少女と少年
「…アミス」
レグルに〈治癒〉してもらっていると、不意に名前を呼ばれた。
「〈氷の戦姫〉って知っている?」
「!?」
どうしていきなりその話題!?
……え、もしかしてバレた?
どうしてだ?ホロビーロちゃん使ったから?
まさかホーちゃんのことまで後世に残っちゃってるの!?
まぁ、目立つ上にインパクトすごいことは認めるけどさ……
「え…えぇ、知っているわよ。マイさんが教えてくれたわ。世界大戦中にいたすごく強い女の子のことよね?」
「うん。その子のことであっているよ」
俯いてしまっているからレグルの表情が見えない。
ー疑われているのか?それともただの世間話?
「曰く、美しい白銀髪に真紅の瞳をしていた。
曰く、背に黒い兵器を浮かべ多くの敵を滅していった。
曰く、少女の得意魔法は氷で、世界をも凍り付かせる力をもつ。
曰く、少女は黒曜石の魔剣で敵を一閃する。
曰く、戦争終結後誰もその姿を目にしたものはいない。 」
「………」
ちょっと待って!?
色々詳しく伝わり過ぎじゃない?
ホーちゃんのことも案の定知られてしまっているし…。
戦争終結後誰も私を見たことないって…そりゃそうだ。
私氷漬けにされていたんだから。
…急にこんなことを話し出すってことは、やっぱり疑われているんだよね?
ううん。こんな時こそ冷静に!戦姫アミス!!
「急にどうしたの?レグル」
呼吸、心拍、脈拍…うん、どれもいつも通りだ。
声色も問題ないはず。
「…ここまで言わないと言ってくれないの?アミス。
君の瞳は今、僕と同じ紅色をしているよ 」
「―ッ!?」
嘘ッ!?幻覚魔法が解けた!?
あ…そういえばさっき少しでも楽になるようにって体に張っている魔法を全部解いたんだっけ?!…ッ、状態異常回復の結界だけ解くつもりだったのに……。
「それにさっき使っていた兵器…逸話に残っているヤツだよね?」
…もう言い逃れはできない。
「……そうだよ。私が三千年前の〈氷の戦姫〉アミス=カルディア。エグネスト王国の剣にして、侵略特攻部隊隊長」
「……やっぱりね」
…それは、どういう心情を表している言葉なんだろうか。
たくさんの人を殺めてきた私に対する侮蔑?
三千年前の人間であることに対する畏怖?
いつ自分も殺されてしまうか分からないという恐怖?
―ねぇ、貴方も私を鬼胎するの
「……アミス」
「―ッ」
「なに?」って言おうとしたのに、声が喉に突っかかる。
ふと顔を上げた、レグルの真紅と目があった。
彼の瞳に反射して映った私の顔は、恐怖と悲しみで歪んでいた。
なんて顔をしているんだ、と思うが上手く表情が取り繕えない。
ーなんで彼に拒絶さえることをここまで恐ろしいと思うのだろう。今まで誰に何を言われようと、どうでもよかったのにー
目を閉じて小さく深呼吸をした。
例えこれから拒絶されてしまおうと、今までの月日が消えるわけじゃない。
私がたくさんの人を殺めて生きてきたのも、
生き残るためにたくさんの仲間を犠牲にしたのも、
血塗られた手で一筋の光を必死に追いかけてきたのも
全部事実だ。
だから―
覚悟を決めて彼の言葉を待つ。
どんなことでも受け入れようと、決心しながら―。
ーしかし、私の耳に入ってきたのは場違いに明るい彼の声だった。
「流石、僕の師匠だねッ!!」
「………………え」
きつく閉じた瞳を大きく開き、彼の言葉と表情を理解するまでに二十秒を要した。
彼は今何と言った?
「流石?ボクの師匠?」
何故彼はこんな純粋な尊敬の眼差しで私を見ているの?
軽蔑していない、恐怖も感じていない。
……どうして。
「…アミス、何を呆けた顔しているのさ。自分の師匠が伝説の戦姫だった、なんて喜ぶに決まっているでしょう?」
「…いや、でも私はたくさんの人を殺めてきたわけで…」
何を言っているんだ、私……。
水を差すようなことを言って…。
「戦争だったんだから当たり前だと思うよ?それに、これ以上犠牲を出さないために戦争に終止符を打ったアミスはすごいよ」
「…終止符を打った?」
私が?いつ?どこで?
