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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第三話・憧れを求める造形体(あこがれをもとめる ゼルレスト)
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02 誘導(ゆうどう)

起床後の身支度と朝食を取り終えたギラムは、寝室へと戻り衣服を選んでいた。

備え付けのクローゼットを開け服を選んでいる所を見ると、どうやら今日は予定がある様子で、普段とは違った服装選びをしている様だ。

仕事をする際に着る服とは違い、今回はオシャレな服を見比べていた。


「今日は何処か行くの? ギラム。」

「あぁ。この前のファッションショーでモデルをやってた、ネットアイドルの二人が居ただろ。あの二人にちょっと呼び出されてな。」

「えっ、あの二人に??」


クローゼット内にしまわれた彼の服達を眺めながら、グリスンは何処へ出かけるのかと質問した。



居候である彼にはギラムのスケジュールを完璧に把握しているわけではなく、個人的に彼の元へとやって来た依頼や用事を完全には理解していない。

元々ギラムが自身の用事を相手に話す事をしない事も含まれるが、グリスン自身もあまり散策しない方が良いであろう領域に、土足で上がるようなことはしたくないのだ。

そのため、ある程度は聞きつつもそれ以上は聞かないという、半ば暗黙の了解が二人の間で出来上がっている様にも思われた。


ギラム自身もそれが有難いためか、必要な時以外はグリスンにも用事を言わないのである。


「どうやら自称アイドルさん達は、コンビで出掛けると周囲の目がいろいろあるらしくてな。ちょうどいいボディガード的な感じで、俺を雇ったのさ。つっても、昼飯くらいの付き合いに等しいがな。」

「んー…そうなのかなぁ。ギラムが気付いてないだけで、実は二人共。ギラムに興味があるのかもよ?」

「俺に? 何故??」

「え、ぇーっと…… んー……… ファンクラブの……勧誘???」

「ないない、ぜってぇねえ。 …まぁでも、珍しい類の奴ではあるのかもな。俺は。」

「そうなの?」


質問に対する返事を返すと、ギラムは選んだ服をベットの上へと置き、着替えを開始した。

寝間着として使用していたハーフパンツと肌着を脱ぎ捨てると、手慣れた様子で白のズボンを履きだした。

サイズが丁度良いのか彼の太腿が太いのか、スッキリとした足元を作りだしていた。

ズボンに合わせて着用するタンクトップは藍色のVネックTシャツ、上着はレザー加工が施された白の布地が合わさった物であり、どうやら上下セットの物のようだ。

茶色の襟元がワンポイントとなりそうな、オシャレな井出達である。


「アイツ等の周りに集まってくる連中は、いわゆる『ヲタク』って奴らしくてさ。実際にアイドルとして活動していない奴等を崇めて、周りに宣伝しようって言うのは良くある話なんじゃないか。俺は良く知らないが。」

