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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第二話・空と大地に祈りし幼龍(そらとだいちに いのりしようりゅう)
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27 空間魔法(くうかんまほう)

再び彼等の前へと立ちはだかった、真憧士の敵『創憎士(そうぞうし)』 以前とは違う空間領域での戦場空間に、彼等は閉じ込められてしまっていた。相手の得意とする環境で、ギラム達は巻き込まれてしまったメアンとイオルを守るべく、敵と対峙するのだった。



「ギラムー これってどんなCG加工を使ったら出来る事なのー?? アタシにはさっぱりだよ。」

突如出現した空間に運び込まれてしまったメアン達は、見慣れない風景を目の当たりにし感想を口にした。技術の進歩したリーヴァリィに多数存在する機械達を駆使した技術力はさるものながら、瞬時に彼等の居場所さえも変えてしまう現象に理解が追い付かない様だった。一言で言ってしまえば『魔法』であるが、常識人には通用しない言い訳である。

「悪いが、そんな呑気な事を言ってられる状況じゃねぇんだ。……アレはガチの敵で、お前等を殺す勢いで襲い掛かって来るぞ。」

「どういうことですか?」

「……これはあくまで推測だが、ココへ閉じ込められた時に聞こえた声。奴の憎悪を掻き立てる事をした相手を、そのまま消し去ろうとしてるんだ。……それが。」

「ボク達、と言う事ですか。あまり穏やかではないですねっ。」

「めちゃめちゃ、な。」

軽く混乱しながらも平常心を持ち合わせている彼女達を視て、ギラムは平和解決が出来る場では無い事を改めて教え込んだ。

彼女達に視えていないであろうグリスンは愚か、彼等と対立する敵の雰囲気は尋常ではないモノを醸し出している。すでに戦場経験がある彼ならば状況把握も早いが、彼女達にはそのような経験は無い。そのため、しっかりと理解させる必要があるのだ。自分達は今、死ぬかどうかの戦いの場に居る事を。



「………」

そんな彼等を見下ろす様に立ち尽くしていた敵は、静かに身体を左右へと動かしていた。落ち着かない様子の動きとはまた違った揺れ方をする相手は、どうやら以前戦った時の敵と似た行動をしていると思われた。

今回敵として対峙していた相手は、三十代にも満たない若い女性だった。その場に居合わせたメアン達に負けないくらいの可憐な衣装を着こんでいるが、服の色彩は全て自身から放たれたオーラで浸食されたのか、全て漆黒の色へと変わっていた。周囲に吹き荒れない風に靡かれているかの様に、相手の周囲では風が巻き起こっていた。

「おい、創憎士とやら。こんな良く分からない空間に長居するつもりはないんだが、早々に出しては貰えないか?」

「……何故……?」

「そりゃあもちろん、俺達の『現実』が別の場所にあるからだ。お前は何を思ってそうしたのかは理解してないが、殺した所でお前の憎しみとなる根源が完全に途絶える訳じゃない。無駄な事をする必要があるのかどうか、俺は聞きたい。」

「……無駄なんて無い。そこの女共を始末すれば、束の間であれ……アタイに平穏が訪れる…… 一人、また一人と根絶やしにして行けば……やがて周りが皆、アタイの虜になる。」

倒すべき目標を目の当たりにしたギラムは相手に話しかけ、この場から出してくれないかと提案した。自身が巻き込まれたのであれば諦めが付くが、彼としては戦いとは縁のない彼女達を巻き込みたくなかったのだろう。戦う術も持たない女性を、みすみす目の前で殺されることに抵抗がある様だ。だが彼の言葉を聞く様子は無く、相手はフラフラと身体を揺らしながら返答し、手元に数枚の鍵盤を召還した。銀光する板はどうやら『鉄琴』の様子で、相手は板を指の間にそれぞれ挟み、投げる体制を取った。



「そして貴方も、アタイの虜に………なる……!!」



ブンッ!!


相手が言葉を口にした瞬間、敵は動きを見せ鉄琴を投げ放った。空を裂く勢いで鉄琴は飛び交うと、目標であるギラム達目がけて強襲をかけた。

飛来物を目にしたギラムは、手元に拳銃を召還し、物体そのものを砕く勢いで弾丸を発射した。撃たれた弾丸は直線に飛び物体に接触すると、金属音と共に根元を打ち砕き、周囲へと散らばった。粉々に砕かれた鍵盤はキラキラと落下し、空間に溶け込む様に星へと姿を変えて行った。

「えっ、何々! ギラム、どうやったの!?」

「悪いが説明は後回しだ。お前等、死にたくなかったら絶対に身を守り続けろ! 良いな!!」

「う、うんっ!!」

突如目の前で行われた行動に慌てふためくメアンに対し、ギラムは一声を上げ彼女達に命令した。隣に居たイオルは冷静になりながら彼女を宥め、彼の背後で行動を見守る事を選んだ。

「グリスン!!」

「うん! 二人の事は任せて!」


「よっしゃぁあ、よく言った!!」


その後二人を相棒に任せ、彼は再び弾丸を敵目がけて発砲した。飛んでくる弾丸を見かねた敵は左手を軽く動かし、周囲で浮かんでいたトランペットで弾丸を回収した。まるで吸い込まれる勢いで弾丸は回収され、入り組んだ金管の中で暴れる音が周囲に響いた。

