1話 赤い太陽
赤い太陽
それが最初に見たものだった。
一瞬見て、その眩しさに目を閉じ、体を起こし、目を開けて辺りを見渡す。右には泉があり、その周りには生き生きとした草花と木々が生えている。
歩いて泉の所に行く。
「・・・・・・」
泉をのぞき込み、水面に映る顔を見た。金色の髪に赤い瞳、白い肌。
これは自分の顔。
今度は自分の体を見る。ボロボロのローブに革靴、首に緑色の石がはまったペンダント。
これは自分の身体だ。
「・・・・・・」
ここはいったいどこなんだろう。どうしてここにいるのだろうか?
「ちょっと、そこのあなた!ここにいると危ないわよ!」
背後から声が聞こえた。振り返る。そこに女性が立っていた。
青い長袖の服の上に急所だけ鉄で出来た鎧で守られていて、白いスカートに剣を収めるためのベルトとロングブーツ。長い黒髪を後ろにひとまとめにして、青い瞳に白い肌の顔。それと小さめだがリュックを背負っている。
「・・・・・・」
女性の人はスカートを脚で挟むようにしてしゃがんだ。目が合う。
「何、ジロジロ見て。それより一人なの?他のパーティーメンバーは?服がボロボロだけどモンスターにやられたの?」
「あ、えーと、・・・」
「あ、ごめんなさい。いっぺんに質問されても答えられないわね。あなた名前は?」
名前?自分の、名前。
「・・・分からない」
「分からないって。じゃあどこから来たの?」
「・・・分からない」
「・・・・・・。じゃあパーティーメンバーは?どこにいるの?」
パーティー?メンバー?
「あの、パーティーって何ですか?」
質問してみた。
「あなた大丈夫?まさかパーティーメンバーに置き去りにされたの?」
「・・・分からない」
何も分からない。
「そう。置き去りにされたショックで自分を閉じ込めたようね。安心して!私がついてあげる!困った事なら何でも聞いて!私が出来ることなら何でもしてあげるから!」
女性の人は真剣な眼差しで言った。
「では、ここはどこですか?」
「ここは『始まりの森』と呼ばれている場所よ。この森には人間が初めて誕生した森だという言い伝えがあるの」
ここは始まりの森。分からなかった。
「えっと、その格好は何ですか?」
「何って、普通の魔法剣士の格好よ?あなただってその格好、魔法使いでしょ?違うの?」
「分からない」
魔法剣士。魔法使い。
また分からない言葉が出た。
「どうしてここにいるんですか?」
「え?どうしてって、それは・・・・・・」
口が止まった。どうしたのだろう。
「何でもいいじゃない。あら、首に付けているのは何?」
「これですか?」
ペンダントを取り出す。すると、女性の人はじっとペンダントを見つめた。
「へえー、とても綺麗ね」
女性の人はペンダントを珍しそうに眺めている。
「・・・・・・あげます」
「え?いいの?!」
「はい。持っていてもよく分からないので」
「よく分からないって、これエメラルドよ!しかもこれ、すごく大きいじゃない!」
エメラルド?
「エメラルドって何ですか?」
「エメラルドは魔力の込められた宝石よ。その宝石に触れるとあらゆる毒が浄化されるの」
つまりエメラルドは毒の浄化ができる。
「これどこで手に入れたの?」
「分からない」
ペンダントを外して、女性の人の首に付けてあげる。
「本当に貰ってもいいの?あとで返してって言っても返さないよ?」
「はい」
「・・・・・・ありがとう。大切にする」
女性の人は立ち上がると、こちらに向けて手を差し出してきた。
「森の外まで案内してあげる。おいで」
「はい。ありがとうございます」
女性の人に手を取られ森の中を歩き出した。
* * *
森の中を女性の人と一緒に歩いている。何か質問してみよう。
「あの、パーティーって何ですか?」
「そうね、簡単に言うと今の私たちみたいなものかな。二人以上で一緒に行動して、協力しあってお互いを助けるって感じかな」
つまりパーティーはお互いに助けあう仲間ということ。
もっと質問してみよう。
「魔法剣士って何ですか?」
「魔法剣士は魔法も剣術も使える人よ。魔法使いのように魔法に特化している訳じゃないし、騎士みたいに華麗な剣術を持っているわけではないけど、魔剣術っていう特殊な技が使えるの」
「そうなんですか」
つまり魔法剣士は魔剣術という特別なものを持っているということ。
「あなた、本当に何も知らないみたいね。どうしてここにいるのかくらいは思い出せない?」
「・・・・・・思い出せない」
「そう。あ!いいのがあった!」
女性の人が突然駆け出す。その後を追った。
「これこれ、これが欲しかったのよ」
太い木の前で立ち止まると、しゃがみ込んで草を摘み始めた。緑色の三つ葉の草。
「その草は何ですか?」
「これは薬草よ。傷口に塗ると傷を塞いで痛みを和らげてくれるし、煎じて飲めば身体の内側から全身の痛みを和らげてくれるの。ダンジョンに行くには欠かせない道具の一つよ」
つまり薬草は身体を癒やしてくれる草ということ。
それと、また知らない言葉が出てきた。
「あの、ダンジョンって何ですか?」
「ここみたいにモンスター達が住みつく所よ。モンスターは人や動物に害をなす存在。私たち魔法剣士や騎士、魔法使いはモンスターを退治するのが主な仕事なの」
「モンスターって強いんですか?」
「まあ、弱い奴もいれば強い奴もいるわね。でもこの森にはそんなに強い奴はいないはずだから、もし来たとしても私が退治してあげる」
つまりダンジョンはモンスターの住み家で、モンスターは害をなす生き物。
「これだけあれば十分かな。さて、行きましょうか」
女性の人はリュックに薬草を仕舞って立ち上がる。
グルルルルルル!
突如茂みから何かが複数飛び出してきた。
「あれは何ですか?」
「あれはウェアウルフ。銀色の毛並みが特徴で、群れで行動しているオオカミに似たモンスターよ。下がってて、私が退治してあげる」
女性の人は剣を抜くと何かを唱え始めた。
「我の中に眠りし力よ、敵を討つ光となり、悪を滅ぼせ。解放!」
女性の人が言い終えた途端、ウェアウルフ達はこちらに向かって走り出してきた。女性の人は落ち着いた様子で剣を構え、横一線に大きく振った。
「ウィンド!」
女性の人が叫ぶと、強い風が吹き、ウェアウルフ達が吹き飛ばされる。
ウェアウルフ達は逃げていった。
「ま、これくらいで許してあげようかな」
「強いですね」
「そうでもないわ。世の中には私より強いのがいっぱいいるからね」
女性の人は剣を鞘に戻して服のしわを伸ばす。
「さ、行きましょうか。出口はもうすぐよ」