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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第二話・空と大地に祈りし幼龍(そらとだいちに いのりしようりゅう)
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09 握飯(おにぎり)

星空の広がる夜の散歩を終え、眠りについた二人。夜の闇と静寂に包まれた空間が彼等の安眠を保証し、少しずつ時間が流れ出し。

次第に夜の闇が解け始め、再び朝がやって来た。





チュンチュンチュン………


「……ん、んー………」

静かな夜の時間が終わり、朝靄と共にやってくる小鳥達のさえずり。声を耳にし目が覚めたギラムは、軽くうなり声を上げながら目を開け、薄日を感じ身体を起こした。軽く寝癖の付いた髪を手串で無造作に直しつつ、彼は隣に敷かれた布団に目をやった。

「スゥ―……… スゥ―………」

するとそこには、健康的な寝息を立てて眠るグリスンの姿が映った。未だに夢の中に居る様子で、見慣れた顔ではあるが幼そうな虎の表情を、彼は目の当たりにした。

その後視界で捉えられる景色を確認し、特に変わったところが無い事を確認すると、彼は羽織っていた浴衣の乱れを直しつつ、その場に胡坐をかいて座った。

『さて、今日中には依頼を終えてリーヴァリィには戻れるな。 アリンの所に依頼品を届けたら、そのままの足で買い出しにも行くとするか………』

少し眠気の残る脳を起こそうと、彼はぼんやりと部屋に飾られた掛け軸を見つめながら、その日のスケジュールを確認していた。



昨日から自身の依頼がどんなものかを教えるために、築港岬『ヘルベゲール』へと訪れたギラムとグリスン。軽く危機感はあれど無事に依頼を1つ終える事に成功し、時間のかかる鑑定や交渉相手との連絡を置いたため、2日間に渡る旅路となっていた。島に存在する宿で一泊した彼は、向かう場所の検討を着けながら、大きな欠伸をギラムは1つした。

その後、かすかに聞こえてくる温泉の流れる音を耳にしだした。

『グリスンはまだ寝てるし、朝風呂でもすっかな。』

静かに流れる温泉の音を耳にした彼は、その場に立ち上がり軽く肩を回し出した。あくまで豪快には回さず、隣で眠る相手を起こさないよう、最低限のストレッチをしていた。身体を動かし気分を入れ替えると、彼は朝食までの時間がある事を携帯で確認したのち、昨夜に干しておいたタオルを手に朝風呂へと向かって行った。


朝靄と共にやってくる湯煙で軽く視界が遮られる中、彼は身に纏っていた浴衣を脱ぎ、手にしていたタオルと共に洗い場へと向かった。軽く髪を湿らせる様にシャワーを浴び、備え付けのボディソープで身体を洗いだした。少しずつ彼の肉体が泡で隠れながら綺麗にしていくと、再び温水で泡を流し、静かに湯船の中へと入って行った。

「………ハァ。 朝風呂はやっぱ良いな。」

綺麗になった身体で浴びる温泉の心地よさを感じながら、彼は小声で感想を漏らした。近くを飛び交っているであろう小鳥達の影を軽く目で追いながら、彼は空を見上げ、徐々に晴れていく空の様子を見た。

太陽の光を浴びた靄達は徐々に温められ、漂っていた水蒸気は少しずつ姿を消し、彼の視界を広げて行く。顔を出した青空を彼は目の当たりにし、飛んで行く鳥達と共に雲の様子を見て、その日の天気を軽く推測しだした。

「ん、今日も晴れだな。 良い事がありそうだ。」

漂う雲の少なさを目の当たりにした彼は、その日の天気を『晴れ』だと決め、気持ちのいい朝がやって来たと感じるのだった。

その後湯船から上がった彼は、筋肉で盛り上がった身体に付いた水滴をタオルで拭きつつ、再び部屋へと戻って行った。



「ぁっ、おはようギラム。」

「おはようさん、グリスン。」

朝風呂を済ませ部屋へと戻ると、目を覚まし布団を片付けるグリスンの姿があった。元々1人の名義で宿泊している彼の部屋に布団が2つあっては不自然であり、彼の宿泊に疑惑が残らない様にと、彼なりに考えての行動だった様だ。その証拠に、つい先ほどまで身に着けていた浴衣も綺麗に纏められ、ギラムが二度着替えたかのような雰囲気を醸し出しているが、ココで予断を挟もう。

リヴァナラスに存在する物質に干渉出来ないエリナスの彼だが、真憧士(まどうし)となったリアナスが触れた物に対して、彼は干渉することが出来る事を昨晩知る機会があったのだ。行動を共にしていたギラムですら同じタイミングで知ったためなのか、グリスン自身も触れられるモノの境界線を左程理解していない様だった。

「しっかし、人間の作った物に触れられないのかと思いきや。 真憧士となった俺の干渉があれば、グリスンも触れられるとはな。 ありがとさん、浴衣にまで気を使ってくれてさ。」

「ううん、気にしないで。 僕はギラムのお仕事を知るためについて来たんだし、これくらい出来ないとね。 いろいろと出来る事と出来ない事を、少しずつ理解していくよ。」

「あぁ、了解。」

布団を片付け終えたグリスンは上着を羽織りつつ、支度が出来た事をアピールしだした。昨夜の温泉のおかげか、今日の彼の毛並みは少しツヤがあり、柔らかい産毛の様な雰囲気を醸し出していた。実際に触れるとフワフワとした体毛を持つ彼だが、今日は一段と柔らかそうである。

そんな彼を見たギラムも同様に私服へと着替え出し、来ていた浴衣を纏めていた場所へと片付けた。同時に先に片付けていたグリスンの浴衣に目をやると、異文化の差なのか、何故か結び紐が蝶々結びになっていた。軽い子供のいたずらの様だが、しっかりとまとまっている所を見ると、普通のまとめ方の様にも思えた。

