2人はお年頃?
2人の変わった話し……
話は少し遡る。佐伯と甲斐がアメリカに来て、1年くらいの事である。
佐伯と甲斐は、いつも通りに練習し片付けをしていた。2人共に6回戦になっており、それなりに戦績を納めている。そんなある土曜日、2人が片付けをしているとエリーが入って来た。
「ちょっと聞いて!」
「うるさいのが来たよ……」
「……どうしたの?」
「昴には話して無いですよ!」
「それは良かった。拳人よろしくな!」
「そう言うなよ、付き合え昴!」
「え~……」
「何よ、そんなに嫌なの?」
「どうせさぁ、この間の試合が苦戦したとか言うんだろ?」
「うっ…………」
「図星なの?」
エリーは黙って頷く。
「んな物、練習が足りねぇだけだろ?」
「昴、もう少し優しく言えよ……」
「優しくされたいなら、ボクシングなんてやるなよ」
「別に、優しくなんてされたく無いわよ!…ただ、もっと強くなりたいの!」
「エリー、何で苦戦したのか考えてみなよ……苦戦する事は悪い事じゃない、そこから学ばない事がいけないんだ!」
「拳人はどこかの聖人みたいだな。相手を圧倒出来る力が無かっただけの話しさ……色々足りないのさ……」
「足りないのは分かってるけど、意見だって聞きたいの!」
「……正直に言って下半身かな……走り込みが足りないと思うな」
「誰よりも走ってるわよ!」
「か~、これだもんな~……拳人が意見言ったって、反論してんじゃんか?……愚痴が言いたいだけなんじゃないの?」
「何よ!…酷いんじゃないの?」
「2人共落ち着いて……いいかい、エリー…誰と比べて走ってるの?……まさか、ジムの選手なんて言わないよね?」
「…………………………」
「これだよ……所詮甘いんだよ……俺は先に帰るからな……」
佐伯は右手を上げ、着替えて帰って行った。
「何よ、あの態度!」
「……昴も苦い思い出なんだよ……誰と比べてやっているのか、少なくとも俺達よりはやっている自負がないとね……目指す物が世界チャンピオンならね」
「だって……私は女性だし……」
「それを言うなら、昴が言った様にボクシングをやらない事だね……そんな甘えた発言を通したいならね」
「…………厳しいなぁ……昴は厳しさを投げ付けて来るけど、拳人は厳しさをしっかりと伝えて来る……どっちも厳し過ぎ!」
「俺達も同じダメ出しをされたんだよ、ラリオスにね」
「デイビッドに?」
「ああ、そうだ……誰と比べて練習をしてるんだ?…勿論、池本や俺と比べてしてるんだろうな?……ってさ」
「池本やデイビッドと比べるって……まだ、プロになったばかりだったでしょ?」
「そうだね……でもさ、池本さんなら、やってた気がするんだよね……しかも、[それでもまだ甘い]とか言いながらね!」
「…………そうかぁ……私は甘いな~……」
「まぁ、まだまだこれからなんだからさ……お互いに頑張ろうよ」
「うん!」
この事をきっかけに、2人は意外に仲良くなっていく。
翌日の日曜日、佐伯はアカデミーの仲間とブラウンのジムに行く。
いつも変わらない面子である筈だが、その日は少し違っていた。ジムに行くと、見た事無い女性が居た。
「佐伯、丁度良かった。彼女のサポートを頼むよ」
「俺ですか?」
「ああ、よろしくな!」
「初めまして、中谷好美って言います」
「おお!…日本人だね!」
「え?…はい、そうですけど……」
「いや~…拳人以外の日本人と話すの、久しぶりなんだ!」
「拳人って誰ですか?」
「ああ、別に知らなくていいよ……で、このジムに来た目的は?」
「はい、リズムに乗って動くの、凄い格好いいじゃないですか?…だから、やってみたくて!」
「成る程ね……よし、こっち来なよ…こいつ等と一緒にやればいいさ!」
「はい、ありがとうございます!」
この日から中谷は、休みの日にブラウンのジムに顔を出す様になる。
中谷はロサンゼルスに留学しているが、髪は茶髪であり肌も焼けている。いわゆるギャルに分類される見た目であるが、佐伯と馬が合う様でだんだんと仲良くなっていく。
そして、佐伯の試合を見て、佐伯への感心がどんどん高くなっていく。佐伯も満更では無いらしく、2人の距離は縮まっていく。
2人は若者である。異性に興味を持つのは当たり前だし、自然の摂理である。別に悪い事ではない。
特定の彼女が出来たからと言って、2人は練習が疎かにはならない。そんな2人だから、彼女が出来た事がプラスに働き、ジムワークにも一層力が入って行った。
2人の快進撃は、それぞれの彼女の存在が大きいのかもしれない。
全くタイプの違う2人だが、それぞれが自分の出来る事で佐伯と甲斐を支えていた。簡単な様だが、なかなか出来る事では無い。
2人のアメリカでの生活は、楽しみもちゃんと有る様だ。
しかし、2人がアメリカに来た目的は別である。その目的達成の為に、2人は彼女達に時に心配を掛けながらも、強くなる事に邁進する。時にヤキモチを焼かれながらも、それぞれに自分の道を歩いて行く。
2人が強くなり世界チャンピオンになり、いつしか世界が注目する様な大きな舞台で、2人の直接対決を見たいと思う者は、それなりに居るし期待もしている。
2人は、そんな期待に応える義務があるのだ。
まぁ、若者ですからね……




