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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第三話・憧れを求める造形体(あこがれをもとめる ゼルレスト)
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24 園児(ダイ)

「人払いしたのもあるが、こんなに静かな都市中央駅って言うのも珍しいな。」

「建物本来の美しさもありますが、人気が無いだけでこんなにも静寂に包まれるものなんですね。」

「それくらいでないと、創憎主との一戦を交えた後が大変よ。事後処理をするのは大体こっちなんだから。」

「前々回のも迷惑かけたと思うが、あの一件は大丈夫だったのか?」

「えぇ、それくらい何てことないわ。丁度近くに居たから、ある程度はね。」

「なるほどな。」

都市中央駅内へと入り、人払いを済ませた頃。ギラム達一行は構内に関係者が残っていない事を確認しつつ、創憎主が潜んでいるであろう場所を探して歩き回っていた。

積まれたレンガの色と敷き詰められた大理石の色以外が存在しない構内はとても静かであり、彼等の足音だけが周囲に響き渡っていた。天井近くに設けられたステンドグラスには月の光が静かに降り注ぎ、暗くも暖かな光がガラスを輝かせていた。しかし構内の照明器具が明るいため月の光は彼等には届かないまま、一同は怪しい場所が無いかと調べていた時だ。

「グリスン、怪しい気配がするのはどっちだ。」

「うん、さっきから強い方へ歩いてるよ。一番強いのは…… あの部屋かな。」

気配を頼りに歩いていたグリスンは問いかけに対しそう答えると、静かに右手を上げ構内の南側を指さした。彼が示した方角にはアーチ形に組まれた通路の入口があり、その先からは別の照明器具の光が明るく降り注いでいた。

遠くから見た限りでは何の部屋かは解らないが、ギラムにはその部屋に対し覚えがあった。

「あっちは確か……『車両基地』じゃなかったか? あんな場所から魔法を放たれたら、近くのビル街なんてひとたまりもないぞ。」

「えぇ、そうならないためにも早急に手を打たないとね。ラクト。」

「あぁ、解ってる。」

「ぁっ、ラクト。僕も行くよ。」

敵の潜んでいる場所を特定したサインナの指示を聞き、ラクトとグリスンは足音を立てない様気を付けながら通路の入口へと向かって行った。忍び足とは違う軽快な足取りで彼等は向かって行くも、走り方を少し工夫している様子でほぼ無音で移動を済ませ、壁際へと移動し奥の様子を伺いだした。

部屋の奥からの異常が感じられない事を確認した彼等が合図を送ると、ギラム達は再び歩き出した。しかし何もせずに向かう事は選ばず、スプリームからある提案が持ち出された。

「背後からの奇襲は考えにくいが、後ろも少し気を配っておくか。」

「あぁ、それに越したことは無いからな。アリンとサインナは、安心してラクト達の元へ向かってくれ。」

「あら、随分と頼もしい言葉ね。陸将の私でも、レディとして視てるのかしら?」

「部下であろうと陸将だろうと、俺は変わらずそう見てるつもりだ。戦場になるこんな場所で、言う言葉でもねえけどな。」

「フフッ、ごもっともね。」

その場に残った四人の内女性人を優先して向かわせる彼等の言葉に対し、サインナは少し口元に笑みを浮かべたまま歩き出した。

どうやら自分達が置かれた状況に対する配慮が嬉しかった様子で、足取りは軽くも浮かれすぎない様に彼女は歩きだした。低くも女性らしいヒールの付いたブーツで颯爽と歩く姿は凛としており、まさに孤高な女陸将とも言える立ち居振る舞いであった。そんな彼女へ配る言葉は幾つか限られる中でも、やって来た言葉は彼女にとって嬉しかったのだろう。

それ以上の表情を見せないまま向かって行くサインナを見送った後、残されたギラムはスプリームと共にアリンの隣を歩きながら声をかけだした。

「怖くないか、アリン。」

「……正直に言いますと、創憎主の方と相見(あいまみ)える際は常に恐れが付きまといます。私はギラムさんやサインナさんの様に小さいクローバーではないので、尚更手を打たれやすいと思う事が理由に含まれますね。」