「あー… そう言われてみると、確かにギラムとは違ったむさ苦しい男達が居たかも。後ろの方に。」

「そう考えたら、全くノーマークの俺は二人にとっても新鮮な分類に入るってわけさ。俺が言うのも難だが、一応一般人だからな。そっちのジャンルに関しては。」

「そうだね。ギラムはモデルさんの綺麗な『胸』を視るのが好きなわけだし、アイドルじゃなくても良いんだもんね。」

「俺がそれにしか興味がないみたいな言い方をするな。」

「違うの?」

「いや、大体は合ってるが………」


そんなこんなで着替えを済ますと、彼はリビングへと移動し、立て掛けていた鏡の前で姿を見直し始めた。

普段ならばあまり気にしない洋服選びも、こういった時は気を配るのが、彼の良い所である。


「ギラムはどれくらいの胸の人が好きなんだっけ。」

「いや、そこまで細かいこだわりは無いつもりなんだが…… しいて言えば、デカ過ぎ無い胸が良いな。服がパッツンパッツンなのも、目のやり場に困るからな。」

「じゃあ、まな板体系のほうが良い?」

「それもそれでつまらないな。服の上からでも解るくらいにあって、肩幅と合ったサイズの胸が良いんだよな。」

「例えて言うなら『肉まん』くらい?」

「んー、まぁもう少し上乗せして……そんくらいだな。もうちょっとあっても良いが。」


服装を見直し終えた彼は返事を返すと、自分の好きな女性の体系について話し出した。

そこまでのこだわりは無い様にも思えるが、ちょっとした注文やバランスに対するこだわりはある様だ。

大き過ぎず小さ過ぎず、丁度いいと思えるスタイルが良いと、彼は言うのだった。



余談だが、年頃の青年の会話と言って良いモノなのかは、あえて保留にしておこう。


「まぁそんなわけだ。フィルにだけ留守番をさせるのも心配だから、今日は二人で留守番を頼んでいいか。」

「うん、良いよ。行ってらっしゃいギラム。」

「キュッキューイ。」

「おう、行ってきます。」


二人に見送られながら彼はブーツを履くと、そのまま外へと出て行った。

その日の外出は徒歩で出掛け、都内を走る電車に乗って別の駅へと向かって行った。




電車に乗って彼が向かったのは、『ピエルネ駅』と呼ばれる場所だった。

リーヴァリィ都市中央付近から西側へと向かった先にあるその駅には、駅ビルと共に大きなデパートが立っており、若年層を中心に出かけたい場所として選ばれる場所だ。

大きな巨大スクリーンが印象的なデパート『プラクティレイル』が、今回の待ち合わせ場所である。

改札口からすぐの連絡通路で行けるそのデパートは、アリンの務める企業が手がけた洋品店と共に、別の市場から集めた洋服達が購入出来る場所だ。

階数によって品ぞろえが少々異なり、上層階には『スイーツパーラー』もあるため、女子に人気の買い物スポットである。


「…ぇーっと、確か『デカいスクリーンのある真下』っつってたが…… ……あっ。」

待ち合わせの予定となっている場所を探すべく辺りを見渡していた彼は、周辺に人だかりが出来ている事に気が付いた。

そこにはリュックサックを背負った男達と共にカメラを磨く集団の光景があり、体系は細身から太目とバラバラだが、全員が共通して『眼鏡』を付けていたのだった。

雰囲気からして自身とは違った人種である事を彼は悟っていると、不意に彼のセンスミントが着信音を告げ始めた。




ピピピッ ピピピッ!



「ん。 ……知らない番号だな。誰だ?」


通話相手からの連絡を受信した事を伝える音を耳にした彼は、上着ポケットから機器を取り出し画面を見た。

するとそこには身に覚えのない電話番号が表示されており、彼は首を傾げながら画面を操作し、通話を開始した。


「もしもし。」

【ぁっ、ギラムさんですか? 先日お世話になりました、イオルちゃんです。今何処に居ますかっ?】

「あ、あぁ…… 待ち合わせ場所の近くまで来たんだが、妙な人だかりを見つけててな。もうすぐ着くと思うぜ。」

【あ、じゃあもう近くに来てるんですねっ すみませんーボク達が出かけるって事が何処かで嗅ぎつけられちゃったみたいで。 急な予定変更で悪いんですが、今居る『プラクティレイル』の近くに『ブルーメンビーツ公園』があるんでけど、公演のすぐ近くにちっちゃな『駄菓子屋』があるんです。そちらに来てもらっても良いですか?】

「了解、公園近くの駄菓子屋な。探してみるぜ。」

【お手数ですが、よろしくお願いしますっ】


電話の相手は某ネットアイドルの片割れであり、どうやって知り得たのか連絡を送ってくれた様だ。

やって来た電話の主に軽く驚くギラムであったが、目の前の集団を尻目にその場から移動し、彼女達が新たに指定してきた待ち合わせ場所を探そうと、建物前に置かれた周辺地図に目を向けた。


