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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
序章・初花咲いた戦火の叙景(ういばなさいた せんかのじょけい)
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07 決別の尋問(けつべつの じんもん)

熱中症で倒れた隊員が出るも、幸いにも身体に異常は出ずすぐに現場復帰できる事となった。しかしその事が引金となり、ギラムは部下の隊員達から距離を置かれる事が少しずつ増えてきてしまった。


サインナは相変わらずの距離を保つ中、それでも1人。 また1人と距離を置かれている事に彼は気が付かないはずが無かった。指導をしている間も、今まで向けられていた眼差しとは違う目を向けられる。まるで突き刺さるかのようなその視線は、ギラムが一番体験したくない感覚だった。

その事実もあってか、彼はまだ精神的に復帰するのはとても先のように感じざるを得なかった。

そんな毎日が続いた、ある日の事だ。




「いちっ! にっ! さんっ! しっ!」

午後の演習で陸兵戦闘の訓練を行うため、彼は部下達を指導しながらホイッスルを吹いていた。その日の天候は薄曇りの日であり、よほどの事が無ければ熱中症を訴える隊員達もなく比較的安全な気候だった。しかしそれでも用心に越した事は無いため、一定時間練習した後は休息を挟みつつ、彼は隊員達の様子を見ていた。

『…やっぱり、あの時ほど俺の事を良い目で見ている奴は減って来たな。 隊員達の不安も取り除いてやらないといけねえのに、その上に立つ俺がこんな状態じゃ…無理もねえか。』

行動をしている隊員達を見渡す様に目を向けると、前を向き熱心に行動している者もいれば少し視線を別の方向に向けている者もいた。中には彼本人を横目で見る様な警戒の眼差しを向けている者もおり、とても上司の様に見ていないと言っても間違いではない程だ。彼自身もその目線を感じるたびに、へこみそうになるくらいだ。

『でも、凹んでる場合じゃねえよな。 俺はまだ駒になったって信じちゃいねえし、隊員の中にも俺の事を変わらない目で見てくれる奴もいるんだ。 それだけでも、誇りに思わないとな。』

しかしそんな感情を抱いても、彼はなるべく抱き続けない様にしようと最近は考え出していた。目線は突き刺さり不安に駆られる事も多いが、それでいても全員がその目線を向けているわけでは無い。サインナを含め少数でも変わらず指導を受け、なおかつ適度なコミュニケーションを取ってくれる仲間も居る。

彼等が居る限りは、ずっとその行動を取ろうと彼も思っているのだ。


その辺は、彼がまだ誇りに思える部分なのかもしれない。




「ギラム准尉。」

「? ぁっ、これはマチイ大臣。」

そんな事を考えていると、彼の下にマチイ大臣がやって来た。いつもと変わらない表情で彼の元へと行くと、ギラムは挨拶をしお辞儀をした。

「君に少し話があるんだが、この後時間を貰ってもいいかね。」

「はい、もちろんです。 急であれば、今からでも構いませんが。」

「では、その言葉に甘えさせてもらおう。 だがこの場で話すには、少し条件が悪い。 私の部屋に来てもらえるかな?」

「了解しました。」

大臣がその場にやって来た理由をそれとなく察すると、ギラムは今からでも話を聞けると告げた。彼からの返事を聞いた大臣はその言葉を受け取り、場を移動し話をしようと言った。新たに付け加えられた条件をも彼は受理すると、ホイッスルを鳴らし隊員達に指示を出した。

「よしっ、10分休憩!」

「おーっす!」



「…で、だ。 サインナ、ちょっといいか。」

「はいっ!」

隊員達に休憩を促し身体を休ませる中、彼は遠くに居たサインナを呼びその場に来るよう手招きをした。彼の指示を見た彼女はその場を駆け出し、すぐに彼の下へと来た。

「俺はこれから、大臣からの話を受けてくる。 その間戻る事が出来ないから、メニューをこなした後ダッシュをして、今日はあがりにしてくれ。」

「了解しました。 行ってらっしゃいませ。」

「あぁ、ありがとさん。」

彼女に自分が席を外す間の仮隊長として任命し、彼は彼女にこの後の指示を一通り任せる事にした様だ。彼からの指示を受けた彼女も返事を返し2人にお辞儀をすると、その場を後にして行った。


「・・・では、参りましょうか。 マチイ大臣。」

「あぁ、そうしようか。」

彼女が去って行ったのを見送ると、ギラムはそう言い大臣の後に続いてその場を後にして行った。





施設内へと入って行った2人は階段を昇り、最上階にある大臣専用の部屋へとやって来た。大臣が先導し先に入ると、ギラムはお辞儀をした後入室し扉を閉めた。

「無理を言ってすまなかった。 あの場で話すには、少し君にとっても不都合があると思ってな。」

「大臣のお心遣い、痛み入ります。」

扉を閉めたのを確認すると、大臣はそのまま席へと向かい椅子に腰かけ持っていた杖を近くの定位置へと置いた。その様子をギラムは立ったまま見守り、座った事を確認した後口を開いた。

