甲斐、集中する……
試合はこれから……
3ラウンド…………
甲斐は右ジャブから前に出て行くが、バルガスの動きに合わせてスイッチする予定の様である。
バルガスは左ジャブを放ち、甲斐から距離を取る。接近戦での甲斐の怖さをしっかりと焼き付けた様だ。
甲斐はバルガスのパンチをかわしながら、前に詰めて行く。どうやらバルガスのパンチに慣れたらしく、甲斐はバルガスのパンチを全く貰わない。
バルガスは甲斐にパンチが当たらない事で、だんだんとパンチに力が入っていく。
パンチに力が入ると、知らず知らずのうちに肩に力が入る。更には、手だけでのパンチになり易く連打が遅くなる。何よりも疲れが残るというデメリットが大きい。
バルガスは甲斐にパンチが当たらない事で焦り、結果として自分の首を絞め兼ねない事になっている。
バルガスが焦っているからといって、甲斐がそれに付き合う事は無い。甲斐はバルガスのパンチをかわして懐に飛び込むと、すぐにボディブローを放ち自分のパンチを上に繋げていく。
このパンチのコンビネーションが、試合が進むに連れて速くなっていく。更には、バルガスのパンチを分かっているかの様に避ける仕草がどんどん滑らかになっていく。
バルガスが右ストレートを放つと、それを察知したかの様に甲斐は避け、そこに自分の右拳を放り込む。カウンターの成立である。
バルガスは左膝と両拳をキャンバスに着いた。
レフェリーが割って入り、甲斐をニュートラルコーナーへ行く様に指示を出しカウントを始める。
バルガスはゆっくりと立ち上がるが、その目の輝きは少し失われていた。
レフェリーが両手を交錯させ、試合続行の合図を出す。
甲斐は一気にバルガスとの距離を縮めるが、バルガスは2ラウンド同様にクリンチでその場を凌ぐ。
レフェリーが割って入り、お互いに距離を一旦取るが、バルガスのパンチを甲斐がかわして距離を詰めると、バルガスは成り振り構わずにクリンチで凌ぐ。
バルガスの姿に会場からブーイングが起こるが、それでもバルガスはクリンチを繰り返しこのピンチを切り抜けた。
バルガスの再三のクリンチに、レフェリーから減点が言い渡された所でゴングが鳴った。
4ラウンド…………
バルガスは左ジャブを放ち、甲斐から距離を取っていく。
甲斐はバルガスのジャブをかわし、前に詰めていく。どうやら、甲斐はバルガスのジャブを見切っている様だ。
バルガスは先程と同じ様に、甲斐が間合いを詰めると成り振り構わずクリンチをする。何とか自分の距離で試合を進めたい様だ。
何度目かのブレイクの後、甲斐はまたもバルガスのジャブを沈む様にかわし、懐に飛び込む。
バルガスはすぐにボディをガードし、甲斐のパンチに備えた。
甲斐は潜り込む際、スイッチをしオーソドックスに構えていた。その為、潜り込んだ甲斐は左ボディを放つ。
このパンチをバルガスはしっかりとガードし、すぐにクリンチに繋げようとするが、甲斐は左足だけを引きバルガスとの間に少し距離を作ると、そのまま右拳を下から打ち抜いた。
バルガスの頭は縦に揺れ、ゆっくりとキャンバスに沈んでいった。
レフェリーはすぐにバルガスを確認するが、カウントを数える事なく試合を終了させた。
4ラウンド1分31秒KOにて、甲斐の勝利となった。甲斐は戦績14戦14勝13KOとした。
佐伯は観客席から、甲斐の試合をしっかりと見ていた。
甲斐は勝利者のコールを受けると、バルガス陣営に挨拶し、足早にリングを降りて行った。
控え室でラリオスとミゲールから話し掛けられる。
「なかなか見事な試合だったな……」
「まあまあですね」
「佐伯もそうだったけど、直接対決の準備は進んでるみたいだね?」
「……佐伯はあんなに楽じゃない……あいつは諦めないし、むやみやたらに逃げたりしない……少しくらい貰ったって、あいつは距離を置いて逃げる試合はしない……」
「……なかなか大変な相手だと認識してるのか?」
「当たり前です……あいつは厄介極まりない!」
「……甲斐に取っても、アメリカに来た事は正解みたいだね?」
「……自分と向き合うには、丁度良かったですね……」
甲斐は2人に頭を下げ、控え室から出て行った。
ラリオスとミゲールは控え室から出ると、2人で夕飯を食べようとそのまま食事が出来る場所に移動した。
移動の際、会場から出るとエリーがラリオスに話し掛ける。
「デイビッド、私も食事に連れてってね!」
「甲斐と帰ればいいだろう?」
「……昴と帰った……言葉も掛けられなかった……」
「成る程、今夜は甲斐に振られた訳だね?」
「ミゲール、何で嬉しそうな顔してんのよ?」
「……大人しくしろ……はぁ、2人が成長したと思ったら……エリー、お前も成長しないとな……」
「分かってるわよ!」
なかなか賑やかな夕食になりそうである。
一方、佐伯と甲斐はというと、試合会場の外で佐伯が待っており2人でアパートまで戻る様だ。
「昴、危なかったな!」
「俺は完勝だっただろ?……お前のが危なかったよ!」
「何言ってんだ?……俺のがKOタイム速いだろ?」
「俺のがパンチ貰ってねぇよ!」
「俺はガードしただろ?」
「俺は避けたけどな!」
「何だと~……」
「やるか~……」
どうやら、2人はここからアパートまで走って勝負するらしい。
2人は目で合図を送ると、同時に走り出した。
2人は人混みを掻き分け、結構な距離をなかなかのスピードで走り抜ける。殆ど同時にアパートに着いた。
「はぁ、はぁ、俺の勝ちだな?」
「はぁ、はぁ、俺のが速かっただろ?」
「目でも腐ってんのか?…俺の勝ちだろう?」
「お前こそ目が悪りぃんじゃねぇか?…勝ったのは俺だ!」
「また君達は喧嘩してるのかい?」
「丁度良かった…ジョシュ、拳人に俺のが速くアパートに着いた事を言ってやってよ!」
「ジョシュ、俺の勝ちだって昴に教えてやってよ!」
「君達は~……はぁ……僕が見た限りでは同時だったけどね?」
「ジョシュ、目が悪いんじゃねぇの?」
「本当……見えてんの?」
「見えてるよ!失礼だろ?」
「はぁ~……ジョシュに聞いた俺が馬鹿だったよ……」
「同感だ昴……聞く人間違えたな……」
佐伯と甲斐はお互いの肩を軽く叩くと、ジョシュに軽く手を上げて自分の部屋に入って行った。
「この野郎~……」
ジョシュは1人で癇癪を起こしていた。
甲斐の成長を感じます。