「……お返し。」

「!!」

音がしばらく続いたその直後、敵は不意に呟き、左手を前へと向けた。その瞬間、回収された弾丸をお返しすべく楽器から音波が放たれ、波に乗って発砲した弾丸が彼等の元へと襲い掛かった。相手の反撃を見かねたギラムはその場から走り出し、彼女達から離れた位置へと跳び込んだ。跳び込んだ先で鍵盤の上に倒れていたコントラバスを見つけると、彼は楽器を手にし弾丸から身を護るべく、背後に構え盾代わりに使った。

次の瞬間、鍵盤に向けられた弾丸が滝の様に降り注ぎ、彼等を襲った。

「すぅ……… 『ナグド・サヒコール』!!」

飛来物から彼女達を守るべくグリスンは弦を弾くと、ステップを数回踏んだ後、周囲に魔法防壁を展開した。突如現れた白い領域に彼女達は混乱する中、彼はギラムから任された任務を確実に全うしていった。


その後無事に敵の反撃を防ぎ終えると、ギラムは体制を立て直し、盾代わりに使用していた楽器を敵に目がけて投げ放った。同時に武器の銃口を巨大サイズへと変換すると、彼は拳銃から大きな弾丸を撃ち込み、投げた武器の投擲速度を上昇させたのだ。さながら流星の如く速度を上げた武器が猛スピードで敵へと突っ込むと、敵は華麗にその場から跳び立ち、別の場で浮かんで鈴の上へと降り立った。

「……甘い。」



「グリスン!!」

「?」


「『メイル・ストイール』!!」

相手の動きを視た直後、ギラムは策を練っていた様子でグリスンに魔法を放つよう指示した。声を耳にした彼は弦を右手で勢いよく弾き、目の前に大きな火球弾を生成し、相手目がけて放った。すると相手の行動に動きが取れず、炎は鈴ごと敵もろとも包み込み、燃焼させて行った。赤く燃え滾る炎は鈴の素材が何であろうと、遠慮なく燃やし尽くす勢いで火柱を上げだした。

「……やったかな?」


「!! グリスン、前だ!!」

「ぁっ!!」

敵を仕留めたと思い油断をした次の瞬間、グリスンの前に敵が突如襲来した。不意にやって来た相手に武器で防御する体制を取った瞬間、敵は不敵な笑みを浮かべた。

「……残念。」

「えっ……!?」

その後告げられた言葉を耳にした瞬間、彼等の足元に異変が起こった。


彼等の立っていた鍵盤が突如揺れ始め、大きく波打つように動き出したのだ。まるで足場そのものが生きているかのように動き出したのを視て、ギラムは武器を投げ捨て、代わりにロープを手元に生成した。そして手際よく鍵盤の一部を破壊する勢いで持ち上げ、ロープを結び付けやって来る波に備えた。大地震に遭遇した時の様に足場に立つことが出来ず、彼は体制を低くし必死に振り落とされない様しがみ付いた。体験した事のない揺れに飛ばされそうになるも、彼は必死に堪えていた。

「クッ……!! っぶねぇなあっ!!」

「うわぁあああーー!!」

「なっ!? グリスン!!」



ガシッ!!


そんな彼の元に突如悲鳴が聞こえ、彼の前方から押し流された黄色い物体が転がって来る光景が目に移った。転がって来たのは敵の攻撃に対処出来ずに居たグリスンであり、後転したまま転がり落ちる勢いで彼の元へとやってきた。慌ててギラムは手を伸ばし彼の服を掴むと、彼は突如身体の動きが止まった事を確認し、服が引っ張られた方向を目にした。

「!! ギラム!」

「掴まってろ! 落ちるぞ!!」

「う、うんっ!!」



「いやぁあーーー!! 落ちるぅうううーーー!!」

「ギラムーー!!」



「!! しまった!!」

そんな相棒を助けたのも束の間、今度は別の場所で彼を呼ぶ悲鳴が聞こえた。声を耳にした彼等は声の主を探すと、そこには鍵盤から振り落とされてしまったメアンとイオルの姿が視えた。グリスンから離れてしまった瞬間を狙われてしまった様子で、彼女達は地面の視えない宇宙空間で落下していたのだ。

彼女達の叫びに助けに行こうとするギラムであったが、自身の身体を受け止められる空間が見つからず、助けに行く事が出来ずにいた。先程使用したロープで彼女達に捕まってもらう方法も考えたが、どれくらいの勢いで落ちているかもわからない彼女達にたどり着くか、見当もつかなかった。現に彼等が居るのは普通の空間ではなく、物体の落下速度には常識が通用しないのだ。

どうにも手段が浮かばず焦っていた、その時だ。



パキンッ!


「?」

突然、彼女達の向かっていた空間の先で、宇宙空間にひび割れが生じだした。ガラスが割れるかのような音と共に視えた光を目にした瞬間、空間の一部が内側へと弾け飛んだのだ。そして彼女達に向かって、一閃の光が飛んで行った。

「キャッ!!」

「うわぁっ!!」

飛んできた光によって彼女達は救出されると、光はそのまま空間内に浮かぶドラムの上へと飛んで行った。その後ゆっくりと彼女達を下ろすべく光が降り立つと、徐々にその正体を露わにした。

「……! 誰……貴方……!」


「おや、自分の事かな? 広大な宇宙空間を創りだした、造形の創憎士さん。」

「……」

そこに現れた存在、それは背に純白の羽を従えた灰色の犬獣人だった。


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