「え?アミスが何とかって国の大将を取って兵を降参させたって、書いたあったけど…?」
「……そういえば、そんなこともあったような?」
氷漬けになる前後の記憶がすごく曖昧なんだよね。
死ぬのがショックで忘れちゃったのかな?
「あはは!戦争後その姿を見たものはいないって伝わっているけど、まさか三千年も氷の中で寝ているなんて誰も考えないだろうね!」
「…そういえば!私ってどうしてファルファード家にいたの?」
普通に目覚めたなら、あの敵地のはずだ。
「あぁ、世界六大迷宮の一つ〈氷雪の大迷宮〉っていうところに鍛錬に行ったときにアミスを見つけたんだ」
「…レグルが見つけたの!?」
「うん。そういえばアミスを見つけたところを中心に魔力量が濃くなっていたな…迷宮内の魔力ってもしかして全部アミスのものだった…?」
そのあともぶつぶつ思考にふけるレグル。
こうなると気が済むまで考え込んじゃうんだよねぇ。
…今のうちにホーちゃんを仕舞ってしまおう。
「ホーちゃん、今日はお疲れ様。腕輪に戻って休んでいいわ」
(了解シマシタ、主。今度、マタオ話シマショウ)
「えぇ、もちろんよ。おやすみなさい」
キラキラと光りながら魔石に吸い込まれていくホーちゃん。
再びこうして話せた喜びと懐かしさに胸がいっぱいになる。
「今のは?」
いつの間にか思考から脱していたレグルが興味深そうに腕輪を眺めている。
「自動敵殲滅兵器ーホロビーロちゃん。魔石に魔法陣を添付させて、魔力を通すとホーちゃんが装備される仕組みになっているの……さっき話したコーロスちゃんがなくなった理由っていうのが、この子」
「…なるほど。さっきみたいに自動で超上級魔法を連発するから、コーロスちゃんも歯が立たなかった…と」
「そういうことね」
コーロスちゃんに対抗しようと戦争の合間に作り出した兵器。
でも私みたいに規格外の魔力量がないと、ホーちゃんも本領を発揮できない。それどころか、ホーちゃんの存在に押しつぶされて死んじゃう人もいるかも。つまり、コーロスちゃんを絶滅させたのって私とホーちゃんなんだよね…あはあは。
「……レグル。私が〈氷の戦姫〉だってことは―」
「うん、もちろん内緒にしておくよ」
困ったような呆れたような、いつもの顔をして微笑むレグル。
「そう、ありがとう。まぁ、私が言っても『何言ってんだ、コイツ』で終わる気もするけどね」
「……そうかなぁ?それこそアミスがいた三千年前からずっと、最上級魔法を使える人って七人しかいないんだ」
「七人ッッ!?」
は?少なすぎないかッ!?
「うん、アミス、魔神ルイチェル様、他四人。そして僕」
「ぷっ、魔神ルイチェル様!?何それ!アイツ確かに魔法を得意としていたけど、オリジナルSSS級軍魔法一つしか作れなかったよ!?それが魔神…ッ!?」
いや、SSS級軍魔法を操れるだけで十分魔神の名に相応しいと思うんだけど…。
というレグルの心情は大爆笑しているアミスには全く届かなかった。
「はぁ」と息を吐いて言葉をつづけるレグル。
「そう、それでね。魔法を使える人は限られているからーアミスの容姿やこの時代では高技術な魔法、剣技を見てバレてしまう可能性もある」
「……マジか。髪の色も変えておいた方がよかったかな?」
ふと思い浮かぶのは図書館で見つけたあの美少女。
私に桃色の髪が似合うかは分からないけど…。
「いや、今回みたいなことがあったらどっちにしろ関係ないよ。それに結構多くの人と出会ってきちゃったから…」
今更変えても手遅れだし、逆に不審に思われちゃう…か。
「そっか…じゃあこれからは魔法を少し自重しようかな。その上でバレてしまったら『戦姫の遠い親戚なんです』とでも言っておくよ」
「…うん、それがいいかもしれないね。それじゃあ、そろそろ戻ろうか」
立ち上がってアミスに手を差し伸べるレグル。
アミスはその手をとって、笑いながら立ち上がる。
「了解…それにしても、お昼時だしお腹空いたよ~」
「あはは、もしかしたらラヴィルたちが何か用意してくれているかもしれないね。〈転移〉」
アミスとレグルがいたところに、少しだけ光が散った。
To be continued………




