04.徹夜明けにストレスはいけないぞ
あれから神様は根気よくお告げをしてくれたが、本当に忙しいらしく「分からなかったらまた後日教会に来るのじゃ〜」と言い残して、声が聞こえなくなった。
神託は一生に一度なのに、後日教会に行けばまた話せるのか?!と思ったけど、もらったスキルは一応理解出来たし多分行かないと思う。
今日は国内各地でスキルを与えまくっているんだもんな。そりゃ忙しいわな。
そんな中でフリーズした俺にトコトンお告げしてくれたし、だいぶヘンテコだったけど優しい神様なのかもしれない。
やっと眩しかった虹色の光が収まり、神官が俺に尋ねてきた。
「ごほんっ、アルト・グライムス殿。その……授かったスキルの名前を尋ねても宜しいだろうか?」
神官はアーサーに引き続き俺も光り出して戸惑っているのだろう。少し声が裏返っていた。
「あ〜……ええと、【全属性魔法レベルMAX使用可能】らしいです」
「えっ?!!」
「いや、その、【全属性魔法レベルMAX使用可能】っていう全ての魔法が使えるスキルみたいですね?」
「全ての魔法が…………?!!」
俺の言葉によって、教会内にいる全員が驚愕していた。
みんな口を閉じてくれ!顎が外れるぞ?!
確かに俺も聞いた瞬間そんなスキルがあるのかと頭が真っ白になったし、理解した今だって全くもって信じられない。
今こうして平然としていられるのも、神様のあまりにも能天気でバタバタと忙しないお告げに呆気にとられて、まだ現実味を帯びていないからなんだ。
しばらくして平常心を取り戻した神官が口を開いた。
「そ、そのスキルについては是非とも今後詳しく検証させていただきたいが、アルト殿は確か魔力が……」
あーー……はい。言いたいことは分かりますよ。
俺が魔力を扱えない事は学園の外でも周知の事実だ。
「はい。俺は現在魔力を使う事は出来ません」
「す、少しも使えないのですか?」
「……ええ、全く使えません」
「それでは、今言っていたスキルを使うことは――」
「もちろん今は出来ないでしょうね」
何だよ、みんなの前で何度も言わせるなよ。
神官のくせに、俺の傷をどれだけ抉るんだ。次聞かれたら無視するぞ、無視!!
そう思っていたら後ろからヒソヒソと心無い声が聞こえてきた。
「全属性の魔法がレベルMAXで使えるなんて……人間兵器なんじゃないか?」
「恐ろしい……」
「でも本人が魔力を使えないなら安心じゃないか」
「これが女性だったら確実に王家へ嫁げたのにな」
「確かに、魔法が使えなくても女だったら価値があったのにね」
「スキルの無駄だな」
「公爵家の嫡男ならまだしも末っ子だろ?せっかくのスキルなのに生家の後継ぎでもないなら役に立たないよな」
今日に限って俺の耳は冴えまくりだ。
そして俺が最も耳にしたくない話が聞こえた。
‘“女だったら……”
俺は上に兄しかいない六人兄弟の末っ子だ。
これが何を意味するか分かるだろうか。
もちろん両親は一度だって俺の前でそんな話をしたことは無いが、きっとそうなんだろう。
男の子の俺じゃなくて、女の子が生まれてきて欲しいと願っていたんだってこと。
悪かったな、俺が男で。
魔法すら使えない、せっかく手に入れた最強のスキルすらも無駄にする出来損ないの奴が生まれてきてさ……
徹夜明けと過度のストレスが重なったからなのか、急に目の前が真っ暗になった――――
「――――うさん起きて……」
ん? 何だ?
「ねえ、起きてよ……」
いや、俺、今とっても疲れてるんだ……。
もう少しだけ寝かせてくれよ…………。
「だーーめ! 仕事でしょ? お父さん起きて!!」
――――お父さん?!!!
俺はこの日、前世の記憶を全て思い出した。