「アリンのクローバーって……もしかして、その『日傘』か?」

「はい。スプリームさんとの契約の際に頂いた品で、紫外線を完全にカットしてくださる優れものです。武器としても扱えますが、手放してしまえば私は何も出来ません。」

「だからこそ先手を打たせない戦い方が必要になるんだが…… 恐らく、ギラムにはそれが出来るだろ。」

「『先手を打たせないやり方』か? ……つっても、相手を知ってからの検討がほとんどだから、そんなに早くは出来ないぞ。」

「否定しない辺りを視ると、それなりに自信がありそうだな。大丈夫、俺達はギラムの指示に従うつもりだ。先行した二人は解らないが、グリスンはもちろんだが、俺達には躊躇わず指示を出してほしい。」

「私も基本は自身で何とかしますが、それでもお手本となる動作は欲しいと思っていた所です。お手間をかけますが、是非お願いします。」

相手の緊張をほぐすかのように声をかけた後、彼等は簡単に作戦を立て、この後の戦いに対する動きを再確認した。幾つかの特徴や攻撃手段はある程度予測できたとしても、それが実践で役に立つかは解らない。幾度となく経験した戦いの記録を思い返す様に、ギラムは彼等にそう告げるのだった。

治安維持部隊の准士官として行動していた彼にとって、創憎主との戦い以外にも戦場とも言えるべき現場を目の当たりにしてきた。人的被害の大きい現場もあれば、行動が制限されるほどの過酷な自然状況の場にも居合わせてきた。サインナは自身の部下であったため心配は除外されるも、アリンは令嬢としての生活を送っており、戦いとは無縁の暮らしをしてきたのだ。それだけの配慮や指示が無ければ動けないと言われても、不思議ではない。

お互いが初めて行動を共にする今回の戦いで被害を出さない様、彼は二人に出来る限りの指示を出す事を約束するのだった。



そんな彼等がグリスン達の待つ通路の元へと到着すると、一同は再度奥を確認した後、一斉に入室し辺りの様子を見渡した。レンガ造りから一変して鉄骨が多い車両基地へと入室した彼等の元にやって来たのは、白く塗りつぶされた空間だった。幾つもの車両が線路の上で停泊する中、基地内に設置された照明からは明るい光が降り注ぎ、時間帯が夜であることを忘れてしまうほどの光の量であった。しかし彼等は怯むことなく歩を進め、入口から数メートル移動した、その時だった。




ガラガラガラガラ………!!


「!! 危ない!!」

「下がれ! アリン!!」

「お嬢、任せろ!!」

静寂が包み込んでいた彼等の元に、突如車輪が迫りくる音が彼等を襲った。音のした方角に目を向けると、そこには馬車用に使用される事の多い木製の大きな車輪が三つやって来る光景が目に映り、攻撃と認知したグリスン達は一斉に立ちはだかり、それぞれが車輪に対し行動を放った。

サインナの前に入り込んだラクトは両手で手にした斧で車輪を水平に切り込み、相手を氷漬けにしそのまま左廻し蹴りを放った。アリンの前へと回り込んだスプリームは手にしていたメイスを車輪が来るであろう足元に放ち、相手を打かせた瞬間に身体を後方へと逸らせ、月面宙返りをした勢いで対象を右足で蹴り上げた。ギラムの前に立ちふさがったグリスンは楽器を手にしたまま弦を弾き、瞬間的に周囲へと音波を放ち 動きが遅くなった隙を付いて車輪を武器で右へと打ち返した。

それぞれが無傷で一撃を防ぐと、ギラム達は周囲を見渡し相手の姿を探しだした。その時だ。



「あれぇー? 車輪でどっかやっちゃえると思ったのに、全部どっか行っちゃったぁー……」

「?」

彼等の元に聞き覚えの無い幼い声が飛びだし、彼等は声のした方角に視線を向けた。視線の先は天井に張られた鉄骨が交差した場所へと向けられ、天井を支える柱替わりとなっている鉄骨に駆けられた場に、一人の少年の姿があった。茶髪染みた髪の毛がショートボブにまとめられた幼い相手であり、園児と思われる水色のスモックを着用していた。

