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01.出来損ないの俺

 




 “出来損ないのアルト”



 俺はみんなから陰でそう呼ばれている。

 みんなとは俺が通っている魔法学園の生徒達にだ。

 直接俺に言ってくる奴などいない。

 何故陰で呼ばれているのか。

 それは俺が公爵家の子息だからだ。



「おい、出来損ないのアルト」



 ……訂正。一人だけ直接言ってくる奴がいた。



「これはこれは麗しの若き太陽であらせられる皇太子殿下。何か私めに御用でしょうか」


「……やめろ、気持ちが悪い。何度呼んでもお前が気づかないから言ったんだ」


「ああ、そりゃ悪かった。んで何だよアーサー?」



 この国の第一皇子であるアーサーは俺の幼馴染だ。

 ズケズケと物を言うが普通に良い奴で、俺の数少ない友達の一人でもある。



「この後“成人の儀式(スキル授与)”があるだろう?終わったら私と一緒に王宮へ行くぞ。面白い物を見せてやろう」


「誘ってくれたのに悪いけど無理だわ。俺、スキルを取得したらギルドに直行して即ダンジョン行きだもん」


「何っ?! それはグライムス卿の指示か?」


「そう、親父の命令」



 俺とアーサーは十五歳。

 さっき魔法学園の中等科を卒業したばかりで、これから卒業生達は“成人の儀式(スキル授与)”が行われる。

 今日は学園に通っている人も、そうでない人も、この国の十五歳の男女全員が国内各地の教会で、成人になった祝いと共にスキルを受け取る事ができるのだ。


 スキルとは神に祈り感謝する事で、一生に一度だけ特別な能力を授かることができるという、今後の人生を左右する重大なものだ。


 どんなスキルを授かるかは親の遺伝に少なからず影響しているらしく、王族や貴族の多くはレアなスキルを持つ女性を探し出して結婚し、優秀なスキルを持つ後継ぎを産む。

 それは一般市民の女性も対象だった。


 現に俺の親父は由緒正しき歴史ある公爵家の嫡子だが、母さんは王都とは程遠い辺境地の村で生まれ育った平民だった。

 そう、まさにシンデレラガール。

 上流貴族の俺が普段こんな言葉遣いなのは、母さんの影響が大きいんだと思う。


 “成人の儀式(スキル授与)”の個人情報は王宮で管理されていて、爵位があれば閲覧できるようになっている。

 この国は王族や貴族に、より優秀な人材が生まれるようにと操作されているのだ。


 そしてほぼ全ての王族や貴族は魔法学園の中等科を卒業して高等科へと進学する。


 しかし俺は六人兄弟の末っ子で、陰では“出来損ないのアルト”と呼ばれているのだ。

 その呼び名に対して正直俺は……反論できない。

 そして兄達はみんながみんな優秀すぎるほど魔法に長けていた。

 俺はそんな兄達にずっと劣等感を抱いてきたし、むしろ、こんな俺がよく中等科を卒業できたなとさえ思う。

 それ程までに出来損ないだと自分でも分かっているのだ……。


 そんな俺を見兼ねて、ついに親父がケツを叩いてきた。いや、獅子は我が子を千尋の谷に落とす…とでも言うのか?

 普段温厚な親父がついに腹を据えたのだろう。ものすごい形相で俺に物申してきた。


 高等科は諦めろ。スキルを取得したらダンジョンで修行をしろ、と……。


 そもそも、一般市民も大勢通っているこの魔法学園で俺が出来損ないだと陰で言われているのは何故か。


 ははは。


 その理由は“俺が魔力を全く引き出せない”からだ。


 生まれてこのかた、一度も魔力を感じた事がない。

 一般市民の子供ですら簡単な生活魔法が使える世の中で、ましてや魔法学園に通っているというのに。

 そりゃあ、一般市民のみんなからも陰で馬鹿にされるよな。

 親父の言う通り、このまま魔法学園の高等科に進む事に意味が無いのは火を見るよりも明らかだ。

 そんな俺にこれからどんなスキルが舞い降りると言うのだろうか……。


 決して期待などはしていない。いや、期待などしたってしょうがないのだ。

 何故なら、ほぼ全てのスキルは魔力を媒介(ばいかい)として発動されるものなのだから。



 そんな事を思って落ち込んでいたら、優しいアーサーが声をかけてきた。



「アルト、お前……剣技だけは一流だ。自信を持ってダンジョンへ行ってこい」



 うん。ありがとうアーサー。

 卒業式が終わったばかりだというのに習慣とは怖いものだな。

 鍛錬場でいつものように剣を振って現実逃避していたよ。あはははは。


 俺の逞しい上腕二頭筋が震えるように泣いていた。




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