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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第三話・憧れを求める造形体(あこがれをもとめる ゼルレスト)
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05 呼出(よびだし)

モール内での長い買物を終え、一行は同建物内にある『フードコート』へとやってきた。

丁度ランチ時の若者達で賑わうその場所で彼等は席を抑えると、ギラムは一度その場に残り、メアン達は先に昼食の買い出しへと向かって行った。

鼻孔を(くすぐ)る美味しそうな香りが漂う中、食器の音と楽しげな会話が響き渡っていた。


『……そういや、グリスンとフィルは昼飯何食ってるんだろうな。冷蔵庫の中には、確かまだ食材があるはずだから…… まぁ、心配はいらねえか。』


一人待機するギラムは椅子の背に軽く重心を預けながら、ふと同居人の昼飯事情について考えていた。



新たな同居人としてやって来た幼い龍の『フィルスター』は、自身で食事を用意する事などは出来ない。

話の流れで自身が飼育する事となったが、大切な家族の一人であり、寝食を共にする間柄だ。

変わって彼よりも早く同居人として居候している『グリスン』はと言うと、真憧士との生活でいろいろな発見があり、自身で料理をする事が出来る様になっていた。

そのため留守中の食事は気にする必要はなく、外ですぐに食べられる弁当等を購入する必要は無かったのだ。


しかしそれによって普段の冷蔵庫に待機する食材達が居なくなる可能性が発生するため、在庫管理はきちんとしておかなければならない。

今朝も簡単ではあるが朝食を三人で食べたため、事実上冷蔵庫から食材が減っており、近々買い出しに行く予定も出来ていた。

独り暮らしから同居人が増えると、何かと心配がある様だ。

視かけからは想像も付かないと言われるほど、彼は同居人の事を気にする質の様だった。




そんな事を考えていると、彼の元に昼食を購入して戻って来るメアン達の姿が映った。

手には購入先で渡されたトレーに乗った料理の姿があり、それぞれの好みで選ばれた物が運ばれてきた。


「おっ、メアンはパンケーキか。旨そうだな。」

「良いでしょ~ アタシ、結構ミルクの味って好きなんだよねー だからついつい、デザートも乳酸系になっちゃうんだー」

「イオルはハンバー…… ……何か多くないか?」


やって来た食事に対し軽くコメントをするも、軽く驚く光景がそこには映っていた。



右手を歩いていたメアンの手元にあったのは、生クリームの周りに贅沢に散らされたフルーツが印象的な『メイプルパンケーキ』と、期間限定として先取り販売されていた『マンゴーサンデー』だ。