「あれが、今回の創憎主……? 子供じゃねえか。」

「子供だからって甘く視ない方が良いわ。創憎主の中で一番厄介なのが『幼少年』よ。大人は得た『知識』に基づいた魔法を放つけど、子供は全て『思いつき』で行動を魔法に変えるわ。ゆえに、魔法の力も私達より上と見ておいた方が良いのよ。」

「純粋で無垢な存在程、絶望に身を堕とした創憎主は何をやらかすか解らないって事なんだ。今回は、何時もより手ごわいかもしれないよ。ギラム。」

「なるほどな。 ………」

その場に居合わせた創憎主が普段よりも格上である事を警告されたギラムは、話を理解しつつも相手の事を見上げ静かに考えていた。

今まで見てきた創憎主は二人だけであったが、どちらも周りからやって来た状況とそれに対する原因によって暴れていたに等しい。始めは社会に対し反発した相手であり、その次は個性を認められなかった相手だった。今回相手にするであろう少年もまた、それだけの理由と原因があって今まで行動をしてきたに違いない。考えに基づき結論に近づいた彼は理由を知ろうと言葉を考えだした、そんな時だ。

「ねぇ、お兄さん達は何しにココに来たの? 今日はもう誰も居ないよー?」

「? ………悪いが、目的は車両でも駅員でもない。お前さんが、今回の騒動の元凶で間違いないか?」

「『げんきょう』って言うのは良く解らないけど……昨日やー昨日の昨日、昨日の昨日の昨日の事故とかだったら、僕がやったよー ……そっかぁ、それでココまで来たんだねぇ。」

突如相手側から声をかけられたギラムは、少し遅れながら返事を返し、他愛もない話をし始めた。普段よりも落ち着きのある様に感じられる相手であったため違和感を覚えるも、相手は確かに創憎主である事を認めており、今までにも何回も行動を行って来た事を得意げに話し出した。ある意味誇らしげに話す少年の表情は柔らかく、満面の笑みを浮かべていた。

『何だか緊張感に欠けるな……… 本当にコイツが創憎主なのか……?』



「お兄さん達『真憧士』なんだよね? ココへそういう人達が来るのって、今日が初めてじゃないんだー 僕、昨日までに三人はやっつけちゃったからねぇ~」

「ぇっ、今までに何人か来たのか?」

「うん、来たよー でも、僕がぜーんぶやっつけちゃった。車の事故とかよりも派手にやっちゃったから、何も無いんだけどねぇ。」

「……そう。ここの所何人か行方不明のリストは届いてたけど、原因は貴方だったのね。」

「きっとそうだよー えへへぇ、褒められちゃったっ」

照れと同時に少し危険な発言をする中、少年はノリノリでやって来た事を話しており、何処か誇らしげに思う部分がある様子を見せていた。相手が実際にやっている事は全て『犯罪』であり、幾ら幼いとはいえそのまま成長してしまえば間違いなく『犯罪者』と呼ばれる人種に成長しかねない。純粋で無垢な相手程危険だと言われる由縁は、恐らくそこにあるのだろう。

優しさの中で育った相手ほど情に流されやすく、世間の荒波から逃れて生きてきた人間ほど、世界に適用する事が難しい。全てが全てそうであるとは言えないが一般人であればあるほどその確率は高くなり、ましてや刺激の薄い相手だからこそ、大きな衝撃を与えてしまえばすぐに狂ってしまうのだ。継続的なストレスとは違う衝動から生まれる負の力は、誰もが創造する力量を大きく超えるのだ。

そんな相手の言葉を軽く聞いていると、ギラムの隣に立つサインナが彼に対し問いかけだした。

「ギラム、あんな子供でもやってる事は犯罪よ。それでも貴方は、あの子供を『殺さない』って言えるの?」

「……そうだな。確かにやってはいけない事を、アイツは平然と悪気も無くやっている。コレは確かに危険だし、外でそれを許したら人間は速攻で死んじまうだろうな。」

「そうよ、だから私達がアレを始末しないといけないの。野放しに何て出来ないし、悠長なことも出来ないわ。」



「……それでも、俺が『殺さない』って言ったら。サインナは幻滅するか?」



「幻滅? ……まさか、するはずがないわ。貴方なら言っても不思議だなんて一切思わないし、むしろ貫き通した意志に賞賛するくらいよ。」

「そうか、なら安心したぜ。」

問いかけに対し彼はそう答えると、お互いに何度か意見を交わし合い、了承した様子で再び相手の事を見上げだした。相手の動きに対応できる様見張っていたグリスン達の視線を集める中、ギラムは相手に対し声をかけた。

