少女の主(2)
「失礼します、お父様。お呼びでしょうか?」
控えめなノックと共に入ってきたのは、小動物のような少年だった。
ふわふわな亜麻色の髪。
ルビーのような真紅の瞳。
気が弱いのか、たれ目になっているところに庇護欲をそそられる。
年齢は私と同じ、七歳くらいだ。
私の存在に気が付いていないのか、レイフォンドさんを見つめる少年。
ちなみに私は執務机に座っているレイフォンドさんの近くの壁に立っている。
そこで今すぐ自分に幻想魔法をかけたい気持ちを全力で抑えていた。
(もう、めっちゃ可愛い!!撫でまわしたいわッッ!)
今の私は、例えるなら可愛い子犬を見つけたときのような心情だ。
膝から崩れ落ちていないことを誰か褒めてほしい。
あまりの可愛さに彼を不躾に見つめてしまう。
もう女の子より、可愛い…
というか、少し男の子っぽいのも相まって初々しい…(?)
誰かこの気持ちを分かって…!
本当にかわいいのッッ!お人形さんみたい……
〈氷の戦姫〉の氷の部分が溶け出してしまっているだろうが、女の子みんな可愛さには弱いから仕方ないッ!
ちょっとして、私の熱視線のせいか少年は私の存在に気が付いた。
「あ、あの。もう起きて大丈夫なんですか?」
「え?えぇ。大分よくなったし、大丈夫よ」
第一印象は大切!
そう思って出来る限り優しく微笑む。
「なら、良かったです」
私の渾身の笑みのお陰か、元気になったことに安心したのか、ほっと息をついて微笑む少年。
「うぐっ……」
なにコレ、マジ天使!!
膝から崩れ落ちそう…ほんと可愛い~ッッ!!
笑っただけで背に翼が見えたわ。
天国はココにあった………ッッ!
「では、レグル。紹介しよう。こちらアミス。これからお前の護衛になる少女だ。くれぐれも仲良くやれよ」
「僕の…護衛、ですか…?」
困ったように眉を寄せて私を見るレグル君。
まぁ、一見弱そうだよね。
多分君と同い年だろうし。何より女だし。
「あぁ、腕は確かだ。安心しろ」
「そう、ですか…わかりました。アミスさん、よろしくお願いします」
「あっ、いえ。こちらこそ、よろしくお願いします」
この子が私の主……なんかすごく守りがいがあるわね!
(主に見た目の問題で)
「では、レグル。アミスに屋敷の中を案内してやれ」
「分かりました」
あ、もしかしてもう行くのかな。
慌ててレグル君に駆け寄る。
「それでは失礼します」
レグル君の後に私も一礼して書斎(?)を後にした。
*******
「…で、最後にここが大図書館。一通り回ったけど大丈夫?覚えられそう?」
レグル君の後ろについて回ること一時間。
ようやく一周を回ったらしい。
「はい、大丈夫です。お手を煩わせてすいません、レグル様」
記憶力は多少自信があるし、何日か過ごしていれば覚えられるだろう。
というか、流石は世界三大国の一つって感じ?
公爵家の屋敷が昔のお城くらいの広さあるんだけど。
そもそもなんで家の中に『大図書館』だの『研究室』(1~10まである)だの『植物園』だのあるの!?
大図書館だったら国立でも行けばいいし、研究室はそれこそ研究所行けやッ‼
植物園と温室はまとめて良いと思うよ……?二つもいる?
前世は普通の社会人、少し前まで戦争一途の貧乏国家だったから差にクラクラする。
前世は安いボロアパート、転生してからは戦闘メインの家だからな。
あちらこちらに大砲ついているし、攻撃用魔法陣書かれているし…だったのに。
この家は、装飾は一つ一つ綺麗だし、道は大理石だし、バラ園とかラベンダー畑あるし。
三千年って、大きいねぇ~。ここもう別世界だよ、本当。
「あ、あのさ…」
この家に対するツッコミ…という名の愚痴…を頭で言っていれば、可愛い主が言いにくそうに口を開いた。
「?ハイ、なんでしょう」
護衛、別の人にしてほしい…とかかな?
あ、それかお腹空いたとか?
ここのご飯美味しいからね。それは仕方ないよ。
「できれば、でいいんだけど…あの、僕たち同い年だし…護衛っていうよりも、友達…に、なってほしい…な…と、思って……」
「ふぇ……?」
さっきまでくだらないことを考えていたせいか、呆けた声が出た。
やばい、めっちゃバカっぽい…
でも取り敢えず、言質!言質をとろう‼
「え、い、いいんですか?私なんかと友達で」
私の幻聴じゃないよね……?
「も、もちろん。あの……ダメかな…?」
幸 せ 死 ぬ ッ
もう本当可愛い!
こんな子と友達になれるなんて……ッ!
というか、もしかして転生して初めてのまともな友達……?
このチャンス、逃すまじ!!
「じゃあ、今から私たちは友達ですッ!レグル‼」
「え、あ…うん!よろしくね、アミスちゃん」
………え?
アミスちゃん………?
「アミスです、レグル」
「え?」
「私たちは友達なんですから、ア ミ ス ですよ?」
にっこりと微笑みながら圧を出せば、レグルが戸惑いながら呟いた。
「あ、じゃあ。アミス…」
「はい!レグル!」
なんか嬉しくなって笑いあう。
だからこの時、私はすっかり忘れてしまっていたんだ。
この世界が乙女ゲームの世界だ、ということを。
To be continued・・・・・