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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第四話・自然体の運ぶ聖十遊技(しぜんたいのはこぶ せんとゆうぎ)
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04 子守(こもり)

一方その頃、朝日として輝いていた太陽が昇り終え徐々に高度を下げだした頃。リーヴァリィに存在する借家で仮眠を取っていたギラムは目を覚まし、窓辺から吹き込むそよ風に髪を靡かせていた。即座に眠りに落ちていた事に気付いた彼はゆっくりと身体を起こし、大きな欠伸を一つしながら両手を天井に向け体を伸ばしていた。


「……ん、んーーっ…… 良く寝たな……」

何時しかベランダに屋根から伸びる影が写っている事に気付いた彼は、おおよその時間を確認し長い時間寝ていた事を理解した。ベットサイドに置かれた時計は昼過ぎから少し経った頃合いを指しており、約九時間近く寝ていた事が分かった。

『………段々夏らしい気候になって来たな。そろそろ衣替えの時期か。』

「……キュゥー……」

「ぉ、こっちもお目覚めか。」

そんな夏の陽気を感じていると、彼の隣で眠っていたフィルスターも目覚めた様子で鳴き声を上げだした。視線を下すとゆっくりと身体を起こし翼を羽ばたかせる幼い龍の姿があり、全身を伸ばす様に尻尾を左右に振りつつ首を伸ばしていた。その後隣に居るであろう主人の姿を見た後、顔を上げギラムの顔を見上げだした。

「おはようさんフィル、お目覚めか。」

「……… キュウ。」

「今飯にするからな。一緒に来るか?」

「! キュウッ」

「はいはい。」

寝起きの為即座に返事が無かったものの、彼はギラムからの食事に対する発言に対し即座に反応を示しだした。どうやら主人と一緒に何かをするのを心待ちにしていた様子で、つい先ほどまでの眠気眼とは別の表情がそこには浮かんでいた。

その後ベットサイドに足を降ろしたギラムはフィルスターを抱き上げると、その場に立ち上がりキッチンへと向かって行った。その間にフィルスターは器用に彼の身体を昇り、左肩の上へと昇り主人の顔を覗くのであった。

「……キュウキューキュ?」

「すぐに出来る昼飯だ。ちょっと手抜きになるが、良いか?」

「キュッ」

「ありがとさん。」

そんな可愛らしいドラゴンの顔が隣から覗くのを見ると、ギラムは軽く話しかけながら相手の頭を撫でるのだった。優しい撫でを受けた彼は嬉しそうに主人の掌に頬を擦り寄せ、思う存分甘えるのであった。



キッチンへと向かったギラムはフィルスターを肩に乗せたまま冷蔵庫を開けると、中から手頃な昼食に相応しいであろう材料を探しだした。すると中には開封されるもバンドで閉じられた『チキンナゲット』の姿があり、彼はそれを手に取り隣に置かれていた『サラダ』の入ったパックを手にした。中にはサラダ菜を始めとした緑黄色野菜がギッシリ詰まっており、パックの蓋に張られていたシールを視るとコンビニで購入した物である事が分かった。どうやらメアン達が購入するも食べきれなかった品であろうと彼は認識し、置いて行ったのだろうと理解するとパックを手にしたまま冷蔵庫を閉じた。

その後サラダをシンクの隣にある空きスペースに置いた後、彼はナゲットを手頃な皿にキッチンペーパーを敷き袋に残っていた分を全て皿の上に開けだした。そして普段から使用する電子レンジに皿ごと入れ、仕事を開始させるのだった。簡易な電子音と共に仕事を開始する電子レンジをしばし見つめながら、二人はじっとナゲットが出来るのを待つのだった。



ブゥーン………


「………」

「そういや、さっきから肩から降りる気配ねえな。お前、そんなに寂しかったのか?」

「………」

「………ま、いいけどな。昨日は偉かったな、留守番出来てさ。」

「………」

目の前で回転する皿の姿を見つめながらギラムは声をかけるも、珍しくフィルスターは返事を返す事が無かった。彼からの問いかけに対し内容を理解しているのか、それとも電子レンジの中で回るナゲットの姿に見惚れているのかは解らないが、声に反応は見せるも何かを告げる事は無かった。しかし主人からの褒め言葉に対しては何処か嬉しかった様子で、背中越しに揺れていた尻尾が軽くばたつくのであった。

「何時かフィルも、俺と同じ場に立つ事になるかもしれねえし…… 今度は留守番させずに、一緒に連れて行くぜ。結構危ない所だから、本当は連れて行きたくないんだけどな。」

「? キュウ?」

「お前は俺の家族だからさ。グリスンも確かに似たようなもんだが、あっちは居候って事になってるからな。名目上はペットとは言え、お前は家族なんだ。大事にしないのは変だろ?」