「なぁ、少年。」

「なーにー?」

「お前さ、一人でこんな時間にこんな所に居てもつまんねえんじゃねえか? 家には帰らないのか?」

「僕には家が無いからねぇ、ココでずぅーっと遊んでる事にしたんだぁ~ ココは良いよー いっつも人が来るし、いっつも電車がココから出発するから、見てて楽しいもん。」

「家が無いって、追い出されたのか?」

「ううんー 僕の家は始めっから無くて、一緒に暮らしてた『先生』も死んじゃったからぁ……良いのっ 僕は先生以外の大人は信用出来ないし、信じたくもないからね。」

「先生……?」

普通であれば出歩く事すら危険な事を悟らせる様に声をかけるも、相手は住処に戻る気を見せなかった。むしろ外に居る事を楽しんでいる様子さえも見られ、創憎主になってからどれだけの時間が過ぎたのかさえ分からない状況だった。

それゆえに、気になる単語を放った際には一同を驚かせる力を備えていた。

「先生はいっつも優しくて、僕が幼稚園に行った時は毎日お弁当の時に隣に座ってくれたんだー ……でー、大好きなウインナーとかが出た時は、先生が何時もくれたんだー」

「……恐らく、保育士の方ですね。事故とかで亡くなったのでしょうか……?」

「言い方からすると、それは違う気がするな。多分だが」


「『自殺』だな。」


「……そう、良い死に方では無かったんだろうな。無垢な奴が絶望するくらい、酷い死にざまだったに違いない。」

「それはそれで、ゾッとしないな。」

相手の話を聞きながら推測し、彼の言う大好きな相手はすでにこの世界に居ない事を彼等は知った。身寄りのない彼を支えていた唯一の存在を失い、自身の孤独を忘れるために今の場へとやって来た事。何処か寂しくも悲しい思い出を聞くたびに、彼等の心は静かに重みを生じ出した。

「……そんな先生のために、お前は今何をしてるんだ?」

「僕はねー……先生をいっつも叱ってる、あのジジィが嫌いだったんだ。先生がやってくれる事にいっつも怒って、そしていっつも先生は頭を下げてた。大好きな先生が僕を護るために匿ってくれた時も、そうだった……」

「………」

「先生は何時も僕に笑いかけてくれたけど、初めて見た時から段々と元気がなくって……何時か幼稚園にも来なくなっちゃった。そしたらあのジジィが嬉しそうにピョンピョン跳ねだして、僕は全然楽しくなかった。だから先生の所に会いに行ったの。そしたら………先生。」





「お家で僕を迎え入れてくれて、また楽しい時間が始まったんだー」



「えっ、始まっちゃうの!? 今の流れだと、ヤバそうだったのに……」

「わ、私も一瞬ドキドキしちゃいました……… 聞きたくない様な展開が来そうだったので、つい……」

「ま、まぁそうだよな……… 俺も不安だった。」

「何口車に乗せられてるの、相手はガキよ?」

「ガキじゃないもーんっ お姉さん、そんな事言うから『まな板』なんだよー」

「んなっ……!!」

しかし次の瞬間には空気が一変し、悲しい雰囲気は楽しい思い出へと塗り替えられた。身構える程の重い話からの事に動揺を隠せない一同であったが、サインナだけは動じなかった様子で周りに注意を促していた時。彼女にとって聞き捨てならない単語が吐き出された。

「だ、誰がまな板ですって!? 降りてらっしゃい!!」

「やーだもーんっ お姉さんはみーんな優しいのに、緑髪のお姉さんはいう事怖いんだもん。だから身体に出ちゃうんだよー」

「……キィーーッ!! ヒ……ト……が、気にしてる事をっ……!! なおりなさい!! 喝を入れてやるわっ!!」

「落ち着けサインナ!! 口車だぞ!!」

言葉を耳にしたサインナは一気に血の気が上がった様子で、何処からともなくハリセンを持ち出し、少年に殴り掛かる勢いで暴れ出した。普段の容姿からは想像が出来ない程に豹変した彼女を視たギラムは慌てて彼女を羽交い締めするも、力強い彼の腕を振り切らんばかりに両手足をばたつかせた。しかし体格差もあるため実際に動く事は出来ずに居たが、状況が続けばあっという間にすり抜けて一撃をお見舞いしても不思議ではなかった。

