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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第三話・憧れを求める造形体(あこがれをもとめる ゼルレスト)
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27 打開策(だかいさく)

ギラム達が応戦していたロボットの一体が停まったその頃、他の場で戦闘を続けていたアリンとサインナ達。

紫色のロボットからの猛攻に対し苦戦を強いられていたサインナとラクトは、徐々に優性な位置から劣勢へと追い込まれつつあった。

【ギィーーー……!!】


「……ハァ、ハァ…… 今まで、こんなにも苦戦した相手が居たかしらね……ラクト。」

「いや、記憶を見返した所で居ないだろうな…… お嬢の今回の判断、正しかったと見れるな。」

「それはどうも。後でじっくり聞かせてもらいたいわ。」

攻撃の合間に一息つくと、二人は話しながら背中を取られない様相手の動きに気を配っていた。

元より戦闘経験の多い二人は創憎主との戦いに成れていたため、ギラム達よりも比較的強気に戦いを挑む傾向があった。しかし今回は攻撃そのものを軽減させる力が強かったためか、中々痛手となる一撃をお見舞いすることが出来ず、先に二人の体力が削られていく現状が作られてしまっていた。軽く話をしているとはいえ、二人は内心焦りを覚えていたのだった。

【ギィイイーー!!】

「クッ! また来るって言うの……!!」

そんな二人に対しロボットは再び奇声を上げると、疲労感を感じていたサインナに対し攻撃を開始しようと腕を振り上げた。相手の動きを視た彼女は手にしていた武器で受身を取る体制を取ろうとした、まさにその時だった。



ジャキンジャキンジャキン!!


「!? 剣……?」

「サインナ、ラクト!! 無事か!?」

「! ギラム!」

彼等の居た場へと動こうとしていたロボットの動きは、突如地面から発生した剣によって阻害されしまった。白金の様に鈍い輝きを放つ剣は美しい剣刃に相応しい切れ味を出しており、切りつけた箇所からは光沢のある半透明の粒子が周囲に舞うのだった。

攻撃と同時に援軍として来た彼を見た時、二人は驚きながらも後ろへと下がり相手と距離を取り出した。

「お前、加勢なんてしてる場合か! 敵はどうした!?」

「悪いが、一足先に片付けさせてもらったぜ。今回の敵は中々手ごわくて、時間かけられちまったけどな。」

「……(かす)り傷を負うほどだった、みたいね。それに、手にしてるそれは何?」

「グリスンに借りたんだ。固形物を突き出す魔法を考えた所までは良かったが、安定性に欠けてたからな。コイツはそれへ対する対策だ。」

「なるほど、媒介として使ってるわけか。」

その場へと合流したギラムの経緯を聞くと、二人は納得しながらも彼を戦場へと招き入れ、それぞれが動きやすい位置へと瞬時に移動を開始しだした。ロボットから見て前方右側にサインナが立ち、側面左側にラクトが眼光を鋭くしたまま対峙し、相手の目の前でギラムが仁王立ちしたまま武器を構えており、何時でも反撃に出られる体制が整いだした頃。ギラムは二人に聞こえる声量で、こう叫んだ。

「奴の耐久力はあの光沢だ! 削ぎ落しちまえば、二人の力が通用するはず! やってくれ!!」

「言われなくともやってやる! お嬢!!」

「えぇ、行くわよラクト!!」

彼の声を耳にした二人はそう叫ぶと、再び地面を蹴り敵に向かって行動を開始した。


先に前方へと出たのはサインナであり、使い慣れた武器を手にしたまま移動し相手からやって来るであろう拳の攻撃を迎えるように走っていた。すると案の定相手が動き出すのを視た彼女は、振りかざす勢いで迫りくる腕を身体を後方へと反らして避け、相手の懐を抜け後方へと滑り込む様に地面を移動しだした。避けた反動で周囲の風が後方へと流れると、彼女の深い緑色のポニーテールが強く靡き、その勢い解る状況が一瞬だけ展開されるのだった。

【ギィイイーー!!】

「耐久力の欠けた玩具何かに、私達は止められないわ!! ラクト!!」

「【フィリー・吹雪(ふぶき)】!!」

攻撃を避け安全圏外へと移動すると、二人達は反撃を行うべく行動を取りだした。

指示と共にタイミングを待っていたラクトは両手を胸の前で合掌した後、双方で拳を握り締めその場で回転する様にトールハンマーを放った。すると彼の振り下ろした拳の先端から冷たい飛礫の交じった風が吹き出し、相手を巻き込む様に吹雪が発生しだした。渦を描く様に風は相手を包み込み、動きが制限されていた足元を始め、光沢が剥がされていた身体の至る所から凍結する様に氷が成長しだすのだった。

