04 現役時代の汚点(げんえきじだいの おてん)
部屋でのやり取りを終えると、すぐさま彼は彼女の誘導に沿って移動し、現場へと向かう準備の整った車に乗車した。治安維持部隊が所有する大型トラックに乗り込み発進すると、すでに交通に乱れが発生し到着までしばしの遅れが予想されそうだった。荷台に乗り込んでいたギラムは運転席を覗けるガラス窓の元へと向かい、前方の混雑具合を確認していた。
「目的地までの道のりは、後どれくらいだ。」
「この混雑予想ですと、普段の時間よりも大幅に遅れが見込まれます。 通常であれば、ものの数分で付く距離です。」
運転席に居た隊員に声を掛け、彼は現状がどうなっているかを確認し、どれくらいの遅れが出ているのかと質問した。問われた隊員は通常時の時間と距離を伝え、現状の混雑具合で車はどれくらい遅れるのかをギラムに伝えた。それを聞いた彼は静かに考え込むと、教えてくれた隊員に礼を言った後荷台に居た隊員達に命令した。
「…となると、一部は走って移動させた方が良いな。 救護班と交通整理班、一部は個々で待機。 残りは俺と現場に向かうぞ!」
「おーっすっ!」
「必要に応じて、近くに居た負傷者は例外なく救助! 問題が発生した時は、すぐに俺に伝えるんだ!」
「いえっさーっ!!」
命令を聞いた隊員達はそれぞれが持つべき荷物を背負うと、後方の安全を確認した後次々と下車し出した。同じ車両に居たサインナも続けて下車し、ギラムは運転席に居た隊員にこれからどうするかをあらかた伝え、このまま目的地に向かうよう指示した。一部残された隊員達には引き続き社内に居る様彼は命令を下し、その中でのリーダーを簡単に決めた後、彼も下車し一部の隊員達と共に目的地へと向かって行った。
彼等が下車したのは、目的地である爆破テロのあった坑道へ入るための場所から数十キロ離れた地点だった。爆破によって上がったであろう煙を目視できる場であったため、彼はすぐに救護班と交通整備班に指示をだし、負傷者の救助と他の公共機関からの支援に備え待機する様言った。その後辺りに怪我人が居ない事を確認しながら彼等は走りだし、目的地へと向かって一直線に進んでいた。
「にしても、爆破テロ何て大規模な事を何でこんな日に… 今日は交通に支障が出る程、乗車率は高くなかったはずだが。」
「愉快犯にしては大分規模が大きい事から、組織絡みの可能性も見て間違いはなさそうです。」
走りながら見た被害状況は左程大きなものでは無く、地下道にのみ被害が及んでる状態である事が分かった。地表の被害はあまり見込めず、道路の一部に陥没やヒビ割れの被害はあるものの、建物には一切被害が無いと言っても間違いはない状態。しかし爆煙によるパニックは予想以上に大きい様子で、住民達の避難が完了するのはまだまだ先と思われた。
「事件捜査は、追々だな。 うし、ココだ。 マスクをしっかり着用して、怪我人を見つけ次第すぐに連れて出るんだ! 要救助者は何人だ!?」
「計7人です!」
「よっしゃあぁ! 行くぞっ!!」
「おーっすっ!!」
その後目的地へと到着し終えた彼等は、有害な物質を吸い込まぬ様マスクをし完全にガードをした後、煙の上がる地下道の中へと入って行った。先導するギラムに続いてサインナが入り、残りの隊員達が大き目のライトで辺りを照らしながら救助者を探し出した。
階段を下りた先にはモクモクと昇り続ける煙が立ち込め、周囲を濃い灰色の煙で覆っていた。体制を低くしながら障害物がない事を確認し、隊員達は進み倒れていた負傷者の1人を発見した。
「発見しました! おーいっ、大丈夫かー!!」
「…」
「返事が無いな。 急いで地上に連れて行くんだ!」
「いえっさーっ!」
倒れていた負傷者に声をかけるも返事がないのを見て、彼は隊員の1人に指示をだし地上へ運び出すよう指示した。その際余計な空気を吸わぬ様口元をガードし安全に運べるようもう1人隊員を付け、負傷者を運んで行った。
その後も1人、また1人と救助者を見つけ隊員達は運び出す為その場を離れて行った。運び終えた隊員が無事に戻り合流をしても、すぐにまた新たな負傷者を見つければ離れる。離れない者は誰もおらず、ただ彼は任務を完全に終えるまでその場を離れるつもりは無かった。
その後サインナも運び出す為彼の下を離れた後、ギラムは救助者を探し続け、地下を走る電車道へとやって来た。そこは改札口付近に比べ濃い煙と共に、薄い黄色の煙が混じって居る事に彼は気付いた。再び体制を低くし慎重に進んで行く中、彼はある物を見つけた。
『…ん? これは…ガス缶、か?』
