復讐の転生者
ついていない。本当についていない――。
零細の運送会社を営んでいる俺は、その日、連日の超過労働で心身共に疲れ果てていた。
しかし、疲れ果てたからと言って早々休む事等出来ようはずもない。経理を務める妻も、10人にも満たない従業員達も懸命に頑張ってくれている。
この御中元の時期を乗り越えるまでは、倒れても働かなくてはならない。
だからと言う訳ではない――ないのだが、走行中一匹の猫が俺の運転するトラックの前に飛び出してきた。
何処にでも居そうなただの野良猫だ――。
今すぐブレーキを踏んでも間に合いそうに無い。
踏んでも踏まなくても轢き殺してしまうのならこのまま直進してしまうか。
ああ、寝覚めが悪い。バンパーが凹むかもしれないな――。
そんな事を考えていたのが悪かったのか。
一つの影が飛び出してきた。
黒い髪。黒い学生服。そして苦労知らずの幼顔――。
それは中学生かそこらの小柄な少年だった。
一瞬。その少年と目が合った。まるで自分の行いに満足してるかのように笑っていた。
ドンッッ――!! キキィィーーーーーッッ!!!
車体に伝わる衝撃と発動するエアバッグに我に返り、咄嗟に踏み抜かんばかりの勢いでブレーキを蹴り付ける。無意識に切ったハンドルのせいでタイヤがスリップしてトラックが半円を描く。
漸く停まったトラックから降りると、俺が過ぎ去った道路の上に少年だった物が転がっていた。無傷の野良猫がその腕の中で暴れて逃げて行く。赤い染みがそれを中心にアスファルトの上に広がって行く。
「きゃあぁーーーーーっっ!」
遠くなのか近くなのかわからない場所から悲鳴が響く、漣のようにどよめきが押し寄せてくる。
俺の目の前は真っ暗になった。
それから半年余り――俺の人生は地獄だった。ただただ、地獄だった――。
俺は実刑判決こそ受けなかったものの業務上過失致死罪を裁判所から言い渡され、糞ガキの遺族からは「人殺し!」と誹りを投げ付けられ多額の賠償請求を求められた。
テレビでは無責任な出演者が声高に俺を詰り、俺の会社の勤務状況や事故当時の積載量超過の事実を殊更悪し様に取り沙汰しては、如何にブラック企業であったかのような印象を世間に植え付けた。
そのお陰で、これ迄金額や搬送量で無理難題を押し付けてきていた大手運送会社は、下請け契約を掌を返すが如く破棄。経営は一気に暗礁に乗り上げた。
そして何処から嗅ぎつけてきたのか、顔も知らぬ自称正義の味方や愉快犯からの連日連夜に渡る、会社へのいたずら電話に事務所やトラックに書かれるいたずら書き。果ては家にまで石を投げつけられるようになって、家族の身に危険を感じた俺は、三人の子供達の籍を抜き、頭を地面に何度も擦り付けて何とか、親戚の家にバラバラにだが引き取って貰えた。
その間にも会社は従業員が一人辞め、二人辞め、終いには俺と経理を受け持っていた妻と二人きりになったが、それでも会社存続の為に東奔西走駆けずり回った。
しかし、世間の風当たりは一度身を持ち崩した人間には極地の如く冷たく、事故前から自転車操業気味だった経営は不渡りを出して敢え無く破綻してしまった。
そうして俺を陰日向と支え続けてきてくれた妻は――離婚を申し出ても頑なに聞き入れず、ずっと側に居てくれた妻は――元々身体が余り強くなく、それでも健気に俺と共に銀行や得意先に頭を下げ駆けずり回ってくれた妻は、それまでの無理が祟り体調を崩し、ほんの一月程に病院のベッドで「最後まで一緒に居れなくてゴメンね……」と言い残し息を引き取った――。
俺には何も無くなった――。
妻も子も、会社も従業員も。何もかも両の手からボロボロと零れ落ちて行ってしまった。
そして現在――。
抵当に入った会社の倉庫の中で、俺は一斗缶の上に立っていた。
「あの時――あの時あの糞ガキさえ飛び出して来なければ……」
輪っかに結ばれたロープがゆらゆらと、呪詛を吐く俺の目の前で揺れている。
世間では、走ってるトラックの前に飛び出した禄に物も知らない糞ガキは悲劇のヒーロー扱いで、身を粉にして家族の為、会社の――従業員の為に働いてきた俺は社会悪の権化として扱われている。
「あの糞ガキさえ飛び出して来なければ……」
ただ野良猫を轢いただけで済んだのに……万一あれが飼い猫だったとしても器物破損程度で済んだのに……。
「憎い……」
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