徐々に身体の動きが鈍くなっていくのを視た直後、今度はラクトから合図を送りだした。

「お嬢! 決めてやれ!!」

「さぁ、桜花の如く……舞い踊りなさい!!」

吹雪によって動きの封じられた相手を目視し、サインナは手にしていたハリセンを天高く掲げ叫んだ直後の事だった。彼女の持っていたハリセンは瞬く間に大きさが変化し、持ち手の先端に位置する蛇腹紙は彼女の身体程のサイズへと瞬く間に変身してしまったのだ。大きさに見合うであろう一撃が放てるのを確信したのか、彼女はそのまま両手で武器を持ったまま相手の懐へと入り込み、重くも爽快感のある一撃をボディへと打ち込んだ。



スッパァアアアーーーン!!


軽くも轟音に負けない力強い音が響き渡ると、ロボットは吹き飛ぶ勢いで後方へと倒れ込んだ。それからしばらく様子を見ていると、相手は煙を上げながら徐々に部品に成る様に転がり出し、徐々に小さくなって行くのだった。

「……フフッ、完璧ね。助力無しに成し得ないのが残念だけど。」

「助かった、礼を言うぞギラム。想定以上の力だな。」

「逆境ほど燃えるモノは無いって言うが、俺にもそれが言えるのかもな。」

難を逃れ無事に相手を打ち負かしたのを見ると、三人は束の間の休息の後、互いに勝利の言葉を口にするのだった。





一方、そんな戦いが繰り広げられていた同時期の別の場所では、青色のロボットによる攻撃が絶え間なく繰り広げられていた。




「キャアアッ!!」

「アリン!」

何時しか抱えられていた状態から守備を崩され、別々の場へと立たされていたアリンとスプリーム達。未だに俊敏さの残るスプリームに対し、動きがあまり早くないアリンは早々に劣勢へと持ち込まれてしまい、地面に尻餅をついてしまっていた。動けずにいる状態を見かねた彼は慌ててアリンの元へと向かうも、それによって保っていた距離は何時しか縮まり、何時でも重い一撃が放てる場へと接近を許してしまうのだった。

「クッ……!! しまった……!」

「スプリームさん……! 私は良いですから、早く避難を!」

「そんな事出来るか! 厄介毎へ巻き込むのを了承してくれたとは言え、君は俺のリアナスとして活動している相手だ……! 見捨てるなんて出来ない!」

助けようにも自身から危険な場へと誘いこまれた事を知った彼は、膝をついたまま視線を変える事無く相手の出方を伺っていた。攻撃が来ようとも避けられる体制が彼には出来ている様子で、仮に左右のどちらかから来ようものなら、後方で倒れるアリンと共に回避が可能だと判断していたのだ。

しかし出方によってはそれが逆に危険になる事もあるため、両者は動こうにも動けない状態がしばらく続くのだった。

【ギヒヒヒヒ!!】

そんな沈黙を先に破ったのは、敵側であるロボットの方だ。彼にとって助けるべき相手が自身と共に避け辛い場所、真正面から射貫く直線的な攻撃が彼等に襲い掛かった。

「!! 危ない!!」

「ッ!!」

回避も救助も出来ない事を悟った彼は咄嗟に手にしていた武器を横に構え、耐えきれるかさえ解らない相手の一撃を防ぐ体制を取りだした。最悪自身が壁になるだけで事が済むかもしれないと判断した、力強くも仲間想いの行動が結果に繋がろうとした、まさにその時だった。



「【ナグド・サヒコール】!!」



バシュンッ!!


