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心魂拳~共鳴する拳~  作者: 澤田慶次
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試合前……

試合が近付いて来ました……

佐伯と甲斐は試合に向け、気持ちも新たに練習に望む。スパーリングも覚悟が感じられる様な、気迫の籠った物になっている。

9月も後半に差し掛かり、練習も厳しさが増したある日、練習終わりにラリオスから呼ばれ、会長室に2人で入る。

会長室にはミゲールもおり、ビデオがセットされている。どうやら、対戦相手の試合を見る様だ。

最初に映し出されたのはバンナである。肩幅があり、首も太い。一目で分かる、前に出て来るタイプである。戦績は11戦11勝10KOであり、将来を期待される選手の1人である。

試合は予想通り、バンナが終始前に出て行き、近い距離での打ち合いを制してのKO勝利である。

しかし、バンナは決してインファイトしか出来ない訳では無い。距離を取られても、しっかりとアウトボクシングも出来ている。なかなかレベルが高い。

「バンナは、しっかりと足場を固める為に4回戦からデビューした。甘い事をすれば、どんな時でも形勢は逆転する……」

佐伯は黙ってビデオを見ていた。

次にトンプソンの試合である。戦績は7戦7勝5KOである。

トンプソンはどちらかというと、少し身長が高く細身である。アウトボクシングを好みそうなタイプに見える。顔も綺麗で余り打たれた事は無さそうである。 

試合は予想通りである。

トンプソンは軽快なフットワークを使い、切れのあるパンチを何度も放っている。前に出て来る相手を見事にかわし、自分のパンチを打ち込んでいく。最後は、わざと軽い左ブローを放ち、相手が前に出て来る力を利用してのカウンターで決めた。頭も良さそうである。

「トンプソンは6回戦からデビューした。こちらも将来を期待される選手だ。隙を見せれば、容赦なく攻撃して来る……」

甲斐も黙ってビデオを見ていた。

ビデオが終わると、

「どちらも全米学生チャンピオンだ。なかなか強い……が……お前達はこいつ等に負けたら引退させる!」

「「!?」」

「同感だね……アメリカに来てまで練習して、この程度の相手に勝てなければ先は無い……日本に帰って池本達に土下座でもするんだね……」

「やりますよ!…ここで躓く訳にはいかない!」

「徹底的にやってやりますよ!」

2人は会長室を出て、アパートに帰って行った。

「ラリオス、厳し過ぎたかな?」

「いや、足りないくらいだ……」

「潰れないか?」

「これで潰れるなら、それまでだ……」

ラリオスは答え、おもむろにビデオを再生した。

「これを見ろ……」

そこには徳井が映っていた。東洋太平洋の防衛戦である。

「徳井だね!……やっぱり強いな~……」

ビデオには続きがある。喜多と手塚の試合も入っている。

「この選手も強いな……戦うなら厄介だね…………あれ?…これは確か……手塚だったよね?……サーシャとの一戦は凄かったね……これから楽しみな選手だね!」

「……全員池本の後輩だ……」

「そうなの?」

「この3人も含めて、あの2人に期待してるんだ……今回のプレッシャーくらいは簡単にクリアして貰わないとな!」

「……しかし……池本のジムは大盛況だな……」

「池本の元に集まったんだ……池本の魅力に、みんな惹かれたんだ……」

「羨ましいんじゃないのか、ラリオス?」

「馬鹿を言うな……あいつより素晴らしい選手を輩出して見せるさ!」

何だかんだと、2人の未来の為を考えているラリオスであった。

しかし、今回の相手は強敵である。

佐伯は8戦8勝7KO、6戦目の時にガードを固める相手に、攻めきれずに判定勝利となっている。

甲斐は10戦10勝9KO、こちらも7戦目に守る相手を最後まで倒す事が出来なかった。

バンナとトンプソン、佐伯と甲斐に引けを取らない戦績である。2人はビデオを見た為、具体的に相手をイメージ出来る。その為、改めて気合いを入れ直していた。


9月も終わりを迎え、気が付けば10月も半ばを過ぎた。2人は減量が始まる。

最初こそ食事量を減らすだけだが、時間が進むに連れ、食べられなくなり水さえもストップする。過酷な時期になる。


10月27日、試合1カ月前、減量をスタートする。

やる事は特に変わらない。ロードワークからスパーリングに移り、その後はジムワークに移る。この変わらない毎日で、どれだけ己を練り込んでいくかが大切であり、ここでの鍛練がボクサーとしての成長を支える。


11月1日、まだまだ2人は元気である。少し雰囲気がピリピリしてはいるが、動きも力強さも変わらない。強いて言うなら、2人の目付きが今までの減量の時より鋭い。

2人はスパーリングを中心に、今日も精力的に動いている。


11月10日、減量も1番辛い時期である。

水の制限が始まり、眠る事もままならない。眠れないから疲れが取れない。それでも練習は続く。厳しい時である。

いつもなら、2人はいがみ合い喧嘩腰になるが、今回は集中して練習をしている。弱音は吐かない。少しだけだが、成長が伺える。

ウェートはリミットまで約1kg、改めて気合いを入れ直す2人である。


11月15日、減量も最終段階。

2人は疲労のピークであり、スパーリングの動きも重い。なかなか体が思う様には動かないが、それでもスパーリングパートナーを押し込んでいる。2人の気持ちは、ここでも折れていない。なかなか逞しくなっている。

ウェートはリミットに達した。第一関門突破である。

翌日より、疲れを抜きながら練習をしていく。これはこれで難しいが、2人なら大丈夫だろう。


11月25日、計量前日。

佐伯も甲斐も、スパーリングで軽快な動きを見せている。多分、アメリカに来て1番いい状態ではないだろうか。

ミットを打つ音も乾いた炸裂音が響き、パンチの破壊力が伺える。

どうやら準備万端である様だ。


11月26日、計量日。

2人はミゲールと会場に向かう。今回はメインの前とその前の試合である。順番は甲斐が先である。

2人は1発で計量をパスした。対戦相手も1発でパスしている。

改めて佐伯も甲斐も対戦相手と対峙した。なかなか鋭い目付きである。バンナもトンプソンも佐伯と甲斐を睨みながら目を逸らさない。勿論、佐伯と甲斐も目を逸らさずに睨み返す。

お互いのトレーナーが選手を引き離し、事態は一旦収まる。

帰りに2人で食事を摂るが、全く言葉を発しない。

2人はアパートに戻り、明日に備えて早めに休んだ。

さぁ、後はやるだけ……

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― 新着の感想 ―
[良い点] いよいよ試合ですね! 負けたら引退、池本さんを超える2人になるためには絶対落とせない一戦ですね!
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