喜多の覚悟……
2人が強くなる為に……
佐伯も甲斐も、自分のジムに顔を出す。試合に向けて気合い充分である。休暇明けの初日は、2人共に物足りなさを感じていただけに、本日はやる気充分気合い十二分といった感じである。
佐伯が着替えて来る。
「佐伯、ロード行って来い……帰ったらスパーリングだ!」
「はい!」
佐伯はロードワークに出て行った。
佐伯が出て行ってすぐ、池本が入って来た。
「お疲れ様です」
「おう、池本…徳井はどうした?」
「徳井は西田の所です……喜多!」
「はい、なんですか?」
「暫くは、俺と徳井が西田の所とこっちを行ったり来たりしながら、トレーナーとしてフォローしてやる。久しぶりに、強くならねぇといけねぇんだろ?」
「……流石ですね……よろしくお願いします」
「さて、俺はトレーナーと練習生達をしごくから、お前はしっかりとアップしとけよ!」
「はい!」
喜多は入念に柔軟体操から始め、身体をしっかりと温めていく。
池本は石谷トレーナーの指示の元、練習生やアマチュアの選手、女性会員の練習を見ている。
佐伯がロードワークから帰って来る。
「準備が出来たらスパーリングだ!」
石谷トレーナーから言われ、佐伯は着替えてアップをしていく。
佐伯と喜多のスパーリング…………
佐伯は左ジャブを出しながら左に回っていくが、スピードが以前と段違いである。特に昨日もスパーリングをやってはいるが、休暇明けの為に色々試しているうちに終了となってしまったので、その意味でも本日は昨日よりも最初から気合いが入っている。
喜多も左ジャブから入っていくが、こちらは入念なアップの後とあり最初からマックスに近いスピードが有る。こちらはこちらで、昨日より数段速い動きである。
高速の動きの中、お互いにパンチを出し合っているがパンチは当たらない。素早いジャブからのコンビネーションをお互いに放つが、佐伯は避けながらパンチを返していき、喜多はガードを上手く使いながら被弾しない。息が詰まりそうな展開である。
佐伯が距離を詰め接近戦を挑んで来たが、喜多は細かいパンチを放ち佐伯にガードをさせて距離を取る。喜多は徹底的に自分の距離で戦うつもりらしい。
距離が出来、またもお互いが高速のパンチのやり取りをしながら高速の動きを見せているうちに1ラウンドが終了する。
スパーリング2ラウンド目…………
佐伯は1ラウンドと同じ様に、左ジャブを放ちながら左に回っていく。基本の動きは1ラウンドと変わらない。
喜多も左ジャブを放つが、こちらは一気に間合いを詰めていく。佐伯との距離が詰まると、喜多はラッシュを掛ける。身体も温まっており、喜多のパンチは物凄い手数である。
これに対し佐伯は、ガードを固めて様子を見ると喜多の右のパンチに合わせて自分も右のショートフックを放つ。タイミングばっちりのカウンターである。
このパンチを喜多は貰うが、喜多の動きは止まらない。佐伯のパンチを貰って尚、連打を佐伯に打ち込んでいく。
佐伯は徐々に後退していくが、ここで佐伯のスイッチが入る。佐伯は喜多の連打を避け出し、喜多に対しパンチを返していく。嵐の様な喜多のラッシュを佐伯は確実に避け、反撃までしている。なかなか信じ堅い光景である。
しかし、対戦している喜多は予定通りの様である。佐伯の反撃にも冷静に対処しながら、喜多は接近戦を展開している。
佐伯が少しずつ前のめりになった瞬間、喜多は左に弾ける様に動きアウトボクシングを展開していく。スピードは落ちる処か、益々上がった様である。
佐伯はこれに対し、すぐに反応する。喜多に合わせる様に左に回りながら、左ジャブから試合を組み立てていく。
2人の戦いがヒートアップし、アウトボクシングでありながらKO出来るパンチを何度も交錯させた所でスパーリング終了となる。
佐伯と喜多はリングから降りて来る。
「まだまだだな……サンドバッグ打って鍛え直しだ!」
「はい……」
「あれだけみんなに手伝って貰ってこれか……俺だったら恥ずかしくって、合わす顔がねぇな!」
「……今の言葉、絶対に取り下げて貰いますからね!」
佐伯はサンドバッグを打ち始めた。
佐伯はこの後、ミット打ちやシャドーボクシング等のいつもの練習を終えるとジムを後にした。スパーリングの結果が納得してないらしく、表情は終始厳しい物だった。
佐伯が帰った後、池本は喜多に声を掛けた。
「喜多、ミット持ってやるよ」
「池本さん?」
「強くならないとな?」
「……トレーナーになったのに、改めて強くなる事を目指すとは思いませんでしたよ……」
「でも……やるんだろ?」
「当たり前です。あのクソガキを調子込ませる訳にはいきません。少なくとも、俺の現役の時より強くならないと!」
喜多はグローブを嵌め、リングに上がる。
ブザーに合わせてミット打ちを始める喜多、持っている池本はなかなか様になっている。歯切れのいい炸裂音がジム内に響く。
「遅い遅い遅い、もっと速く!」
「パワーが無い、腰入れろ!」
「踏み込め!…もっと強くだ!」
喜多のミット打ちは8ラウンドに渡った。8ラウンドの間、池本に激を入れられながら喜多は力の限りミットを打った。
「サンドバッグ打って出直し!」
「はい!」
喜多はサンドバッグを叩き始める。池本は喜多に付き添い、色々と激を飛ばしている。
そんな2人を川上会長と石谷トレーナーは笑顔で見ている。どうやら、川上会長も石谷トレーナーも喜多の覚悟を悟った様だ。
喜多は佐伯のレベルアップの為、自分を鍛え直しスパーリングパートナーとしての役割をこなそうとしていた。
喜多、現役を超える覚悟をしたらしい……




