佐伯のタイトルマッチ……
試合当日……
試合当日、佐伯と甲斐は別々に会場に入った。2人共少し早めに会場入りした為、時間に余裕が出来る。着替えた2人は、控え室でゆっくりと過ごす。
徳井に関しては慣れた物であり、佐伯と甲斐が着替えて少し経ってから会場入りした。とても落ち着いている。徳井に関しては、この物語では敢えて触れない事にしているが、試合はKOでしっかりと防衛した。
佐伯と甲斐は、徳井が着替え終わった頃から身体を動かし出す。ゆっくりとアップし、試合にピークを持って行くつもりらしい。
2人がほんのり汗を掻いた頃、試合が始まる。本日の試合は、KOも有るが判定も有る。なかなか時間の読めない展開である。
佐伯の前の試合が終わり、少しの休憩の後に佐伯の出番となる。佐伯と甲斐の元に池本が来た。
「どうだ、調子は?」
「まあまあですね……」
「俺もまあまあです……」
「試合プランは?」
「プランなんて有りません。5ラウンド以内に決着を着けます!」
「だったら俺は、4ラウンド以内だな!」
「拳人のくせに生意気だな?」
「昴のくせにデケェ口だ!」
「大体な、拳人なんて俺とやれば5ラウンド以内にKOされるくせに!」
「何言ってんだ?…4ラウンド以内に俺が倒す!」
「出来ねぇくせに!」
「お前がな!」
「……成長しねぇな……本当に……」
「いやいやいや、拳人がガキなだけで……」
「お前に言われたかねぇな!」
「とりあえずだ……試合に集中しろ」
「「はい!」」
「おい、情けねぇ試合すんなよ!」
「リボンでも付けて、そっくりそのまま返すよ!」
「何だと~!」
「何だよ~!」
「うるせぇ、まだまだ弱いんだ!……静かにしてろ!」
「「すいません……」」
池本は出て行った。池本と交代で、川上会長·石谷トレーナー·喜多が入って来た。
「さて、出番だな?」
「はい!」
「しっかり勝つぞ!」
「はい!」
「佐伯……あんまり池本さんを困らせるなよ」
「それは……全て拳人が悪い!」
「お前のせいだ!」
「……進歩がねぇな……」
入場の合図が入る。
「とりあえずだ…勝つ事に集中だ!」
「はい!」
佐伯は控え室を出る。その後にセコンド陣が付いて行く。
青コーナーより佐伯が入場する。佐伯は花道に姿を表すと、そのまま少し下を向いた様な姿勢で立ち止まり、自分の胸を右手で軽く叩いて一気に走ってリングインした。
続いて赤コーナーよりチャンピオン、アレクセイ·シウバが姿を表す。シウバはゆっくりと花道を歩き、ゆっくりとリングインした。
アナウンスで2人が紹介され、佐伯とシウバは1度リング中央に移動する。レフェリーから注意事項を受け、一旦各コーナーに別れる。
「カーン」
ゴングが鳴った。
1ラウンド…………
佐伯は左ジャブを出しながら、左に回っていく。佐伯のいつもの立ち上がりだが、スピードがかなり速い。どうやら、喜多と何ラウンドもスパーリングをする事で佐伯のレベル自体が上がっているらしい。
シウバも左ジャブを出しながら左に回っていくが、佐伯のスピードにいささか困惑している様だ。確かに、短期間にこれだけレベルアップするとは考えにくい。
佐伯はシウバに構う事なく自分のボクシングをしていく。しっかりと距離を取り、打ち終わりには同じ場所には居ない。時折、シウバのパンチをかわしながら間合いを詰め、何発かボディにパンチを打ち込んでは距離を取る。ヒット&アウェイである。これを物凄いスピードで行う。
シウバは佐伯のスピードに付いて行けない。全てが後手後手に回ってしまう。佐伯が近付いた時に手を出すが、己のパンチが届く前に佐伯は居ない。シウバにとって、悪夢である。
1ラウンドも1分半が過ぎた頃、シウバがだんだんと佐伯に追い付いて来る様になってきた。何度かシウバのパンチを佐伯はぎりぎりでかわす様になっている。シウバにも手応えが有ったらしく、俄然シウバが攻めて来る。
佐伯はシウバのパンチを冷静に捌きながら、的確に自分のパンチをシウバに当てる。
シウバは佐伯のパンチを気にせず、前のめりでパンチを出している。前に詰めるシウバに佐伯は距離を取るが、いつの間にかコーナーを背負っていた。
一気に前に詰めるシウバは、佐伯に右ストレートを放とうとした。
確かにシウバは右ストレートを出そうと右手を動かしたが、それを確認してから佐伯は右ストレートを出す。佐伯のパンチはシウバの右ストレートが半分も伸びていない所でシウバの顎を打ち抜く。
シウバは右ストレートが伸びた頃には、そのまま前のめりでダウンした。どうやら、シウバの事を佐伯は完全にコントロールしていた様だ。
レフェリーはシウバを確認し、カウントを数える事なく試合を止めた。1ラウンド2分24秒KO、佐伯の勝利である。佐伯は戦績13戦13勝12KOとし、WBCシルバーチャンピオンを獲得した。
シウバは立ち上がると、周りをキョロキョロ確認し現状を理解した様にゆっくりと頷くと、佐伯と握手をしてリングを降りて行った。
佐伯の腰にチャンピオンベルトが巻かれる。佐伯が右手を上げると、観客席から盛大な拍手が送られる。
インタビュアーがリングに上がる。
「それでは……見事なKO勝利をしました、佐伯選手に話を伺います……まずは、見事なKOおめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「素晴らしいKOでした!」
「……まあまあです……」
「世界、見えて来たんじゃないですか?」
「まだまだです……まだまだですけど、少しだけ前進したと思います……これからも、応援お願いします!」
「以上、佐伯選手でした。もう一度、拍手をお願いします!」
会場から拍手が送られ、佐伯は観客席に頭を下げて花道を戻って行った。
控え室に戻った佐伯は、甲斐に近付く。
「勝ったぞ……」
「見てたよ……」
「繋げろよ!」
「当たり前だ!」
2人は軽く右拳をぶつける。佐伯はそのままシャワーを浴び、着替えて観客席に向かった。
「やってくれるぜ、全く……見てろよ……」
甲斐は静かに呟いた。どうやら、佐伯の試合を見て甲斐に気合いが入った様だ。
佐伯の見事な勝利!