彩りが豊かでカワイイ印象を覚える食事であり、どうやら彼女は『甘党』なのだろうと思われる内容であった。

摂取したカロリーはしっかりと行くべき場所に行っている様子で、日頃の食事内容が軽く予想できてしまいそうである。


変わって左手を歩くイオルはというと、プレートの上で香ばしい香りを放つ『デミグラスソースハンバーグ』と、クルトンが適度に飾られた『青葉のサラダ』

そしてトレーから軽くはみ出す、アメリカンなプリントが施された『箱入りポテトフライ』が姿を見せており、どう見てもボリューム満点な食事内容であった。

メアンよりも華奢な彼女の身体にどうやって入るのだろうかと、疑問に思える容量であった。


「ぁっ、ほとんど初歩港ちゃんの分ですよ? ボクの分はポテトで、後はちょっとずつ摘まむ感じです。」

「ヒストリーのハンバーグとぉ、お姉ちゃんと一緒にサラダを食べるんだぁーっ」

「意外と食べない方なんだな。痩せちまうぞ?」

「いえいえ、気になさらなくても大丈夫ですよっ さっ、ギラムさんも買って来て下さい。混んじゃいますからね。」

「んじゃま、そうするかな。」


やってきた昼食に対するコメントを軽くし終えると、ギラムは席を立ち昼食の買い出しへと向かって行った。


フードコート内には十店ほどの協力店舗が店を構えており、それぞれが別々のジャンルで商品を販売していた。

和食を始め中華料理もあれば、先ほどの二人が購入してきたような『レストラン』系の食事も中にはあった。

ご飯物から麺類まであるため、しばらく歩きながら考えてしまいそうな感じであった。

そんな店舗毎の人数状況を軽く見ていた彼は、すでに食べる物を決めている様子で、目的の店へと向かって行った。




カチャッ


「お待たせ、二人共。」


昼食を買い終えた彼が席へと戻ると、すでに食事を開始していた二人からの視線がやってきた。

手にしたトレーをテーブルの上へと置くと、一人前とは軽く思えない量のハンバーガーが姿を見せていた。


「ギラムはハンバーガーにしたんだ。」

「期間限定で『チリドック』ってのがあったからそれと、ドリンクとハンバーガーを四個な。」

「おぉー やっぱり食べるねーギラムは。」

「身体付きに似合った食事量ですねっ」

「ハンバーガーいっぱぁーいっ」

「ありがとさん。」


彼女達からしたら左程驚く食事量ではなかった様子で、彼の目の前に置かれたハンバーガ―に対しコメントをしだした。

しかしよく考えると、普通の成人男性が一食で摂取する食事カロリーを大幅にオーバーしており、彼はそれをしっかり消費できる事を証明できる食事内容であった。



バンズにレタスとトマトが挟まった『サラダバーガー』に、卵とチーズが入った『エッグインバーガー』

揚げた鶏肉に濃厚な照り焼きソースが掛かった『チキンバーガー』の隣に居るのは、バンズと白身魚フライが3層になった特注の『フィッシュバーガー』だ。

仕上げに少し辛そうな印象を覚える赤くも光沢のあるソースがかけられた『スパイシーチリドッグ』が鎮座しており、しっかりと消費してくれる効果がありそうだった。


お供のドリンクは『炭酸水』の様子で、カップの中でパチパチと静かに音を立てていた。


「そしたら、その代金分の依頼料を先に支払っておきますね。」

「あぁ、それの事なんだが。一つだけ頼みを聞いてくれたら、今回の依頼料チャラで良いぜ。」

「ギラムからのお願い…… 嫁入り前の身は駄目だからねー?」

「そんな事お前に頼まねえよ。今朝俺の所に電話をよこしたが、あれはイオルの連絡先の番号で良かったか?」

「はい、ちゃんとした連絡先ですよっ」

「だったら、その連絡先だけで良いぜ。真憧士の仲間が出来たのは良い事だし、これから何かと互いに頼る様な事があるかもしれねえからさ。お互いの協力関係って奴で、どうだ?」

「ボクは構いませんけど…… そんな事で良いんですか?」

「そんな事って言う程、二人への連絡先は安くないぜ。対した時間を一緒にいた訳じゃねえが、二人の日常にはいろいろ支障があるみたいだからさ。俺で良ければ、何時でも相談に乗るぜって事だ。なぁ、ヒストリー」

「うんっ お姉ちゃん達に頼ってばっかりだから、ヒストリーもお姉ちゃん達のために何かしたぁーいっ」

「そうでしたかっ それなら、遠慮なくそれを依頼料として貰って下さい。もちろん、ギラムさんが困ったことがあったら、ボク達も協力しますからねっ」

「そうだよギラム― アタシ達の事も頼って良いからねー?」

「あぁ、そうさせてもらうぜ。」


お互いに満足の行く食事を楽しみながら、ギラムは本日の依頼料として『イオルの連絡先』を手に入れた。

自分と同じ真憧士として創憎主と応戦し、同じくエリナス達と共に生活を送っている彼女達。

しかし自分よりも日常生活にはいろいろと支障がある事が本日良く解ったため、彼なりに今後も助力を惜しまず、互いに戦って行こうという意思の現れだった様だ。



彼の言葉を聞いたメアン達は嬉しそうに賛同し、小さな同盟がこの場に築かれるのだった。


「ぁっ、でも身体は駄目ですよー? アイドルでも、手を出したら犯罪なんですからね?」

「安心しろ。俺はそういうのは苦手だ。」

「えーっ、うっそー ギラムならオールくらい軽く行くでしょー?」

「どういう偏見だよ、それは………」

「身体洗ってもらうのぉー?」

「ううん、ギラムさんの身体を洗ってあげるんですよっ」

「そっかぁ~ お兄ちゃんの背中おっきいから、ヒストリーも一緒に洗ってあげるねぇ~」

「ですって、ギラムさんっ」

「まるで侍女じじょだな。」


その後も軽いやり取りを交わしながら昼食をし、購入した食事達は静かに姿を消していた。

その時だ。




ピピピッピピピッ



「ん? 悪い、ちょっと離れるぜ。」

「はーい。」


4つ目のハンバーガーに手を付けようとしていたギラムの懐から、着信音と思われる音が鳴りだした。

音の正体はセンスミントであり、どうやら外部から着信があった様だ。

着信元を確認しながら彼は一言断ると、静かに席を外し応対しだした。


昼食中だったメアンは軽く返事を返すと、食事を堪能するヒストリーの面倒を見るのだった。


「はい、ギラムです。 ……何だ、カサモトか。こんな昼間に連絡なんて、良い話ではない気がしてならないんだが、要件を聞くぜ。 ………えっ、今からか?」

「? 何だかもめてるねー」

「………分かった、今出先だから少し時間がかかるが、それでも良いか。 ……はい、了解しました。では後程、失礼します。」


ピッ


「良いお話ー?」


会話を終え席へと戻ると、メアンは軽いノリで電話の内容を質問した。

しかし連絡をよこした相手は彼にとって嬉しい相手では無かった様子で、軽く浮かない表情をギラムは見せていた。


「すっげぇよろしくない気配がする話相手だ…… すまないメアン、イオル。職場から呼び出し受けちまったから、依頼はココまででも良いか?」

「はい、ボク達は大丈夫ですけど。ギラムさん、結局対したもの食べてない気がしますけど…… お腹は足りてますか?」

「ヒストリーのハンバーグ、美味しいよぉー」

「ありがとさん、気遣いだけで十分だぜ。また何かあったら、連絡してくれ。」

「はーい、お仕事頑張ってねーギラムー」

「行ってらっしゃいませ、ギラムさんっ」


急遽呼び出しを受けてしまった旨を彼女達に説明すると、二人は渋る事無くすんなりと彼を見送る体制をとってくれた。

依頼とはいえ彼の用事が優先であり、建物の前に入る前の行いで十分に役目は果たしていたため、彼を止める理由が無かったのだろう。

間に座っていたヒストリーと共に、3人は笑顔で彼の事を見送るのだった。


その後食べようとしていたハンバーガーと共にトレーを手にすると、彼はその場を離れ、購入店舖で紙袋を貰いその場を後にした。


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