11 鑑定(かんてい)
突如遭遇した謎の少女とのやり取りを終え、再び目的地へ向かい出したギラム達。背には宝石の詰まったリュックサック、前には両腕で抱えられた大きな生き物の卵。一体何が生まれるのだろうかと、二人は楽しげに話しながら、道中を進んでいた。
「でも、本当に何の卵なんだろうね? こんなに色彩が豊かな卵、僕見たことないよ。」
「俺も初めてだ。 少なくとも、市場で出回るような普通の『卵』じゃないのは確かだな。」
「ニワトリとか、ダチョウとか?」
「あぁ。 ………それに、あの女の子が言ってた言葉も少し気にかかる。 孵した方が良いって事は解ったが、何が生まれるのかさえ解らないんじゃあな。」
「何かヒントくらいは欲しいかったね。」
彼が両腕で抱き込む形で運んでいる謎の卵は、動く気配はなく、まだまだ孵る素振りも見せていない。しかし卵自体は温かく、市販で売られている食用の卵と違い、まるで生みたての様にホカホカとしていたのだ。ゆえに『何かが居る』事だけが解っている状態であり、モノによっては大問題になりかねない物が生まれるのではないか。そんな軽い身震いすら覚える、不思議な卵なのであった。
島の道中を軽く下山しながら、彼等は次の目的地である『役所』へと到着した。初日に宿へと向かう前に立ち寄った場所であり、ココに預けていた『鑑定品』の結果を聞きに来たのだ。
約束の時間にはまだまだ早いモノの、場合によっては出来ているのではないか。
という、淡い期待の元彼等は足を運んできたのだった。
「すいません、先日鑑定を依頼した『ギラム』です。 早いとは思ったんだが、結果報告を聞きに来ました。」
「? あっ、昨日の。 はい、すでに鑑定結果が出ていますよ。」
「ぇっ、出来てたのか? 意外だな、ダメ元だったんだが………」
「昨日は鑑定依頼を出した方が居なかったので、早急に出来たんです。 さっ、大きなリュックサックの中身も手続きしますよ。 どうぞ。」
「あぁ、はいはい。」
役所へと到着した彼等は、入り口付近で処務をこなしていた女性役員に声をかけた。すると彼女は何かを察した様子で質問に答え、彼等が望んでいた情報が出来上がっている事を告げ出した。
軽く鑑定結果が出来ていた事に驚くギラムではあったものの、どうやら仕事が少なく優先的に仕事を進めてもらえていた様だ。帰りの連絡船の手続きもすると言い出したため、彼は手にしていた卵をデスクの上にゆっくりと置き、背負っていたリュックサックを下ろした。大荷物であったためか、下ろした直後に宝石達が音を立てる所を見ると、相当な量を背負っていたのだろうとグリスンは改めて驚くのだった。
「はい、ではお預かりしますね。 本日は、こちらのリュック1点で宜しかったですか?」
「えっ?」
「? どうかしましたか?」
「あぁ、いや。 何でもない……… すまない、少し考え事をな。 それだけだぜ。」
「かしこまりました。 では、2番の控室へどうぞ。」
「解りました。」
しかし彼等が置いた荷物は全て回収されることはなく、先に置いたはずの卵に対し、相手は反応を示すことなくリュックサックだけを回収しだした。それには少し驚く素振りを見せるも、相手からすればよく解らないリアクションだった様子で、彼は慌てて撤回をしつつ手続きを進めてもらう事にした。
不思議そうな顔を向けていた女性役員ではあったものの、彼に部屋の場所を案内すると、すぐさま処務に戻るのだった。それを見た彼はそっと卵を回収し、指示された2番の控室へと向かって行った。
「……その卵、視えてないのかなぁ………?」
「そんな感じ……だったな。 ……本当に何の卵だ………?」
類は友を呼ぶと言うが、不思議は不思議を招くのだろうか。彼等は先程から妙なやり取りをしているのではないかと、小声で話しながら廊下を歩いていた。ギラムの隣を歩くグリスンは元より視える人物が限られる事は理解していたモノの、まさか彼等が手にしている卵さえも視えない物だったとは、夢にも思わないだろう。しかし実際の所は少し経緯が違うため、その辺りの説明は後々話すとしよう。
そんな彼等は指示された部屋へと入室し、初日と同じくソファに腰かけ待機するのであった。
しばし待つ事、数十分。
コンコンッ