彼の居る建物の周辺は全て車道で区切られているモノの、少し離れた場所に『ブルーメンビーツ公園』という小さな公園がある事が解った。

地図からでは駄菓子屋の存在は確認できなかったものの、彼は目的地へと向かうべく、その場所へと向かって行った。



連絡通路からエスカレータで車道沿いの歩道へと降りた彼は、横断歩道を二度跨ぎ、建物近くにある目的の公園へと辿り着いた。

地図で書かれていたとはいえ小さな公共施設の場所であり、フェンスで囲まれた大きな花壇と共に、幾つかの遊園道具しかないシンプルな公園であった。

園内に入る前で彼は足を止め辺りを見渡すと、公園の右奥前方に駄菓子屋と思わしき古民家を発見し、待ち合わせ場所かどうかを確認しようと歩いて行った。

その時だった。




トコトコッ


「……? ぁっ、あの時のお兄ちゃんだぁー おはよー」

「うぉっ、ビックリした…… おはようさん、ヒストリー」


駄菓子屋へと入ろうとした手前で、古民家から一匹の子狐獣人が出てきた。

見知った相手であった事もあったためか、少年は挨拶をし、嬉しそうに笑みを浮かべていた。

彼の手にはラムネ菓子と思われる袋状のお菓子が握られており、どうやらその場で購入した物の様だった。

突然の少年の登場に軽く驚くギラムであったが、敵ではない事を確認し、すぐに彼の目線に合わせようと膝を曲げ挨拶をした。


挨拶を受けた彼は笑顔で返事を返すと、再び古民家風の駄菓子屋へと移動し、中に居るのであろう保護者を呼びだした。


「イオルお姉ちゃーん、お兄ちゃん来たよぉー」

「ぁっ、ギラムさん来ました??」

「あーっ、ギラムー おっはよー!」


彼の声を耳にした人影はすぐさま駄菓子屋を後にし、軒下で彼に挨拶をし始めた。

彼女達の顔には揃ってオシャレなサングラスをかけており、簡素ではあるが変装で付けてきた様子を見せていた。



本来であれば待ち合わせ場所で交わされるべきやり取りであったのだが、今回は少し異例の事態であったのだろう。

変装をしていても知っている相手であれば見逃さないアイドルの存在ともなれば、人目に付かない静かな場所に待ち合わせ場所を変更するのも無理はない。

人気上昇中のネットアイドルも、外出ともなれば地味に大変なのである。


「まさか人だかりが出来ちゃうとは、思ってもみませんでしたからね。でも、ギラムさんが来てくれれば安心ですっ」

「その件に関しては、今朝までずっと考えてたんだが…… 何で俺なんだ?」

「だって、ギラムは傭兵でしょー? 腕っぷしは強いし、顔は強面だし、ヲタッキー達が視たら近寄らないよー? って思って。」

「おい、一言余計だぞ。」

「それに、ギラムさんはリアナスですからね。初歩港ちゃんも退屈しなくて良いかなーって、思ったんです。いろいろと条件が合致したので、今回お願いしたって事ですよ。安価ですみませんっ! ですけど。」

「あぁ、まぁ依頼料に関しては別に構わないぜ。ただの付き添いみたいなもんだしな。」

「そう言ってもらえて良かったですっ ねぇメアンちゃん。」

「そうだねー イオるん。」


そんな某アイドル達が彼を指名したのは、どうやらボディガード役以外にも好条件が揃っていたからだった様だ。



先日のファッションショーの最中に現れた創憎主を倒すべく行動を行ったギラムは、メアンとイオルにリアナスである事を認知されていた。

彼女達も自身のエリナスと共に戦闘を行い死線を潜り抜けたため、個人的に頼める相手は彼しかいないと判断したのだ。

半ば子連れとも言えるイオルにとってみれば、ヒストリーの話し相手が自分達以外にも居る事が、何よりも安心だった様だ。

自身が無意識に放っている強面の雰囲気も、こういう場では役に立つのであろうと、彼は改めて理解するのだった。


とはいえ、あまり喜ばしくない利用用途のため、釈然としない様子だったのは言うまでもないだろう。


「さっ、そしたら買い物に向かいましょうよっ いつまでもお菓子って言うのは、良くないですからね。」

「そうそうー さぁギラム、アタシ達アイドルをちゃーんとリードして、お店まで連れて行ってね~」

「……ったく、俺は番犬じゃないぞ。ただの傭兵なんだからな?」

「キャーッ、頼もしぃーっ!」

「頼みますよージェントルメンッ♪」


しかし彼の様子は何時までも同じである事は無く、二人に乗せられるがままにその場から移動する事を決めた様だ。

女性に頼られるという事は彼にとっても嬉しい要素であり、一人で行動してきた時間が長かったため、こういった同行は何かと新鮮なのだろう。


右腕にしがみ付く様に楽しく移動するメアンと、左手に触れながらおだてる様に掛け声を放つイオルをエスコートする様に。

彼は二人の依頼を遂行すべく、元来た道を戻って行くのだった。


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