「名産のお菓子のある町にて」 三話
2/10-最後の一文を変更しました。
ユティのとんでも発言から四日が過ぎた。
町にとある一団がやって来た。一台の幌馬車を先頭に二台の荷馬車が続き、それぞれの馬車を囲むように大柄の男が複数人護衛している。
馬車は町の広場を陣取るように停まると男たちが一斉に荷を下ろし始めた。
町の住人は何事かと彼らのもとへ集まる。
すると、先頭の幌馬車から純白のローブを羽織った妙齢の女性がおりてきた。おとなしい顔つきとどこかおぼろげな瞳は深い知性を滲ませる。
荷を下ろす男性たちに傍目に紅一点の彼女はどこかの高名な聖者と思われるかもしれない。
住民たちは困惑と先日から囁かれていた噂からの期待感で彼女の一挙手一投足を目を離さずに観察していた。
「みなさん、お騒がせいたしました。」
住民の期待に応えるように純白のローブの女性は一歩前に踏み出し手を胸に当て優雅にお辞儀をする。
その動きと声だけで幾人かの男性は頬を緩ませていたが、例外なく近くにいる女性に制裁を加えられていた。
「はじめまして、わたしは移動図書館。皆さんに知識と、絵と、詩をお届けに参りました
!」
「本日から町長様から許可をいただき5日間! この広場にて、わたし特性の書籍と絵を無料で差し上げます! ぜひお手にお取りください」
移動図書館の一言をきっかけに近くに群がっていた住民がこぞって下ろされた積荷にかけ寄せた。一人が本を受け取ると「俺にもくれ!」「わたしにも!」「おい! それは俺んだぞ!」と先ほどまでの緊張感は嘘のようになくなり広場は騒がしくなった。
本や絵が貴族や富裕層の嗜みから庶民の娯楽に代わってきた近頃、今だそれらが高価な事には変わりない。
持っていることが自分のステータスになる、売ってもお金に換えるもよし、楽しめれば尚良し。
それを無料で配ってくれるのだから必死になって貰いに行くのも頷ける。
「本はまだまだあります。明日からこの広場にて講演も致しますので今度はお友達もお連れになってください」
「ねぇ、お姉さん」
周りの喧騒を他所に終始見守っていたエクエスが移動図書館の女性に声をかけた。
「こんなにたくさんの本どこで買ってきたの? 本って高いんでしょ?」
さも普通の子供の様に問いかけるエクエスに対し移動図書館は目線をエクエスに合わせて微笑んだ。
「わたしはね、移動図書館って言っていろんな本や絵を集めているの。坊やは知っているかしら?」
「うん。パン屋のおじさんが教えてくれたんだ。一度読んだ本や絵は忘れないでそれをぼく達にお話ししてくれるんだよね!」
「そう、その通り! えらいわ!」
エクエスの回答にとても気を良くしたらしく移動図書館はその後もいろいろな話をしてくれた。
なんでも、お貴族様からいらなくなった本を貰っているだとか、一人で語るのは効率が悪いからこうして人を雇ってお貴族様からもらった本を与えて知識や娯楽を広めてるだとか。
エクエスは終始、女性の話に耳を傾けて頷いていた。
他にも語りたそうにしていたのだが一際恰幅の良い男性が移動図書館に声を掛けて「行かなきゃ、またね。坊や」と馬車へと向かっていった。
移動図書館が振り向いた際、彼女の髪がエクエスの鼻を軽く撫でたのだがエクエスは少し顔を顰め、周りに気づかれる前に普通の子供という仮面を顔に張り付けた。
この対応ができるあたりでエクエスが普通の子供ではないと気づいてもよいと思うのだが、どうやら移動図書館様は疑問に思わなかったようだ。
あたりの喧騒も落ち着き始めたこともあり移動図書館をはじめに馬車と積荷は広場をでていった。
しばらくは役所の近くにある来賓間に泊まり、広場を行き来するようだ。
彼女らを見送り、がらんとした広場を寂しさを覚えつつエクエスはその場を後にした。
「」と「」の間に改行が入っている場所が複数ありますが意図的に行っております。
文章的には違うかもしれませんが、会話の間があるのだと思っていただければ幸いです。