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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第三話・憧れを求める造形体(あこがれをもとめる ゼルレスト)
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15 類似(るいじ)

ピニオとの遭遇後、ギラムは一人混乱する頭を落ち着かせながら一度バイクを停めた駐輪場へと戻り、帰路へと付くべく二輪車を走らせた。先程のやりとりが嘘のような日常風景が周りには広がっており、彼は時間旅行でもしてきたかの様な感覚に陥っていた。


突然の遭遇に、突然の成り立ちを説明された、突然の出来事。


まだまだ知らない世界が広がっている事を思い知らされるかの様に、彼は帰宅した。いつも通りすれ違う人々に挨拶を交わしながら、自室へと通ずる扉へとやってくると、慣れた手付きで鍵を解除し中へと入った。




ウィーンッ……


「……ぁっ、帰って来た。お帰りギラムー」

「キュキュー」

家主が帰宅した事を知った同居人達が出迎えの挨拶をするも、彼等はその後に返って来るであろう言葉が来ない事に気が付いた。キッチンに立っていたグリスンは不審に思い振り返ると、定位置にバイクの鍵を戻すも、そのまま寝室へと向かって行くギラムの姿が目に移った。通り過ぎる相手の顔色を視ると、眉間にしわが寄っていた。

『考え事……かな……?』



「キュー……」

「? 大丈夫だよフィルスター ギラムもお仕事で大変なんだよ、きっと。」

「…… キュッ」

「うん、大丈夫。後で一緒に、話を聞いてみよう。」

そんなギラムを視かけた二人はそっとしておこうと思い、グリスンは手を止めていた作業を再開しだした。彼の近くへと移動したフィルスターも静かに腰を下ろし、目の前で調理するグリスンを視つつも、ギラムの向かって行った寝室を気にするのであった。




「………」

一方その頃、一人寝室へと向かって行ったギラムは荷物をベットのそばに置き、そのまま仰向けになり天井を見上げていた。自身が目覚める際に良く視る天井がそこには映っており、自室もまた何も変わらない場所なのだと彼は理解していた。そんな部屋の中で先程のやり取りを思い返し、彼は一体何だったのだろうかと彼は考えだした。



【お前から創られた、造形体(ゼルレスト)だ。】



『俺から創られたって言ってたが……… アイツ、何のためにリーヴァリィで行動してたんだ………?』

ピニオと名乗る造形体と出会った事も驚いていたが、ギラムは相手の登場により一つの確証を得る事が出来ていた。


今朝から周りに妙な影響を与えていた張本人が誰なのかと言う事であり、恐らくだが全てピニオの影響だったのだろうと彼は推測した。自身が初めて目にした時の印象は今でも鮮明に覚えている為、他の人達が彼を見て区別が付かないと言われても納得が行く。まるで鏡に映った自分を、そのまま現実に連れて来たかのような感覚さえ覚えるほど、彼は自身にとても良く似ていたのだ。

印象的な金髪をオールバックに上げた髪形、前職の経歴が反映されたかのような肉体、見た目だけで恐れられがちな強面な顔付。どれをとってもそっくりであり、仮に双子だと周りに告げても違和感すら与えないくらいの繁栄ぶりだった。しかし唯一違っていたのは『目元の痣』であり、ギラムは右目付近に紅色の痣があるのに対し、ピニオは左目付近に刺青として似た形の文様が刻まれていた。

完全に似ている様でそうでない彼は、一体何のために創られたのだろうか。そして彼の傍に立っていた創り手と名乗るエリナスは、一体何者だったのだろうか。



様々な疑問が浮かび上がる中、ギラムは身体を起こしてベランダへと向かい、背を柵に預けながら空を見上げた。気付けば太陽は沈み始めており、段々と青い空は橙色へと変化しつつあった。

『………遺伝子を使わないで、同じ相手を造り出す技術…… やっぱり解らない事だらけだな、クーオリアスって所は……… グリスンが全部理解出来ていないって言っても、納得がいくぜ。理論が追い付いて無いからな、俺等の所じゃ。』

偶然とはいえ出会った相手の経緯を少し思い浮かべた彼は、ふと相棒の顔が浮かび苦笑しだした。


何も解っていないのは自分だけじゃなく、自分と行動を共にしたいと言った相棒も同じである事。そして一人で考え込む必要は、初めから無いのではないか。


ついやってしまいがちな己の弱点を改めて思い知らされ、彼は反省しながら視線を下した。するとそこには、夕暮れに変わりつつある空の色に似た黄色の体毛に包まれた虎獣人と、新緑の様な緑色の幼龍が姿を現した。