転がっていたのはペットボトルサイズの円柱のスプレー缶であり、ラベルには『超絶強力殺虫剤』と書かれていた。何故このような物がこんな所に落ちているのだろうかと不審に思った彼は、その缶に亀裂が入っている事に気が付いた。まるで中に何かが入っていたかのような亀裂であり、中身が外へと跳び出したかの様に内側のフィルムが剥き出しになっていた。彼はしばし手に取り観察をしていると、周囲に似たようなスプレー缶が幾つも落ちている事に気が付いた。
『爆破の内容物は、恐らくこれだな… って事は、水素爆発に近い火災。 …でも、妙だな… それなら普通、黄色い煙何て上がらないはずだ。』
落ちていた缶を回収しながら彼は救助者を探し、周囲に立ちこめる煙と火災元であろうスプレー缶に違和感を覚えていた。灰色の煙はどんな物でも燃えさえすれば立ち込めるが、色の付いた煙は『薬品等』が使用されていなければ起こる事は無い。ましてやしばらく時間の経ったホールに未だに立ちこめている煙の正体が、彼には理解出来なかったのだ。
『何だろうな…この違和感。 別で、何かあるみたいだ…』
「准尉!」
しばし缶を見つめながら考えていると、彼が先ほど使用した階段を下ってくる足音が聞こえてきた。声の主は自分と共に突入した隊員達であり、仕事を収め自身に報告しに来たと思い彼は缶を手近な袋の中へと放り込んだ。
「全員運び終え、残り1人と思われる人は自力で脱出したとの報告を受けました!」
「よしっ、じゃあ俺達も引き上げるぞ!」
「いえっさーっ!」
隊員達の報告を聞いて皆脱出した事を聞くと、彼は指示をだし自分達も脱出すると宣言した。その声を聞いて返事をした隊員達は後ろへと振り返り、次々に焦らず階段を昇りだした。彼等の後姿を身ながら、ギラムは袋に詰めた缶へ対する違和感は取り越し苦労だったのだろうと思い直し、彼等に続いて階段を昇りだした。
すると、
<早く… 急ぐんだ…!>
『ぇっ…?』
何処からともなく声の様な音が彼の耳を掠めたその瞬間、事件が起こった。
ドォーーーーンッ・・・!!!
「!? 壁に掴まれっ!!」
「ぅぉぁああっ!!」
彼等の周囲に大きな爆発音が聞こえ、地下道の壁がにわかに揺れ出したのだ。慌てたギラムは瞬時に身を固定出来る物に捕まるよう指示をだし、皆はそれにしたがって手摺やパイプに捕まりだした。しかし1人が掴もうにも掴む物が無く隊員の服を掴んだその瞬間、階段であるがゆえにバランスが取れず転落してしまった。それを見かねたギラムは慌てて右手を伸ばし腕を掴もうとするも、手は空を切り数名の隊員は転がり落ちた。その拍子に、彼は持っていたスプレー缶の詰まった袋も離してしまい、隊員達と共に転がり、周囲に金属音を響かせた。
そして、立て続けに事件が起こった。
ガラガラガラガラガラッ・・・!!
「なっ!? しまったっ!!」
転倒してしまった隊員達を助けようとするも、爆破の揺れによって天井の強度が脆くなり、積載物が頭上から落下してきたのだ。土砂崩れで階段が完全に塞がれてしまい、他の隊員達は慌てて階段を駆け上り彼もまた生き埋めになるまいと駆け上った。階段を皆が駆け上ったと同時に階段は塞がれ、落ちてしまった隊員達を助けるルートが絶たれてしまったのだった。
「なんてことだ…! 他に下へ降りるルートはあるか!?」
「駄目です、もう片方はすでに潰されています! エレベータもありますが、この状態では無理です!」
「チッ!!」
別ルートを隊員達に聞くもすでに無い事を知らされ、彼は急いで瓦礫の山を取り払おうと手で掴み退かし始めた。それを見た隊員達は慌てて彼の行動を止めさせ、早く脱出しなければ自分達も危ないと必死に叫んだ。
「駄目だ…! 例え数人でも、部下達を捨てて行くなんて出来ねえ!!」
「でも准尉! ココから地下への距離がありすぎます!! お一人の素手だけでは、助ける事は!!」
「クッ…そっ!! …」
だがそれでも助けたいと言う彼の気持ちを聞いて、隊員達は彼が一声かけただけで諦めるわけがないと解っていた。しかし彼には死んでもらっては困る上、ましてや無事である自分達も埋もれてしまった隊員達の様になるわけには行かないと考えていたのだ。それを見たサインナは彼の手を静かに止め、そして一言囁いた。
《貴方の思いやりの気持ちは解るけど、今の状態では破滅につながる》 と。
「准尉!!」
「…全員、一旦引くぞ…ッ 急げッ!!」
「いえっさーっ!!」
彼女の言葉を聞いたギラムは唇を噛みつつも全員にそう告げ、その場を離れる事を決断した。それを聞いた隊員達は威勢よく返事をし、出口に向かって猛スピードで駆けて行った。徐々に揺れが酷くなり爆音が聞こえる中、ギラムは心の中で呟いていた。
『俺が無力だったから… 皆を、無事に外に連れ出せなかった…すまない。』
何度も何度も、彼は心の中で残して行ってしまった隊員達に詫びるのだった。