「………」

「だからこそ、もう少し大きくなってからにしたいって思ってるんだ。今の俺がやってる別件の仕事は、それだけ命に係わる事と同意義だからさ。解ってくれ。」

「……… キュウ。」

「? そっか、解ってくれるか。嬉しいぜフィル。」

その後夜の間に行っていた別件の仕事の事を軽く告げると、彼は返事を返しそれ以上何かをいう事は無かった。

主人が何かをするために外へと出向いた事は解っており、例え近くに居なくても必ず自分の居る場へと戻ってきてくれる。だがそれでも寂しい気持ちがある事には変わりはなく、帰宅した頃は素直に主人を出迎える事が出来ずにいた。それはフィルスターにとっても不覚だった様子で、何時か自身を連れて行ってくれる主人の為に早く大きくなろうと心に抱くのであった。


その後目の前で仕事をしていた電子レンジが仕事を終えた事を告げる電子音を発すると、彼は扉を開け中から温まったチキンナゲットの乗った皿を取り出した。軽く湯気を上げながら良い香りを発するナゲットに二人は鼻孔を擽られる中、先ほど出しておいたサラダを手にしテーブルへと向かって行った。彼が席へと座ると肩に乗っていたフィルスターはその場から移動しはじめ、彼の向かいへと腰を下ろすのだった。テーブルに座ったフィルスターは大人しくしながらも首を左右に振りながら、食事が来るのを今か今かと待つのであった。

そんな彼を視たギラムは笑顔を浮かべながら合掌し、フォークでナゲットを突きフィルスターの口元へと運び出した。目の前にやって来た食事を目にした彼は口を開けナゲットを口にすると、口の中で広がる肉汁を噛みしめながら美味しそうに食事を取りだすのだった。美味しそうに食べる幼い龍を視た彼は満足そうに頷いた後、自身も食事を取ろうとナゲットを口にするのだった。定番の衣を纏ったナゲットはサクサク感は無いモノの、しっとりとした味わいと確かな肉汁が絶品の一品なのであった。

『……そういや、あれから他の創憎主達ってどんな生活を送ってるんだろうな……… 一人は事情聴取って言ってたが、どんな現状になってるんだ………?』

口にしたナゲットを噛み砕きながら、彼はふと今まで行ってきた創憎主との戦闘の事を思い返していた。

彼は成り行きに近いも自身の意志でグリスンと契約し、今まで彼等との戦闘をこなして来た。無論全てが自身の力によって解決出来たわけではないが、それでも彼の功績として真実を知る者達には評価され、知らない者達には一種の事件として認知されていた。しかし戦闘後の送検後はどうなったのかは彼は理解しておらず、事後処理をしたと思われる治安維持部隊からの報告も一切耳にはしていなかった。つい先ほど解決したに等しい事件に関してもまだ報告は聞いていないため、彼は何処となく彼等の所在がどうなったのかを気にしだすのだった。

そんな事を考えていると、彼はふと目の前で首を振り出すフィルスターの姿が映った事に気が付いた。気付くと彼に与えたナゲットはすでに姿は無く、次の食事が来るのを今か今かと待っているのが分かった。相手の視線に気づいた彼は再びナゲットをフォークで突いた後に口元へと運ぶと、再び美味しそうに口を動かし早々に飲み込んでしまうのであった。半ばあっという間のスピードに彼は驚くも、自身も気付けば口の中からナゲットの味が無くなっているのを知り、主人と似たようなスピードで食べているのでは無いかと考えるのであった。

ちなみにギラムは噛むスピードが速いだけであって、噛む回数が少ないわけでは無い。

『グリスンが帰ってきたら、少し聞いてみるか。エリナス達の情報ルートがあるって、言ってたからな。』

その後パックを開けサラダを二人で口にしつつ、彼は今後の行動について相棒と相談しようと考えるのであった。



食事を終えたギラムは使用した食器類の洗い物を終えると、リビングに腰を下ろし約束通りと言わんばかりに待つフィルスターの元へと向かって行った。飲食後の丸くなったお腹を見せつける様に座る彼の近くに腰を下ろすと、フィルスターは主人の膝元へと移動し首を左右に振りながら何をして遊ぶのかと心待ちの眼差しを向けだした。ちなみにギラム自身がフィルスターと遊ぶのは久しぶりであり、ほとんどの時間をグリスンと過ごしていた。

「そういや、フィルとちゃんと遊ぶのは初めてだな。普段は何をしてるんだ?」

「キュッ」

「ん?」

問いかけに対しフィルスターは返事をすると、壁際に置かれた網性の籠の元へと向かって行った。そこには彼の遊び道具として使用されたと思われる道具達が入っており、彼が生まれる直前まで入っていた卵の殻も残っていた。取り出したのは一枚の神であり、クレヨンで書かれたと思われる文字と思わしきモノが描かれていた。しかし井出達は完全に象形文字である。

