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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
序章・初花咲いた戦火の叙景(ういばなさいた せんかのじょけい)
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09 束の間の我が家(つかのまの わがや)

帰宅途中での寄り道後、彼は都市内での生活のために借りているマンションへとやってきた。駐輪場に愛用のバイクを停めて鍵をかけると、彼は荷物を手にし中へと入って行った。


リーヴァリィの都市内にある、白藍(はくあい)色の外壁が印象的な真新しい造りをしたマンション。

都市内でも人気の物件として名高いその場所には、彼の借りている部屋がある。オートロックの付いた入口を抜けた先に広がっていたのはエントランスホールであり、大理石の埋め込まれた道の両側には、レンガで形成しカーブを画いた花壇が造られ、様々な木々と草花達が出迎えていた。ガラス張りで吹き抜けとなっていたホール先の通路を左に曲がり、彼はマンションの東棟へと進んで行く。

それぞれの塔は3階建てで部屋が幾つも設けられており、1つ1つの間取りが広く一般的な家庭が住む分には申し分ないほどの広さ。その内の1つ、東棟一階の突き当たりの部屋が、彼の借りている部屋だ。マンションに入る際にも使用した本人認証機でロックを解除すると、扉は自動で開き彼を中へと迎え入れた。


玄関先の通路を抜け、最初に彼の視界に入るのはリビングだ。外からの日差しを通す窓辺には鶯色の大きなソファがあり、近くにはガラス製の小さなテーブル、下には大きめのラグマットが敷かれていた。ソファ同様窓辺に置かれている観葉植物は、成長に必要な量の日光を存分に浴びられる絶好の場所に置かれ、部屋の隅には縦長の鏡が立てかけられている。

変わって、リビングから隣接する隣の部屋は、同様の広さがあるにもかかわらず、彼が寝るために使用するセミダブルのベットと備え付けのクローゼットしか置かれていない。比較的家具の少ない彼の部屋ではあったが、とても清潔感溢れる優しい部屋であった。


リビングから外へと出ると、木製の柵で囲われたバルコニーと、芝生の大地が広がっていた。窓から見える景色はとても美しく、彼の住まうマンションが小高い丘の上に立てられている事が良く分かる景色が広がっている。都市内に立つビルや家々が広く見渡せ、夕暮れ時の太陽によって照らされた街は、橙色に輝く水晶山の様な光景だ。

朝日が差し込む部屋に住み、どの時間であっても外の景色が楽しめる部屋。彼の住まうその部屋は『治安維持部隊』が所有する部屋ではあるが、今は准士官である彼の所有物として使わせてもらっている場所だ。それだけの場所である事からか、彼もこの部屋をすごく気に入っているのだった。


部屋へと入った彼は、持っていたバイクの鍵をカウンターテーブルに置かれた定位置の籠の中へと入れ、荷物をベッドルームに置いた。その後疲れた様子で背伸びをした後、ベットに腰かけそのまま仰向けになり横になった。

『明日からしばらく仕事もねえし、何か予定を立てておかないとな… 趣味って言える趣味もないから、こういう時が…困るんだよな… …』

その後体制を変え天井を見上げながら、彼は明日からの予定をどうしようかと考えていた。自身の都合で仕事の休みを貰った事はあるが、計画の無い休みを貰ったことがない彼にとって、数日間の心の休息は暇なようだ。どうしようかと思考回路を巡らせていると、彼の意識は少しずつ遠のき始め、夢の中へと(いざな)われて行った。




彼が次に目を開けた時には、外の景色は夕方から明け方へと変化していた。ゆっくりとベットから起き上がった彼は欠伸をしながらベットサイドに置かれた時計を見て、いつの間にか寝入ってしまった事に気が付いた。

『…さっそく、マイペースに時間を使いだしてるな。 精神的な傷を癒すには時間がいるとはいえ、こうのんびりし過ぎると身体がなまっちまいそうだ。』

休みとなった途端に緊張感が抜けてしまった事に、彼は呆れながらも立ち上がると、寝る前同様に身体を解しシャワールームへと向かって行った。昨日の帰宅した直後に寝た事もあり、着替えも湯浴みもしていない事が多少気になったのだろう。脱いだ服をそのまま洗濯機に入れ仕事を開始させると、彼はシャワーを浴びだした。



しばらくしてシャワーを終えた彼は、湿り気の残る髪の毛を拭きながら肌着姿で部屋へと戻り、ベットルームのクローゼットからその日着る洋服を取り出した。着替えを済ませ使用していたタオルを片づけると、彼はキッチンに立ち朝食を作りだした。

『さて、今日はどうすっかな… しばらく施設には寄れねえし、街の散策くらいしかする事もねえか…』

手を動かしながらも彼は器用に考え事をし、オムレツを焼き上げ皿へと移し、バスケットの中に入っていたパンを齧りながら、テーブルへと向かって行った。その日行う予定の明確な案は無かったが、とりあえず行動する事だけは決めた様子で朝食を口にしていた。


焼き上げたオムレツとパンが無くなると、彼は食器を片づけ近くに置いてあったコーヒーメーカーに買い置きしてあった珈琲豆を投入し、カップをセットした。しばらくしてカップに注がれたコーヒーを口にしながら窓辺へと向かい、彼はサンダルを履いてベランダへと向かって行った。


彼の前には、日が昇り都市内の建物に鮮明な色が追加された光景が広がっており、起きた直後の朝靄はすでにその場から姿を消していた。その日もとても平和な光景として彼は目視しながら珈琲を口にし、仕事疲れを忘れる様にのんびりとした朝を迎えていた。

「…ぁっ、そうだ。 昨日貰った本もあるから、どっかで読書でもするか。 …そういや、そろそろ『エスト・フィルスター』が近くの川沿いで行われる時期だったな。 たまには、風物詩を楽しむか…?」

そんなぼんやりとした朝を迎えていた時、彼はあるイベントが近くで行われる事を思い出した。


毎年、初夏から秋の始まりまで行われている『エスト川』での花火大会。この時期になると、川の上流から下流までをイルミネーションで飾られ、治安維持部隊の一部が祭りの際の警備を任されているため、所属する隊員達で知らない者はいない。彼も時々その警備に任され出る事もあったが、今年はまだその招集も無く近くで拝んだ覚えも無かったのだ。

『花火、見に行くか。』

空想の最中で予定が決まると、彼は残っていた珈琲を一気に飲み干し、髪の毛をセットしお気に入りのゴーグルを額に着け、外出して行った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] バスケットの中のパンを食べるという具合で、頻繁にこの家に帰ってきてるんですね、勤務先に寮があって緊急時に備えてるとかじゃない具合なのが、より町に馴染んだ治安維持組織なのだと分かりますね。
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