試合準備と覚悟……
アメリカで、2人は上手くやっているみたいです。
ラバナレスとスパーリングをした翌日、佐伯はカポエラのジムに、甲斐は合気道の道場に向かう。2人はどうやら、昨日のスパーリングの後のリフレッシュを兼ねて来ている様だ。
佐伯はブラウンの元、色々な動きをしながらバランスを崩さない練習をしている。ブラウンが独特のリズムを刻みながら蹴りを出すのを見て、不意に佐伯はそのリズムを真似てパンチを出していく。
その佐伯の動きは、ボクシングでいう所のシャドーボクシングであるが、動きが速くパンチの連打も物凄い。ブラウンを始め周りの連中は、佐伯の動きに見とれている。
佐伯がシャドーボクシングが終わると、改めてそれぞれが動き始める。佐伯が来て、ジムは活気付いている。
佐伯はブラウンと仲間と一緒に動く事で、リフレッシュが出来た様だ。
甲斐は渋崎の元で練習する。渋崎の元、合気道の動きを一通り行い道場の隅でスイッチの練習をしている。
渋崎は甲斐に一言二言声を掛け、甲斐は頷き練習を続ける。
甲斐の練習を周りの者は見ていた。その鬼気迫る迫力に、誰もが注目せざるを得なかった。
練習を初めて2時間、甲斐は吹き出す様な汗を出して練習終了となった。顔はすっきりしており、こちらもリフレッシュ完了である。
翌日、佐伯と甲斐はアカデミーのアルバイトを行い、それが終わると練習の為にジムに向かった。
ジムに着いた2人は、ラリオスとミゲールの元、ロードワークから始まり本日よりスパーリング開始となる。
佐伯の相手も甲斐の相手も同じジムの選手である。ラリオスのジムは大きい為、スパーリングパートナーには苦労しない。更には、近い階級のアメリカチャンピオンが居る為に身のあるスパーリングが出来そうである。
しかし、ここで少し予定外の事が生まれる。
佐伯も甲斐も、Sフェザー級のアメリカチャンピオンとライト級のアメリカチャンピオンを中心にスパーリングをするが、この2人が剥きになってスパーリングをしても、2人の方が優位にスパーリングを進めている。階級が上のナチュラルウェートのアメリカチャンピオンが、8回戦になったばかりの相手に苦戦している。普通では信じなれない事である。
この出来事に、ラリオスとミゲールだけは納得の表情を示している。ラバナレスとのスパーリングの件もあり、2人は予想していたのかもしれない。
2人の準備は着実に進められている。
練習が終わると、ラリオスは佐伯と甲斐に声を掛けた。ミゲールも残っている。4人はリングの上に上がり座り込む。
「どうだ?…次の相手は流石にきついか?」
「どうせ、いつかはやるかもしれない相手ですよね?」
「早いか遅いかの違いだけですね……」
「なかなかいい感じだが……2人の言葉は軽いんだよね……ラリオス、なんでかな?」
「2人はどう思う?」
「軽く無いですよ!」
「覚悟は決めています!」
「ほう……どんな覚悟だ?」
「最低世界チャンピオン!」
「そして、昴と統一戦!」
「へ~……立派な覚悟だね……立派立派……」
「ミゲール、言い方にトゲがあるね?」
「何か不満でも?」
「……ラリオス……どうなんだ?」
「…………なる為にどうするんだ?」
「「???」」
「世界チャンピオンになる為に、具体的にどうするんだ?」
「それは……しっかり練習して……」
「強くなって結果を残していって……」
「……ミゲール、この辺だろ?」
「そうだね……まさしくこの辺だ……」
「「???」」
「…………お前達は池本の何を見ていた?…池本を慕うお前等の先輩達の、何を見て来たんだ?」
「2人共、覚悟っていうのはね……しっかり練習なんて甘い言葉じゃ表せないんだよ……」
「「…………………………」」
「池本は世界チャンピオンになる為に……俺に勝つ為に……ホプキンスに勝つ為に………………命を削って試合に望んだ……あいつの事だ……リングの上で死んでも勝つ、それだけの強い意思をあいつは覚悟していた…………試合をした俺だから分かる……デターミネーションとコンセントレーション……断固たる決意と集中力、俺は痛い程に痛感した…………だからこそ、あいつとの試合は俺にとって特別なんだ……命を賭けてまで挑んできた相手と、俺は最後まで打ち合ったんだからな……お前達程度が覚悟なんて言葉を使うのは、まだまだ早いんじゃないか?……少なくとも俺には、池本達の様なデターミネーションを感じない……」
「同感だね……口では何とでも言える……そしていつか笑いながら言うんだ……あの時は必死で頑張った。世界チャンピオンにはなれなかったけど、満足だってな……」
「「…………………………」」
「そうだな、お前達ならそう言うな……池本なら、世界チャンピオンになれなければ……満足は無いな…………あいつのトレーナーの、ミスター石谷がそうだからな……」
「石谷チーフですか?」
「何か有るんですか?」
「いつか分かる時が来る……その前に自分達だ……」
「片付けして、戸締まりしながらしっかり考えるといい……ラリオス、帰ろうか……」
「そうしよう」
ラリオスとミゲールは帰って行った。
佐伯と甲斐は片付け戸締まりをすると、2人で珍しく歩いて帰った。
「……俺達は甘いのか……」
「……確かにそうだな……アメリカに居るのだって、池本さんとラリオスがお金を出してるからだし……」
「恵まれた環境なのに、大切な事が出来てなかったな……」
「そうだな……何やってたのかな……」
「くそ!…絶対に世界チャンピオンになってやる!……絶対だ!…死んでもなってやる!」
「俺だって死んでもなるぞ!……そして、2人で統一戦だ!……死んでもやるぞ!」
「当たり前だ!」
「約束だぞ!」
2人はアパートの前でハイタッチして各部屋に入って行った。
どうしても伝えたかった事、ラリオスとミゲールは伝えられたみたいである。
気持ちも引き締まりました。




