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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第二話・空と大地に祈りし幼龍(そらとだいちに いのりしようりゅう)
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03 送迎(そうげい)

本来の職業である『傭兵』の仕事を、行おうとしていた彼等の元に舞い込んできた依頼。それは彼の知り合いである令嬢からの依頼であり、近日行われる『ファッションショー』で使用する宝飾品を探してきてほしいという事だった。備品を造る際に使用する素材が足りず、急遽集めることとなった際に彼の元へと飛び込んできた依頼と言ったほうがいいだろう。

傭兵である彼等の元へ飛び込んでくる依頼は、人々の悩みや頼みを聞いていくことがほとんどだ。ゆえに、個人の力で『人の役に立つ』事を知れるためか、今のギラムにとって一番楽しい仕事のようだった。


そんな彼等が向かおうとしていた場所、それは現代都市『リーヴァリィ』から離れた大きな島にあった。都市の境目となる国境を仕事で通過し、愛車であるバイクに揺られて進む事、小一時間。荒れ地の続いていた彼らの目の前に、青く澄み渡る広大な海が姿を現した。

今回の目的地である築港岬『ヘルベゲール』へ向かうには、これから『連絡船』に乗る必要がある。一日に数便の少ない船ではあったものの、今回は例外であり、彼らは連絡船乗り場ではない場所へと向かって行った。

「ぇーっと、確かこの辺りだったな………」

「? 何を探してる」



「失礼。 軍事会社セルべトルガ所属の傭兵『ギラム・ギクワ』さんでよろしかったでしょうか。」

「ん?」

バイクを下車し手で押していた彼は、グリスンからの問いかけを耳にしながらあるモノを探していた。そんな彼らの元にやってきた1つの声を耳にし、彼らは声のした方角へと視線を向けた。

彼等の視線の先に居たのはスーツを纏った青年であり、声の主は律儀にお辞儀をしつつ顔を上げた。

「今回はご依頼を受けていただき、ありがとうございます。 お嬢様からのご依頼へ対する助力として、行きの連絡船をご用意しております。」

「あぁ、アリンから聞いてるぜ。 早速だが、頼めるか。」

「もちろんでございます。」

どうやら依頼主であるアリンの使いらしく、彼等を待っていた事を告げられた。

今回の依頼は時間を要するためか、依頼主側からも送迎船へ対する手配をしてくれることとなっており、彼はそのための船を探していたのだ。突如現れた紳士とのやり取りを目の当たりにし、グリスンは呆気にとられつつも、彼と共に用意された船へと乗り込んだ。

停泊して彼等を待っていたのは白く大きな自家用船であり、彼の使用していたバイクを簡単に乗せられるほどの大きなものだった。船の壁には『ルビウス・リアングループ』のロゴと思われる絵も描かれており、とても大きな企業からの依頼だという事が一目で解るものであった。白く大きな船にバイクと共に乗り込むと、彼等は海風にそよがれ、築港岬『ヘルベゲール』へと向かって行った。




「ねぇギラム。」

「ん、何だ。」

乗り込んだ船のバルコニー部分で目的地への到着を待ちつつ、グリスンは隣で海を眺めていたギラムに声をかけた。普段の連絡船とは違い人気のない周辺では、左程気にすることなく会話ができると彼は思ったようだった。

「僕、これからギラムの仕事に付き添うんだよね。 まだこの街に来たばかりだから、何も知らないんだけど………ギラムは、依頼を受けたらどんなお仕事もするの?」

「まぁ、大体はな。 依頼によっては俺も拒否したり渋ったりすることもあるが、大体の依頼は何でも引き受けてるぜ。」

「へぇー、そうなんだ。」

彼が気になっていた事、それはこれから行うであろう『彼の仕事』についてだった。一言で傭兵とはいえ、依頼主からの依頼は様々な物が存在し、資材の採取から自身の腕を要求するものなど、多種多様なものがあった。モノによっては少し暗躍するであろう物もある中、彼は比較的ライトであり、自身の体力でこなせるものを行っていた。目的地として指定した島には、そんな依頼が沢山集まっており、日替わりでいろんな依頼が集まっているため、彼にとっても都合がいい場所のようだった。

「そういえば、お父さんとお母さん………? 家族は、居ないの?」

「家族?」

「うん。 僕にはそういう感覚は良く分からないんだけど、リーヴァリィの外を見てたら、いろんな年代の人達が一緒に暮らしてた。 ギラムみたいに独り暮らしの人も居たけれど、別の年代層の人と一緒に時間を過ごす時も見て来たから。 ギラムのお父さんとお母さんは、どんな人かなって。」

