自分のファイトスタイル……
焦りは禁物……
佐伯は本日も川上ジムで練習している。
スパーリングは喜多が担当し、喜多はしっかりと佐伯に課題を与えながら役割を果たしている。その他の練習も、喜多が付き添う形になる。喜多から付きっきりの厳しい指導の元、佐伯は本日もハードなトレーニングを行っている。
佐伯は練習を終えると、喜多に話し掛けた。
「喜多さん、相談が有るんですけど……」
「何だ?」
「……ここじゃちょっと……」
「ジムが終わったらでいいか?…駅前のファミレスでどうだ?」
「はい、お願いします!」
佐伯は帰って行った。
「喜多、佐伯は何だって?」
「相談が有るらしい……」
「相談ねぇ……子供が出来ちゃって、なんてね?」
「徳井、洒落になってねぇぞ?……そうだったらどうしよう……」
「……大丈夫だと思うけど、もしそうなら池本さんにも協力願おうか?」
「……確かにそうだな……」
「……よし、スパーリングに移ろう……今はこっちだね?」
「おう、頼むぞ!」
喜多と徳井はスパーリングを行う。
川上ジムを閉めた後、喜多はファミレスに向かう。ファミレスに着くとすでに佐伯は着いており、喜多は佐伯の居るテーブルに座りアイスコーヒーを頼む。
「話って何だ?」
「……あのですね……」
「話し辛そうだな……俺しか居ねぇんだし、話してみろよ」
「はい…………実はですね……俺はこのままで、強くなれますかね?」
「???……どういう事だ?」
「強くなりたいんです!…でも、このままで強くなれるのか……」
「…………くだらな過ぎて、話しにならないな……」
「俺は大真面目ですよ!」
「……そもそも、お前は自分のファイトスタイルを理解してるのか?」
「俺は……タイミングとカウンターで勝ち上がって来ました。それが俺の主軸です!」
「…………お前は少し、頭を使う事だな」
「どういう事ですか?」
「いいか……お前の場合は、カウンターは奥の手なんだ。カウンターが有るから相手は警戒する。その間にしっかり攻めて相手を追い詰めていく。破れかぶれになった相手を、カウンターで切り落とす!……分かるか?…カウンターに拘るのは構わないが、カウンターに頼り過ぎるなよ」
「……成る程……カウンターに頼り過ぎずか……」
「その為には、次の相手くらいカウンター無しで勝たないとな!」
「やってやりますよ!」
「しかし……相談事がこれで良かった……」
「どうしたんですか?」
「いや……子供が出来たとか言われたらどうしようかと思ってな……」
「喜多さん、いくらなんでも無いですよ!」
どうやら、佐伯はボクサーとして邁進していきそうである。
甲斐は西田拳闘会で、本日もスパーリングを中心に手塚に鍛えられている。甲斐は手塚の付きっきりの指導で、毎日をボクサーとして生活している。手塚のトレーナーとしての成長も垣間見れる。
甲斐は練習終わりに手塚に声を掛ける。
「すいません、手塚さん」
「何だ?」
「今日、話し出来ませんか?」
「話?……お前はろくな事を言わねぇからなぁ……」
「どうしても相談したい事が有るんです!」
「……池本さんにでも相談しろよ……」
「お前は馬鹿なのか?……俺は臨時の人間だ……お前が相談に乗るのが筋だろう?」
「しかし……甲斐は生意気過ぎるんですよ!」
「……最初の頃のお前よりましだ」
「うっ……」
「じゃあ、手塚さんお願いします。ジムが終わったら、いつものラーメン屋で待ってます!」
甲斐は頭を下げてから、着替えてジムを出て行った。
「池本さん、何だと思います?」
「分かる訳ねぇだろ!……よし、ミットいくぞ!」
「はい、お願いします!」
手塚は池本の持つミット目掛けて、自分のパンチを気合いと共に打ち込んでいく。
ジムを閉めた後、手塚はラーメン屋に行った。すでに甲斐は来ていた。手塚は座って注文をした。
「話って何だ?」
「……それなんですが……」
「どうしたんだ?」
「…………佐伯は必殺パンチが有るのに、俺は……」
「…………ぷっ…………あっはっはっはっは!」
「ちょっと手塚さん!」
「お前は馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、ここまで馬鹿だとはな!」
「どういう事ですか?」
「……お前、必殺パンチは何で有ると思ってんだ?」
「そりゃあ……切り札なんじゃないですか?」
「切り札か……あながち間違いでは無いんだがな……」
「違うんですか?」
「甲斐、池本さんの必殺パンチは何だ?」
「スマッシュでしょう!」
「……池本さんは、喜多のライトクロスや徳井のハートブレイクショットも使えるぞ?」
「……でも……やっぱりスマッシュです!」
「池本さんがスマッシュを覚えたのは、何時だか知ってるのか?」
「…………それは知りませんけど……」
「池本さんがスマッシュを覚えたのは、ラリオスと対戦する時なんだ」
「!?……次の試合で引退じゃないですか?」
「引退はさておきだが……実際に試合で使ったのは2回しかない……それでも、お前は[池本さん=スマッシュ]なんだ……この意味が分かるか?」
「????」
「池本さんはパンチは強力だから、必要以上に余計なパンチは覚えないんだ……逆を言えば、必要に迫られたから覚えたパンチがスマッシュだったんだ」
「それは……」
「つまり、お前が焦らなくても必要なら自分で勝手に覚えるという事だ!……それくらい、自分を追い込めばいいんだ。今は、余計な事は考えずに強くなる事に邁進だな!」
「はい!……絶対にやり遂げます!」
「おう!」
2人はラーメンを食べ、それぞれ帰って行った。
佐伯も甲斐も自分の戦い方に不安が有り、強くなる為に日々悩んでいる。強くなる事に限界は無く、絶えず上を目指す為に悩む事は当たり前である。
しかし、この悩む時間や苦しむ時間は決して無駄では無い。この時間が精神面を鍛え、ボクサーとして成長させる。佐伯も甲斐も、まだまだ成長をしていきそうである。
強くなれ!




