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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第二話・空と大地に祈りし幼龍(そらとだいちに いのりしようりゅう)
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15 買出(かいだし)

それからしばらくして、銀行での取引を終えた二人は再び外へと出てきた。封筒の中に入れていた資金の全てが彼の口座の中へと入り、身軽になった所で食料品の買い出しへと向かって行った。

「……ったく、視えないからってウロウロすんな。 仮に相手が視えてたら、どうするつもりだったんだ?」

「ご、ごめん……… つい、どんなのかなって気になっちゃって……」

「一応、大事な資産の管理をする都合上、警備は厳重なんだ。 そういう場所では、大人しくしててくれ。 俺もそこまでアドリブは上手くねえからさ。」

「うん、分かった。」

そんな中、資金移動の取引をしていた際のグリスンの行動に注意を促すべく、ギラムは小言を幾つか彼に告げていた。彼と同じくリアナスの人間が、どれくらいリーヴァリィで生活をしているか分からない彼にとって、妙な行動で問題に巻き込まれたくはなかった。ましてや組織ぐるみで何かを言われたとしても、ギラムには証明する事が出来ず、十中八区自分の責任となりかねない。彼の補助をしたいと願っているグリスンにとってその事柄はとても痛手であり、興味本位でウロウロしない様にと付け加えるのだった。

彼からの説教を受けたグリスンは軽く落ち込む様子を見せるも、すぐに表情が戻ったギラムに対し普段通りの返事を返すのだった。こう言う所は、すでに理解している二人なのだろうと思えるやり取りなのであった。



道中での小言をし終えた二人は、その足でショッピングストリートにあるスーパーマーケットへとやって来た。店の入り口には『コフェンティオ』と書かれた看板が立っており、比較的大きなお店であることが見て取れた。

赤と白の外壁が印象的なこのスーパーは、彼等の生活するリーヴァリィを中心に展開する中規模の商品を取り扱うスーパーマーケットだ。中規模と言っても、都内で生活する人々の『食料品』はある程度揃う上、一部の『日用品』も取り扱っているため、何ら支障が無いと言っても過言ではないだろう。だが一部の『高級品』や『こだわりの品』と言ったものはあまり置いておらず、同じ通りにある小さなお店で購入出来るため、比較的仲良く周りの店と付き合いを行っている。元より仲違いが懸念された事が無いわけではないが、今はこうして通り沿いの店としてお店を運営している事に、なんら変わりはないのだ。

またココは彼の通いなれたお店でもあり、食料品は大抵この場で買い揃えているのだ。一部の消耗品である日用品も、例外ではない。


そんな店の入り口に入ると、彼等を最初に出迎えたのは4枚の羽を持った鉄製の回転式フェンスだった。軽く見慣れない防壁を目にしたグリスンは首を傾げ乍ら視ていると、ギラムは慣れた手付きでフェンスを押し、羽の間に上手に身体を入れ、スムーズに店内へと入店していた。彼の様子を見たグリスンはしばしその様子を見た後、不自然に回るのも難だったためか、柵を乗り越え彼の後に続いて行った。

「お前、跳び越えるなよ……」

「だって、回っても不自然だし。 お化けが昼間から居たら、変でしょ?」

「はいはい。」

後からやって来たグリスンの行動を目にしたギラムは呆れながらも、店内入口に置かれていたカートを手にした。そんな彼に対し飄々と彼は答えると、ギラムは肩を竦め、商品が置かれた店内へと入店した。


彼等の先に広がっていた光景、それは証明で明るく照らされた綺麗な店内だった。目の前に広がる青果売場の先には道順と思われる通路が作られており、1つ1つの売り場を見て回れる様になっていた。先ほどの入口を逆走する事は出来ないため、お客のほとんどが一方通行で道を歩いており、商品棚の奥にあると思われるレジの近くに出口があると推測される造りとなっていた。ちなみにこの道順形成をしているのは何処のスーパーも同じであり、彼等の住む街ではマイナーな形式となっていた。

「うわぁ……! いろんな物が置いてある!! 凄い凄い!!」

『言ったそばからはしゃいでるな、アイツ……… ……まぁでも、店内警備が厳重かって言ったらココはそうでもないし、良いか。』

とはいえ目の前に広がる商品の光景に、グリスンがはしゃがない訳はない。いろんな商品を目にしようと近くの売り場へ先行する彼を視て、ギラムは気にせずカートを押し、彼の横を通りながらこう言った。

「ほら、ウロウロすると置いてくぞ。」

「あぁっ、待ってーっ」

まるで彼の飼い主の様に指示を送ると、グリスンは慌ててギラムの後を追い、離れない様に意識しながら商品を視始めた。


まずギラムが手にしたのは、青果売場に置かれた手頃な葉物野菜だった。野菜を食べるのが好きな彼にとって葉物野菜は加工が楽な代物であり、どんな料理にも合うため好んで購入していた。その次に目を付けたのは色とりどりのパプリカであり、幾つか品定めをした後、気に入った幾つかをカートに入れ、次々に別の野菜達も購入していった。

その次に彼等が向かったのは、潮の香漂う鮮魚売場。鮮度の高い1尾売りの青魚を始めとした、刺身や魚の加工品が販売されていた。彼はその中から水に浸かった青魚をトングで手にし、近くに釣り下がっていた袋を手に取り、4尾ほど袋の中へと入れ始めた。次に手にしたのは味付け加工が施されたイカのパックであり、フライパンで簡単に調理が出来ると、フィルムに張られたシールが宣伝効果をもたらしていた。あまり料理に手間を取る事が少ない彼にとって、こう言った味付けの食材は中々に嬉しい物なのだろう。