「離してギラム!! 喝を入れないと気が済まないっ!! 人の努力を無下にする様な発言何て、私が許さないわ!!」

「その気持ちは買ってやるから!! ラクト! サインナ落ち着かせてくれ!!」

「……悪いが、あの発言に対しては口出しできない。俺が痛い目を見る。」

「お前等なんでコンビ組んでるんだ!?」

「サ、サインナさん……! 落ち着いてください!」

「貴女なんかに解ってたまるもんですかっ!! まな板まな板って言われる女の悔しさや、同じ胸の女達にしか解らないんだからぁああーーー!!」

それからしばらくの間苦痛の叫びをあげるサインナに対し、一同は慌てて冷静さを保てるようフォローを開始しだした。しかし例え話であっても改善策であっても、中々収まる事を知らない怒りの炎は早々に消える事は無かった。

そんな彼女に対し説得する事、約十分が経過した頃。ようやく落ち着きを取り戻したサインナは彼の腕から離れると、咳払いをし取り乱したことを静かに詫びだすのだった。


ちなみに何で落ち着いたかは、あえて省略しておこう。

「へへぇ、やっぱり大人達ってこういうのに弱いよねぇー こういうのって『ちょうはつ』って言うんだよね? 確か。」

「クッ……大人を馬鹿にするなんて、本当にろくでもない子供だわ。」

『完全に痛い所を突かれたって顔してるな…… そんなに胸、気にしてたのか………』



「大人はみーんなそうだから、それで僕がちょちょいっとやっちゃって、いっつも終わってたからつまらなかったんだー まな板のお姉さんは簡単そうだけど―…… 金髪のお兄さんとお姉さんは、ちょっと大変そうかなー 特にそっちのお兄さん。」

「? 俺か……?」

「お兄さん怖い顔してるから、何か凄い顔で来られたら怖いな―って思っちゃうんだよねぇー 子供、逃げない?」

「ッ…… ……あぁ、そうだよ。十人中ほぼ十人が逃げるぜ。」

「やっぱりぃー 大変だねぇ、僕等みたいな子達が懐かないのって。」

「まあな。 ……だが、逃げなかった奴も居るぜ。」

「? 居たのー?」

「あぁ、そこにな。」

完全に馬鹿にされてしまった事を理解していると、不意に少年は矛先を彼女からギラムへと変更しだした。無論彼に対しても容赦ない言動を放ち出すと、前々から気にしていた事を言われた彼は表情を一瞬暗くしつつ肯定しだした。だがその雰囲気は束の間であり、次の瞬間にはいつもの彼の表情が戻っていた。

彼の言葉の先に立っていた相手、それがグリスンだった。

「ぇっ、それって僕の事……? 僕子供じゃないよ??」

「俺から見れば年下、つまりは『子供』って意味だ。年下で俺を恐れずに来たのは、グリスンだけだ。アリンもサインナも俺を慕ってくれてるから、それで十分だぜ。」

「ふーん、そうなんだぁー 外じゃそれ以外にい―っぱい居るのに、大変じゃないの?」

「あぁ、平気さ。それだけの相手が居れば、俺は何時だって前を向いていられるってわけだからな。」

「………」

何時しか口車は無駄となって散り、彼は言葉に負けず自身を認めたうえで反論を返すのだった。弱い所も強い所も認めたうえで、何時でも前向きになって立ち向かっていきたい。そんな彼らしい生き方から出た言葉ゆえに、どんな些細な事でも希望に変わる様だった。

