小話・ノトス王国への旅路(1) キースと魚釣り
スランプです(T_T)
遅くなってすいません。
「~♪~~~♪~♪」
昨日の夕方に船に乗り込み、早朝。
アミスたちはノトス王国へ向かう一週間の海の旅に出ていた。
カナストル王国の友好国であるノトス王国は『世界で一番危険な国』である。つまり『世界で一番南の国』言い換えれば『世界で一番〈闇〉に近い国』。
この世界は南の半分を〈闇〉に支配されている。南大陸の〈闇〉の中には魔物や魔人が存在し、ゲーム通りなら十八歳の時―八年後に魔王軍の進撃が開始される。そして進撃の一年前、多く出現するようになった魔物を〈浄化〉するため異世界から聖女が召喚される。神聖魔法によって魔物を〈浄化〉する…んだけど、神聖魔法なんて本当は存在ない。【光魔法】に【浄化の力】っていうスキルか天啓を手に入れることによって発動できるただの魔法、なんだよね。まぁ、私やレグル、ラヴィルなら魔物の〈浄化〉も可能ってこと。
ノトス王国が魔物の襲撃を受けた際、カナストルは援護するということを条件にノトス王国にある豊かな自然資源を分けてもらっている。そして今回は「魔物の動きがおかしい」という報告をもとに、契約通りこうして遥々向かっていた。
大きな船に二百人近くの乗客。
国王陛下や殿下、二大公爵など国の重鎮ばかりが集まったこの船の半分以上は護衛が占めている。ちなみに、陛下に殿下、宰相様がいなくなった穴は王弟陛下が埋めているらしい。陛下の弟であるイグノアード公爵様は〈魔〉を司るルベラシュタイン公爵の現当主で陛下の影として活躍している。
「~♪~~~♪~~♪」
重要な書類はアミスが魔石に付与した転移魔法でイグノアード様と陛下を繋いでいる。だから一週間の旅でも公務のため陛下とカエルム公爵は部屋に閉じこもってしまっているのだが。
「お、アミス。まだ日の出前なのに早いな」
「んー?あぁ、キース。おはよう。キースも一緒に、どう?」
船の甲板の端―自分の隣を指さして誘うアミス。一体何をやっているのか分かったものではない。
「…何をやっているんだ?」
訝し気に聞いたキースを一瞥して海に手を翳すアミス。
「魚釣り」
彼女の声と共に海の中から水球が現れる。
その中には銀の鱗をきらめかせた三匹の魚。
「よし。これで九十四匹目」
「―――は?」
「キースもやりましょう?【空間魔法】と【水魔法】【風魔法】の練習になるわよ」
「………はぁ?!……いや、まぁ、そういうことなら?」
渋々といった感じでアミスの隣に座り込むキース。それを見てアミスは満足げに笑った。
「えーっと。まず【空間魔法】で魚の場所を察知。【水魔法】と【風魔法】を使って魚の周りの水ごと回収。釣れた魚は…そこに置いておいて」
「ん。了解」
そして目を閉じて【空間魔法】を発動させるキース。毎日レグルと一緒に訓練をした彼は今や超上級魔法を発動できるまでになった。アミスにより宰相の息子としても期待されているのに魔法も操れる、万能型に変身したのだ。
「!逃げられた…ッ」
「【風魔法】で切り離すのが遅かったんじゃない?雑でもいいからスピード重視でもう一回やってみて」
「ん。わかった」
キースが頑張って魚を釣っている間、【闇魔法】でも魚を釣れないかな~♪と魚釣りがてら考えていた。
「!ッ、釣れた!!」
「おぉ、美味しそうじゃない!それで百一匹。あと九十九匹頑張ろう!」
「おー!」
そして甲板は魚で埋まっていく―
「ねぇねぇ。分身人形を作って潜らせるのはどうかな」
「あぁ、いいんじゃねぇの?【闇魔法】と【空間魔法】で―」
「そうそう!やってみようか!」
ぱっぱと分身人形を二体作成するアミス。そこに【闇魔法】をかけて一体をアミス、一体をキースとつなぐ。
「行けーーー!!」
「うぉッ!海の中が見える!!」
繋いだ分身人形越しに海を散策していく。綺麗な海の姿に、アミスもキースも興奮していた。
「あっ!ねぇあれサザエじゃない?〈回収〉」
ぽとっ。
〈回収〉の魔法によって、甲板にサザエが落下する。
まぁ〈転移魔法〉の応用だ。
「おっ、魚の大群発見〈回収〉」
ぼとぼとぼと―
「んー、この貝食べられるかなー?一応〈回収〉」
「あっ!これもいけるんじゃねぇの?」
「あぁ、いいねぇ!」
どさどさどさ―
回収した貝や魚で大きな甲板は埋まっていった。
一見すると、甲板の端に腰かけて目を閉じて魔法を操り「わぁ!魚!」や「おぉ、これ旨そう」と独り言ちている変な人たち―。そしてその背後ではどんどん魚介が積まれていくのだ。
***
「おぉ、レグル。はよ」
「おはよう。レグル」
「あぁ、おはよう。ラヴィル、グレン」
まだ少しの眠気を残して廊下に出ると、ラヴィルやグレンと出会った。
「そういうば、キースは?アイツならもう起きてそうだけど」
「あれ、アミスの気配もない。甲板かな?」
そう、そして彼らは発見する。
たくさんの魚介の山と、目を閉じて楽しそうに話している二人のことを―
***
「えっ!?な、なにこの山ッ!―はッ!?魚?」
「………これ、は……」
「おぉ、旨そうだな」
広い甲板を埋め尽くすように積まれた魚の山に、三人の反応は様々。
―まぁ、レグルとラヴィルは同じような引き笑いを浮かべているが。
「あっ!アミス!!キース!!」
甲板の端に座り込む二人の背を見つけて声をかける。
「ふぇっ!?」
「うわっ!!」
海の中に集中していた二人は急に声をかけられて吃驚し、バチンと音をたてて強制的に魔法が終了させた。急に陸に引き戻されたことに戸惑いながらも、なんとか現状を理解しようと辺りを見渡す。
「ちょっと二人とも!何をやっているのさ!」
そんな二人に構わず、責め立てる少年ママことレグル。
「「魚釣りッ!」」
揃って渾身のドヤ顔を決める二人に、レグルは脱力した。
「釣りすぎだろ」
「よくこんなに釣れたねぇ」
「えぇ、楽しくなっちゃって」
えへへ、と無邪気に笑いながら魚の山を見渡すアミス。そんな彼女を見て、レグルは眉を寄せて小言を漏らす。
「もう、こんなにたくさん食べられないでしょう!?」
「〈マジック・ホール〉に収納しておくから平気。それに、護衛の騎士さんだって新鮮な魚介をお腹いっぱい食べたいよ!」
「―――まぁ、そうかもね…?」
そしてレグルが「アミスに何かを言うほうが間違っているのかも」と諦め始めたころ、甲板に三つの声が響いた。
「えぇぇえええええええええええッッッ!?なにこの山ぁあああ!!」
「―――すごいな」
「うむ、美味しそうだ」
上から国王陛下、ファルファード公爵、カエルム宰相。
まさかの国のトップ三人に見つかり、流石のアミスもてんやわんやなる旅路一日目の早朝の話。
END