「…早速ですが、要件を伺えますか。」

「うむ、まぁそう堅苦しくしなくても良い。 少し崩して貰っていいからな。」

「はい。」

彼からの問いかけに対し大臣はそう答え、少し体制を崩して構わないと言った。大臣からの言葉を聞いたギラムは軽くお辞儀をした後足を肩幅まで広げ、両手を背中で組みリラックスした状態で話を聞く事にした。


「以前の事件での行動は、私の耳にも全て入っているつもりだ。 君は、非難が遅れた市民を助けるべく地下道に突入したそうだな。」

「はい。 7人の救助者を助けるべく突入し、無事に全員を助ける事に成功しました。」

話が始まると、大臣は功績と現実をありのままに把握するべく質問を開始した。それは大臣特融のスキルでもあり現状を全て知るための行動として有名であり、ギラムもまたその質問には何度か経ちあった事があるほどだ。普段見せる優しげな笑みとは違い、今は心の奥底を見抜く様な目を彼に向けていた。

「うむ、その選に関してはご苦労だったな。 …で、その時に君は部下の3名を目の前で閉じ込められる現場を目撃したそうだな。 他の部下達からも、その話を聞いている。」

「…はい。」

「とても急な出来事だったそうで、爆音が聞こえる中君は部下を助けるべく必死に瓦礫を退かそうとした。 違うかな?」

「はい、その通りです。 …ですが、他の部下達の不安と安全を優先するべく、脱出する事を決断しました。」

「なるほど、それが君の真意であり護ろうとするも護れなかった結果だった、というわけか。」

「おっしゃる通りです。」

彼がギラムをその場に呼んだ理由、それは地下道で起きた事件の詳細を知るためだ。他の隊員達からの報告を受け事情を把握しているつもりではあっても、本人から聞かなければ解らない決断に至った経緯が存在する。大臣はそれが聞きたかった様子で、彼に質問をし決意をした動機を知った。

「…君は、亡くなった部下の事をどう思っていたのかな。」

「俺の大切な部下であり、もっと自分が早く決断をしていれば…亡くなる事は、なかったと考えています。」

「それは、何故かな?」

「俺はあの時、地下道の最深部のホールで奇妙なスプレー缶を目撃しました。 爆発と異様な煙の色の正体は、恐らくそれであろうと思い現物を回収していた時に、部下達からの報告で救助を終了したと知りました。 もし早く彼等が来た事を知り階段へと移動していれば、爆発の振動が聞こえた時に階段で身の安全を確保する事は無かったと思っているからです。」

「なるほど。 それでは君は、自分自身の判断が遅れた事が理由。 そして、その妙な物が事件のヒントになるのではないか、と考えているのだな。」

「その通りです。」

質問をし、さらに質問をかさね質問をし、最終的にどう思っているのかを確認する。大臣の質問はこの流れで基本的に行われており、真実でなければ何処かでボロが出るとして良く使っている手だった。しかし今の彼にはボロが出るかどうかを知るのではなく、もっと別の事を知るためにその質問をしている様にも感じられた。

彼はそんな事に気を留める事無く、大臣からの質問に淡々と答えていた。



「…では、私から次の質問だ。 ギラム准尉、君は今何か思い悩んでいるな。」

「…」

「今までの君であればしないミスを、最近は少し目撃する頻度が増えてきたと私も常々思っていたが、ある情報を聞いて確信になった。」

質問を一通りし終え確認を終えると、大臣は静かに立ちあがり彼の元へと近づきながら質問をした。すると彼は珍しく返事をせずただ言葉を聞いており、続けて言われる言葉が何なのだろうかと考えていた。彼の考えを見通したのか、大臣は彼の横に移動すると言葉を放った。

「自分のミスで部下が亡くなった事、それが今の君を苦しめている正体だな。 ギラム准尉。」

「…」

「君は確かに有望な人材ではあるが、前から常々部隊の方針に沿うようで沿わない確固とした思念を持っている。 それがおそらく、君の腕を最大限にまで生かしていない所だろう。」

「…」

「君は確かに優しく、周りにもその優しさから信頼を寄せている。 だからこそ、君は部下達を心配させないようにと行動するが、どうやらその辺は君の得意分野ではないのかもしれないな。」

「…はい。 その通りです。」

しばらく質問をするも返事をしない彼に大臣は言葉を放ち、解っているからこそ彼が持つ思念を理解したいと思っていた上から目線で全てを終わらせるのではなく、彼と言う1つの存在を認めている事を解って欲しい。大臣はその事を強くもはっきりとした言葉で継げると、ギラムは静かに口を開け大臣の言う言葉に同意を示した。