手前ぇの自己満足の為に飛び出し俺の家族を、会社を、人生を滅茶苦茶に打ち壊しやがったあのチビた糞ガキが魂の奥底から憎い。
「絶対に赦さねぇ……」
もしもあの世なんて物が在るのなら、もしも来世なんて物が在るのなら。
俺はあの糞ガキを赦さない。
地の果て、海の彼方まで追い掛けて絶対に復讐してやる。
絶対に。絶対にだ――。
そして俺は目の前で揺れる輪っかに首を掛けて足の下の一斗缶を蹴り付けた――。
「「「「…………ぉぃ…………おい…………」」」」
誰かの声が聞こえてくる。
「「「「…………ぃぃ加減…………ませ…………」」」」
煩い。一体誰なんだ……。
「「「「……………………目覚めよ!」」」」
「ぐゎっっ!??」
全身に電気ショックのような衝撃が駆け巡った。
「な、何だ? 何事だ??」
どうやら俺は仰向けに倒れていたようで瞼を開くと慌てて飛び起きる。
「…………何処だここは?」
辺りを見回す――が、そこには何も無い真っ暗な場所だった。
その真っ暗な場所に一人座り込み、何処からかよく解らない上の方から淡いスポットライトのような光で照らし出されていた。
「「「「やっと目覚めたか……」」」」
俺に語り掛ける声が聞こえてくる。男なのか女なのか、老人なのか子供なのかもよく解らない、幾つもの声が重なったような聴き取り難い響きが鼓膜を震わせる。しかし、その声の主は何処にも見当たらなかった。
「……俺に語り掛けてくるあんたは誰なんだ? 一体何処に居るんだ?」
「「「「何処に居るのかと問われても難しいね。遍く世界から薄皮一枚隔てた場所とでも言っておこうか。そして、誰かと問われれば、私は『神』だと答えるのが一番しっくりくるのかな?」」」」
「…………神?」
「「「「あぁ、神と言っても君の知っている神とは別物だと思うよ? 何せ君の住んでいた世界とは受け持っている世界が別の神だからね」」」」
言われている意味が解らなかった。
基本的に神様なんてものは事務所の神棚に不動明王の御札を飾り、家の奥の間の仏壇に手を合わせるくらいの信心しか持ち合わせていない身であるからして、本当に神様が存在するだとか、剰えそれとは別個の神で、更にその神が自分なんかに語り掛けてくるなんて出来事は全く想像の埒外でしかなかった。
「「「「まぁ、いきなりそんな事言われても信じられる訳がないよねぇ……」」」」
「えぇ……まぁ……」
何処に居るとも解らない相手に曖昧な相槌を打ってお茶を濁す。
「「「「でも、嘘を言っている訳でもないので信じて貰うしかないのだよ」」」」
「はぁ……では貴方が神様だとして、神様が居るこの場所はあの世って事でしょうか?」
「「「「いや。ここは一般的に『世界の狭間』と呼ばれている場所だね。神々が自分の管轄以外の世界から人や物を召喚する際に用いる場所とでも考えて貰えれば解り易いかな? 現し世から幽世へと向かおうとした君の魂を招き入れさせて貰ったのだよ」」」」
魂――。
そこで俺は、自分が死んだ事を思い出す。
「それじゃ俺は死んだって事ですかね?」
「「「「そうだね。理由は知らないが君は間違いなく死んでいるね」」」」
「そうですか…………」
解っていてもそうはっきり言われるとやはり落ち込む。そして自分の不甲斐なさ、情けなさ、果てなき憎悪が胸を搔き毟る。
「それで……その別の世界の神様とやらが俺なんかに一体何の用で?」
「「「「それはあの駄女神の勇者召喚で喚び寄せられ、私の世界へと転生した魂と一番悪縁深い魂を召喚したら君を喚び寄せる事になったのだが…………その辺りの事は詳しく話した方が良さそうかな?」」」」
「……はい。お願いします」
そして暗闇の中、何処に居るとも解らない神様とやらの一人語りが始まった。
「「「「出だしは私が受け持っていた世界に駄女神が転がり込んで来た所から始まるんだけど、この駄女神が何故駄女神なのかと言うと、この駄女神が受け持っていた自分の世界をうっかり崩壊させてしまったって言う、救いようの無いボンクラだから仕方無くそう呼んでいるのさ。
で、このどうしようもない駄女神が『何もしないからどうかここに居させてほしい』と、平身低頭で頼んできたもんで、なし崩し的と言うか、袖すり合うも他生の縁と言うか……私は『本当に何もしない事』を条件に、世界の片隅に存在する事を認めてあげたんだよ。
