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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第二話・空と大地に祈りし幼龍(そらとだいちに いのりしようりゅう)
51/302

22 催会場(イベント)

「おーい、まだ支度出来ねえのかー?」

「ま、待ってえ! もうちょっと!!」

「早くしねえと置いてくぞー」

「キュキューッ」

エリナス達の協力の元、無事に自身の力を把握する事に成功したフィルスター当日の夜に疲れて爆睡していた幼い龍は、自信を持った様子で数日後の朝を彼等と共に迎えていた。


今日はギラムが心待ちにしていた、年に四回行われる行事の一部幕。アリンの務める企業で制作した洋服を、メディアと共に一般公開として行われる『ファッションショー』の公開日だ。今回は『夏服主体』と言う事もあってか、彼自身も少々落ち着かない様子を見せていた。

「お、お待たせぇーっ」

「遅いぞグリスン。今日は早く出るからって、昨夜言っただろ?」

「それにしたって早すぎるよっ!? 普段の起床の四時間前じゃん!! 夜明け前に起きるなんて……」

「いや、普通だからな。」

「えぇーっ………」

その日の外出時間に対し、ようやく支度を終えたグリスンはギラムに抗議をし始めた。元より起床時間の早い彼に対し、グリスンはたくさん睡眠をとるため、起きる時間は必然的に遅くなりやすい。そんな相手の都合も考え事前に連絡をしていたとはいえ、彼等が外出しようとしているのは夜明け前の午前三時。それまでに起床と支度を済ませろと言うのだから、昨日は何時に寝れば良いのだろうかという話である。

ちなみに余談ではあるが、先日のギラムは夕食と共に眠っていた。食後の洗い物と湯浴みを済ませると同時に就寝しており、遅刻厳禁の世界に生きてきた彼らしい、きちっとした時間サイクルである。

「ギラムが女の子の夏服が好きって言うのは解ってたけど、まさかここまで気合を入れてくるとは思ってなかったよ……… 洋服もバッチリ決まってるし……」

「ん、そうか? これが普通だぞ。」

「……うん、もう突っ込まないよ。 フィルスターはちゃんと起きてるって言うか、それなら肩で寝られるし……」

「気付いたら俺の隣で寝てたからな、フィルは。 どのみち移動距離があるから、早めに出ないと一般客にまみれるから大変なんだぞ。 この行事は。」

「そうなの?」

遅れて玄関へとやって来たグリスンは外履きに履き替えつつ、夜明け前に外出する理由がある事を教えてくれた。ブーツの留め具を付けながらいそいそと履き替える彼に対し、ギラムはこう説明しだした。

「マスコミや取材記者達もだが、このイベントは一般の参加制限はあれど、自由に入場出来るからな。流行を意識してる女達がこぞって来るから、男の俺が混ざると居心地悪くてさ。」

「でも、ギラムみたいにモデル目当ての男の人も来るんじゃないの?」

「俺が最先端みたいに言うな。 …まぁ事実居るからこそ、男の入場は後回しにされがちなんだ。 痴漢とかも含め、その辺はアリン達企業側の配慮だな。 ……で、俺は招待客って名目で、裏口から入れてもらってるんだ。 混む前に行くのもそのためさ。」

「へぇー やっぱり顔が効くんだね、ギラムは。」

「まあ、そこそこな。」

支度を済ませ廊下へと移動した彼等は、部屋の戸締りをすると同時に廊下を移動しだした。

道中を行き交う人々の居ないマンションは静まり返っており、館内を照らす淡い室内灯のみが存在する時間帯。そんな中を普段と変わらない足取りで移動するギラムを視て、グリスンは改めて彼の企画へ対する想いを知るのだった。


その後、駐輪スペースへと移動したギラムが運んできたバイクに跨り、グリスンは座席に手をかけた。今回はフィルスターも同席する中移動しなくてはならないため、振り落とされない様しっかりと掴んでいた。