【ギィーーッ!?】

「! 魔法壁……? グリスンか!」

攻撃と防御が触れようとしたその瞬間、両者の間に眩い光の噴き出す魔法の壁が展開されだした。突如発生した光によって攻撃がはじき返されると、ロボットはのけぞる様に後方へと揺れ、術を放ったであろう相手を探そうと首を動かしだした。同様に無事に一撃を無力化した事を知ったスプリームは、技を放ったであろう相手の気配を辿り、自身の右後方へと視線を向けた。するとそこには、普段とは違う武器を手にしたまま彼等を視るグリスンの姿があった。

「スプリーム! アリン! 大丈夫!?」

「グリスンさん!」

「グリスン、そっちの敵は片付けたのか!?」

「うん、ギラムの手にかかれば何てことないよっ! 後のロボットも片付けちゃえば、相手も動けないはずだから!」

「ギラムさん……! やっぱり、凄いですね……スプリームさん!」

「あぁ、共闘してもらえて誇り高いな……!」

難を逃れると同時にアリンを引き起こすと、二人はグリスンの元へと移動し口々にお礼を言いだした。そして再び来るであろう相手の姿を目視しつつ、グリスンとスプリームは数歩前へと移動しながらこう言った。

「スプリーム、相手の弱点は表面の光沢を剥がした内面だよ。あの光沢を何とか出来ない?」

「光沢を剥がせば良いのか? ……なら、可能だ。」

「じゃあお願い、アリンは僕がサポートするから!」

「あぁ、任せたぞグリスン!」

軽いやり取りの後に作戦を決行するかの如く、言葉と同時にスプリームが相手に向かって走り出した。動きを見かねたロボットは彼の元に拳を突き立て攻撃すると、相手は一撃が来る前にその場を跳び出し、左手に力を込める様に拳を作りだした。そして相手を捉え一撃を放つ場を見極めると、力強く拳を突き出した。

「【ウィド・ラールクル(オウ)】!!」

【ギヒヒヒ……!】

拳の周辺から放たれる桜吹雪は視界を塞ぐように周囲を吹き荒れた後、瞬時に集合体へと変化し弾丸と化して相手に襲い掛かった。目の前からやってくる攻撃を見かねたロボットは両腕で防ぐように顔面の前で交差させ、一撃を弾く様に腕を振り払った。形を整えていた風を払われ花弁が周囲に飛び交うと、相手は防いだ事を確信し軽く奇声を放った、直後の事だった。



バッ!


「後ろだ!!」

【ギヒ!?】

視界を制限し死角から後方へと潜り込んだスプリームはそう叫ぶと、今度は左手を開いたまま地面に勢いよく叩きつけ魔法を放った。その直後に地面に異変が生じだし、相手に向かって幾多の影が襲い掛かった。

「【ライズ・パフ・(くさぶき)】!!」



シュババババッ!!


声に反応して伸びた影の正体、それは若根を過ぎ成長しきった翠色の茨達だった。地面から突き出す様に茨は成長しロボットの足を捉えると、そのまま相手を縛り付ける様に成長を開始し、身体の至る所から鋭い棘を相手の身体に向かって突き出した。翠色に生える白い棘は素早く伸びた勢いで表面を削り落とし、光沢のある粒子を周囲に舞い上げるのだった。

「今だ!!」


「止まり行く時の流れに……加速する一撃を……!!」

「皆の優しさを無下にしない……援助する力を……!!」

【!!】



「ライトニング!!」

「【ナグド・トイナール】!!」

相手の弱点をさらけ出す事に成功した彼の言葉に反応して、待機していた二人はお互いが放てる魔法を即座に放ち出した。アリンは先ほど同様の大きな雷を発生させ、グリスンはそんな彼女を援護する『バッククロスターン』のステップに合わせて演奏を行った。前衛へと自ら向かったスプリームに負けない一撃を放ちたい、その一心による攻撃が相手に対し襲い掛かった。



ドォーーーン!! バリバリバリバリ……!!


轟雷と共に表面を焦がす落雷が相手に命中すると、周囲に跳び出した静電気がしばし浮くも、ロボットはそのまま弾け飛ぶように各部位を周囲に転がしだした。雷の落ちたであろう頭部には黒い焦げ跡が付いており、地面に流れたであろう雷と共に、相手は動く事無くその場で煙を上げだし、徐々に小さくなるのだった。

「凄い……! 私の一撃が、あんなにも強力になるなんて……!」

「グリスンの魔法は、援護がほとんどだからな。なあ、グリスン。」

「ヘヘッ、それしか出来ないんだけどね。」

先程よりも手ごたえのある攻撃に驚きを隠せないアリンであったが、隣に立つグリスンの援護がとても心強かった事を改めて理解しだした。未だに何かを成すにも難しい現状であったにせよ、出来る事とやりたい事を貫いた結果を出せた事が、何よりも嬉しかったのだろう。二人はお互いに笑いあった後、その場に戻って来たスプリームの安否を気にしつつ、ロボットに勝利するのだった。


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