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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第三話・憧れを求める造形体(あこがれをもとめる ゼルレスト)
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04 付添(つきそい)

本来の目的地へと無事に到着したギラム達一行は、入口から少し離れたエレベーターホールへとやって来た。

壁際に置かれたベンチに座る人の姿をはじめ、壁際に飾られた案内板を注視し、目的の品物が何処にあるのかを探す人も居た。

先程までの難関が嘘な様に、とても平和な時間が流れていた。



「…さてと、とりあえずお前等にとっての難関を突破出来た訳だが。この後は買い物だろ? 何から視るんだ?」


案内板の前へとやって来たギラムは、両脇に立つ女性陣に買い物の品種を問いかけた。

依頼でやって来た彼ではあったが、何を買うためにココへ来たのかは知らされておらず、ただ単に荷物持ちとして同行しているに等しい。

無事に目的地に付いた苦労もあるが、ココからもお仕事タイムである。


「ぇーっと、まずは定番の『洋服』でしょー その後は『キッチン用品』で、またその後は『小物』を視てー またまたその後はー」

「おい、大雑把過ぎて目的地が解らねえぞ。せめて店の目星くらいは付けてるんだよな…?」

「大丈夫大丈夫ー アタシに任せなさいっ」

『すっげぇ不安だな……』


そんな彼からの質問に対し、メアンは口答しながら指で数え始めた。

どうやら思った以上に買い物の目的がある様子だが、如何せんジャンルが多過ぎて目的が迷走してしまいそうな状況である。

今時のジャンルから日用品まで、全て済ませてしまいそうな勢いであった。


「ギラムさんは基本的に荷物持ちになってしまいますが、大丈夫ですか?」

「あぁ、その辺は構いはしないぜ。店によっては近寄りがたい場もあるだろうが、その辺はヒストリーと一緒に待ってるからさ。メアンと楽しんで来な。」

「では、お言葉に甘えさせてもらいますねっ メアンちゃん、まずはランジェリーから行きましょっ」

「うんうんっ アタシのブラ、また後ろの留め具がヤバくなっちゃって困ってたんだー イオルんは何買うのー?」

「ボクは新しい『ベビードール』が欲しいですねっ そろそろ季節的にも、涼しい色のモノが欲しいんです。」

「じゃあ、同じ店だねー いこいこー!」

「………」


目的の品が何処にあるのかを確認すると、彼女達はそそくさと昇降機のボタンを押し始めた。

そして手慣れた様子でコードを入力すると、目の前の扉が開き、一同を出迎えだした。

昇降機へと乗り込んだ彼女達が話で盛り上がる中、軽く置いてけぼりをくらっていたギラムは、ヒストリーと共に彼女達の後を追うのだった。



どうやら異性が居てもお構いなしの会話内容に、軽く驚いている様だった。



「ブラジャーはまだ良いとして…… ベビードールって、着る奴いるんだな………」

「お姉ちゃん、寝る時にワンピースみたいなお洋服を着るんだぁ。動きやすくて良いんだってぇ~ フワフワしててぇ、ヒストリーも好き~」

「そ、そうなのか……」

「カワイイよぉ~」

「まぁ、そうだろうな………女だし。」


ギラムの背に乗っていたヒストリーは軽く顔を出しながら、相手のボヤキに対し返答を返した。


イオルと二人で過ごしている彼にとって、普段着を始めとした服装を目にしており、基本的に知らない姿は無い。

どんな物が好きで、どんな表情をして、自宅では過ごしているのか。

軽くファンクラブが欲しそうな情報は知っており、寝間着姿などは朝飯前なのだ。

年頃の青年が返答に困る下着の話は、何の恥じらいも無く話せるのが、無垢な証拠である。


そんな少年のコメントを耳にしながら、彼等は目的の階で昇降機を後にした。






最初に一行が向かったのは、三階にある女性物下着売り場の店。

男子禁制とも言えるべき甘い雰囲気が溢れるその店は、桃色を主体としたスイートなオーラを(かも)し出していた。

もちろん連れであるギラムですら入るのをためらう場所であり、堂々と突撃していくアイドル達を見送り、彼は店前の通路でのんびりと二人の帰還を待つのだった。



「……… そういやヒストリー」

「? なぁに、お兄ちゃん。」

「お前はイオル姉ちゃんとは、どんな風に出会ったんだ。契約したって事は、会うまで独りだったんだろ?」


しばし店内を流れる音楽に耳を傾けていた後、ギラムは隣で荷物を降ろしていたヒストリーに声をかけた。



彼もまたグリスンと同じくエリナスであり、普通の人間達には目視されておらず、はたから見ればギラムが独りで女性下着の店前で待機している光景になっている。

周りから視れば何をしているのかと疑問に思う光景だが、実際はそうではないため彼に羞恥心はやってこない。

何の変化も無いいつも通りの表情で、少年を話し相手に誘うのだった。


「ヒストリーにはお父さんとお母さんが居たはずなんだけど、ヒストリーは会った事が無いんだぁ。この世界に行けば見つかるかもしれないって教えてもらって、独りで来たんだぁ。」