「んじゃ、フィルが落ちない様に頼むぜ。」

「うん、任せて。 フィルスターは僕と一緒に移動しようね。」

「キュッ」

肩に乗っていたフィルスターを手にすると、グリスンは自身の右腕で彼を抱き、再度左手で座席を掴みはじめた。その後ゆっくりと背中を倒し背もたれに身体が付くと、彼は合図を送り発進を促した。声を聞いたギラムは合図に返事を返すと、グリップを捻り、ライトを点灯させながらバイクを走らせた。




今回彼等が向かうべき会場があるのは、都市中心部から少し離れた位置に存在する場所だ。街中の道路を走っていたギラムは、途中で進路を変更し、高速道路へと入り込んだ。都市には歩道を歩く人々と並列する車道と共に、一部の遠い場所へと向かう際に使う有料道路が存在する。車道から高度を上げた位置に走る灰色の道路がその正体で在り、一部の道路はビル街近くまで用意され、入り組んだ道の先にある遠い場所へと向かわせてくれるのだ。交通整備を行う信号機も無いため、スムーズに移動が可能であり、車を使用する人々にとても重宝される道路であった。

そんな有料道路へと入り込んだギラムはグリップを強く捻り、先程よりも速いスピードでバイクを走らせていた。車の速度が上がるにつれてやって来る強い風を身体に感じながら、彼は髪を靡かせ、しっかりと前を見つめて走行していた。後方で送迎されるグリスンは体毛を軽く揺らしながら空を見上げると、段々と空の色が明るくなっている事に気が付いた。

夜明け前に走り出した彼は、何時しか夜明けを迎える時間まで走行している事に気付かされた。車道ですれ違う車の数が少ない事に踏まえ、街中で行動する人々の姿が居なかった事も、その感覚がずれる要因だったのかもしれない。徐々に明るさを増していく空を見て、グリスンは自分達を送迎してくれるギラムの体力に、再度驚かされるのであった。


運転手が何時しか道路の出口へと差し掛かり、有料道路を後にしたのは、空が青色に染まった頃。再び一般道へと出た彼等は街中に戻った事を知ると、バイクは速度を落としながら目的地に向かって走り出した。

道路を歩く人々やすれ違う車の数が増えたのを確認し、辺りを見渡す楽しみが増え始めた。抱かれていたフィルスターは周りの景色を目にし瞳を輝かせる中、グリスンは彼と同様に景色を楽しみ、目的地は何処だろうとそれらしい建物を探し始めていた。


それから彼等が目的地に着いたのは、出発してから五時間程した頃だった。




「うし、付いたぜグリスン。フィル。」

「? うわぁ、ココが目的の場所?」

「あぁ。 大きなイベントを開催する時に使われる場所でな、中も広いぜ。」

長い移動距離を走り終えたギラムの声を聞いて、グリスンは両足をゆっくりと地面に下ろしだした。目の前に広がる駐車スペースの先には、白地を基調とした奇妙な建物が彼等を出迎えていた。

丸い球体に幾つもの四角い枠組みが取り付けられたオブジェの下には、三層で出来た広い建物が顕在していた。建物の周りには歩道用と思われる渡り廊下が張られており、とても大きな会場である事が彼にも理解できた。

そんな会場へと到着したギラムはバイクの鍵を抜くと、駐輪場を使用する代金を生産するべく、近くの料金所でお金を支払い始めた。グリスンの腕に掴まっていたフィルスターはそれを見ると、翼を羽ばたかせギラムの右肩へと移動し、尻尾を振りながら辺りを見渡し始めた。

「……キューッ」

「ん、見慣れない場所だから新鮮か? フィル。」

「キュッ キューキキュッ。」

「これからあの中に入って、アリンに挨拶しに行くんだ。 早けりゃモデルの一部も来てる頃だろ。」

「キュッ」

『早過ぎて来てないと思うけどなぁ……』

楽し気にする主人の話を聞いて、フィルスターは返事を返し笑顔を見せていた。主人同様楽しみにしていたとは言い難いが、相手が楽しそうにする気持ちが幼い龍にも伝わったのだろう。尻尾を揺らす速度を速めながら、彼は楽しそうに顔を左右に揺らしていた。

料金の支払いを済ませ荷物の置忘れが無い事を確認すると、三人は建物内へと向かって行った。


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