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【アーサーside】

 




 アルトが“成人の儀式(スキル授与)”で倒れてから三日が経った。



 医者の診断によると倒れた原因は、過度の疲労と、ストレスによる心因性発熱だという。


 確かにここ最近アルトは暇さえあれば鍛錬場に行って鍛えていた。

 よくそこまで筋肉に負担をかけれるものだなと思うくらい、己を鼓舞し奮い立たせるように剣を振っていた。


 ストレスの原因は言わずもがなだが、股肱の臣の報告では“成人の儀式(スキル授与)”の場で神官が配慮に欠ける質問をアルトに浴びせ、周りで陰口も起きていたと聞く。


 まったくもって、くだらん奴らだ。


 その場にいた全員を第一皇子である私の権限で処罰してやりたい所だ。ふんっ。

 実際は王族としてのモラルに反するので出来ぬがな。


 そして学園内でも先の出来事のようにアルトへの陰口がはびこっていた。


 最初の頃はそんな阿呆を見つけだしては私自ら戒飭処分をしていたが、噂や陰口を止める事は決して出来ぬのだと、ただただ思い知っただけだった。


 アルトは魔力が引き出せないだけだ。

 何も悪いことなどしておらぬと言うのに、何故そこまで悪く言われなければならないのだ。


 アルトの公爵家という爵位の前では面と向かって何も言えない小童どもが。

 陰でその汚い口を開く前に、他人の弱みしか見れなくなってしまった目を改めて、アルトの努力を見てみたらどうなのだ?

 魔法が使えない事を補うように、他の誰よりも努力して剣技を磨く姿をどうして評価してやらぬのか。


 そしてアルトという人間は、誰に対しても損得勘定抜きに接することができて、他人の良いところを見抜く力があるのだ。

 公爵家の子息だからと言って、決して人を下に見て馬鹿にする奴ではない。


 そんなアルトが何故、たかが魔法一つ使えぬだけで、ストレスで倒れるまで追い詰められねばならぬのだ。


 考えるだけで腹が立つ。




「アーサー殿下、如何なさいましたか?」



 苛立っているのが分かったのか、私付きの近衛騎士が話しかけてきた。



「いや、何でもない。今からアルトの様子を見に行く。反論は聞かぬからな」


「ですが、もう“勇者召喚の儀式”が始まります。アーサー殿下がいらっしゃらなければ、陛下が何とおっしゃるか……」


「反論は聞かぬと言ったであろう」


「ですが……」


「しつこいぞ!」



 “勇者召喚の儀式”。

 本来なら三日前の“成人の儀式(スキル授与)”が終わった後に、王宮で行われるはずだった。


 ここ一年、世界各地で例年を大幅に超える魔素が検出されている。

 そのせいで、森や荒地に住む魔獣の数が増えて個々の力も強くなっており、各国の辺境地の街や村、街道にいたるまで、魔獣による被害が続出していた。


 それは伝承にある魔王再来の予兆と一致しており、可能性が高いと幾度も王宮内で議論されてきた。

 そこで私の父親である国王陛下は、魔王復活はあると見込んで、前もって“勇者召喚の儀式”を執り行う事を決めたのだ。


 しかし、三日前に私が得たスキルは【未来予知】。


 万が一にでもこの現象が魔王復活の兆しでは無いのなら、異世界から無駄に勇者を呼び出す事になる。

 それを考慮して、私がスキルを使い未来を予知する事になったのだ。


 結果、【未来予知】のスキルがレベル1では数分後の未来しか見えず、魔王が復活するかどうかの予知など出来なかった。

 昨日までレベルを5つ上げたが残念ながら結果は変わらず、当初の予定通り“勇者召喚の儀式”を執り行う手はずとなった。



 だが今はそれよりも、三日間も寝込んでいるアルトが心配だ。

 私の指示で王宮専属のお抱え医師に診てもらっている故、現在アルトは王宮内にいる。

 それなのに私はスキルのレベル上げに時間を費やしてしまったせいで、今日まで一度も見舞いに行かなかったのだ。


 まさか三日経っても目覚めないとは……。

 このままアルトが目を覚まさなかったらと考えると、肝が冷える思いだ。



「アーサー殿下?!何故ここに……」



 アルトが寝ている部屋に入ると、ちょうど医師が診察をしているところだった。



「容体はどうだ?」


「はい。熱も下がり、問題は無いと思われます。じきに目が覚めるかと」



 医師の言葉を聞いた途端、心から安堵した。



「そうか。では少しだけ席を外してくれぬか?」


「かしこまりました」



 医師が退出してアルトと二人きりになる。


 よし、本当に起きるか試してみるか。


 私はアルトの鼻と口を摘んで無理やり起こそうと決めた。


 決して窒息寸前で苦しくて起きたアルトが、ズーハーズーハーと息を吸っている面白い姿を見たいからする訳ではないぞ?

 ただ単に無事を確かめるだけだ。



 いざ――――



 摘もうとしたその瞬間、アルトの目がギュッと動いたので咄嗟に手を隠した。


 び……びっくりしたではないか!!


 まさか寝ているのに私の考えている事が分かったのか?!

 もしかして倒れたショックで魔法が使えるようになり、【全属性魔法レベルMAX使用可能】とかいうスキルを使って、私と同じ【未来予知】のスキルすらも使えるようになり、私の企みを阻止したのではないだろうな?!!


 なんてくだらない事を考えていたら、アルトがスッ……と目を開けた。


 良かった……。



「随分と寝てたなアルト」



 全く、心配させおって。

 と思っていたらアルトの反応が無い。



「どうかしたのか?」



 アルトは真っ直ぐ天井を見つめたまま、また目を閉じてしまった。


 その目からは止めどなく涙が伝ってきて、アルトは息を殺すようにして泣き出した。



 ――――?!!!



 私は人生で初めて、頭の中が真っ白になった。


 王族として帝王学を学んだのに、こんな時にどうすればいいのかが検討もつかない。


 とりあえず驚いて前のめりになった体と、飛び出した目を元に戻す事にした。





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