16 卵捜索(たまごのそうさく)
数日分の食料と消耗品を買い込んだギラム達が帰宅したのは、スーパーを後にしてから1時間経った頃だった。昼前に後にした際の道中を進むスピードが遅かったのも踏まえ、視界が効かなかったが故の補助のため、必然的に歩を緩めるしかなかった。道中を案内してくれたグリスンのおかげで転倒する事は無く、無事に彼は自宅へと戻ることが出来たのであった。
ウィーン………
「ふぅ。 自宅の扉が自動扉で助かったぜ。」
「お疲れ様、ギラム。」
帰宅すると同時に扉のロックを解除すると、彼は安堵する様に感想を口にした。同時に手荷物を一つ一つ玄関先に置き始め、休息を取るかの様に腰に手を当て、身体を少し逸らすのだった。
変わってグリスンはと言うと、荷物を手にすることなく帰宅したため、彼よりは身体面の疲労感は感じていなかった。しかしその分、道中の障害物に気を使っていたため、精神的には少し疲れたのだろう。軽く安堵した様子で一息付いており、すぐに変わらない笑顔を見せていた。
「んじゃま、荷物の片づけをすっかな。」
「そうだね。」
その後すぐさま行動に移るべく、彼は気合を入れなおし廊下へと移動した。
買い込んだ食料品のほとんどは冷蔵庫の中へと片付けられ、一部の保存が効く品は倉庫部屋へと運ばれて行った。日常的に使う可能性があるティッシュペーパーも同様に倉庫部屋へと片付けられ、トイレットペーパーとシャンプー達はバスルームへと持ち込まれた。その後一部を除いて定位置へと品が納められ、片付けも無事に終了となるのだった。
「………ぁ、そいや卵の心配をしてなかったな。 盗難とかは大丈夫だと思ったんだが。」
「ココって丘の上だし、心配なさそうだよ?」
「まあな。 でも、俺みたいにリアナスの素質がある奴には障害じゃないだろうしさ。 念のためな。」
「そっか。」
片付けが終了するも、まだまだ彼には一息つく様子が無かった。次に彼が気にし始めたのは、先日から家に居候する『卵』であり、外出中はギラムのベットを占領しているはずだった。軽く話をしながら二人は寝室へと向かい、扉を開け卵の姿を確認しようとした。
しかし、
「………なっ、卵が居ねえ!!」
「ぇっ、居ないの!?」
外出前まではしっかりと横になっていたはずの卵の姿は無く、掛布団の一部が捲れ、卵の姿だけ行方不明となっていたのだ。確かに卵がその場にあった形が布団に残っているため、本体だけが何処かへ行ってしまったのだろう。慌てたギラムはクローゼット側へと移動し、ベット脇から床に面して卵の捜索を開始した。しかしベット下には卵が入り込んだ形跡は無く、落下して割れてしまった残骸も確認出来なかった。
その後反対側の確認をしようと彼は移動すると、相棒が寝床として使用している羽毛布団の上に、見慣れない彩がある事に気が付いた。カーテンに遮られながらも日の光を浴びるその場所には、雲間に埋もれるかの如く眠る卵の姿があった。時間帯の都合上、卵は直射日光ギリギリの位置で埋もれており、どうやらひとりでに動き出しその場で止まったと思われる光景が出来上がっていた。
「っぶねぇ……… 落ちて割れたのかと思ったぜ………」
「丁度、僕の寝床に落ちたんだね。 日向だけど。」
「あぁ。 ……煮卵に、なってねぇよな。」
「多分………」
だが安心したのも束の間、ギラムは移動してしまった卵の中身を心配し、手に取り耳を卵へと当てた。すると殻の中でコトコトと動く音が聞こえており、心配するに至らない程、元気に動いていた。手にしている両手でも解るほどに振動が伝わっており、もう少しで孵りそうな気配を漂わせていた。
「ぉっ、生きてるな。 良かった良かった。」
「孵りそう?」
「んや、まだ少しかかりそうだな。 そしたら、飯食おうか。 安心したら腹減ったぜ。」
やっと一息付けた様子で、彼は安心しながら両手で卵を抱え出した。卵自身が暴れて落ちない様しっかりと抱えており、彼の腕でしっかりとガードされる様に卵は抱え込まれていた。心なしか『ヘッドロック』を掛けている様にも見えるが、力加減は行っているため割れる心配はない。
「そしたら、今回は僕が作るよ。 今日はギラムが卵番してて。」
「あいよ。 じゃあ頼むぜ、グリスン。」
「任せて。」
そんな彼に対しグリスンは昼飯を作ると言い出し、彼に卵の管理を提案しだした。
食材が買い込まれた事もあるが、彼の部屋では私物に触れられるため、グリスンでも調理が可能なのだ。外と違って部屋の中では触れられる領域と成る理由は不明だが、やはり何処かに境界線の様なモノが存在するのだろう。まだまだ謎が多いエリナスに対し、ギラムは昼食をお願いするのであった。
その後二人はリビングへと移動すると、グリスンはいそいそとキッチンに立ち、張り切る様に腕まくりをする仕草を取りだした。彼なりに気合が入っているという証拠なのかもしれないが、彼は袖のある服を着ていないため、実のところ何も捲ってはいない。調理台の下にしまわれたフライパンを取り出すと、彼は冷蔵庫を開け食材を手にし、料理を開始するのだった。
そんな彼を見たギラムはソファへと腰かけ、卵が落ちない様右足を組み、卵をしっかりと固定する様に足元へと置きだした。適度に動きを見せる卵であったが、彼は卵の頭部に当たる殻の頂点部分を何度か撫で、卵が落ち着ける環境を創った。撫でられた卵は少しずつ気持ちが落ち着いたのか、徐々に動くのを止め、彼の両足に抱えられながら大人しくなるのだった。
『優しくしてやるから、早く孵りな。 卵さんよ。』
【・・・】
心の中でそう呟きながら、彼は優しく愛情を注ぐのであった。




