少女の回想
がたん、がたんと揺れる荷馬車から風景を眺める。
どんどん離れていく街の灯を遠目に見ながら、満天の星空へと視線を移す。
「…おい」
不愛想な声にさらに視線を移すと、鮮やかな青緑色の髪が視界に入った。
もう少し振り向けば、寝かされているたくさんの子供の姿。
「…はぁ」
本来なら今頃楽しく屋台を回っていたのに…
思わずため息をつきながら、つい半刻前を思い返す。
**
事件の始まりは、その少年を見つけたところから始まる。
「あら、こんなところで何をやっているの?」
人波に揉まれて何時の間にかレグル達とはぐれてしまった私は、少し脇道にそれたところで彼を見つけた。
「……? あぁ、こんばんは。この前グレンと一緒にいたメイドちゃんだよね」
「はい、アミスです。で、こそこそと何をやっているんです?キースさん」
こそこそと、を少し強調していえば、前図書館で見かけたその少年は苦笑を浮かべた。
彼もお忍びなのか平民の格好をしているが、鮮やかな青緑色の髪は相変わらずだ。
「…あれ」
キースの指さした方を覗けば、先ほど舞台に立っていた五、六人の子供と厳つい顔をした四人の男性がもめていた。
二人の男性は子供を脅かし、残りの二人は袋に子供を詰めようとしている。
「…はぁ、誘拐現場ですか」
うわ、この楽しい時間になんて面倒なことを。
今回ばかりはキースに巻き込まれたのだ。
私は悪くないよ!レグルッ!
「正解~、良くわかったね」
日向ぼっこしているような呑気な声でキースは答えた。
その様子に思わずイラッとしてしまったのは仕方がないだろう。
「捕まえなくていいんですか?」
「えー、僕がそんなことできると思う~?」
「はい。だってキースさん、闇魔法使いでしょう?」
裏道からキースの瞳へ視線を移せば、二人の間に緊張が走る。
「……おかしいな。誰かに漏らした記憶はないんだけど」
…最近の十歳は殺気も自由自在ですか。
そうですか。
今彼の浮かべている目の笑っていない笑みが、暗黒微笑と言われるものでないことを心から祈っていますよ。
甘い容姿に反した【闇】を持った上、中二病患者とか冗談じゃないから。救えないから。
「何となく、ですよ。大丈夫、誰にもバラしていません。…で、なんで捕まえないんです?せめて衛兵でも呼べば良いではないですか」
まぁ、【光属性】と【闇属性】は対になっているから、どちらかを使えれば気配で分かるって理屈なんだけどね。
「いやだよ、面倒くさい」
…なるほど、キースってこういう奴なのか。
なるほど、なるほど。
これは性根を叩きなおす必要がありそうですねぇ?
「分かりました。じゃあ行きましょうか」
「はっ!?ちょ、ひ、引っ張らないでよッ!?」
「なんでこんなバカ力なの!?」というキースの叫びと共に、大人たちのいる道へ踏み込む。
キースの叫びを聞いて振り向いた誘拐犯男。
「あ゛?なんだい嬢ちゃん」
「さっき攫った子供たちを返してくれない?私の妹もいたはずなの」
残念ながら三千年前の人間は生きていない上、いたのは兄だけだけれど。
「…ちッ!見られていたかッ!?おい、この女顔と銀髪も追加だッ!」
…確かにキースは繊細な顔立ちをしているけど……女顔、ぷっ!
じりじりと近づいてくるユー君(誘拐犯)を眺めていると、キースが囁きかけてきた。
『…おい、こいつらどうするんだ?』
『…この人たちだけなのか、上がいるのか確かめる。後者の場合、本拠地に乗り込んで、潰す』
『…了解』
おや、こういう時は聞き分けが良くなるのか。
インテリな見た目は伊達じゃない…と。
まぁ、コイツはいらないんだけど一人じゃ暇だし丁度いいか。
さて、一演技行きますよ?
「ねぇ、貴方たち。私をどうするつもりなの」
少し体を震わせて、目に涙をためる。
…ちなみに私は女優じゃないので、涙は水魔法を使って出しています。
「はっ!怯えちゃってら。お前らがどうなるかは全部親頭が決める。俺らはそこまで連れていくだけだ」
おう、重要な情報をありがとうユー君。
素直な人は嫌いじゃない。
『決まりね、攫われるわよ女顔』
『おい、ぶっ飛ばすぞ銀髪』
うーん…一応レグル達に知らせておこう。
殿下もいるから、王都をひっくり返して捜索されたらたまらないし。
「土魔法展開、分身作成。特定人物との接触で私へ回路をつなげて」
(了解シマシタ。接触者、レグル=ファルファード。ラヴィレント=ピル=カナストル。グレン=ピル=カナストル。ノ三名ヲ登録。分身人形五分後二作成終了シマス。魔道具・電話、対象者トノ接触ヲ条件二製作開始)
「了解、ありがとね」
さすが私の相棒、愛してるッ!
「おい、銀髪。何ぶつぶつ言ってやがる」
「行くよ、キース」
「…あぁ」
**
というのが、今私が荷馬車に揺られている理由である。
ふと腕に振動を感じて現実に引き戻される。
(対象者トノ接触ヲ確認。回路、ツナゲマス)
「お願い」
腕輪の中央の紅い魔石が輝きだす。
大量の魔力を消費しながら、輝きが最高潮に達しー
荷馬車の暗闇を柔らかな光が包み込んだ。
To be continued……




