ロサンゼルスでの生活……
大分、ロサンゼルスでの生活にも慣れました。
佐伯と甲斐は、アルバイトに練習と生活リズムは変わらない。特に、2人に特定の彼女が出来た事以外は変わっていない。
休みの日に、それぞれブラウンと渋崎の所に行き、それぞれに試行錯誤を繰り返している。
なかなか頼もしくなった。
ボクシングの方も順調である。
試合間隔は3~4ヵ月になり、身体への負担も少なくなった。これは、それぞれトンプソンとバンナの勝ち方がインパクトがあり、対戦相手がなかなか見付からない事も原因にある。
2人は試合はしっかりと勝ち、佐伯は11戦11勝、甲斐は13戦13勝としていた。
少し変わった事と言えば、ラバナレスがWBA世界Sフェザー級チャンピオンになった事である。
ラバナレスは世界チャンピオンになった後、統一戦を考えていた。相手として考えていたのはマクドウェルであるが、対戦が決まる前にマクドウェルは、佐伯と甲斐の先輩である喜多にKOされてしまう。
これを得て、ラバナレスは喜多との統一戦を進める予定であったが、喜多は防衛戦を行う事をせずに引退となり、ラバナレスはかなり落胆していた。
もしも2人が戦ったら、なかなか面白い試合になりそうである。
前に出て来るラバナレス、それをかわしながらリング内を縦横無尽に動く喜多、どんな駆け引きをしどんな作戦を立てるのか、選手だけでなくセコンドの力量までも問われる試合になった事だろう。
佐伯と甲斐のボクシングは、概ね順調だと言える。2人は戦績も去ることながら、練習に至っても留学直後とはかなりの差があり、その練習から実力が上がっている事が分かる。
ロサンゼルスに来た事は、2人にとって正解である。
ボクシング以外となると、少し面白い事があった。
ある日、ブラウンは佐伯を連れて渋崎の道場を訪れた。渋崎の所には、甲斐が居る。
「失礼します、渋崎先生!」
「どうぞ、ブラウンさん」
「実は先生……」
「……立ち会いましょうか……」
「話が早くて助かります!」
渋崎とブラウンは立ち上がり、道場の真ん中で構える。
「さて、ブラウンさん……合図はどうしますかな?」
「構えたら開始……ですけど、1つだけ言って置きます」
「どうぞ、言って下さい」
「本気で行きます……手加減はしません」
「奇遇ですな?……私も手加減はしませんよ……怪我はお互いに覚悟の上ですな?」
「そうですね……死なない様に頑張りますよ……」
2人の会話が終わると、2人の間の空気が急に張り詰める。
先に仕掛けたのはブラウン、回転しながら左ハイキックを出すが、渋崎はこれをかわす。間髪入れず、ブラウンはそのまま回転し、右の蹴りを放つが、渋崎はその蹴りを最小限の動きでかわすと、その右足に更なる回転を加えてブラウンを弾く様に投げた。
ブラウンは両手を床に着き、回転の反動を利用して自分の身体の回転を上手くコントロールして、右足を屈伸運動の曲げた様な形にし、左足を前に伸ばしてコサックダンスの様な格好で着地する。
お互いの顔に一瞬笑みが見える。
すぐにブラウンは、今度は縦回転からの蹴りを放っていく。渋崎の頭の上から右足を降ろしていくが、渋崎は身体を捻る様にしながらこの攻撃をかわす。
しかし、ブラウンはそのまま左足の第2撃を繰り出している。渋崎はこの攻撃を素早く距離を詰める事で無効化し、そのままブラウンに当て身を喰らわせた。
ブラウンは弾かれる様に飛ばされるが、すぐに身体を立て直しながら回転し、渋崎と相対する形で着地する。
2人が「ふ~……」と一息付くと、すぐにブラウンが攻撃を繰り出す。
回転の速度を上げ、先程よりも遥かに素早い動きで渋崎に迫っていく。
渋崎は、このブラウンの攻撃を正に紙一重でよけながら、その攻撃に自分の技を返していく。
ブラウンは何度か渋崎に宙を舞わされるが、その都度、絶妙なバランス感覚で態勢を立て直し床に叩き付けられる事は無かった。
2人が立ち合って3分程が経過した時、
「ここまでにしましょうか?」
「はい、僕も同じ事を考えてました」
2人の立ち会いは終了となった。佐伯と甲斐は、大きく息を吐いた。
2人は佐伯と甲斐の元に歩いて来る。2人が笑顔である。
「さて……2人は今の立ち会い、何を感じました?」
「「え?」」
「渋崎先生の対応の見事さかなぁ……」
「ブラウンさんの独特の動きとバランス感覚ですかね?」
「おや?……佐伯は渋崎先生の事で、甲斐は僕の事なのかい?」
「う~ん……ブラウンとは、いつも一緒に動いてるからね……」
「渋崎先生なら、確かによく見てるからなぁ……」
「はっはっは、少しは分かって来ましたかね……さて、佐伯君……私の戦い方を見て、何を感じましたか?」
「……最小限での動きにして、最大限の威力を発揮する……攻略するのは、なかなか手間ですね……」
「甲斐、君は僕をどう思う?」
「……独特のリズムと動き、更にはあのスピード……かなり厄介な相手ですね……」
「なかなかいい答えですね……2人共、今の答えを忘れない様にして下さい」
「そうだね……手間だし厄介だけど、それ以上でも以下でもない……ここが重要だね……」
「「???」」
「しかし……渋崎先生には参りました。1発もヒットしませんでしたからね……」
「いやいやいや、ブラウンさんも1度も投げられていないじゃないですか……痛み分けですな」
「相変わらず、優しいですね。渋崎先生!」
「辞めて下さい。兄が居たら、甘いって怒られますよ」
「「はっはっはっはっは!」」
渋崎とブラウンは大笑いであった。
この時、実は2人は大切な答えを言っていた。その答えに、渋崎もブラウンも満足している。この時を境に、渋崎とブラウンも佐伯と甲斐の直接対決が来るのを楽しみにする事になる。
2人に期待する人は増えてますね……