「? はい。」
ガチャッ
「お待たせしました、ギラムさん。 昨日はありがとうございました。」
彼等が通された部屋の扉がノックされ、返事と共に扉が開いた。やって来たのは昨日と同じく『シンパシー』と名乗る役員であり、軽く顔馴染みの様子で入室してきた。
「いえ、こちらこそ。 それで、鑑定結果はどうなりましたか?」
「詳細については、まずこちらの書類をお渡しします。 どうぞ。」
「ありがとうございます。」
彼から手渡されたのは書類が入ったクリアファイルであり、彼はテーブル越しに書類を受け取った。書面には様々な成分と思われる名称が書かれ、知っているモノからそうでない物質名がズラリと一覧形式で並んでいた。隣りで見ていたグリスンが不思議そうな顔をする中、ギラムは書類から眼を離し、前を見た。
「ご依頼いただきました物資ですが、鑑定したところ『古の頃から生息する薬草【ガヘイル】』と判明しました。」
「薬草だったのか。 でも、古ってどういう意味だ?」
「実は今回の薬草、数十年前くらいから姿を消していたモノなんです。 薬としての成分は強く、多くの密猟者も現れるくらいの貴重な品でして。 一時期では『絶滅してしまったのではないか』と、こちらでは推測していたほどだったんです。」
「なるほどな。」
役所側の鑑定結果を聞かされ、彼は絶滅していたと思われていた貴重な物資を入手したことを理解した。
元より資源の豊富な島である『ヘルベゲール』ではあるが、採掘途中とはいえ資源が枯渇してゆく現状も後々懸念しなければならないと言われていた。大地から得られる資源はいずれ無くなってしまう物であり、対策を取らなければ絶滅してしまう事も少なくないのだ。今回の薬草もそのうちの1つであり、原産場所である『ヒトゥゼルム』から姿を消してしまった。
しかし今回の発見により『絶滅していなかった』と言う現状が見つかり、いずれは少しずつ発見される様になるのではないかと言う、大きな発見も同時に得られたのだ。その功績を得るのは、仕事の合間に獲得したギラムであり、これからの枯渇しゆく現状の打開策のために、計画が動くやも知れない行動を発揮できたという報告も、同時に得るのだった。
「もし、貴方様が宜しければ。 どうでしょう、貴重な品ゆえ『販売』をしてみてはいかがですか。」
「販売?」
「はい。 古くから伝わるモノなので、今の我々の力では自生させることは難しいでしょう。 貴方様の希望価格で買われる方をお待ちする事を、こちらでは可能です。 きっと未知の薬を開発するための兆しとなるはずです。」
「あぁ、それは名案だな。 そしたら、書類を書くんだったよな? お願いできるか。」
「もちろんです。」
そんな大きな発見を遂げた彼は相手と話し合い、今回見つかった品を次に生かすべく転売することを決めた。例え見つかったとはいえ、その先をしなければただのゴミと化してしまうため、その先の使い道が無い彼は、有効性の高い人々の居る方面に活かそうと思ったようだ。その後販売をする対象を軽く絞った後、彼は販売価格を設定しだした。
彼が作った販売書類は、ヘルベゲール内でのみの販売にしぼり、購入者も『未来の薬開発に携わる者』と書き足し、比較的安価な価格で譲る事を書面した。軽く金額に驚いた様子を見せる役員であったが、それが彼の善意である事を理解した様子で、その値段で次に生かすことを約束してくれた。一方でグリスンはその様子を見守りつつ、彼の代わりに卵を膝に乗せ、終わるのを待っているのだった。
その後書類を書き上げた彼等は役所を後にし、同時に持ち出し許可証を手に港へとやって来た。停車させていたバイクに跨り移動する彼等の先には、行きとは違う連絡船の姿があった。時刻は昼過ぎであり、少し空腹感を抱く時間であった。
「帰りはあれに乗っていくぜ、グリスン。」
「うん。 これでギラムがこの島でするお仕事は、ひとまず終了なんだね。」
「あぁ、そうだぜ。 後はリーヴァリィに帰ってから、アリンの所へこれを持っていくだけだ。 もう少しの辛抱だからな。」
「うん、分かった。」
そんな空腹感を左程感じていない様子で、彼等はバイクと共に乗船し、再び海風を感じながら住処のある都市へと向けて出港するのだった。