「その優しさが時に諸刃の剣にならないためにも、部下を早く安心させる事が大切だろう。 …どうかな?」

「大臣の、言う通りです。 …申し訳ありません、早急に立ち直るべき事態を…引いていました。」

「普通の隊員であればそうであろうが、君は異例だ。 無理もない事を無理に克服しようとしても、それはおそらく無謀だことだ。 君は今、無理をしている。」

「…」

問われた事が正しい事を彼は認めると、再び頭を下げ不甲斐ない自分を責める様に言葉を付け足した。だが大臣はその言葉が聞きたかったわけでは無い様子で再び移動し、精神的に無理をし身体に異常をきたしている事を言った。その後彼は再び口を閉ざし黙ってしまったのを見ると、大臣は彼を休ませるべく椅子を用意しそこに腰かける様言った。

指示を受けたギラムは静かに腰を下ろし、用意された椅子へと着席した。

「心の無理は身体に響くのは、君も良く分かっている事だろう。 ではその苦しみを解くためには、君は何をしなければならないかな。」

「…身体の安静はもちろん、精神的に重荷になっている事を解決する策を見出さなければなりません。」

「では、その重荷になっている物を取るとした。 策を見つけるとしたら、恐らくどんな状況が良いと君は考えるかな。」

「…精神的に、リラックス出来る状態。 日々の忙しさを忘れ、切欠を得なければかわりません。」

「なるほど。 …では、最後の質問だ。 その切欠を得るためには、君は今すぐに何をしなければならないかな?」

「今、すぐに……」

体制も整い尋問に近い形になって行く中、ギラムは質問に対する返事をしっかりと考えて答えていた。

問われた事に対し何をし、さらに何を考え得なければならないのか。明確な答えを彼自身が持っている事を探りながら、大臣は最後の質問を彼に投げかけた。



それに対しギラムはしばらく考えた後、答えを出した。


「…部下達に、休む事とその理由を伝える。 でしょうか。」

「正解だ。 やはり君は、質が良い。」

彼の導き出した答え、それは今不安がっている部下達にその事実を明確に伝える事。自分の不安を知っているサインナの様な存在が全員ではないのは紛れもない事実であり、言葉にしなければ伝わらない事もある。それをしっかりと言えた事に対し大臣は拍手をし、彼に再び優しい笑顔を見せていた。

「ぇっと… 喜ぶ所なのでしょうか。」

「喜んでくれて構わんよ。 君は立派だ、私が保障しよう。」

「あ、ありがとうございます…」

何処となくハッキリと喜べない点がある様子で、彼は不思議そうな顔を大臣に向けていた。そんな彼を見た大臣は少しだけ苦笑しながらそう言い、自身を持って行動して構わないと言った。

「君の決断は、双方正しかった。 隊員達を助けたいと言う気持ちがあるからこそ、1人無茶をしてでもその行動を取った。 そして残りの部下達を助けるために、脱出を選んだんだ。 閉じ込められてしまった部下達は確かに不運だったが、ちゃんと埋葬はした。 安心なさい。」

「はいっ…!」

その後大臣は再び歩きだし窓辺へと向かうと、彼の行動はどれも真意を持って選んだことだと言った。無論不運にも亡くなった部下達が居る事が事実ではあるものの、その部下達を大切に想うのであれば今の自分を変えなければならない。

精神的に持ってしまったモノを降ろしてくるよう、大臣からの命を彼は受けるのだった。




「で、君はどれくらいの休みを希望するのかな。 言ってみたまえ。」

話に決意が出そろうと、大臣は彼に何日間の休暇が必要かと問いかけた。自分でどれくらいの日数が必要かは彼自身が決めなければならず、またそれを護る事も彼自身の任務だ。そのあたりは、大臣としての目星を付けなければならないのだろう。

「・・・3日。 いえ、無理を承知に1週間の長期休暇をお願いします。 必ず、克服して見せます。」

「よろしい、良く言った。 君の代わりは、私が目を通しながら指示を出そう。 安心して、休んできたまえ。」

「はいっ!!」

彼はその質問に対し明確な日数を伝え、さらに変わって帰ってくると大臣に宣言した。その言葉を聞いて大臣も安心した様子で返事をし、不在中は責任を持って管理するから安心して休むよう彼に言うのだった。


その後話が終了し彼は大臣に挨拶をした後、部下達の元へと向かい明日から休む事を部下達に告げた。部下達からは何処となく安心した様子の笑みを見せてくれる者もおり、彼はまた安心感に浸かる事が出来たのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 丁寧にひとつひとつなされていくだけあって、これが話が起爆した瞬間に豹変しそうで、安堵と同時に、緊張感があります。
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