彼は味の推測をしながらカートの中に商品を入れた後、シーズンオフをしたため安くなっていた貝類も購入し、次の売り場へと向かって行った。

「……ギラムって、お魚捌けるの?」

青魚を購入しようとカートに入れたギラムを視て、グリスンは不思議そうに目を向け質問を口にした。今時生の青魚を購入する若人と言うのは、中々に珍しいと彼自身も考えていた様だ。ましてや事務職の多い都内では不要なスキルに等しく、そんな腕を彼が持っているのかと、軽い期待も込めて訪ねた様にも思えた。

「一応な。 肉ばっか食ってないで魚も食えって、両親によく言われてな。 親父が釣ってきた魚が旨かったからって、御袋に教えてもらったんだ。」

「へぇー、凄いな~ 僕は塩を振って焼き魚にして、そのまま食べるのしか出来ないや。」

「それはそれで美味いけどな。」

購入した生の魚を見たグリスンからのコメントに、ギラムは少し補足を付け加えた。彼が出来る魚の捌き方は一部だけであるものの、基本的な鱗取りから三枚卸しまで、学んだ知識があると教えてくれた。

小さいころから肉料理が大好きだった彼を見かねた両親は、少ない休みを利用して、彼にいろんなことを教えてくれたそうだ。魚の卸し方もその時に教わっており、不器用ながらも包丁でしっかり加工をしたことがあったそうだ。ちなみに初めて下した魚のお造りは、サイズがまちまちだったとの事だ。思い出交じりの経験を聞いて、グリスンは楽しそうに買い物に付き添うのであった。



それからも買い物を続ける彼等のカートは、すでに半分を埋め尽くしかねない商品達がそろっていた。次に立ち寄った精肉売場と乳製品の売場では、大好きな肉と共に朝食用の牛乳を購入した。その後もトイレットペーパーとティッシュペーパーを購入し、シメとしてよく口にする事のある棒状のラムネ菓子を彼は購入した。黄色いパッケージが印象的なラムネ菓子には『ナチュラルデイズ』と書かれており、箱の中央には謎めいた記号と共に雲の絵が印字されていた。どうやら彼の愛用品らしく、幾つかまとめて購入していた。

「………ぁっ、ギラムギラム。」

「ん、どした?」

「僕、アレが食べてみたいな。 買ってもいい?」

「アレ?」

そんな彼が菓子売り場を後にしようとしたその時、グリスンは不意に何かを見つけた様子で声をかけてきた。声を耳にした彼が目を向けた場所には、箱ではなく缶に入った『クッキー』であった。表紙絵として張られていたシールにはファンシーな狼と思われる絵が描かれており、周りにはハートと思わしきイラストがふんだんに描かれていた。普通に考えてギラムが手にしそうにないジャンルの絵であったが、中身は普通のジャムクッキーであり、イチゴとブルーベリーの物が入っていると書かれていた。

「クッキーか。 良いぜ、持ってきな。」

「ぁー……… ゴメン、持てないんだ。」

「あぁ、そうだったな。 了解。」

彼のおねだりに快く了承するギラムであったが、再び彼が一部の品を手にする事が出来ない存在であることを自覚しだした。ついつい忘れがちな事に対し彼は改めて理解すると、自らの手で缶を手にし、カートの中へと投入した。

その後購入する品が無い事を確認し終えると、店の入口奥に位置するレジへとやって来た。

「……そう考えると、買い過ぎか? つい持てると思ってたくさん買っちまったが。」

「うーん………どうなんだろう。 貰える袋がリアナスが作った物だったら行けるんだけど………」

「ま、それはねえだろうし自力で持つさ。 何とかなるだろ。」

「ギラム、逞しい。」

「男はそんなもんさ。」

しかし忘れてかけていた事を思い出したギラムは、改めて投入した商品を持って帰れるかどうかを検討しだした。普段であれば近くに愛車を駐車して一緒に運んでもらっていたが、今回は二人だったため徒歩で来店していた。グリスンが持てるであろうという勝手な思い込みで来たため、彼は購入した商品の量を気にしていなかったのだ。

とはいえ購入した品を何処かへ置いていく気にもならず、彼は自力で持って帰ろうと意気込み、会計を頼んだのだった。平然と大きな買物袋4つ分となった商品達に加え、取っ手の付いた紙類を手にし、ギラムは店の外へとやって来た。


ちなみに余談だが、彼の両手と両腕に袋が4つと、抱える様に持ったペーパー類が顕在するため。必然的に視界が遮られ、前すらも見る事がおぼつかない状態になっているのは、言うまでも無いだろう。

「……… ……ギラム、前見える?」

「まぁ、一部だがな……… ……悪い、代わりに視界の補助頼めるか?」

「うん、任せて。 左に20度くらい傾いて、そのまま30歩歩いたら右に曲がるよ。」

「了解。」

歩けない事はないものの、高い確率で正面衝突が有りえる事もあり、彼はグリスンに道案内を頼む事にした様だ。彼からの頼まれごとを聞いたグリスンは嬉しそうに引き受けると、軽く角度を指示しながら歩数を付け加え、彼の移動する距離の目安を教えてくれた。グリスンからの指示を受けたギラムは指示の通りに体の向きを変えると、歩数を数えながら前へと歩き出し、ゆっくりと自宅へと帰宅するのだった。


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