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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第三話・憧れを求める造形体(あこがれをもとめる ゼルレスト)
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11 狭間庭園(ミドルガーデン)

スプリームと別れたギラム達一行は、ショッピングストリート沿いにある横道を抜け、横断歩道を越えた先にある行きつけのカフェへとやって来た。

ココは以前アリンと食事をする際にやって来た店であり、今回は店内にある一般席で食事をする様だ。

フィルスターを肩に乗せたままギラムは歩き、店の扉をゆっくり押し開け入店した。




リリリン♪


「いらっしゃいませ~」


扉を開けると、軽快かつ少し甘い発音で出迎える声がやって来た。

聴き慣れた出迎え挨拶を耳にしたままカウンター席へと向かうと、店主は気付いた様子で軽く会釈をし、席の近くへとやって来た。


「いらっしゃいませ。」

「いつもの珈琲と、クラブハウスサンドを二皿分頼むぜ。後、何かスープとかあるか?」

「本日は『枝豆のスープ』がございますが、そちらの可愛らしいドラゴン様用でしたか?」

「あぁ、そうだぜ。」

「キュッ」

「かしこまりました。お熱くなりにくい器で、ご用意させていただきます。」

「ありがとさん。」


慣れた様子で注文をすると、店主は彼の肩に掴まるフィルスターを一瞥し、彼への注文もしっかりと受けていた。

先程の銀行と違い、こちらは店内に同伴者を連れての食事を了承している様で、嫌そうな顔を一つも見せる事は無かった。

普通ならば『食事衛生法』等の規制が入りそうだが、この店はその規制には該当しない様だ。

店内に座る他の客達も気にする様子は無く、店はいつも通りの雰囲気に包まれていた。



そんな店の店主は注文を聞き終えると、その場から離れキッチンへと向かって行った。

その間にフロアを歩いていたウェイトレスがグラスに水を注ぎ、おしぼりを手に彼等の元へとやって来た。


「お先に、お水とおしぼりを失礼しますね。」

「ありがとさん。」


ギラムとフィルスター様に用意されたグラスとおしぼりを置くと、彼女は軽く一礼しその場を後にした。

用意されたグラスを窓際の席に置くと、ギラムはフィルスターを肩から降ろし、グリスンの前へと座らせた。

大人しくしている様彼から言われると、フィルスターは頷き、グラスに口を近づけ水を飲みだした。


「そっか、フィルスターが居れば隣の席が空席でも違和感ないね。」

「ま、そういう事だ。グリスンが視ててくれれば、フィルがうっかり落ちても平気だからな。」

「うん、任せて。フィルスター、手も一緒に拭こうか。」

「キュキュッ」


その後ギラムが開けたおしぼりを受け取り、グリスンはフィルスターの手を優しく拭きだした。

まるで給仕をされるかの様にフィルスターは動かず、されるがままに腕を拭かれるのだった。





「お待たせしました、クラブハウスサンドでございます。」

「ありがとさん。」


その後注文した食事が到着すると、彼はカウンター越しに料理を受け取った。

軽く焦げ目の付いたトーストに挟まれたトマトとレタスが印象的なサンドイッチであり、二枚で構成されたパンを二等分に分け、プラスチック製の爪楊枝で固定されていた。

出来立ての様で軽く湯煙が出ており、とても美味しそうな一品であった。


「こちらが、セットの珈琲とスープでございます。本日も、ブラックで宜しかったでしょうか?」

「あぁ、砂糖無しで良いぜ。」

「かしこまりました。こちらも、前から失礼いたします。」


料理後にやって来た珈琲を受け取ると、ギラムはフィルスターとは逆の位置に飲み物を置いた。

同時にスープを店主はフィルスターの前へと置くと、幼龍は嬉しそうにスープを見つめ、遅れてやって来たスプーンを手にした。

丸みの帯びたスプーンに顔が映ると、彼は不思議そうな眼差しを食器に向けていた。


「後、補足ながら一つだけ。」

「ん?」


注文の品が全て揃ったのを確認すると、店主はそっとカウンターから身体を乗り出し彼の近くに顔を近づけた。

不意にやって来た顔に軽く驚くも、ギラムは軽く顔を横に向け耳を傾けると、ある事実を店主からそっと告げられた。


