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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第三話・憧れを求める造形体(あこがれをもとめる ゼルレスト)
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06 軍事会社(セルベトルガ)

自称アイドル達の護衛任務を急遽終了し、行きと同じく電車で帰宅したギラム。

道中で手にしていた残りの昼食を食べながら借家へと戻ると、彼は普段と変わらない速さで廊下を歩き、自室への扉を開けた。




ガチャッ ウィーン……



「ただいま。」

「あれ、おかえりギラムー 早かったね。」


扉のロックを開け中へと入ると、リビングでくつろいでいたグリスンが彼の声を聞きやってきた。

やって来る同居人の気配を感じながら靴を脱ぎ終えると、彼は顔を上げ軽く返事を返した。


「急遽今の職場から連絡を受けてな、急用なんだと。」

「ありゃま、それじゃあまだまだお仕事だね。」

「まあな。」


帰宅したギラムを出迎えながら理由を聞くと、同じくリビングに座っていたフィルスターと共にグリスンはギラムの後ろをついて歩いた。


頼まれた仕事のために朝早くから出かけていたにもかかわらず、再び別の相手から頼まれ仕事へと向かう一日。

基本的に仕事へ対する時間の使い方が不規則なためか、今日の様に忙しい日もあるのだろうと理解できた。

今までであれば一日かけて仕事を終わらせていたイメージが、またしても変わる瞬間であった。



帰宅したギラムはすぐさま服を脱ぐと、軽く汗の始末をし着替えを開始した。

今回は仕事場へと赴くため服選びをする事は無く、職場用の物と思われる制服を着だした。

白のワイシャツに深緑色のスラックスを着用し、金色のワンポイントが描かれたワインレッドのネクタイを締める。

普段とは違ったフォーマルな衣装を目にし、グリスンは再び不思議な眼差しを向けだした。


「わぁー ギラムがワイシャツって新鮮だねー」

「キュッ」

「職場以外じゃ、礼装の場でしか着る用途がねえからな。前に作った書類も、ついでに出して来るぜ。」

「うん、行ってらっしゃいギラム。」

「キュキューッ」


普段とは違う雰囲気をまとったギラムはそう言うと、先日用意したデータを手にし、再び出かけてくると彼等に告げた。

お見送りとばかりに彼の背を眺めるグリスン達であったが、これも恒例となって来たのであろう。

周りからは独り暮らしと見られるも、見送られるという不可思議な現状の元、彼は外出するのだった。





彼が現在の務める職場は、軍事会社『セルべトルガ』と呼ばれる企業だ。

企業に登録した社員達を『傭兵』という名目の元、人材派遣を初めとした『依頼主の手伝い』を主な生業としている。

簡単な業者への運搬から作業の補助、依頼主からの備品調達から護衛任務など、仕事内容はバラバラだ。

しかし共通して『頼まれる』事から仕事が始まり、企業に勤める傭兵達は仕事を請け負い、助力を行うのだった。


そんな傭兵達の行動を支えるのが、会社の本部で活動する社員達だ。

企業や直に赴いた依頼主からの依頼を傭兵達へ伝達するための仲介役を担っており、事務的な作業を主な仕事内容としている。

月毎に彼等の活動と依頼主からの評価を総合し、彼等の階級を定め、やって来た依頼へ対する依頼先が決定するのだ。

たくさんの依頼をこなせば階級が上がり、逆にそうでなければ階級が下がるという、簡単な仕組みとも言えよう。

しかし根本的な『給与』に影響する事は無く、あくまで新規のアプローチでやって来た依頼主へ勧める傭兵のリストとして、階級が使用されるだけと補足しておこう。

そのため階級が高くとも稼いでいない人は居り、逆に低くとも稼いでいる人はいるのである。


そんな企業に勤めるギラムはと言うと、階級はそこそこ上位に入っており、いわゆる『稼ぎ頭』に分類される傭兵なのであった。




ウィーン……



「おはようございまーす。」

「おはようございます、ギラムさん。」


自家用車であるバイクに乗って出勤すると、彼は受付嬢に対し挨拶をした。


書類上の勤務地である職場は、現在彼が住んでいるマンションからそう遠くはない都市内に存在していた。

以前から赴く事の多かったアリンの勤め先『Rubinase(ルビナス)』のある道路へと入る前、十字路の道を数キロ先に行った場所から移動し、右手に移動した場所にその企業は顕在する。

