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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第二話・空と大地に祈りし幼龍(そらとだいちに いのりしようりゅう)
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29 反撃(はんげき)

「………何匹増えた所で、仕留める事には変わりない…… ……一匹残らず、始末……よ。」

援軍として参戦したトレランス達率いるギラムは、不安定な足場と化していた鍵盤の上から移動し、近くに浮かぶドラムの上から敵を目視していた。

陽気に満ち溢れる領域内の中で変わる事無く立ち続ける相手は、何処か不安要素を感じずに彼等と戦っている様にも視えた。自身が創りだした世界での敗北を恐れておらず、空間から脱出しようと戦う彼等をあざ笑うかの様に戦いを楽しんでいたのだ。以前、彼が対立した創造主とはまた違った雰囲気を醸し出していた。

そんな敵を目にしていると、相手は言葉を呟き、両手を宙で動かし始めた。すると、空中で漂っていた幾多の楽器達が集まりだし、相手の前で一列に整列した、その時だ。

「……行って。」



ビュンッ!!


敵の言葉を引き金に、楽器達は一斉に彼等目がけて強襲をかけだした。先程とは比べ物にならない勢いで飛んでくる武器達を視ると、彼等はその場から移動し、それぞれが近くの足場へと避難した。すると、獲物をしとめ損ねた武器達は再び空中を浮遊しはじめ、一番近くに立っていたトレランス目がけて襲い掛かった。

「あっ、危ない!!」

「大丈夫、これくらいなら何て事無い!」

グリスンの言葉を聞いたトレランスは武器を手にその場からバク転すると、地面に左手を付け、後方で銃を構え撃つ体制に入った。右手で握りしめていた銃身の長い長銃を左手で添えると、銃口付近に橙色の魔法陣が展開された。その後人差し指でトリガーを引くと、目標目がけて弾丸が撃ち出され、先頭を飛んでいたバイオリンを打ち砕いたのだ。

それから続けて銃口から数発の弾丸が発射され、次々と襲い来る目標を殲滅して行くのだった。

「トレランスさん! 上です!!」

「ん、そう来たか……!」

その後砕かれた楽器の粉塵内から飛び出し、空中から強襲をかけようとするグランドピアノの姿がイオルの目に映った。瞬時に危険を知らせようと声を発すると、彼は目標を目にし、身体を右へと傾け転がる勢いで空中へと身を投げだした。そして空中で背に白き翼を展開すると、彼は再び鍵盤の上へと向かって上昇し、長銃の銃口部分を両手で持ったまま、ピアノに向かって殴りかかったのだ。勢いよく振り落とされた銃身の一撃を受けたピアノは見事に凹み、三本の足では耐え切れず、その場に崩れてしまった。

その後再び長銃を正しく持ち換えると、彼は長銃から機関銃へと持ち替え、空を飛んだまま宙に浮かぶ別の楽器達を撃ち始めた。先程よりも威力が低い機関銃から繰り出される弾丸の雨を受け、楽器達は徐々に身を歪め出し、次々と崩壊して行った。白き翼が天使の様に視えるも、手にした銃器で戦う堕天使の様な存在。それが彼『トレランス』の様だった。


「スゲェな…… 空を飛ぶ事が出来るエリナスが居るなんて、驚きだぜ。アイツ、犬獣人だよな……?」

「うん、僕も噂だけなら聞いた事あるよ。鳥人や竜人達とは違い、神から授かった白き翼で空を飛ぶ事を可能にした、灰色の犬獣人が居るって。」

「……まだまだ俺達の知らない存在達がいるってわけか。」

そんな威厳ある戦い方を披露する彼の姿を目にし、ギラム達は口々に感想を口にした。しかし会話をしたのも束の間、彼等は視線を映し、自身目がけて飛んでくる楽器達と応戦する体制へと入った。

先程よりも足場の広いティンパニの上へと移動した彼は、グリスンを背後に拳銃を手にし、トレランス同様に楽器目がけて弾丸を発射した。戦い方が類似している事もあってか、彼は安定した気持ちで対象を砕いており、一撃で仕留める事が出来ると感じていた。見ず知らずの相手と応戦する時もだが、彼はその場で学習した経験を無駄にすることは無く、有効性の低い攻め方をする事はしない。判断が戦場の状況下にも左右される立ち位置に居た彼にとって、無駄な事は一切せず、経験の無い事に挑戦する場合は自身がその船頭を切る事をする程だ。