「それで、お父さんお母さんには会えたのか。」

「ううん、まだ会えてなぁーい。でもイオルお姉ちゃんが一緒に探してくれるって言ってくれてぇ、ヒストリーも何かしたいなぁーって思った時に、ココへ来る前に教えてもらった『けいやく』って言うのを、してもらったのぉ。」

「そうだったのか。 ……何時か会えると良いな、お父さんとお母さんに。」

「うんっ! 頑張るぅー」


話しかけられた少年は顔を向けながらギラムに返事をし、自分がこの世界へとやって来た経緯を教えてくれた。



グリスンとはまた違った理由からヒストリーはこの世界へとやって来たが、彼とは違い幼い少年にとって、この世界は見慣れない領域であった。

両親を探すために来た世界では自分は誰にも見つけてもらえず、ちょっとした旅気分から、段々と寂しさを覚える世界へと変わっていた。

クーオリアスではどんな生活を送っていたのかは分からないが、彼もまた『目的』のためにやって来ている事をギラムは知るのだった。


寂しくも独りで居た時期が彼にもあり、それが幼い頃に体験した出来事ともなれば、一種のトラウマになりかねないだろうと察していた。

偶然とはいえイオルに出会えた事によって彼は救われ、そして彼女のために何かをしたかったのだろうと思うのだった。

手荷物から数枚のカードとクナイを取り出し見比べている所を見ると、何時でも『遊べる』もとい『戦える』準備が出来ていると理解するのだった。

少年が持ちそうにない物騒なモノが紛れているが、その辺は置いておくとしよう。


「ギラムー おっまたせー」

「おう、良いの見つかったか。」

「うん、あったあったー 視る~?」

「遠慮しとく。次行こうぜ。」

「はーい。」


そんな会話を交わしていると、買い物に出かけていた今の育て親一行が彼等の元へと戻ってきた。

手には店で購入したのであろう品物が入った紙袋が持たれており、下着の店とは思えない可愛らしい装飾が施されていた。

丁度彼女達が両手で抱えられるほどの大きさである、中身は開いて視えない様、大きめのテープが張られていた。


『……そういや最近、お袋の所に行ってないな……… 今度里帰りでもするか。』


次の店へと行く様勧めたギラムは彼女達の後ろを歩きつつ、ふと自分の親の事を思い出すのだった。






次に一行が向かったのは、メアンの所望する『キッチン用品』と『小物』のある店だった。

店内へと向かって行った彼女達に続いて、今度は店内で買い物の様子を見守る事にしたギラムは、ヒストリーを背中に乗せたまま買い物をしていた。

先程の店とは違い今度は店の中まで同行したのは、買い物に夢中になる二人の購入した、下着の詰まった紙袋を持たされたためでもある。

中身は視ようと思えば視えるが、彼はなるべく意識しない様前を向き、二人の様子を見ていた。


買い物を楽しむメアンとイオルは、はたから見れば一般層よりもカワイイ年頃の女の子達にしか視えなかった。

ショッピングを楽しみ、会話を楽しみ、荷物を気にせず時間を楽しむ風景。

店前の騒動が無かったかのように、ありのままの彼女達がその場には有った。



当り前の光景が当たり前に出来ていなかった事を、彼は改めて実感していた。

そんな彼女達を手助けしているのが、今の自分なのだと同時に理解するのだった。


「……メアン、イオル。」

「? どうかしましたか? ギラムさん。」

「どしたのー ギラム。」


ふと当り前が出来ていなかった彼女達に対し、ギラムは声をかけた。

声を耳にした彼女達の視線が自分に集まると、彼は二人に対しこう言った。


「対した事じゃねえが、ちょっと聞いておきたいんだが。お前等、今の時間が楽しいか?」

「うんー 楽しいよー」

「ボクも同意見ですよっ ギラムさん。」

「そっか。悪いな、変なこと聞いて。」

「平気平気ー ……ぁっ、イオルん! アレ、この前テレビでやってたやつだよー」

「えっ、どれですか??」


素朴だが確認したかった事実を告げられ、ギラムは改めて実感していた。


彼女達の出来ない時間の手助けを、今の自分が出来ている。

今の自分は、小さくも当り前な幸せを手助け出来る、存在なのだと………


彼は改めて、理解するのだった。


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