の授業、甲斐…………
合気道は護身術の1つであり、実際には先手は無い。これは、講師の渋崎が話していた事であり、戦わなくて済むならそれが1番との事である。
しかし、それが通用しない事がある為に技が必要との事だ。
合気道は静と動がはっきりしている。そして、その動きに淀みがなく全く無駄が無い。最も、渋崎以外にそれを出来る者は居ない。
甲斐はその動きをマスターするべく、授業の時は誰よりも率先して意欲的に動いた。
アルバイトも慣れて来ていた。
2人はホールを任されており、なかなか人気があった。2人はよく、女性に声を掛けられていたが、あくまでアルバイトであり、お金を稼ぐ事が目的の為に上手くかわしていた。
常連の女性客からは誰が最初に2人を落とすか·落ちるならどちらか·という賭け事の対象となっており、レストランはなかなか繁盛していた。
ボクシングでも同じである。
ジムにも慣れ、ロードワークはいつの間にか距離が延び、かなりの距離を走る様になっていた。
ジムワークでは相変わらず切れのいい打撃音を響かせ、ミゲールも納得の様である。
そして、ジムが終わった後のアパートまでの夕飯を掛けたランニングも白熱していた。現在12勝12敗、全くの五分である。1度、エリーがこのランニングに参加したが、途中で置いて行かれ泣きそうな顔で最後にやって来た事があった。どうやらエリーは、この事が悔しくて毎日のロードワークの距離を増やし、密かにリベンジを狙っているらしい。
そんなある日の土曜日、2人はラリオスに言われジムの戸締まりをする事になった。
アメリカと日本の違いは色々あるが、ボクシングジムでもそれは如実にある。
例えば、練習メニューは基本選手が考え、あくまでトレーナーはサポートであり選手は自分の休みまでを考えなくてはいけない。更には、ラリオスのジムは日曜日が休みだが、試合前であってもこれは変わらない。日本だと臨時に開く事があるが、この辺がアメリカらしい。
2人はある程度片付けをした。
「佐伯、少し練習しねぇか?」
「おう、丁度やろうと思った所だ!」
2人はグローブを嵌め、サンドバッグを打ち出した。
時間が経つのも忘れ、2人はサンドバッグを打ち、その後にシャドーボクシングをしていた。
ジムに明かりが付いている為、通り掛かったラリオスがジムに寄る。ラリオスからジムの戸締まりを依頼されてから2時間程経っていた。
ラリオスは窓からそっと覗くと、佐伯と甲斐がシャドーボクシングをしていた。見慣れた光景の筈だが、何かが違っていた。ラリオスは2人のシャドーボクシングを観察していた。
佐伯は、色々リズムを変えながらシャドーをしている。どれもなかなかの動きをしている。不意に右ストレートを放つが、誰に教わった訳でもなくコークスクリューブローになっていた。それも極自然にである。
一方の甲斐は、オーソドックスでシャドーをしながら、流れる様な動きでサウスポーにスイッチし、そこから見事なワン·ツーを放っている。更に、オーソドックスとサウスポーをこまめにスイッチし、攻撃のバリエーションが増えている。
見ていたラリオスは我慢が出来なくなった。ジムのドアを開ける。
「おい!」
「「!?…すいません……」」
「いいから、グローブ着けろ!」
2人はラリオスに言われるまま、グローブを着けた。
「甲斐は軽くサンドバッグを叩いとけ!…まずは佐伯だ!」
ラリオスは佐伯のミットを持つ。佐伯はラリオスのミット目掛け、パンチを打ち込んでいく。
「最後に右!」
ラリオスの言葉に佐伯が反応し、コークスクリューブローを叩き込む。
「甲斐と交換だ!…軽くサンドバッグを叩いとけ!」
今度は甲斐のミットを持つラリオス、甲斐もラリオスのミット目掛けてパンチを放っていく。
「スイッチでワン·ツー!」
甲斐は滑らかな動きからサウスポーにスイッチし、ワン·ツーを放った。そのままサウスポーでのミット打ちをしていると、
「オーソドックスで3つ!」
甲斐はまたもスイッチし、ワン·ツーからの左フックを放つ。
ここでミット打ちは終了となる。
「2人共、いつ覚えた?」
「いや、特には……」
「何となくでやってました……」
「……池本達が夢を見たがる訳だ……佐伯!」
「はい!」
「これからは、体幹のトレーニングを入れていけ!」
「はい!」
「甲斐!」
「はい!」
「お前はサウスポーの練習も入れるぞ……これからは、スイッチとして磨いていく!」
「はい!」
「それとな…………」
「「はい!」」
「休むのも仕事だ!…片付けて早く帰れ!」
「「わぁ、ごめんなさい!」」
2人は慌てて片付けをする。ラリオスは口元を緩めながら見ている。2人にとって、何かが変わりそうな日になった。
この後2人は、恒例のゴチマラソンを行うが、殆ど同時にアパートに到着した。どちらが勝ったかで揉めていると、
「君達は進歩がないねぇ……」
ジョシュに呆れ顔で仲裁されるのであった。
何やらレベルアップの予感……