ゆえに、一足先に行動を取ってくれている相手の行動はとても頼もしく感じている様だった。

「雑魚は何とかなるが、大物を仕留めるのは骨が折れそうだぜ……! グリスン!!」

「撃ち落とせそうになかったら、蹴っ飛ばせば良いんだよ!! 『ナグド・トルナール』!!」

そんな彼等の元にやって来る次なる対象を見かねて、彼等は理解してる様子で合図を取り合った。

やって来たのは先程よりも大きな『鉄琴』であり、一部を砕いても折れた状態で襲いかねない厄介な相手だった。拳銃では相手に出来ないと感じたギラムの声を聴いたグリスンは、彼の力を上げるべくその場で『バッククロスターン』を踏み、フレーズを奏でた。するとギラムの足元が橙色で輝き始め、彼は煌めきと共に地面を蹴り、そのまま勢いに任せて対象を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた鉄琴は飛ぶ進路を反対へと変えられ、創造主の元へと猛スピードで突進して行った。

不意に視界に入った楽器を目にした創造主は軽くその場で跳ぼうとした時、異変が起こった。

「……っ! と、跳べない……!! キャァアアッ!!」



ガンッ!!


「良いよー、初歩港ちゃんっ!!」

「!?」

相手の動きは何かの力によって阻害され、敵は身体の正面から鉄琴の一撃をもろに受ける事となった。まるで鉄球に飛ばされたかと思われる勢いで背後へと飛ばされると、そこには一人のアイドルの姿が目に移った。立っていたのは狂喜乱舞するイオルと、小さくも笑顔を浮かべるヒストリーの姿だった。

「エヘヘッ、影縫いだよぉー イオルお姉ちゃん達には、怪我をさせないんだもん。」

「ッ…… 狐ッ……!」

「おーっと、ボクの可愛い初歩港ちゃんには指一本触れさせないんだからね? ……いざっ! ボクの必殺技!!」

相手にダメージを与えた事を確信し反撃を予測したのか、彼女は不意に右手を天高く振り上げた。その動きを視た創憎主は慌てて距離を取ろうとするも、先程同様に身体がいう事を聞かず、その場から動けずに居た。

その時だ。

「ファンクラブ・トレイーンッ!!」



ドドドドドド………!


「……!?」

彼女が高らかに叫んだ言葉が空を縫った、その時。何処からともなく騒がしい駆け足が聞こえ始め、彼等の周囲が少しずつ揺れ始めた。足音を耳にした敵は足音がする方向を視て、驚愕を露わにした。

「そんなっ………! 何処からあんなにヒトが……!!」

「ハァーイッ、皆ぁあーーーっ! ボクはココだよーーーっ!」



「「うぉおおおおーーーー!! イオルたぁああああーーーーん!!」」



足音と共にやって来た者、それは先程の会場内で発狂し宗教団体と化していた彼女のファンクラブの男達だったのだ。正確に言うと本人達を模した魔法なのだが、こうなっては些細な説明は不要であろう。大柄かつ汗臭さをまとった男達が連なり彼女を目にした瞬間、何をするかはお察しである。

「やっ、ちょっとっ……!!」

「「イオルたぁああああーーーーん!!!」」



ドガガガガガガガガガッ!!!


「イダダダダダッ!!! 痛い痛い痛い痛いッ!!!」

やって来た集団達の視界に移らない者達は、その足の餌食となる運命なのだ。電車の如くやって来た人々の突撃を受けた敵は地面へと強制的にひれ伏され、猛スピードでイオルの周囲を回り始めた。取り囲まれた彼女は楽し気に手を振り踊り出すと、彼等の速度がどんどん加速していき、威力をどんどん底上げしていくのだった。中々にいたたまれない必殺技である。

「はぁーっ、終わりッ!」



パンッ!


その後敵に致命的な攻撃を与えたと確信したのか、イオルは発生と共に手を叩き、彼等を閑散させだした。音と共に四方八方へと男達が散ると、舞い上がった砂埃でしばし地面が視えない中、彼女はヒストリーと共に地面を見つめていた。しばし見つめ敵の姿を探していると、彼女は突如叫びだした。

「えぇっ、居なーいっ!!」

「何ッ!?」


「やーんっ!! 離してぇーっ!!」

「!! メアン!」

そんな彼等の元に、再び彼女の悲鳴が響いた。

 

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