「当店は『エリナス』の方でも不憫が無い様、使用する銀食器におきましては事前に配慮を施さなくとも、ご利用いただけるものとなっております。」

「ぇっ……? 店主、まさか………」

「では、ごゆっくりどうぞ。」


カウンター越しに告げられた事実にギラムは驚くも、店主は何事も無かったかのようにその場を離れて行った。

軽く唖然とするギラムであったが、グリスンは試しにと食器に触れるも、普通に触れる事が解った。


「ぁっ、本当だ。 ギラムが触れなくても触れる。」

「……… ……店主、リアナスだったのか……… でも、店で食ってる時もエリナスの姿を見た事無かったけどな………」

「じゃあ、もしかしたら『ベガルナス』だったのかもしれないね。」

「ベガルナス?」

「僕達エリナスと契約したけど、戦いでエリナスを失って、魔法の(すべ)を失くした人の事だよ。リアナスとしての眼も持ってるから僕の事が視えるし、食器には事前に細工が出来てたのかも。」

「あぁ、なるほどな。そういうリアナスも居るのか。」

「うん。仮の話だけど、戦いでギラムが破れたら契約そのものは破棄されて、クローバーも無くなる。逆に僕が戦いで敗れたら、ギラムはエリナスが視えるけどクローバーは力を失くして、戦う事が出来なくなっちゃうんだ。」

「じゃあ、創憎主はどちらにも値しない奴らがなっちまうのか?」

「創憎主が生まれるメカニズムが僕には良く解らないけど、ほとんどの発端が『レグフムによる汚染』なんだって。」

「レグフム……って何だ? 汚染って言うくらいだから、何かの毒物か?」

「それに近い物だよ。」


不意の言葉に軽く驚く一同であったが、二人は揃って合掌し、食事をとりながら話をしだした。

彼等の前に座るフィルスターはすでにスープを口にしているが、ギラムは食事よりもグリスンからの話に興味津々であった。

目の前で香る香ばしいパンよりも、相棒の話は新鮮味がある様だ。


「そういえば、まだ魔法のメカニズムとかも教えてなかったね。折角だから、今教えてあげるよ。」

「あぁ、ご教授してもらえるか。」

「うん、任せて。」


本来ならば戦闘前に教えるべきであった事柄、情報を大事にする彼への伝達。

その他諸々の事実も兼ねてグリスンは話しながら、二人は食事を取るのだった。





「ギラム達リアナスが使う魔法は『テノルメ』って言って、契約で生成された『クローバー』が『ジェロン』って物質を汲み取って創られた魔法の事なんだ。」

「ジェロン?」

「人間の脳内で出てくる物質の事なんだけど、確か『ドーパミン』って言うホルモンが含まれた物質の事だったかな。」

「ドーパミン…… って事は、脳内で常に出続けてるのか。そのジェロンって言うのは。」

「多分ギラムも例外じゃないと思うけど、人間は『楽しい事』は大好きで、たまに『妄想』をするでしょ? その時にジェロンも出てるんだよ。」

「あぁ、なるほどな。だからグリスンは、俺に『思い描く魔法をイメージしてくれ』って言ったのか。」

「いきなり物質名とかを知っても、僕もちんぷんかんぷんだったからね。解りやすくそう説明する事しか出来なかったんだ。」

「ま、おかげで無事にあの時は切り抜けられたからな。グリスンは例えるのが上手いんだな。」

「そ、そうかな…? ありがとう。」


口に広がる新鮮な野菜達の味わいを楽しみながら、グリスンは少し科学的な『魔法の過程』を話し出した。

彼の話を理解をする様にギラムは頷きながら珈琲を口にし、自身がどうやって魔法を使っていたのかを改めて思い返していた。



すでにリアナスとして慣れた行動であっても、他の人間達からすれば未解の行動に変わりはない。

仮に学術的に説明する様求められたとしても、根本的な部分からとなれば中々に難しいとも言えよう。

身体が慣れていたとしても、頭で理解しているかは別問題なのである。


「で、そのジェロンなんだけど。自然に消化されずにしばらく放置しとくと、突発的に『レグフム』って物質に変わっちゃうんだ。」

「さっき言ってた『創憎主』の原因物質だったな。消化される事もあるのか?」

「リアナスだったらクローバーが勝手に汲み取って霧消してくれるけど、普通の人だとそれは出来ないでしょ? でも人によっては、妄想を『現実』に変える動力源に変えちゃうんだ。ほら、聞かないかな。人間は『想う力で強くなる』って。」