白い外壁が印象的な建物の周りは土地が広く整備され、車も走れる遊歩道となっていた。

愛車を指定の駐輪場へと停めてからが、再び彼の仕事が始まるのであった。


「今日は報告書の提出ですか?」

「あぁ、それと。呼び出しだ。」

「あらら、それは災難でしたね。カサモトさんでしたら、デスクに居ますよ。」

「ありがとさん。」


企業に勤める傭兵達が普段出勤しない様に、ギラムもまた日中は企業へと赴く事は少ない。

そのため足を運ぶ理由は『月末の報告書を提出する事』か、もしくは『急な呼び出しを受けたため』というのがほとんどだ。

逆に異例のパターンもある為、受付でも軽く確認されることがあるのだ。


軽く挨拶交じりに理由を告げると、彼は部署へ向かう道中で社員証を提示し、出勤登録を行い奥へと向かって行った。





彼が向かった先は『総務部』に勤める社員達が集うスペースの一角。

部署毎にスペース分けされた大部屋の一角に彼専用の机があり、そこからそう遠くはない場所に、彼を呼び出した張本人が座っていた。

そこに居たのは、軽く不真面目な雰囲気が漂う、ギラムよりも褐色の中年男性だった。


「カサモト上司、来たぜ。」

「おぉ、来たか。遅くなるって言ってたが、やっぱりお前は早いなギラム。」

「呼び出しておいてよく言うぜ。それで、呼びだした用件は何だ?」

「コレだ。」

「ん?」


呼び出し主の元へと向かい声をかけると、相手はギラムに気付いた様子で返事を返した。



彼の名前は『カサモト・アイスバイン』

軍事会社セルべトルガに勤める社員であり、ギラムを含む多くの傭兵達の上司にあたる人物だ。

ギラムとは違い地肌から黒い彼は他国籍の人物であり、流れの仕事を漂った結果、今の場所で落ち着いた人物だ。

そのため雰囲気は不真面目な雰囲気が漂ってしまい、指定の制服を着用するも、何処かだらしなさが残ってしまう様だった。

ネクタイも何処か緩く、地毛である茶髪の髪が無造作に整えられている所も、原因の一つと言えよう。


彼は先程からデスクに座っては居るものの、手元を見ると端末が握られており、どうやら軽く仕事をサボっていた事が見受けられた。

デスクには書類と呼ばれる物は無く、ギラムが自宅で使用していた電子版の様なモノしか出ていなかった。


そんな彼に呼び出した要件と尋ねると、相手はギラムに対し一つの機器を手渡した。

手渡された機器を受け取り起動すると、出てきた電子版の中身を一枚ずつチェックし確認した。

中には書類と思われる報告書が幾多も入っており、ギラムは何となくだが仕事内容が予測出来た様だ。


「報告書……だな。 ……なぁ、これって……」

「あぁ、俺の仕事だ。」

「おいっ、何で俺にやらせるんだ。しかもコレ、日付からして今日までのやつじゃねえか…… 何で午後までほったらかしにしてたんだ。」


彼に回された仕事、それは月末に提出する『決算報告書』の作成だった。

本来であれば傭兵達の上に位置する人物が片付けなければならない仕事を、ワザと彼のために残していた様だ。

仕事事態を片付ける事ならば要因だが、何処か嫌がらせにも思える行いである。


「お前なら、今日中に片付けられると思ってな。どうせ自分のも出さねえとならんと思ったから、気ぃ使って呼んでやったんだよ。」

「お心遣い感謝します。 ……ったく、しょうがねぇなぁ…… で、依頼料はなんだ。」

「今夜の夕飯代、奢ってやるよ。安い仕事内容だろ?」