何しろ神って存在は世界から切り離されると時と共に擦り切れ消滅してしまうか、若しくは『混沌の獣』と呼ばれる害獣に成り果ててしまうからね。駄女神も駄女神で必死だったんだろう。あのまま認めていなかったら、足の裏まで舐めてきそうな勢いだっだんだから……。
そうしてお情けで私の世界の片隅に居座った駄女神は数百年前の間、本当に何もせずただニートのように居るだけだったんで、こっちも少しばかり気を弛めてしまってね……。
それが間違いの原因だった――。
あの駄女神は、私に気付かれないようジワリジワリと岩に水が染み入るかの如く、気を弛めた辺りから数百年もの時を掛けて、私の世界の一番愚かな種族をたらし込んで、その種族の殆どを自分の信者としてしまっていね……更に色々と入れ知恵した挙句、私を蹴落として私が丹精込めて創り込んだ世界を我が物にせんと行動に移してきたのさ……」」」」
そこで神様とやらは深々と、本当に深々と溜め息を付いた。
「「「「駄女神の言動を信じてしまった私が愚かだったのかも知れないが、私は駄女神よりもボンクラでなければ弱くもない。直ぐ様他の種族を総動員して、愚かな駄女神信者諸共封じ込めに掛かったさ。
すると駄女神は形振り構わず禁じ手の『勇者召喚』を使ってきてしまってね……私も対抗手段として召喚された魂と悪縁深い相手を召喚して、今君と話をしていると言う次第だよ。解ってくれたかな?」」」」
「いえ、解らない事だらけです」
嘘を言っても仕方が無いので正直に述べる。余りにもスケールが大き過ぎるのと、漫画みたいな話の内容に頭が全然追い付かない。
神様とやらが若干狼狽えた声音を出す。
「「「「私の話はそんなに解り難かったかな? どの辺りが解りにくかったのかな??」」」」
「何故貴方が手ずからその……駄女神ですか? それに手を下さないのかとか、禁じ手とは何なのかとか、取り分け、何故俺みたいな普通の中年男が選ばれたのかとかが解りません。悪縁深い相手とは一体誰の事を言っているのでしょう?」
解らない事だらけの話から、特に引っ掛かった部分を幾つか投げ掛けてみる。
神様とやらは少しばかり沈黙した後、再び聴き取り難い声で語り掛けてきた。
「「「「私が自ら駄女神を殴り飛ばさないのは、ニート状態であった頃ならまだしも、信者から信仰心を得て少なくない力を付けてしまった駄女神では、殴り合いの余波で世界中の生命の滅亡、最悪世界崩壊を招きかねないからと、何故『勇者召喚』が禁じ手であるのかと言う意味でいいのかな?」」」」
「はい、それで」
「「「「何故『勇者召喚』が禁じ手であるのかは、それが自分の管轄する世界以外から人や物を召喚し、尚且、その世界のエネルギーを少なからぬ量抜き取る術であるからだね。これは他の神の管轄を荒す行為に他ならず、下手をすれば戦争に発展しかねない。君の世界の神が召喚に気付かない程ボ…ゲフンゲフン…寛容で良かったよ。
そして最後に何故君が呼ばれたのかだけど……」」」」
「はい……」
「「「「君はこの少年に見覚えはないかな?」」」」
神様とやらの『少年』と言う言葉に内心震える。
同時に俺の目の前――何も無かった真っ暗な空間に突然4K張りの画像が映し出された。
そこには複数の女の子に囲まれ迷惑そうな、しかし、満更でも無さそうな顔をした一人の少年の姿があった。
…………違う。
少年の姿は小柄と言う程背は低くない。中肉中背……いや、服の袖から伸びる腕なんか、少しばかり筋肉の付きが良さそうに見える。
神は金褐色とでも呼べば良いのか、兎に角、染めた感じのしない自然な髪色で、年齢的なせいか幼さは残しながらも彫りのやや深い顔立ちは記憶の何処を掘り返しても全く覚えが無かった。
「見覚えありません」
「「「「あぁ、失敬。転生後の姿では見覚えが無いのも当然か……魂の、前世の姿を見せないとね……これでどうかな?」」」」
パチン――と、指を鳴らすような音と共に少年の姿が変容する。
「あっ……」
背が縮み、筋肉の厚みが薄くなる。金褐色の髪が黒く染まる。何となく西欧風だった顔立ちが、彫りの浅い和風の苦労知らずの幼顔へと変わる。
「ぁ……あ…………」
その顔は、その姿は、あの時俺の前に飛び出した、謝罪に行く度、罵倒され見せ付けられた遺影の中の、あのチビた糞ガキの顔だった。姿だった。
「あ……ああ、ぁぁああ…………」
全身が総毛立ち、血が逆流する感覚に襲われる。胃が迫り上がる。息が苦しい。脳味噌が沸騰しそうな程頭が熱くなる。目がチカチカする。
何故お前はそこに居るんだ――?
何故お前は笑っているんだ――?