「ぁー そういや聞いたことあるな……… 趣味とか大好きな物が、そいつの原動力になるって。」

「妄想は使い方によっては、リアナスの魔法よりももっともっと凄い力になる可能性が秘めてるんだよ。でも逆に悪い妄想ばっかりをしちゃうと、消化に結び付かなくて、どんどん脳がレグフムに汚染されていって、最終的に創憎主になっちゃうんだ。」

「そうなのか。 ……ん? でもグリスン、創憎主も魔法を使ってただろ? クローバーが消化してくれるリアナスならともかく、普通の人間には魔法何て使えないんじゃなかったか?」

「そう、そこが謎のメカニズムの正体なんだ。僕達が対峙した創憎主は『クローバー』を持ってたから、元々真憧士だった。でもクローバーが消化仕切れないほどの絶望を抱いたからこそ、創憎主になってしまった。そんな事が起こるなんて知らなかったし、彼等に何が起こったのかも解らないんだ。」

「何だか難しい原因が秘められてるって感じだな。『契約の破棄』がどうのこうのっていうのも、そういや言ってたな。」

「えっ? 契約の破棄なら、出来ることは出来るけど………」

「え、出来るのか?」


謎の物質名が幾つか飛び交うも、実際の所彼等の思う謎は解明されたわけでは無い。

原理に敵う部分もあればそうでない部分も数多く存在し、その分野に精通したエリナスもまだ存在しない。

リアナスでは無い人間であっても可能性は秘められている事実もある為、結局は『偶然』が重なった部分で解明された事実とも言える様だ。



しかしそんな事実も、一部訂正がある様だ。


「破棄って言っても、クローバーを壊すだけなんだけどね。真憧士でなくなるから魔法は使えないしエリナスが視える事には変わりないし、全然いい事なんてないから言わなかったんだ。解約したエリナスは、強制的にクーオリアスに戻されちゃうし。」

「クーオリアスに強制的に戻ると、何かあるのか?」

「一応ね、罪人扱いになっちゃうんだ。僕達は神じゃないし、神に近い存在を生み出すために契約をする。その契約が無効化になるって事は、僕達は神に対して無礼を働いたって事になるから。」

「遠回しに『真憧士を振り回した』って事になる訳か。難しいもんだな。」

「だけど、ギラムが『もうやめたい』って思ったら、全然契約は破棄しても良いと思ってるよ。僕がギラムを苦しめる事を覚悟のうえで、契約したわけだから。」

「何言ってんだ、そんなことするわけねえだろ? 俺こそグリスンの頼みを聞いたとはいえ、覚悟を決めて契約したんだ。良い事ばかりの契約何て、あるわけねえからな。」

「う、うん……そうだったね。ゴメンねギラム。」

「分ればいいんだよ。ほら、冷めちまうから食うぞ。」

「うんっ」


唐突に告げられ事実を聞いたギラムは驚く様子を見せるも、告げられた言葉を聞いて納得した様だ。

元々相手の事を考えやすいグリスンの優しさが滲み溢れた結果であり、隠していたと言うよりは『そうならない様にしよう』と決めていた様だ。

改めて彼の性格を理解しながらギラムは珈琲を飲み、何時しか止まっていた手を動かし食事をとりだした。


気付けばフィルスターは食事を終えており、満腹なのか腹を丸くさせ、ご満悦な様子を示していた。

何時しか湯気も収まっていたサンドイッチを口にしながら、ギラムはふと気にかかる事を考えていた。


『じゃあ最初に戦った創造主(アイツ)は、何でそんな事を叫んだんだろうな………』


思い出したと同時にやって来た疑問に対し、グリスンには聞く事無くギラムは静かに頭の隅へと追いやるのだった。


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