2人の変化……甲斐……
甲斐は合気道の道場に行く模様……
甲斐はアカデミーの仲間に連れられ、渋崎の道場に着いた。ロサンゼルスの大きな通りにそれは有る。漢字で[渋崎流合気道]と書いてある看板をぶら下げている。目立つし、なかなか大きい道場である。
「ここはさ、渋崎先生が1人で立ち上げた道場なんだ!」
「いや~……でかいな!」
「だろ?…これだけ目立つからさ、道場破りなんかも結構来たらしいんだ!」
「マジか?」
「ああ、本当だ!…実際に俺達が練習してても、たまに道場破りは来るからな!」
「それで、どうなったんだ?」
「渋崎先生が一蹴だよ……来たばかりの甲斐みたいにさ!」
「痛い所を突くな~……まぁ、渋崎先生なら妥当か……」
みんなで道場の中に入る。
「待ってましたよ!」
渋崎がニコニコしながら迎え入れる。
ここで、渋崎を紹介しておく。
身長は160cm有るか無いかくらいで、細身である。見た目が華奢な為、ある程度認知されるまでは、余り良く無い連中に絡まれる事も多かった。道場を開いても、道場破りは毎日の様に来ていた。
しかし、そこは達人渋崎である。全てを返り討ちにし、現在に至っているのである。
全員が着替え、渋崎と一緒に体を動かしていく。ある程度体が温まると、
「甲斐さん、私と立ち会いましょうか?」
「いいんですか?」
「はい……今日は、フィンガーグローブを用意しました」
「総合とかで使うあれですか?」
「そうです……流石に、今の甲斐さんと素手でやる気は無いですからね……」
2人はフィンガーグローブを付け、甲斐はマウスピースをした。
「時間は3分……君、開始と終了の声を掛けて下さい」
渋崎がそう言うと、2人は構えた。
「始め!」
2人の立ち会いが始まる。
甲斐はオーソドックスから左ジャブを放つが、渋崎はそれを最小限の動きでかわしながら間合いを詰め、甲斐に対して当て身を使う。
本来なら吹き飛ぶ筈であるが、甲斐はスイッチしサウスポーになっており、渋崎の当て身を受けるがすぐに右のブローを放つ。
これも渋崎は最小限の動きでかわしながら、甲斐の左手を取って投げを放つが、甲斐はオーソドックスに戻しこれを防ぐ。
2人は一旦離れ、再び睨み会う。
甲斐がサウスポーで間合いを詰め右ジャブを放つが、渋崎はまたも最小限の動きで間合いを詰める。これに対して、甲斐は左のアッパーを放つと渋崎はぎりぎりでかわし、振り切った甲斐の左腕を捕まえる。
瞬間、甲斐は足の位置を変え右のフックを放つと、渋崎は甲斐の左腕を強引に引っ張りパンチの軌道を逸らした。
2人の立ち会いは、致命的な1打が決まらないままにお互いがあの手この手を繰り出している。
「それまで!」
3分が経つと、見ていた者全員から溜め息が漏れた。
2人はふぅと息を吐き、フィンガーグローブを外す。甲斐はマウスピースを外した。
「やられましたね……」
「いやいや、渋崎先生が本気じゃないから……」
「はっはっは、それでも1度も投げる事が出来ないとは……」
「しかし……判定なら、まだまだ敵わない……」
「あっはっはっはっは、判定ですか……グローブまで付けて貰って、合図までして貰ってからの立ち会い……これで判定まで出されたら、私は形無しですよ」
「そんな事……」
「しかし、君は恐ろしいですね」
「そうですか?」
「君のスイッチ……その度に重心が変わり、なかなか厄介でしたね」
「そんな物ですかね?」
「打撃を喰らったとしても、芯に喰らう事は少ないんじゃないですかね……ボクシングは打撃戦ですから、それでもダメージはあるんでしょうが、倒れる事は無さそうですね……本当に厄介ですね」
「成る程……少しは対抗出来るな……」
「それだけ拘らないと勝てないですか?……確か……佐伯さんでしたね?」
「そうですね、あいつは別格です……高校時代に負けてますからね……」
「そうですか……しかし、君を見てるとラリオス校長をKOした人を思い出しますね」
「池本さんですか?」
「そうですね……彼を思い出します。我々は合気道をやっている為、戦いは後の先なんです」
「後の先?」
「そうです。先に相手が動こうとして、それを持って先に攻撃を当てる……我々は護身術ですからね……しかし、ボクシングはそうはいかない。先の先……先に攻撃を仕掛け、有利に試合を進めないといけないですからね……池本さんの試合を見ると、攻撃こそ最大の防御という事をつくづく思い知らされます……」
「確かに池本さんは、徹底的に引かないですからね!」
「そうではない……う~ん……どう伝えたらいい物か…………まぁ、これが分かる様になれば、君はボクサーとして一皮も二皮も剥ける事でしょう……さて、それでは練習に移りますか?」
「はい、お願いします!」
甲斐にとっても、本日はボクサーとして成長する為に必要な1日となった。
この後、佐伯も甲斐もそれぞれの指導者と仲間達と話をした。佐伯も甲斐も指導者に質問した事は同じである。今までに1番強いと思った人という質問である。
ブラウンは、
「何人か居るね……対戦して強いと思った相手、見ているだけで強いと思った人……色々居るけど、衝撃的だったのは…………」
渋崎は、
「確かに色々居ます。ラリオス校長も強いですし、それを倒した男も居ますしね……その他にも強い人はたくさん居ます……しかし、1番印象に残っている人物となると…………」
「「久我龍晃」」
場所も違う、歩んだ道も違う2人から、奇しくも同じ名前が出た。この久我龍晃であるが、佐伯と甲斐にとってはこの先、ボクサーとして成長する上で大切な人物となる。
2人共、改めて強くなりそうです。