「んじゃ、朝飯を貰って出かけようか。 グリスン。」

「ぁっ、朝ご飯はお部屋じゃないんだね?」

「朝早くに出る傭兵も、中には居るからな。 基本弁当形式の物を用意してくれてるんだ。 この宿は。」

「そうなんだ。」

その後自身が持ち込んだ手荷物を手にし、二人は宿を後にした。



フロントで宿代の清算と共に朝食を貰った彼等は、愛車のザントルスと共にふもとの集落へと向かって歩き出した。道中を歩きながら2人はおにぎりを口にし、涼しげな朝の風を感じながら朝食を満喫していた。

彼等の口に広がる味は、宿の雰囲気に合った懐かしくも塩味の聞いたおにぎりであった。

「なんだか不思議な味だね、このおにぎり。」

「あぁ。 シンプルな塩むすびなんだが、なんでか無性に食いたくなる味なんだよな。」

「もしかして、ギラムみたいにリアナスの人が作ってたりしてね。」

「まさか。 あの宿には。グリスンみたいな獣人の姿はなかったぜ。」

「あぁ、そっか。」

そんな他愛もない会話を楽しみながら、彼等は朝食を取り終え、依頼所の駐輪スペースにバイクを停車させた。その後彼はセンスミントを取り出し、ある場所へ連絡を取り出した。




ルルルッ ルルルッ………


「……… ………」



ガチャッ


《ふゎーぃ………もしもし………》

「ぁっ、もしもし。 おはようさん。 昨日依頼を請け負ったギラムだが、今大丈夫か?」

《ギラム………? ……ぁっ、昨日の!! お、おはようございますっ! お元気そうで!》

「また変わった挨拶文句だな……… その様子だと、まだ寝てたみたいだな。 起こして済まないな。」

《いぃえっ、そんなことないですっ……!》

彼が連絡を取った相手、それは先日依頼を請け負った『女性同業者』の内の1人だった。彼等とは違い遅めの起床予定だったらしく、軽く寝起きの返答を貰い、彼は苦笑しつつも彼女にモーニングコールをするのだった。やり取りを横で見ていたグリスンはニコニコしながら彼を見ており、電話での彼のやり取りの様子を楽しんでいる様子だった。



そんなやり取りをし終え、約1時間が経過した頃。


「……ぉっ、お待たせしましたっ……… おはようございます。」

「おはようさん。」

電話を受けた女性同業者の1人が。¥、彼の元に駆け足でやってきた。軽く息切れしながらも挨拶をしており、様子を見たギラムは笑顔で返事を返しつつ、彼女が背負っていたリュックサックを視ながら、顔色を気にしていた。

「き、昨日はありがとうございました。 依頼所のおじさんから話は聞いてて、貴方がお仕事をしてくれたって。 これは、あの時の依頼のお礼品です。 お受け取りください。」

「こんなに採れたのか? 重かっただろ。」

「いえ、私は基本データ収集が主なので。 持っていたのは、相方の子達なんです。 今日はあの子達がまだ寝てたいって事だったので、一人で。」

「そうだったのか。 ありがとさん、急いで来てくれて。」

「い、いえっ………」

軽く照れながらもリュックを下ろした彼女はそういいつつ、彼に依頼品の詰まったリュックを手渡した。リュック自体はそこまで大きい物ではなく、大きな西瓜が一玉入るくらいの黄色くも丸い物だった。しかし重量自体は宝石のため重く、華奢そうな彼女が一生懸命持って来てくれたのだと思い、彼は相手の健気さを感じるのだった。そんな彼女からの報酬を受け取った彼は軽く手を振りながら見送り、リュックを背負いその場を後にした。




「次は何処行くの? ギラム。」

依頼品の取引を後にした彼は、その足で別の場所へと向かうべく徒歩で移動を開始しだした。隣りを付き添うグリスンは何処へ行くのだろうかと首を傾げながら、彼に問いかけた。

「次は鑑定を依頼した、役所だな。 宝石の持ち出しの為の許可も貰わないといけないし、早ければ鑑定ももう済んでるだろうからな。」

「ぁっ、じゃあ早ければ午後には帰れるんだね。 お仕事早いなー、ギラムは。」

「褒めても何も出ないぞ。 饅頭買ったしな。」

「えへへ、バレちゃった。」

道中を他愛もない会話で楽しく移動出来ているためか、先程から2人の笑顔は絶える事が無かった。すでに仲の良い友人同士の様なやり取りをしており、住む世界の違う存在達とは思えないほどに、壁を感じられなかった。

契約を交わし共に行動をするだけのリアナスとエリナスの彼等だが、人と同じように感情や言葉を持っている。ギラム自身があまり社交的ではない事と共に、友人がそこまで多くないためか、彼の様に親しく話せる相手は中々楽しいのだろう。根は優しい青年のためか、グリスンにも出会い当初の動揺は一切見られず、とても楽しそうに話をしていた。

その時だった。




「ねぇ、そこのお兄ちゃん。」

「?」

役所へと移動するための道中を歩いていると、彼等の後方から声が飛んできた。誰の声だろうと思い2人は振り返ると、そこには通り過ぎた一本の樹が立つだけの景色が広がり、人の姿はない。

かと思われた、その時だ。



チャリンッ


「ん?」

彼等の見ていた景色の一方から、金属が擦れる様な音が響き渡ったのだ。音のした方角は樹の立つ場所であり、その陰から桃色の布地が揺れる姿が見え、そこから顔を出し彼等を見る影が映った。ギラムと同じく金髪だが、肌色は薄く人形の様な肌をした、少女の姿だった。


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