「どうしたの、ギラム。苦悩してるかと思ったら、笑ってるよ?」

「キュキュッ」

「あぁ、対した事じゃないんだ。 ……いや、それなりに驚ける事実には変わりないんだが……言い方に迷うな。」

「?」

不意に帰宅時とは違う表情を見せた家主を心配するも、ギラムはいつも通りの返事をしていた。しかし何処か不確定要素が含まれている様子で返事に迷っていると、グリスンは首を傾げながら移動し、彼の隣で身体を柵に預けだした。同様にフィルスターも柵の上に腰を下ろし、相手を見上げる様に首を動かした。

「……なぁ、グリスン。」

「何、ギラム。」

「お前の世界の技術改新っつーか…… 機械のレベルって、どんなもんなんだ?」

「どうって?」

「んー…… 例えばだが、この都市内には至る所に『セキュリティ』が絡んだ機器がたくさんあるだろ。グリスンからしたら、この機械は普通なのか珍しいのか、どっちなのかを聞いてみたかったんだ。」

「なるほどね。僕達エリナスからしたら、ギラム達の世界の機械って案外シンプルな構造だなーって、思ってたよ。」

「えっ、シンプルなのか? 巧妙じゃなくて。」

「うん。僕達の所だと『純石』と『機械』を双方融合した感じの物を使ってるよ。……って言っても、基本的にそれがあるのは『ヴェナスシャトー』って呼ばれてる『城塞地域』周辺だから、何処の地域にもあるってわけじゃないんだ。僕の家にも無いしね。」

「そうなると、電子端末や映像機器や何かはほとんど無いのか。」

「そうだよ、テレビ局とかも無いしね。 ……ぁっ、でもラジオは流れてるよ。情報を回収するにしても、僕達は自分達で探しに行った方が早いからね。」

「あぁー…… 言われてみればそうだな………」

そんな彼に先程抱いた疑問をぶつけると、予想とは違う返答にギラムは驚いていた。


自分達の世界の技術は革新し、セキュリティに特化した技術力が進歩していると彼は考えていた。クラスメントを始めとした大型機械を始め、アーフナムの様な小型の機械まで幅広い技術力がリーヴァリィでは進んでいる。特に彼が愛用しているセンスミントは『通信機』としても『金子のやりとり』としても利用できる代物であり、立体的に投影される画面の技術力はとても凄いモノだと考えていた。しかし実際にはそうではない事を知ると、やはりグリスンの居る世界はどんなものなのだろうかと、彼は考えざる得なかった。


異世界とは魅惑と不思議が詰まった舞台である。

「……じゃあさ、グリスン達の世界で人間(リアナス)の創造に着手してる奴って、普通に居るのか?」

「リアナスの創造? ううん、それって普通じゃないと思うよ。僕達には出来ない事だもん。」

「そうなのか?」

「存在を創る事が出来るのは『神』と呼ばれる存在だけ。リアナスでもエリナスでもない存在だよ。」

「神って……… あの神か?」

「うん、あの神様。僕達は『メルキュリーク』って呼んでるけどね。」

「メルキュリーク………」

そんな世界観にギラムは驚かされるも、次に告げられた言葉は先ほどとは違う意味合いで驚いていた。


半ばなんでも出来てしまいそうな異世界には出来ない事が存在し、またそれは彼の問いかけとは反するモノであることが判明した。彼等の世界には自分達の知る存在とは少し違った相手が存在し、また彼等には行ってはいけない決まりごとがある様だ。信仰の様なモノがあるのだろうかと彼は軽く質問するも、どうやら彼はそういったモノには関係していない事をグリスンは教えてくれた。

「……でも、どうして急にそんな事聞いたの? それっぽいヒトにでも、会ったの?」

「あ、あぁ……… 俺を元にして創ったらしいんだが、瓜二つでな……」



「えぇっ! それって凄いね!!」



「え?」

そして何時しか話は進んでいくと、ギラムの発言にグリスンは思いもよらない反応を見せだした。相手の言葉を耳にした彼は視線を向けると、そこには瞳をキラキラと輝かせながら話に食いつく虎獣人の姿があった。獲物を見つけた時とは違う、とても美味な感覚にありつけるときに見せそうな、潤いに満ちた眼であった。

