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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第三話・憧れを求める造形体(あこがれをもとめる ゼルレスト)
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26 生成魔法(せいせいまほう)

【ギヒヒヒヒ………!】

「嘘……だろ……!! 爆弾でも駄目なのか……!?」

今までの戦闘で基軸としていた銃を封じられ、切り札とばかりに爆薬を使用したギラム。しかし彼の攻撃は敵に通用する事は無く、再び同様に防がれてしまっていた。

発想と切り替えによって難を逃れていた彼にとって、手法が悉く通用しないのは初めての事だ。『これ以上に厄介な相手は居ない』と告げていたサインナの言葉が、かすかに彼の脳裏に過るのだった。

「……お兄ちゃん、物でしか戦わないみたいだねぇー…… だったら、猛攻でも十分行けるかも。」

「! ギラム、気を付けて!!」

「チッ!!」

そんな彼の手が止まっていると、敵は理解と共に隙が出来た事を知り、強襲を駆けるべくロボットを進ませた。特攻を仕掛けてきたロボットはギラム目がけて拳を握り、先ほどと同様の重い一撃をお見舞いしだした。しかし彼は冷静に床を転がる様に攻撃を避け、次から次へと続く攻撃を全てギリギリのところで避けていた。狙いが一気に彼に移った事を知ったグリスンは慌てて魔法で援護を放とうと考えるも、ギラムと相手の距離が近すぎてどうにも援護できない状態となってしまっていた。

『駄目だ、まるで歯が立たない……! 今までの奴らとは違うからこそ、もっと捻りのある一撃じゃねえと……!』

床の上を豪快に転がる様に避け続けていた彼は、軽く後方へ跳躍しつつ相手との距離を取り出した。そして一度攻撃の手が止んだのを確認すると、何か別の攻撃手段は無いかと考えだした。

しかし彼には空想と呼べる想像の資料が乏しく、今までどれだけの現実に身を寄せていたのかを思い知らされていた。元より本を読むことが少ない彼にとって、唯一最近手にした小説からのネタを拾おうにも先程から続く攻撃の嵐を避ける事で手一杯であり、冷静に検討する世暇すらも与えられていなかった。半ば八方塞がりとなりつつあった現状を打開すべく、彼は一息付きながら他の仲間達の動きに目を配った。


サインナ達は双方で相手の背後を取る形で動いており、何処か部位の弱い部分は無いかと検討している様にうかがえた。魔法の力を加えた驚異のスピードで戦うサインナに対し、ラクトは一撃が重くも素早い身のこなしで彼女の援護を担当している様にも見えた。だがガードを崩すにも少々手こずっている様にも視え、苦戦している事が理解できた。

変わってアリン達はスプリームが防御を担当し、彼に抱えられる形でアリンは通用する魔法が何かないかと放っている様にも見えた。やって来る攻撃を最小限かつ素早く寸前の所で彼は避けており、早すぎる攻撃を彼女が避けられない事をすでに理解している様にも思えた。しかし攻撃の手法は彼女の方が上手の様で、先ほどから見ている限りでも一重に同じと呼べる攻撃が無い事が彼には解るも、こちらも早々に片付ける事が困難である事が分った。

自他共に揃って劣勢に追い込まれている事を彼は理解すると、前方で代わりに攻撃を引き付けるグリスンの動きにも目を配った。彼は華麗にステップを踏む様に避けており、連続的に来る攻撃に至っては武器を手にしていない右手を地面について後方へと跳んでおり、ある程度の動きのキレがまだ残っている事が分かった。しかし戦況が続いてしまえばこの動きも鈍くなってしまうため、何とか打開出来る術は無いかと彼は再び考えだした。

『……落ち着け。今まで二人の創憎主を止めて来た時も、何かしらの打開策があったんだ。俺が魔法でフェイントをかけた時も、トレランス達が奇襲をかけてくれた時もそうだった……! 仲間の窮地を救う何かさえ気付ければ、何だって出来るはずだ!! 今まで何をしてきたんだ! 俺!!』

その後彼は走馬燈を視る勢いで記憶をたどり、相手にしてきた創憎主達の動きがどうだったかを思い出し始めた。


始めて出会った創憎主は自身と同じく武器を使う魔法を使用しており、彼と同じ性質の持ち主だったと考えられる。主体としていた剣を用いた攻撃の切れ味は自身が良く解っており、あの際に受けた切り傷を直すのに数日間かかったほどだ。お互いが動きと思考回路の読み合いだった事を、彼は今でも覚えていた。

次に対峙した創憎主は空間丸ごとを変えてしまっていたが、動きそのものは今回の創憎主と似た部分が幾つかあった。自身よりも周囲にある物を使った攻撃をしており、普段ではお目にかかれない撃ち出す勢いでやって来る楽器達が印象的だった。足場にしていた鍵盤から振り落されそうになった事もあるため、ある意味九死に一生の経験も出来たと言えよう。

