少女と主の訓練(2)
「レグルは魔法を使ったことはありますか?」
「は、はい。僕は他の人より魔力が強い…らしいので」
〈魔法〉それは世界の秩序に干渉し、自身の願いを叶える術である。
発動方法は、大気中の魔力を用いるか、自身の魔力を使うかの二択だ。
前者の場合は多くが〈精霊使い〉と呼ばれている。
ちなみに後者は普通に〈魔法師〉になる。
〈精霊使い〉と〈魔法師〉は大気中の魔力に干渉できるか、否かで分かれる。
空気中の魔力はは精霊の力と言われており、自身の魔力の十倍以上の質を誇る。
つまり〈魔法師〉が半径十メートルの範囲魔法を使うとき〈精霊使い〉ならば半径百メートル以上の範囲魔法を同じ速さ、質で行うことが出来るのだ。
それは攻撃魔法、治癒魔法、空間魔法…関係なく、魔道具の製作時にもかかわってくる。
〈精霊使い〉とは如何なる願いも叶えられる力だけれど、反対に災いの元にもなる力なのだ。
「では取り敢えず、一番得意な魔法をやってみてください。もちろん、最大出力で」
「わ、分かりました……」
何故か少し不安そうな顔をして、魔力を練り始める。
ほわ、とレグルの周りがほのかに光った。
「〈ヘル・フレイム〉!!」
凛と澄んだ声が無駄に広い訓練場に響いた。
その刹那―何もなかった大気から炎があふれ出てきた。
瞬きをする間もなく訓練場は炎の地獄と化した。
「……へぇ」
この世界で七歳の平均魔法がどんなものかは知らないが、魔法師が五人は必要な大魔法をたった一人で成し遂げられる実力は持っているらしい。
炎属性超上級魔法・炎地獄。
これをたった一人でやるとなると、やはり―
「…〈精霊使い〉だね」
さっきレグルは他の人よりも魔力量が多いと言っていたが、恐らくそれはほぼ無限にある大気中の魔力を用いて魔法を発動させているためだろう。
こうして考えている間にも火の手尽きることなく広がっていく。
―うん。これは将来が楽しみだ。
「〈削除〉」
本来なら魔法の名称など言わないが、レグルに見せるためにわざと言って魔法を発動させる。
まだ少し粗さが目立つためか、ほぼ魔力を使うことなく超上級魔法を削除する。
「……え」
ふっふっふ…どうだ~!
これぞかつて私しか使えなかったSSS級軍魔法〈世界干渉〉。
マジックみたいで面白いから結構好きなんだよね。
「魔法が……消えた?」
「はい。消しましたよ?あのままじゃ私たち黒焦げになっちゃいますからね」
「……どうやって消したの?」
「普通に。魔法で、チョイっと」
どうやってって聞かれると難しいんだよ~。
「やりたい」って思えば、出来るものじゃない?
「………そうなんだ」
「じゃあ、レグル。火属性以外の魔法も使ってもらっていいですか?何属性でも良いですよ」
火魔法の次ならやっぱり水かな?
それとも光~とかやっちゃう系の子?
うーん…雷以外だと嬉しいなぁ……
レグルが次に発動させる魔法が何か当てようと考えていると、隣から声がした。
「あ、のさ。魔法って一属性しか使えないものじゃないの?」
「はい!?何を言っているんですか、レグル」
「だ、だって!宮廷魔法師団長だって風属性だけしか使っていないし…魔法書には二属性使おうとすると魔力枯渇を起こして死に至る可能性があるため、使用しないほうが良いって書かれていたよ……?」
誰だ、その本書いたヤツ。
んな、バカなことがあるはずないでしょうに。
この世界には『炎・水・風・土』の基本属性の他、『光・闇・雷・氷・空間・癒』の特別属性を合わせて全部で十の属性が存在する。
ちなみに私は雷以外のすべての最上級魔法が使える。
雷は相性が悪いのか、せいぜい超上級魔法になってしまうんだよね……
まぁ、上級魔法が出来れば『魔法が使える』として、私は十、すべての属性を制覇している。
―で、さっきのレグルの発言に戻るけど、三千年前だと全属性使用は当たり前だった。流石に最上級魔法を使える人間は限られているし、上級魔法レベルでも普通の〈魔法師〉は詠唱をしていたけどね。
と、なると……魔法が衰退している、とか?
いや、この場合だと衰退しているのは人間の魔力量だろうな。
さして実力もない賢者でも表れて、二属性目の魔法を習得しようと思ったら手違いが起きて魔力枯渇寸前になって『人間は一属性しか使えない!』ってホラ吹いたんだろう。
(↑正解)
―まぁ、原因は何でもいい。とにかくレグルには最低八属性は制覇してもらはなくては!
「……はぁ。一属性しか魔法が使えないなんて言う決まりはありません。現に私は十の属性をすべて操ることが出来ます……信じられないなら、見ていてください」
レグルの訝し気な半目を横目でスルーして魔法を発動させる。
「しかと、その目に焼き付けてくださいね…?」
そういうと、私は訓練場を闇で包み込んだ。
To be continued ………