「盛大にふんだくってやるから、覚悟しとけよ。 ……後の処理を考えると、夕方までには片付けないといけないな。」


そんな面倒な仕事を廻した相手に対しギラムは依頼料を取り付けると、渋々仕事を了解し、自身の机へと向かって行った。

すでに午後となり時間が限られる中、後々の迷惑を最小限に抑えるべく、即座に仕事に取り掛かるのだった。



彼の居る職場では、例え社員同士であっても仕事を任せる際には『依頼料』が発生する決まりがある。

それは『自身が片付けなければならない仕事を、他者が引き受ける』事に対する『責務の増加』を防ぐためであり、傭兵達は社内での依頼料も報告書にまとめなければならない。

そのため仮に仕事が回って来たとしても、仕事がない場合にその仕事を受けるという『契約』を交わすことによって、正式にその仕事を任せた事になる。

よって、稼ぎが少ない相手に手を貸す事にも繋がって来るのだ。


無駄な仕事量を増やす事を減らし、務めたばかりの社員に力を貸す。


この会社ではそのような成り立ちが成立し、若き傭兵達の支援を身内の間でも行っているのだ。

しかし仕事を任せても責任を負うのは上司の役目であり、幾多もその契約が結ばれるわけでは無い。

ギラムの様に『任せて安心』な相手にしか大きな仕事を頼むことは無く、仕事完了後に確認作業は怠る事が出来ないのだ。

ゆえに、余計な仕事をさせられる心配は無いと言えよう。


「あぁ、そうだギラム。ついでに、今日発売の本も頼むぞ。いつもの奴。」

「ゲッ、それも俺が買いに行くのか…… ……俺じゃなきゃダメなのか……?」

「俺の買う本を知ってるのは、お前だけだからな。わざわざ見せて買いにいかせてもなー」

「如何わしい本を買いに行かせる上司も、どうかと思うがな。 ……まぁ良いか、部下に変わりはねえし。仕事片付けたら買ってくるぜ。」

「買ったら先に読んでも良いぞ。」

「誰が読むかっ!!」


恐らくきっと、余計な仕事をさせられる心配は無いと言っておこう。

しかし彼にはそれがやって来る様だ。



いつも通りのやりとりを交わした後、ギラムは機材を手にしたままデスクへと向かった。

彼用にと用意された場所に荷物を下すと、彼はセンスミントを使って電子版を立ち上げた。

電子盤が立ち上がると、彼は事前に用意していた『査定詳細書類』をコピーし、書式を編集し『報告書』を作成し始めた。

データを端末に送信している合間に彼は別のソフトを立ち上げ、手元に置いてあった端末情報を電子盤へと移し、仕事を開始した。


電子盤に展開された情報を見ると、そこには傭兵達が受けた【今期分の仕事内容、金額、依頼主の大まかな情報】が乗せられており、提出主の性別、年代別に分けられていた。

しかしその整理を行うにも、圧縮されたデータファイルの形式番号は人によってバラバラであり、そこから整理をしていなかければならないのだ。

仕事を任せた上司はそこまではしていたため、ギラムが行うのはその先である。


整理された報告書達のデータを吸い上げ、傭兵達の回収金額、および今期分の所属料金の算出が今回の仕事だ。

傭兵達によっては『稼ぎ頭』とも呼べる人々が存在し、企業の(かなめ)ともいえる社員が存在する中、それとは違う若芽の傭兵達も中には存在する。

入社当初のギラムの様に仕事が少ない相手からは、企業とはいえ所属料金を多く回収する事は行わず、未来の稼ぎ頭を目指してもらうべく、年代別に回収した依頼料の割合で企業に収めているのだ。