そんな戦いを熟して来た自身が出来る別の魔法は何なのか、彼は考えていた時だった。

『……そうだ。まるっきり俺の空想でやる必要はないはずだ…… 今まで奴等が流してきた涙を無駄にしないためにも、ここで活用するべきじゃねえか……!』

そう思い立った彼はその場で息を整え眼を見開くと、右手でスナップを効かせる様に軽く振った。すると掌には普段の拳銃とは違うずっしりとした感覚が伝わり、手元には一本の剣が生成されていた。銃を生成する際によく使う手法で武器が出た事を確認すると、彼は両手で剣を逆さに持ちなおした直後、前方で相手を引き付けるグリスンに言い放った。

「グリスン! 一回下がれるか!?」

「ギラム!?」

「試してみたい攻撃があるんだ! 巻き込まれても知らねえぞ!!」

「わ、解ったぁあーー!!」

そう言った直後、グリスンは下がりつつあった体制から突如前へと跳躍しロボットの顔面に貼りつく様に跳びつくと、瞬時に相手の顔を蹴り後方宙返りをしながら宙へと飛び出した。軽く視界が揺らぐ感覚に陥ったのか相手の動きが少し鈍ると、ギラムはそのまま剣を地面に埋め込む勢いで振り下ろし、差し込んだ剣が地面を這うイメージを頭の中で描いた。

『頼む、突き出てくれ……!!』



「幾多の剣……!! 奴の足元から突き出ろ!!」

そして普段の魔法を放つようにパターンを描いた直後、彼は念を放つかの様に気合の含まれた言葉を叫んだ。すると彼の言葉に反応してか、相手の周囲の地面が一層強く煌めきが増し始め白い床の繋ぎ目が見えなくなった直後だった。



シャキンシャキンシャキンッ!!!


【ギギィイイーー!】

ロボットの足元から勢いよく何本もの剣刃が突き出し、ロボットの脚から胸部に掛けて鋭い攻撃が展開されだしたのだ。彼が始めて創憎主から受けた魔法そのものを模作した一撃であったが、単純に考えただけでも十分すぎる手ごたえをギラムは感じていた。

「やったか……?」



「んー ちょっと駄目かなぁー」


「何っ!?」

攻撃が見事に決まり先程とは違う奇声を上げたロボットであったが、それは束の間の事だった。相手の声が放たれるのと同時に剣達は色味が薄くなり始め、何故かその場から姿を消す様に消失してしまったのだ。これには驚きを隠せないギラムであったが、その直後に現場から避難したグリスンが彼の近くへと降り立ち、視線を動かさずにこう告げだした。

「ギラムの魔法で創った武器達は、ギラムの手元から離れると威力が弱くなっちゃう。生成系の武器の弱点がそこにあるんだ。 ……さっきのって、初めて戦った創憎主の攻撃だよね。」

「あぁ、良い発想だと思ったんだが……俺には使えない手法だったみたいだな。」



「ううん、対策さえとれば可能だよ。」

「対策?」

突如告げられた自身の弱点を理解し再び考えようとした時、相手の口から意外な言葉が返ってきた。何を言い出すのかと思ったギラムが相手の顔を視ようとした直後、視界に向かってくる影が映り、反射的に彼は両手で影を受け止めだした。

やって来たのは先ほどまでグリスンが手にしていた『ギター』であり、先ほどの剣よりも軽くしっかりとした感触が掌に伝わって来た。

「ギラムは手元にしっくりくる感触があれば、魔法の維持が出来るはずだよ。僕のギターを貸してあげるから、それを使ってもう一度放ってみて!」

「えっ……でも、グリスン。お前はどうするんだ?」

「大丈夫、武器ならもう一つ持ってるから。」

普段から使用していた武器を譲られたギラムは戸惑うも、相手は左程支障が無い様子で手元に別の武器を召還した。その場に出現したのは弓の形を描いた金色のハープであり、彼の所有するもう一つの武器である事を告げられた。

どうやらエリナス達は個々で武器を二つ所有している様であり、片方が使えなくなった時の予備として携帯している様だ。現に今置かれている状況が、まさにその時である。

「こっちだと接近戦に強くないから使わなかったんだけど、ギラムの手助けになるなら全然OKだしね。」

「……… 本当に良いんだな。俺、お前の大事なギターを使い方によっては壊すかもしれないんだぞ。」

「大丈夫、そんなの全然心配してないから。ギラムのやりたいようにやって。」

不意に貸し出された武器を手にしたまま彼は確認を取るも、グリスンは変わらない笑顔を浮かべたまま、武器を持ちやすい様に左手でしっかりと握りだした。見た目通りの遠距離攻撃を仕掛けやすい代物である事を彼は理解した後、相棒の手助けを無駄にしまいと、両手でギターのネック部分にあたる細長い部位をしっかりと握った。何時ぞやの彼が創憎主を殴り飛ばした際に取っていた持ち方であり、ギターのボディ部分に当たる部位を敵へと向けるのだった。