「だってギラムが二人なんでしょ!? 根本的な理論とかは全然解らないけど、きっととっても頼もしい相手だよね!? ……視た事ないけど。」

「あのなぁ……そこまで面白いモノでも無かったんだからな? 兄弟の居ない俺の前に、いきなり俺が現れるんだ。逆に寒気すら覚えたぜ……」

「そうかなぁ……… とても凄いと思うんだけど……」

「いや、確かに似過ぎてて凄かったがな…… そっちじゃない。」

「あぁ、そっか。」

驚きと期待に満ちた眼の理由を告げられるも、彼は軽く呆れながら自身が感じた感覚を伝えた。どうしてそこまでの反応が見せられるのかは中々に謎だが、どうやらグリスンは純粋に感動していた様だ。

自身が守りたいと願った憧れと同じ存在が現れ、全くと言って良いほどに似ていた容姿の持ち主。第三者目線で言ってしまえば『面白い話』になってしまいそうではあるが、純粋に『頼れる相手』とも認識出来る様だ。ギラム自身からすれば『存在しないはずの相手』と出会う事になる為、半ばオカルトな話に過ぎない。


寒気以前に身の毛がよだつ感覚であっただろう。

「……だが、そしたらどうやってアイツは俺を創る事が出来たんだ……? 神しか創れないはずだろ?」

「う、うん…… 僕もそんな技術があるなんて話は聞いた事が無かったから、凄い初耳だよ。 ……でも、僕達の所は信仰に熱い人達ばかりだから、そんなタブー何て起こるはずないんだけどなぁ……」

「信仰に熱い? じゃあ、宗教団体みたいな奴らも居るってわけか。」

「うん。僕はそういうのと縁が無いから解らないけど、結構凄いみたいだよ。 ……って言っても、勧誘行動はないけどね。あくまで僕達の神を崇めて、生きるための支えにしてるだけだから。勧誘をしたら、即火炙り……だったかな?」

「勧誘が無いのは穏やかだが、処罰っていうのは恐ろしいな……… 即死刑か。」

「大罪だからね。均衡を守るためにしてるみたい。」

そして再び告げられた話に彼は身震いするも、グリスンにとっても知らない出来事と遭遇したのだろうと彼は改めて実感した。

誰もが出来ないとされる『創造』に着手した相手が存在し、またその相手が自身を創り何かを企んでいるという事。善か悪かさえも解らないままに創られた彼は、一体何を思ってこの世界で行動しようと思っているのか。自分にとって、あの相手はどういう風にこれから見て行けば良いのだろうか。

様々な疑問が解を出す時間さえも与えず、徐々に彼の頭の中は疑問で一杯になった、その時だった。



「……ま、考えても仕方ねえか。夕飯出来たんだろ? 食べようぜ。」

「う、うん。 ……でも、良いの? その人を放っておいて。」

「解らない事で考え込むくらいなら、気分転換でもしてから考えるべきだろ? それに、アイツは言ってたからな。俺にとって『害のある存在では無い』ってな。俺はその言葉を信じるぜ。」

「……… 僕が言うと変だけど、ギラムって本当にお人良しだね。さっきまで疑惑で一杯だった相手なのに、すんなり信じちゃうんだからさ。」

「信じないで疑い続けるよりも、信じて裏切られた方が俺はいいんだ。その方が、絶対に良いって思ってるからな。」

「そっか。」

彼は考えていた疑問を一度忘れようと話題を切り替え、気持ちを切り替えるかのように食事をとろうと提案した。突発的な方向転換に驚くグリスンであったが、彼の発想には共感できる部分があった様子で、そのように考えようと話題を終えた。そして二人は軽く笑いあった後、異世界設定をスッキリ忘れてしまうのだった。

「キューッ」

「あぁ、悪い悪い。腹減ったよな。グリスン、飯にしてくれ。」

「はーい。」

その後二人はフィルスターに催促されるがままにキッチンへと向かい、グリスンが用意した夕食を食べ始めた。今夜の献立は『クリームシチュー』であり、以前購入した『バケット』を切り分け、皆は仲良く食事をとるのだった。




「………」

そんな彼等の様子を、借家の庭外から伺う一人の影が静かに映った。その場に立っていたのはピニオであり、三人がその場から去った事を悟り、静かに空を見上げた。黄昏時に移行する空色は何処か切なくも、自身の髪色に似た輝きを放っていた。

「………誰でも信じるお人良し……か……」

静かに耳にした言葉を呟くと、彼は静かにその場から去って行った。


おはようございます、ナツキです。

普段の更新時間から少し遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

また来週も更新しますので、どうぞお楽しみに

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