幸せのおやつタイム
ユメヒちゃんはしばらく私の絵を描く様子を眺めたあと、色鉛筆で何かを描き始めた。
一段落つき、ユメヒちゃんのスケッチブックを見てみると、そこには色とりどりの小さな丸いものに羽根がついたものが描かれていた。
クチバシと目が付いてるから小鳥だね。
黄色いフサフサな丸にはクチバシはなく、小さな水色の羽根が付いている。それはクマバチ?
「いろんな小鳥さん描いたんだ、かわいいね。小鳥さんが好きなの?」
突然話しかけられてビクッとしたあと、ユメヒちゃんは静かに答えた。
「…翼は自由の象徴に見えるから…。」
ユメヒちゃん、キミは一体幾つなの?
見かけ幼稚園児か小学校低学年だよね。
そんなこと言う幼児いるのかな。
「そういえば、バイクは自由の象徴っていうの聞いたことがあるよ。」
「…そう…なの?…でも、ボクは地面より、空で自由にするのがいいな…」
ユメヒちゃん、キミは僕っ娘なんだね。また一つ、ユメヒちゃんの魅力を知ることができたよ。
「お空も好きなの?」
ユメヒちゃんはコクリと頷いた。
「私も、青空に浮かぶ雲見たり、星空観察大好きなんだ!将来、二人で星空観察しようよ。絵にも描いてみたいし。」
「‼︎」
ユメヒちゃんは、ハッとしたあと言葉が出てこないようだった。どこか遠くを見ているような仮面の下から、涙を流しているのが一瞬見えた。
「ユメヒちゃん、大丈夫?どうしたの?」
「…何でもない。…星空観察…してみたい…」
「絶対行こうね。もう約束だよ。」
このあとユメヒちゃんは頷くでもなく、絵の続きを描くでもなく黙り込んでしまった。
こんなときのため、ではないけど、お楽しみのおやつタイムにした。
私はいちご味のものが大好きで、母がいつもいちご飴とイチゴチョコといちご牛乳を揃えてくれている。
それらをリュックからガサゴソ取り出し、ユメヒちゃんに手渡していった。
ユメヒちゃんは呆気に取られたあと、笑っていた。
「…ユウカさん、イチゴ味、好きなんだ…」
この子、こんな笑顔になるんだ!
笑顔のユメヒちゃんは、間違いなく天使だった。
奇抜なファッションではあるけれど。
「イチゴ味ばかりで、呆れてるでしょ。嫌いじゃなかったら、これでおやつにしようね。」
ほとんど自己満足のおやつタイムを繰り広げていく私の隣には、美しく優しい、小さな天使が嬉しそうに微笑んでいた。
楽しい時間はすぐに過ぎ、帰らなければならない正午が近づいてきた。
ユメヒちゃんはパーカーのポケットから小さなかわいい紙袋を手に持ち、「…おやつのお礼…どうぞ。」と差し出してきた。
「わあ、ありがとう。何だろう。見てもいい?」
コクリと頷いたので、見てみると、忘れな草やかすみ草の押し花で作られた、ハンドメイド 風の栞だった。
「かわいい!頂いていいの?」
ユメヒちゃんは照れたように俯きながら、コクリと頷いた。
「ユメヒちゃん、ありがとう。これ、私の宝物にするね!」
こうして、また会えたら一緒にお絵かきする約束をして帰宅した。