「………文字、か? そっか、勉強してたのか。」

「キュウッ キキキュウキュ、キューキュウキキュウッ」

「んー…… ……まぁ、ちゃんと喋りたいって意味合いもあるのか。発声器官はある訳だし、ちゃんと喋れる様には成るんじゃないか?」

「キキュウッ!?」

「あぁ。せっかくだし、俺も少し手伝ってやろうか。ちゃんとした事は出来るか解らないけどさ。」

「キューッ」

「よしよし、勉強熱心だな。良いぜ。」

今まで彼が何をして遊んでいたのかを理解すると、彼はフィルスターの頭を撫でつつ文字の勉強する事を決めるのだった。

元より賢いドラゴン達は文字を始めとした人間達とのコミュニケーションは得意としており、ヘルベゲールに生息する恐竜達もヒトの言葉は話せなくとも言葉を理解する事は出来て居た。彼自身もその事は十分理解しており、鳴き声を変えつつ言葉を話そうとするフィルスターはその素質が十分にあるのではないかと思っていたのだ。現に彼は返事や相槌以外はちゃんと話しており、場合によっては自身の事を呼んでいるのであろう話し方もあるくらいだ。中々に成長過程が面白いと、ギラムは改めてフィルスターの事を理解し勉強の手伝いをするのであった。

まず彼が行った事、それは一通りの文字を書けるようになることだ。始めにギラムがアルファベットを書き、それを視ながらフィルスターが真似をして文字を書くという作業を繰り返し行いだした。そしてそこから発言練習が出来る様に単語を幾つか書き、それを読み上げるという勉強方法を取るのであった。

フィルスターはそんなギラムからの教えに対し素直に聞きながら頷き、両手で持ったクレヨンで一生懸命に書かれた文字を真似しだした。そして単語をギラムに続いて読み上げた後、何を思ったのか一人でアルファベットを書き出し、ギラムに見せる様に紙を差し出すのだった。そこに書かれたのは『G』から始まる六文字の単語であったが、まだ何処となく象形文字に成っているのであった。

「…… キュ……キ……キュゥ………」

「……もしかしてそれ、俺の事だったりするのか?」

「? キュウッ」

「そっか。 ……『ギ』」

「キュ。」


「『ラ』」

「キ。」


「『ム』」

「キュゥ。」


「…… そっか、大体母音(ぼいん)で変わるのか。練習すればちゃんと喋れそうだな。」

「?」

「いや、何でもないぜ。フィルが名前で呼びたいって言うなら、それで良いぜ。その方が気楽だしな。」

「……… ……キュッ」

「ん?」

その後書かれていた文字に付いて理解するも、彼はギラムの事を名前で呼びたいという意思は無い様子で首を横に振りだした。突然の事にギラムは首を傾げていると、彼はその場から立ち上がりぽてぽてと歩き出し、再び籠の近くに置かれていた物を手にし戻って来た。彼が手にしていたのは一冊の本であり、それを見て欲しいと言わんばかりにつま先立ちで彼に本をアピールするのであった。

「本? ……あぁ、そういやカフェの店長に貰った奴があったな。それも読んだのか。」

「キュッ キキュキュゥン、キュウンキッ。」

「そうなのか。」

「キキュウ、キュウキュウ。」

そう言った彼は目の前で本を開くと、何かを探す様にページを捲りだした。その様子をギラムはジッと見つめていると、彼は見せたかったページへと辿り付いた様子で彼に本を差し出すと、ギラムはそれを受け取りどれを見せたかったのかと彼に問いかけた。するとフィルスターは右手を伸ばし、爪先でその部分を指示した。

そこには仕える使用人と思わしき騎士が主人を呼ぶシーンが描かれており、使用人が主人へ対する呼び方が書かれていた。様々な呼び方がある名詞についての表現がそこにはあり、彼はその呼び方が良いと言いたかったようだ。

「………『(あるじ)』 そう呼びたいのか?」

「キュウッ キュキキュゥ、キッキュッ」

「まぁ、そうしたいなら別に良いぜ。確かにその方が、主人らしいしな。」


「キューッ!」

「おおっと、危ねえってフィル。」

そんな彼からの申し出にギラムは承認すると、フィルスターは嬉しさのあまりに彼の胸元へと跳びつくのだった。突然やって来た幼い龍の行動に彼は驚きながらも抱きかかえると、自身に擦り寄るフィルスターの様子を見守った後、優しく背中を撫でるのであった。

大好きな主人との一時を満喫する様に、彼等の午後は過ぎて行くのだった。



更新準備をしていたのですが、設定を間違えていた為再度上げなおしました。

楽しみにしていた方々、申し訳ありませんでした。

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