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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第三話・憧れを求める造形体(あこがれをもとめる ゼルレスト)
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12 他人空似(たにんのそらに)

その後食事を終えたギラム達は会計を済ませ、外へと出てきた。

日差しの降り注ぐ街中は立ち並ぶ建物によって様々な色合いを放っており、自然の色から人工物の色まで多種多様の輝きを見せていた。

ガラスに反射した日差しは中々に眩しいが、歩道沿いの至る所に植えられた街路樹がその光を遮る事もあり、初夏を過ぎた今では心地よい日影が出来上がっているのであった。



そんな街中を慣れた足取りで二人は歩き、行きと同じ道のりで横断歩道を渡り、自宅へと目指そうとしていた。

すると、目の前の道路に普段はあまり視かけない迷彩色の車が停車している事に彼は気が付いた。

さらには車の周辺には人だかりが出来ており、何かが起こった事を予感させる景色が広がっていた。


「……あれ、何でこんなところに治安維持部隊の荷台車が止まってるんだ……?」

「ギラムの前の職場の所だよね、あの車。」

「あぁ。 ……って事は、何かあったのか。」


平穏とは程遠いはずの前職の所有物を発見し、彼は交通規制が行われている車道へと入り込んだ。

どうやら大通りからこの道を封鎖している様子で、現在道路を走る車は一台も無く、停車している迷彩柄の車以外は車の姿が見られなかった。



野次馬を掻い潜り隊員達が壁を作る場所に近づくと、彼はその場で立ち止まり中の様子を伺った。

そこには親子と思われる女性と子供に事情を聴く隊員の姿と、その場で指揮を取る隊長と思わしき女性の姿があった。

目の前の現場を仕切っていた馴染みのある顔がそこにあり、彼の知る仕事風景が広がっていた。


「B班はこのまま、現場の異常が無いかを再度確認なさい。C班とD班は引き続き現場周辺の都民に迷惑が掛からない様、道路の整備を。」

「ハッ!」

『今回の監督はサインナだったのか。相変わらず指示の速度が迅速だな。』



「……? あら、ギラム元准尉じゃない。」


そんな仕事風景を見守っていると、彼の視線に気づいたのかサインナは顔を上げ、彼の元へと近づいて来た。

その後近くの隊員に顔馴染みであることを告げ、中へと招き入れた。

こういった前職の場に顔パスが聞くのも、彼の経歴による賜物と言えよう。


「ご苦労さん、サインナ。何かあったのか。」

「つい先ほどだけど、ココに大通りから信号無視して走って来た車が突っ込んできたって、連絡を受けてきたの。それだけならまだ良かったんだけど、運悪く道路を横断しようとしていた親子が居たらしくてね。」

「! まさか追突したのか……!?」

「いいえ、そうじゃなかったわ。アレをご覧になって。」

「?」


何が起こったのか軽く説明を受けると、彼女は静かに人差し指を軽く上げ、事実と解釈が少し違う事を教えてくれた。


彼女が指さした方角には被害に遭った親子の姿があり、二人は不運に遭遇するも幸運か、何の異常も無い様子でピンピンしていた。

目立った外相も特に無く、隊員の事情聴取に対しては落ち着いた様子で話をしている様にも見受けられた。

とても暴走車に遭遇したとは思えない反応である。


「母親の話だと、どうやら間一髪で通り掛かりの『青年』に助けられたらしいのよ。道路にはブレーキの形跡も無かったから、減速する間もなく救助が入ったってわけ。普通に考えて、凄い脚力よ。」

「だろうな。減速しないで突っ込んできたって事は、平然と70キロか80キロは出してただろうからな。」

「親子二人を抱えて跳躍し二人を歩道に置いた後、青年はそのまま車の走って行った方角に走り去って行ったそうよ。あまり深追いして欲しくは無いから、A班をそっちに向かわせたのだけれど……」

