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少年側の物語

★キース君視点になります


〈知の公爵〉カエルム公爵家の長兄であるキース()には二人の母がいる。


一人は俺の生みの親、サラシャ=カエルム。

彼女は男爵の生まれだが、父・グライドと恋に落ち結婚したらしい。

しかし彼女は精神的な病に伏し、俺が五歳の時に死んでしまった。


そして、もう一人は義母・グロイア=カエルム。

俺が五歳のころに父が再婚して出来た母だ。


彼女には俺と同い年の娘がいる。

義母・グロイアと同じ桃色の髪をし、父や僕と同じ紫の瞳を持った少女――プレア。

父と母が結婚して三年目に産んだ子が俺なのに、何故カエルム公爵家の証である『紫の瞳』を持った同い年の少女がいるのか。

理由は簡単明白だ。

父は、不倫をしていた。

それも俺と同い年の少女を産むほど前から。


それを理解した時俺は心の底から絶望した。

もしかしたら母はそのことを知っていて病にかかったのかもしれない。

男爵である彼女が公爵夫人として生きるのが、どれほど大変だったかも考えずグロイアと関係を持ち、あまつさえ自身の妻を殺した彼が俺は心底許せなかった。


しかし俺は何も言わなかったし、しなかった。

何故なら母が死んでしまったのは、俺が原因かもしれないから。



俺が【闇魔法使い】だと発覚したのは、母が病に伏す一週間前だった。

優しくて明るい母といつもの様に城下の町へ出かけていたときのことだ。

近道をしようと裏道に入り、俺たちは賊と出会ってしまった。

か弱い母と何もできない五歳の俺。

屈強な男たちに俺はボコボコにされ、母は美人だからと襲われそうになった。


その時だ。

目の前が真っ赤に染まり、体が熱くなった。

そして俺は力の限り叫んだ。

『母を救いたい』その一心で。



気が付いたら家のベッドの上だった。

俺の闇魔法で賊は全員死亡、母も無事だったらしい。

俺は途轍もなく嬉しかった。

大好きな母を救うことが出来たのだから。


しかし、その後からだ。

母が自室から出てこなくなった。

会いに行ったら母は話してくれる。

会いに行ったら母は笑ってくれる。


けれど、会いに行く度に父に暴力を振るわれた。


おかしいと思った。

自分の母に会いに行くことの何がダメなのか理解が出来なかった。


五回目に会いに行った日から俺は一週間の自室謹慎を命じられた。

『絶対に自室を出るな』と。

部屋の中に監視兵を置かれ、俺は一週間を自室で過ごした。

一週間たてば、また母に会える。

それだけを心の支えに不自由な時を耐えた。


しかし一週間後、母はこの世にいなかった。

父からは五日前に死亡したと告げられた。


もう何がなんだか分からなかった。

いつからか狂い始めていた歯車が俺を壊していくようだった。



そして一か月後、新しい母が来た。

目が痛くなるような鮮やかな桃色の髪、濁った金の瞳。

柔らかな印象を与える産み母(サラシャ)とは正反対のキツイ風貌をしたグロイア。


そしてその日から地獄の日々が始まった。

毎晩一時間グロイアの部屋に呼ばれ、暴力を振るわれる。

所謂、虐待の日々。

髪も瞳も父と同じ色彩をしているのに、サラシャの面影があることが気に食わなかったらしい。

背中に鞭を当てられ、熱湯をかけられ、泣いたり喚いたりするとより酷くなる。


希望だった母が死に、その間際にすら立ち会えず、新しい義母には虐待を受け、虐げられる毎日。


何のために生きるのかもう分からなくなっていた。

しかし俺は生きていた。


時が経ち五年後、十歳の今日。


俺は変な少女と出会った。

一瞬で俺の力を見抜き、それでも変わらず接してくる彼女。

重度の人間不信(ゆえ)の、俺の厚い皮もいつの間にか剥がれていた。


バカみたいに真っ直ぐでお人よし。

でも自称十属性を操る稀代の天才。


微塵も曇りを感じさせない瑠璃色の瞳で俺を見つめながら彼女は言った。


「今までの人生を振り返って後悔することも、今苦しいと泣くこともありません。今幸せならそれでいい。例えそれが血塗られた手で掴んだ幸せだとしても。罪から逃げるのも、神に懺悔するのも、なんでも良いではないですか。ただ貴方が今幸せだと、自信を持って言えるなら、それで十分です。言えないなら何がダメなのかを考えて、動くんです。動かなくちゃ、何も変わりません。怖い何て些細な感情です。後々後悔する悲しみの方が、怖いではないでしょう?……だから、闇に溺れそうになったら言ってください。私は全力で貴方に光を、届けてみせる」


どんな人生を送ればその言葉にたどり着くのだろう。

どんな苦しみを乗り越えれば彼女のように美しく生きられるのだろう。


今幸せだと言えるならそれでいい…

あぁ、言えるわけがない。

ただ俺に傷をつけたグロイアに仕返しをしたくて今まで生きてきたのだから。


動かなくては変われない。

サラシャが死んだあの時から俺は立ち止まったままな気がする。


怖いなんて些細な感情。

そう、俺はもっと辛い感情に耐えてきた。


闇に溺れそうになったら、光を届ける―

本当はもうとっくに溺れて一人じゃ抜け出せなくなっていたんだじゃないか。



がたん、と音をたてて馬車が止まると、彼女は立ち上がり俺に手を差し出した。

―それはまるで溺れた俺を光に引き上げるようで。


暗闇を切り裂く美しい白銀を棚引かせて、アミスは微笑む。


「行きましょう?キース。貴方の希望を探しに」


俺はお前の手をとろう。


もう二度と大切なものを失わないように。




To be continued………



以上、少年の物語でした★

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