「……解った。じゃあ遠慮なく借りるぜ!!」

「うん!!」

こうしてお互いに体勢を立て直すと、二人は同時にその場を駆け出し左右へと別れ走り出した。




「虎のお兄さんから武器を借りた所で、君に何が出来るのかなぁ~ ロボットさーん。」

【ギヒヒヒヒ!!】

再び動き出したギラム達を視た創憎主は、再び玩具で遊ぶようにロボットへ対し指示を放った。奇声を上げながら再び攻撃を放とうとする相手へ対し、先に相手の右側へと辿り着いたグリスンが先制攻撃に出た。

「『メイル・ウリトール』!!」

普段と置かれている現状が多少違っているも、彼は右手で同じ音階を奏でる様に弦を撫でながら最後に弾き、前方に対し強力な風圧弾を発射した。凝縮された風の爆弾はそのまま相手の身体へと向かって行くと、触れた直後に強力な爆風を周囲に発生した。突風が瞬間的に周囲に吹き荒れ、彼等の来ていた衣服が大きく靡く程の破壊力を与えるのだった。

しかし攻撃そのものは対して効いていない様子で、相手の身体には傷一つ付いていなかった。

「風くらいじゃ倒れないよ、この子は。」

「ううん、コレで良いんだよ……! ギラム!!」

「?」

放った一撃へ対し無力化した事を悟ったその時、再び周囲の地面が煌めくのを相手は目視した。異変を覚え発生元を確認すると、そこにはロボットの左側へと移動したギラムが立っており、力を込めているのか半ば牙に成りつつあった犬歯が彼の口元から姿を見せていた。そんな彼の表情は先ほどとは違う余裕の笑みが浮かんでおり、彼は相手を睨みつけ武器を大きく左へと振り上げた。

「再度突き出せ……!! 幾多の剣!!!」



ジャキンジャキンジャキンッ!!!


「うわぁー…!」

言葉を放った直後に再び異変が生じ、ロボットの足元から先程よりも大きな剣が幾多も突き出す光景が映りだした。足元から胸元へと向かって伸びる剣の姿はまさに『強襲』であり、彼がとても鮮明的に覚えている手痛い一撃そのものであった。そして攻撃が落ち着くも剣が消えないのを目視した直後、彼は振り上げた武器を敵へと向け、こう叫んだ。

「そして双方から交差する様に……!! 奴の光沢を削ぎ落せ!!!」



ジャキンジャキン!!


煌めきを失わない床から先程とは違う剣が突如八本姿を見せると、角ばったロボットを覆う光沢を四方から削ぎ落す様に交差しだしたのだ。鋭く切れ味の良い剣がロボットのボディギリギリで突上がると、相手の周囲には粒子と化した光沢物が宙を舞った。相手の身体には削ぎ落したのであろう黒い表面が姿を見せており、攻撃へ対する驚異的な守備が損なわれた事が確認できた。

「今だ!! グリスン!!」

「旋律を奏で…… 波の形状でアイツの元へ……!!」



バッ!


「『音金の日の(おとがねのひのみやこ)』!」

間髪を入れない攻撃が続けて行われると、グリスンは音を奏でながらそう叫んだ。その瞬間、彼の周囲を取り巻く空間に変化が生じ出し、徐々に蜃気楼で揺らぐ様に彼の周りに黄金色に輝く光が幾多も出現し始めた。光はしばらく彼の周囲を漂う様に停滞していた時、彼が最後の音源を奏でた瞬間、突如金の矢と姿を変え敵へと一斉に攻撃を開始しだしたのだ。約三十センチはあるであろう幾多の矢は相手を逃がすまいと豪雨の如く襲い掛かり、相手の身体には幾多もの風穴が空き始めた。




バシュンバシュンバシュンバシュン……!!



【ギィイイイーーー!!】


防御の薄くなったボディに幾多もの攻撃を打ち込まれると、ロボットは奇声と共に煙を上げながら転倒し、その場で関節部位から次々と崩れ落ちて行った。先程のスプリーム達の様に起き上がる気配は無く、そのまま再び小さな玩具と成るのだった。

「よっしゃぁああ!! 打破出来だぜ!!」

「やった……!! ロボット壊せたぁあーー!! ギラム!!」



パシンッ!


確実に相手を仕留めた事を確認すると、二人は歓喜の声を上げながら駆け寄り、互いに右手を上げハイタッチしだしたた。手ごわい相手を倒せたことが余程嬉しかったのだろう、とても良い笑顔を両者は浮かべていた。

「……っしゃあぁ! 後二対も止めるぞ!! グリスン!!」

「うん!!」

三体の内一体の敵を沈めた彼等は、残り二体も仕留めるべくその場を駆けだすのだった。


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