「名産のお菓子のある町にて」 四話
気ままに投稿するとは言いましたが、ストックは作っておくべきでした…。
「それで、どうでした?」
場所は旅宿の部屋。相変わらずベッドに腰かけ本を読んでいるユティは体制を崩さずエクエスに問いかける。
「多分、黒でハズレかな。ユティの予想も合ってると思うよ」
エクエスの回答にユティは本を閉じ満足そうに頷いた。
「ならば良し。エクエスはそのまま彼らを監視してください」
「ユティは?」
「私はまだ読んでない本があるので」
「どれくらい掛かりそう?」
「あと2日ほどで」
短い会話。お互いにやることが多いので最小限の言葉で要件を伝える。
ユティは読書、エクエスは……。
「ところでユティ」
「はい?」
「食べかけのパンをスープに漬けたままにするなっていつも言ってるでしょ!」
エクエスは部屋の掃除、もといユティの荒らした後を片付けていた。
たった半日出かけていたエクエスであるがそれまでの間にベッドの上に詰まれていた本は殆どを床に積まれ直されていたり、宿主が気を使ってくれたのだろう、まだほんのりと温かい小鍋に入ったスープに二口ほど齧られた形跡のあるパンが浸っていたり(ちなみにパンはぐずぐずに崩れかけている)ローブが積まれた本にかかっていたりと散らかっていた。
「そ、それは後で食べようと…」
「食べるなら食べるっ! 本を読むなら読むでどっちかにしなさい!!」
「うぐ…」
恐らく本の続きが気になって仕方なかったのだろう。パンをふやかしている間に本を手に取り、そのまま本に夢中になったに違いない。
何も言い返せずユティはだんだんと縮こまっていく。
姉弟と周囲に通っていることからどちらが年上かは言わずもがななのだが、これではどちらが保護者かわからない。
ユティはすでに結婚して子供がいてもおかしくはない年齢に見え、片やエクエスは齢八年。まだ母親に甘えたい盛りである。
ユティとしては大人の威厳を保ちたいところなのだが、そんなものはエクエスと出会ってすぐ野良猫が咥えて行ってしまったかのようで、今ではずぼらな性格が浮き彫りになっている。
そんなユティの心境はともかく、に説教をしつつ部屋の片づけをテキパキとこなすエクエスにとってはもう慣れたもので、これから一時間のオハナシをする心積もりであった。
しかし、ユティにとって幸いなことに現在はエクエスも自分も忙しい。おかげでいつものオハナシも短時間で終わり本を読むことができる。
ちなみになのだが、ユティは国から遣わされたお役人として町に滞在している。といっても、やることは町内で一般公開されている書物の内容確認で名目は国内の識字率の調査と住人の悪影響のある書物(主に反国精神、非人道的な内容のものを指す)の排除とされている。
この町での調査が終われば次の町に赴き、それが終われば次、また次と繰り返していく。
時々、報告書を送っては活動資金を受け取りまた旅をする。
決してユティが仕事をしないでだらしないわけではない。
仕事はしているけどだらしないのだ。
「今日はこのくらいで勘弁するとして」
「晩御飯ですか!?」
「お残しは許しませんよ?」
反省も何処へやら。簡単に片づけた机に本日のパンとチーズを置き二人はちょっと早めの夕食をとることにした。
もちろん昼食の残りはユティがおいしくいただきました。
翌日。
本日も移動図書館感様は複数の男を引き連れ広場で本や絵を手渡していた。
先日に話したこともあってか移動図書館……長いから図書女、はエクエスを見つけると声を掛けてきた。
「こんにちは、坊や」
「こんにちは」
初日に来た人が広めたのだろう。無料で本と絵が貰えると知って初日よりすごい数の人が広場に集まっていた。
さすがに噂の中心の図書女もエクエスばかりに話していられないと挨拶を交わした後、すぐに本を人に配っていた。
そういえば、初日に本を貰ってくるのを忘れていたとエクエスは小さい体を活かして人混みを掻い潜り本を受け取った。
受け取った際に本を配っていた男をよく見たが、とても大柄な体格に加え、そこそこ鍛えられた体だった。大きい体をしやがってとエクエスは思うのだが気を取り直して受け取った本を見てみる。
貴族が持っていたというには些か貧相な拵えだがそれでも庶民からすれば十分に価値のあるものだ。
ただ不思議なことに、前日まで馬車に積まれ運ばれてたというに本は新品と思うほど傷が少なかった。
「それでは皆さんお待ちかね。これより公演致しますは“とある町で起こった怪奇現象を解決した貴族の令嬢とその従者”のお話でございます」
いつの間にか設置された台から弦楽器を手に取った図書女が声を張り上げた。
どうやら、これから弾き語りをするらしい。やっていることは本当に吟遊詩人と一緒だな、なんて思う。
エクエスは図書女と今だ本と絵を配っている男たちの両方が見える位置に腰を下ろし、公演を見ることにした。