収められた金額の一部は事務を行う社員達に割り当てられ、残りは企業の収益と費用に割り当てられるのだ。


ちなみにギラムは年代こそ若いが、稼ぎ頭とも呼べる立ち位置に居るため、所属量は中々高く回収されている。

だが多く回収される事自体が不満に繋がらない様、ちょっとした社内サービスや特典への参加が可能なのだ。




プルルルル…… ピッ



「はい、総務部のギラムです。」

【お疲れ様ですギラムさん、購買部のナサラです。お仕事中とは存じますが、今期の『厚遇融資制度』はいかがでしたでしょうか。】

「あぁ、前期も結構活用させてもらった。報告書は今送信したばかりだから、吸い上げて貰えば見つかると思うぜ。」

【ありがとうございます、企業間からもギラムさんのお声を頂く事がありましたので、これからも是非ご活用下さい。ご希望がありましたら、別の企業への制度も検討していますが、何かございますか?】

「そうだな…… 今の所でも十分満足させてもらってるから、仮にもし別の企業で厚遇が出来る様になったら教えてくれ。体験しに行こうと思うからさ。」

【はい、ありがとうございます。お仕事中にありがとうございました。失礼いたします。】

「あぁ、失礼します。」



ピッ


「………ぁ、コレ番号違ってやがる。カサモトめ、絶対罠仕掛けて来るよな……」


そんな制度の1つとして上げられるのが、軍事会社セルべトルガで行っている『厚遇融資制度』だ。

稼ぎ頭としてのポジションを獲得した者であれば加入できる制度であり、所属料金に追加料金を支払うだけで加入できる制度だ。


企業との中間役を担い、仕事を肩代わりするセルべトルガでは多くの企業からのオファーがあり、その際に新たな公共施設や企画を仕入れる事がある。

仕事を担った事に対する対価の一部として、その施設への料金を割引にする事が企業間で可能であり、企業内で認めたモノにその利用権を与えるのがこの制度だ。

料金と共にちょっとした約束事が追加されるも、それを守りさえすれば様々な特典が得られるため、中々人気の制度なのである。

他にも様々なサービスが受けられる制度がある為、稼ぐ傭兵達から料金を徴収していると言っても、過言ではない。

無論加入は任意の為、所属料だけで暮らす傭兵も少なくは無いのだ。



ちなみにギラムはこの制度を利用して、外部の公共施設をよく利用しているのである。

アウトドアタイプの彼には、ピッタリの制度とも言えよう。


『……よし、後はデータを吸い上げて一覧に纏めれば完成だな。圧縮かけて、カサモトに投げとくとして。 ……喉乾いたし、雑誌ついでに水でも買ってくるか。』


そんなこんなで仕事を終わらせると、ギラムは端末に仕事をさせ、席を外した。





外へと出たギラムは、企業と大通りを挟んだ向かい側に位置するショッピングストリートへと向かい、近くの書店へと足を運びだした。

先日やって来たスーパーにて飲料水を購入すると、戻り路にある書店『アスレチック』へと入店し、彼は慣れた足取りで雑誌コーナーへと向かって行った。

そこには紙媒体の雑誌の他にホルダーに掛けられた厚紙がたくさん並べられ、彼は何かを探す様に指で厚紙達をめくっていった。


「ぇーっと……… ……ぁ、あった。『ヴォルカイス6月号』」


しばらくすると、彼は探し求めていた雑誌の電子媒体情報が記録された厚紙を取り出した。



彼が手にしたのは月毎に発行されている雑誌であり、一部のマニアックな人々が購入する代物だ。

表紙にはプリントされた表紙絵と共に雑誌名が記載されているが、下に小さく『成人向』と赤字で書かれていた。

中身はお察しの内容のため、あえて省略させてもらおう。


「……まったく、毎回毎回エロ雑誌を買いに出させるって、どういう神経してるんだかな……… 趣味でも共有させようとしてるのか? カサモトは。」


お目当てだが求めていない買い出し品に対する愚痴をこぼしながら、彼はレジへと向かって行った。

幸い店員は若い男の店員だったため、彼は気にせず買い物を済ませ、店を後にした。



『……ってか、俺も素直に買いに行くのは駄目なんだろうな…… 興味が無いって言ったら嘘になるが、好き好んで読もうとは思わねえし……… 複雑だ。』


何とも言えない心持の中、彼は購入した水を口に含み、気持ちと共に押し流すのであった。


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