「さすがギラムね、そう言う所が他の漢と違う部分よ。見直しちゃうわ。」

「フフッ、ギラムさんらしいお言葉ですね。尊敬します。」

「ありがとさん、二人共。」

「……何か僕、便利に使われてる様な気がするんだけど…… 気のせい?」

「恐らく気のせいだろ。」

「あぁ、そう思っておけ。」

「う、うん………」



「……やーっぱ難しそー もういいやっ 皆片付けちゃえーっ!」

「! 来るぞ!!」

挑発に失敗した事を悟った相手はそう言うと、面倒になった様子でそう叫び両手を高らかに掲げだした。相手が動きを見せた事を知ったギラム達は一斉に体制を整え、瞬時に動けるよう視線を敵である少年に向けだした。そして次の瞬間には、少年の手から放たれたおもちゃが宙を舞いだした。



「くるまーーブーブー! 行っちゃえーーっ!!」



そう言い投げ放たのはミニカーであり、おもちゃ達は宙を舞いながら地面にたどり着いた瞬間、変化が生じ出した。つい先ほどまで手のひらサイズだった車達は突如二メートル以上の巨体へと変形し、本物と変わらない大音量のクラクションを鳴らしながら彼等に向かって突っ込みだしたのだ。見かねたグリスンは瞬時に右手を弦に沿え、ステップを踏みながら旋律を奏で叫んだ。


「『ナグド・ウリトール』!!」


迫りくる車体をもろともせずに彼は魔法を放つと、器用にその場でビハインドターンのステップを踏み続けた。すると車体は彼に触れる瞬間に創憎主の居る場へと弾き飛ばされ鉄骨に衝突し、次々に効力を失い元のミニカーへと姿を戻して行くのだった。

「反射魔法って奴かなぁー じゃあ、これならどうかなぁー……!?」

そう言いだした相手は次に取り出したのは、車道が描かれた数枚のレールパーツと赤いデコレーショントラックだった。手にしたおもちゃ達をばら撒きながら彼等に挑発すると、再び投げたおもちゃ達は姿を変え、レールがまとわりつくトラックが形作られだした。先程のミニカー同様に大音量のクラクションを鳴らしながら警告を放つと、突如荷台が開き、中からレールが飛び出し彼等に向かって襲い掛かった。

「フフッ、それくらいじゃやられなくてよ!! はぁああっ!!」

敵の動きを視たサインナは再び手元にハリセンを生成すると、迫りくる攻撃を全て武器で弾き、隙を見てトラック目がけて強襲をかけだした。彼女の動きを視たラクトも遅れを取るまいと後に続き、前方で攻撃をはじく彼女に後方への合図をした。

「お嬢、何時でも来い!!」

「了解よラクト! 援護を頼むわ!!」

彼からの合図を受けた彼女はその場から後方へ軽く跳躍し、ラクトの鍛え上げられた二の腕の上へと飛び乗った。すると次の瞬間、ラクトは腕を振り上げ彼女を打ち上げると、徐々に巨大化して行くハリセンを両手で持ち、トラックの頭上目がけて一気に武器を振り下ろした。

「覚悟なさい!! 一喝してあげるわ!!」



スッパァーンッ!!


爽快な一撃が車両上部に命中すると、トラックは窪む勢いで一撃を受け、次の瞬間にはフロントガラスが大破しだしたのだ。そしてバンパーから吹き上がる煙と共に徐々に小さくなりだし、次の瞬間には元のおもちゃとなってしまうのだった。

「フフッ、口ほどにもないわね。さっきまでの威勢はどうしたのかしら?」

「……なーんだ、つまんないの。やっぱり車は駄目だねぇ~ 馬鹿な大人にしか通用しないやぁ。」

「今回相手にする相手の力量を誤ったって思いたいのなら、今のうちにそう思っておくのね。私よりも手ごわい真憧士が、貴方の事を止めに行くわ。」

「止め……る?」

「こんな犯罪紛いな行動、治安維持部隊も含め私達が許さないわ。今すぐ降伏なさい。さもなくば、全力で行くわよ!!」

「……… じゃあ、そうさせてもらおーっと……」

そう言った相手は背後に振り返ると、何かを取り出すかのように手荷物を漁りだした。先程まで扱っていたおもちゃが入っていたのであろうバックを開けており、中からとっておきと思われる品が持ち出された。


「ねぇ、知ってる? 壊れたおもちゃって憎しみと恨みでいっぱいの行動しか出来なくて、完成品を壊したがるんだって………






 お兄さん達、壊れちゃいなよ。」


そう言って相手の手から放たれたのは、壊れかけた三体のロボット人形だった。


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