何故お前は人に囲まれているんだ――?
何故? 何故? 何故なんだ――!
お前のせいで会社を失った――!
お前のせいで子供を失った――!
お前のせいで最愛の妻を失った――!
お前のせいで! お前のせいで!! お前のせいでっ――!!!
「「「「どうやら見覚えがあるようだね」」」」
「…………あぁ」
口の中がカラカラに乾ききり、上顎にへばり付いた舌をニチャリと引っ剥がして、唸るような声を絞り出す。
「「「「それでどうだろう? 駄女神の口車に乗せられて、私の世界でやりたい放題やっているこの少年を退治してもらえないだろうか?」」」」
「あぁ…………」
ユラリと、幽鬼の如く立ち上がる。今俺はどんな顔をしているだろうか? ……知ったこっちゃない。
俺はアイツを赦さない。アイツだけは赦さない。上月誠だけは絶対に赦さない。絶対にだ――!!
「「「「では、交渉成立だね。君を私の世界へと召喚しよう。此方に来ても困らないよう出来得る限りのサポート付きでね」」」」
神とやらのあの聴き取り難い声が遠くなり、真っ暗闇だった空間がサラサラと崩れ去り、真っ白な空間へ切り替わる。そして真っ白な空間は光の空間へと変わり、光の奔流が俺を飲み込む。
そうして俺の意識は何処か遠くへ遠くへと流されて行った。
光が収まると、ヒンヤリとした空気が身体を嬲る。
周囲は乳白色の靄が掛かっており、踝程も無い背の低い雑草が見える範囲の地面に生え揃っていた。
「ここは……?」
「ここはアンタが居た世界とは異ニャる神の管理する世界。グラジオグラス大陸の大平原ニャ」
「うぉっ!?」
「ニャッ!?」
何とはなしに漏れた呟きに応える女の声が耳元で炸裂し、思わず声が上がる。脊髄反射で身を引いて声のした方を向くと、一匹の獣が空中でフワリと宙返りして音も無く地面に降り立った所だった。
「急に大声上げるなんてビックリするじゃニャいのサ!」
非難の声を上げるその獣は……猫? のような姿をしていた。
艶々とした藍の毛並み。スラリとした体躯と四肢。ピンと伸びた耳。それだけ見れば猫のそれだが……二本の尻尾。赤いイボ……ではなく石? が額の中央に毛を分けるようにして鎮座ましましている。そして何より人語を解すると言う点がそれを猫以外の別種の生物だと言わしめていた。
「な、何なんだお前は……?」
「お前とはご挨拶さネ? アタシの名前はミーフィーユー。神様のお言い付けでアンタのサポートをする事にニャった可哀想な眷属さァ」
猫――ミーフィーユーが顔を隠すように前足を翳し、ヨヨヨと泣き崩れる素振りを見せる。猫の姿なのに実に芝居掛かった動きをする。
「何だか不服そうだな……俺のサポートをするのは……」
「そりゃぁ不服も不服、ホントもホントに仕方無くさネ。元々アタシは、足の向くまま気の向くままに棲家の周りをパトロールするか、たまに神様の膝の上でうたた寝しニャがら、神様のお喋りに相槌打つのが仕事だったんだからニャァ」
それは仕事か? なんて疑問は胸の奥にしまい込んで半眼で愚痴るミーフィーユーを見下ろす。
「そりゃ悪かったね。こんな面倒な事に突き合わせちまって」
「別にアンタが悪い訳じゃニャいサ。悪いのはぜ〜〜んぶ、千年程前にこの世界に転がり込んできて大恩に仇を投げて寄越してきた、あの性悪駄女神のせいさネ」
そう切り出すとミーフィーユーは、如何に駄女神がしょうもない女であるかを延々と語り続けた。その歯に衣着せぬ悪し様な言われ様に、一体どんな神であるのか少なくない興味を抱いてしまった。
「……とまぁ、そんニャ訳で、アタシはあの駄女神のマウント取ってベッコベコにシバき上げてやらなきゃ気が治まらニャいのヨ」
「そ、そうか……お前の気持ちはよく解った……」
俺の同意に気を良くしたか、はたまた溜まっていた鬱憤を全て吐き出したからか、満足そうに一度目を細めると、身を翻して俺の背を駆け上がり、肩の上へと伸し掛かる。
「そんじゃあ、そろそろ行きますニャ!」
「行くって何処へ?」
「取り敢えず二時の方角へ向かうのニャ!」
「そっちに何かあるのか?」
「行けば解るニャ! アタシのナビは間違いニャいのヨ!」
自信満々に宣言するミーフィーユーに促され、俺は歩き始める。
そうしてミーフィーユーは駄女神への――。
俺はあのチビた糞ガキへの――。
復讐の旅が今始まった――。