「連絡なしってわけか。」

「本当、隊員じゃない市民が力を発揮して、何故私達『治安維持部隊』が遅れを取らなければならないのかしら。まだまだ教育が甘かったわね。」

「手厳しいな。」


そんな被害者からの話を告げられた彼も現場をシュミレートし、どういった現場が広がっていたのかを理解していた。

平穏な都内で起こった事件は一歩間違えれば死人が出るレベルのものであり、どういった理由があっても逃れられる罪ではない。

判断を下すのが別の人々の役目とは言え、彼女は犯人の確保に全力を注いだそうだ。

しかし現場はそう甘くは無い事実と結果しか出ていない様である。


だが普通に考えれば、親子を救助した青年の行動は中々に英雄染みた働きぶりだ。

一般都民が行おうと思っても出来るものでは無く、猛スピードで突進する車よりも早く動かなければ助けられないレベルの事故である。

読者の方々は、くれぐれも双方の真似をしない様お願いします。


「……とはいえ、少し気にかかる事があるのよね。」

「気にかかる事?」

「親子を助けた青年の事よ。どうも二人を助けた青年は、母親の話だと『背丈がずっと高くて、金髪の男性』だったらしいの。」

「背丈が高くて、金髪………」

「………」



「……ん、何だ?」

「私はそれなりにこの街に出入りをしてる方だから、名前は解らなくとも外見は覚えてるつもりよ。 ……でも、先程の条件に貴方以外に当てはまる相手なんて見た事ないわ。ギラム元准尉、もしかして貴方が手助けしたのかしら。」

「いや、俺はさっきまで喫茶店でランチをしてたから。俺じゃないぜ。」

「そうよね。むしろ貴方だったら、そんな深追いはしないでしょうから……… ……いいえ、するわね。」

「おいおい、信じてくれよ。」

「あら御免なさい、少し疑ってしまったわ。」


軽く冗談染みた報告を受けた彼は苦笑いしたまま返事をし、彼女からの報告を聞き終えた。

気晴らしが出来た様子の彼女の口元には笑みが浮かんでおり、ルージュの魅かれた美しい曲線を見せるのだった。


「一応こんな感じの事があったって報告、小耳に入れておいて頂戴。何か依頼が回せそうだったら、改めて連絡するわ。」

「あぁ、了解。頑張れよ。」

「ありがとう、ギラム。」


その後再び仕事へと戻る彼女を見送ると、彼はその場で行動する隊員達に挨拶をし、野次馬の残る壁を掻い潜って外へと出て行った。

そこにはグリスンと柵に腰かけるフィルスターの姿もあり、二人で彼の帰りを待っていたようだった。


「お帰り。どうだった?」

「対した事故にはならずに済んだらしい。特にやる事はないぜ。」

「そっか、なら良かった。」

「キュッ」


合流したグリスンからの挨拶を受けながら、ギラムはフィルスターを肩に乗せ歩き始めた。

野次馬の集る場を通らない住宅街の道を歩き、彼等は再び自宅へと向かって歩を進めだした。



先程とは変わらない日差しが下りるも、こちらは住宅によって出来た影が心地よい空間だ。

何処からともなく香って来る花の香りが、二人と一匹の鼻孔を擽っていた。


「でも凄い偶然だね。ギラムと同じ容姿の人が助けたなんて。」

「本当だな。サインナには悪いが、他の場所から来てた奴が偶然助けたって事も考えられる。俺との関係性は無いさ。」

「そうだね。 ……でも、僕も見て視たかったなー ギラムじゃないギラムに似た人が、現場で親子を助ける瞬間。」

「キューッ」

「俺と似てるなんて、まだ決まったわけじゃないだろ? 当たってるのは『背丈』と『金髪』ってだけだからな。髪形までは言ってなかったぜ。」

「髪形まで一緒だったら、完全にギラムと間違われてもおかしくないよね。ギラムの髪形って、この街の人って誰も真似してないし。」

「俺的にはこの髪形が楽だからな。バイクで髪が靡いても変わらないし、朝の髪形の調整も楽だ。」

「あれ。ギラムの髪って『整髪剤』とか使ってないの?」

「ワックスは付けてないぜ。整えるための『スプレー』くらいだ。」

「へぇー」


事故とは無縁の平和な道のりを歩む彼等は、他愛もない話をしながら楽しく歩いていた。

肩に乗るフィルスターも理解しているのか返事をする事もあり、仲の良い三人組の様にも思える光景である。

主人と居候とペットとは、中々に思えないやり取りである。


「そうなると、ギラムの髪って一本一本がしっかりしてるんだね。毛髪自体が薄い存在も居るし。」

「かもな。寝癖とか付くと、結構手間かかるからな。」

「その内『ボンバーヘアー』とかしてたりして。」

「余程変な寝相じゃなければ、そうはならないと思うぜ。子供の頃はあったけどな。」

「そうなんだ。」


何気ない彼の日常の話を楽しそうにしながら、グリスンは楽し気に隣を歩きながら口を動かしていた。

そんなグリスンの雰囲気が移ったの、ギラムもまた楽し気に会話を行い、自宅へと帰るのだった。


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