少女の目覚め(4)
「アミス様、ココを見てください。」
そう言ってメイドことマイさんが指差すのは北半球の大陸。
「ここは、グランパトル大陸。人類に残された最大にして唯一の大陸です。私たちが住むことが出来るのは、グランパトル大陸と、その周りの島々だけですから」
何故人類は北にしか住めないんだ?
寒い地方に対応するように進化してしまった結果…とか?
いや、なら南極に行けば良いだけの話―
そもそも、赤道(?)より下がすべて黒で塗りつぶされているとは意味不明だぞ。
「あ、あの。どうして人類は南に住めないんですか?」
「え………?」
え、なに。
めっちゃ変な目で見られているんだけど。
北にしか住めないっていうのは常識なの?
「あぁ、すいません。えっと。この地図にもある通り、南は〈闇〉で覆われているんです。南に行くと黒霧が濃くなって……気が付けば多くの魔物に襲われている―なんて、よくある話なんですよ。だから、南に何があるのか。どんなところ何か。何もわかっていません。ただ一つ分かっているのは〈死海〉を超えた先には魔物の住処がある、ということだけです」
なるほど、赤道より下は全部〈闇〉に覆われているから、食べられたくなかったら北に住むしかないってことね。
そりゃ、常識だわ。
「…わかりました。ありがとうございます」
「それじゃあ、改めてカナストル王国についてお話しますね」
ぺらり、と次のページへ進めば大陸だけを写した絵が広がる。
マイさんはその中心を指で囲みながら話し出す。
「カナストル王国は、大陸の中央海岸沿いに位置します。南は海産物、北は農作物、西は畜産物、東は果樹園、と自然に恵まれています。他国とのつながりとしては、西にハルバード帝国。東にゲルバニアがあります。どちらの国境にも高い山があるので、貿易は船のほうが盛んですね」
ふむふむ。
聞くだけだと大分平和に聞こえるわね。
私だったら『千人の兵士が大魔法を使えて~』とか説明するもの。
取り敢えず、探りは入れてみるか。
「あの。ゲルバニアってさっき言っていた世界三大王国の一つですよね?戦争の危険性とかはないんですか?」
「ありませんね。世界三大王国はすべて平和条約を結んでいます。『人類同士で争うことなく、国の境を超えて共に〈闇〉に立ち向かうべし』…と」
「…なるほど」
つまりは人類で戦争するよりも、魔物を倒さなきゃヤベーじゃん!って話だね。
そうなると、魔王討伐~とか言い出しそう。
やっぱり本格的に転移や召喚の可能性を疑うべき、か………
「あの、歴史の中に世界大戦とかなかったんですか?」
「世界大戦…?あぁ、あったわよ。三千年前に一度。百年以上続いたって話だけど…そうそう、殺戮兵器を背負った少女が戦争に終止符を打ったって逸話が残っているやつ」
サ ツ リ ク ヘ イ キ ?
「その容姿は神の如き美しさで、白銀髪に真紅の瞳、絶世の美少女だったんだって。」
私、白銀髪に真紅の瞳。
あと、比較的可愛い方だと思う。
「しかも、無詠唱で半径五キロのクレーターを作り上げたーとか」
いや、普通じゃない?
私も連発していたよ。
あ、でも。殺戮兵器を作ってからはそっちのほうが威力強いってやめたんだっけ?
「彼女は指一本で大陸ごと凍らせた、とか」
気のせいでしょ。
辺り一面が氷になったことならざらにあるけど。
「彼女は剣も極めていて、剣先を目で追うことは不可能、とか」
いや、普通に目が悪いんじゃない?
宮廷騎士団長とか光よ、光。
「ほかにもたくさんあるよ?〈氷の戦姫〉の逸話。」
――私、何の戦姫って呼ばれていたっけ?
郡?瘧?小鳥?
「………なるほど。あ、ありがとうございます」
あ、マジか。
つまり、これってそういうことだよね……?
「いいえ!あ、そうそう。さっき本を取りに行ったときにね。旦那様が貴方とお話ししたいって言っていたわよ!後で、お部屋まで案内するわね」
隣で嬉しそうにマイさんが何か言っているが、今はそれどころじゃない。
えっと、この世界では三千年前に世界大戦があって。
そこには〈氷の戦姫〉と呼ばれた私と全く同じ容姿をした少女がいて。
彼女が戦争に終止符を打っただの、逸話が残っちゃってて。
だから―
つまり―
すなわち―
よって―
私、三千年後の世界にいるぅぅぅぅううううう!?!
To be continued・・・・・