「母親は、都心のリーヴァリィには居ないんだ。 俺の生まれ故郷の田舎で、今は1人で住んでるぜ。 父親は…… この世界には、もう居ないんだ。」

「居ない………?」

そんな他者からの依頼を受ける彼の生き方を知った後、グリスンは彼についての質問を投げかけた。

都心内のアパートで独り暮らしをしていた彼には、その場で見かけた人々のように『家族』は居るのだろうか。彼が今の仕事を選んだ理由はよく解らないものの、彼の事は色々と知っておくべきだと考えたのだろう。グリスンからの問いかけに対し、ギラムは軽く説明しつつこう言った。

「俺と同じように、自由に等しいけれど過酷な仕事を幾つも受けててな。 仕事のしすぎで、身体を壊しちまったんだ。 俺が小さい時だから、大分昔に思えてくるぜ。」

「……… ごめん………」

「何で謝るんだ? グリスンは何も悪くないだろ。」

「う、うん…… ………」

この時間軸には自身の父親が生きていない理由を教えてもらうも、グリスンは少し困った表情を見せていた。本来であれば思い出話として、楽しい部分も楽しくない部分もあると思っていたが、暗い部分が多いとは思ってもみなかったのだろう。話題の振り方を間違えたと思ったらしく、グリスンは耳と尻尾を足れさせ、落ち込んでいる様子を見せていた。

先程まで笑顔を見せていたこともあり、ギラムもすぐに彼の様子が違うことを悟り、こう言葉を続けた。

「……… でもな、グリスン。 父親は確かにこの世界には居ないが、完全に居なくなったわけじゃあないんだぜ。」

「ぇっ………?」

「コレだ。」

そんな彼の気分を戻すように、ギラムは腰に備え付けていたモノを相手に見せた。

彼が見せてくれたのは、今日出かける際に装着していた1つの小剣。装飾が施された銀の短剣は革製の手作りケースに入れられており、同じ素材のベルトで腰に装着されていた。簡単に言ってしまえば、護身用の小剣である。

「それ、今朝付けてた………」

「コレ、俺の父親の形見なんだ。 仕事先で見つけた時に気に入って、それを愛用してたって話だ。 今は俺が似た仕事をしてるからって、母親が送って来てくれたんだぜ。 『家にあっても仕方がない』ってな。」

「そうなんだ……… ねぇ、それ……見ても良い?」

「良いぜ。」

彼の表情が少し戻ったのを視て、彼は金具を外し小剣を手にした。厚くも薄い刃先は陽の光を浴びて鈍く輝いており、持ち手の先には『龍』と思われる彫刻が施されたアクセントが付いていた。少し刃先が反り返っている所を視ると、本当に護身用であり普段使用するための物ではない事が解る品であった。

「ドラゴン………?」

「何か正式名称があったらしいんだが、良く覚えてなくてな。 自宅の端末にそのメールが入ってるから、帰ったら見てやるよ。」

「うん。 ………そっか、ギラムは龍に好かれてるんだね。」

「好かれてるって言うのか………? コレって。」

「んー あくまで僕の考えになっちゃうけれど、ギラムのクローバーは龍をモチーフにした金具。 ギラムの持っている物も龍の小剣だし、雰囲気も……… ……うん。 本当に、龍に好かれてるって思うんだ。」

「そう………なのか。」

見せてもらった小剣を見ながら、グリスンは抱いた印象を言葉にして伝えた。彼の持つ武器とクローバー、そして彼が纏う雰囲気に対して思ったこと。それは彼が『龍に好かれている』という部分であり、単純に趣味と言えば趣味かもしれない部分で、彼が感じた事を教えてくれた。

しかしギラムからすれば、ただの趣味であり必然的に携帯しているモノと言えるため、あまりピンとは来ていない様子だった。

「コレは僕の知ってる知識なんだけどね。 この世界の存在が龍に好かれるとね、苦労や切欠に対する選択が多く来る分、周りからの援助が無意識の内に来てくれるんだって。 守護龍(しゅごりゅう)って言った方が、多分聞きなれてるかもしれないね。」

「守護神とかなら聞いた事あるが……… 龍も居るのか?」

「うん。 神様よりももっと上で、とっても凄い力を持ってるんだよ。 僕達の中でも知ってる人はとっても少ないから、本当にその加護を受けてる人は、普通とはすごく違うんだって。」

「なるほどな。」 

そんな彼に対し、グリスンは抱いた事へ対する説明をしてくれた。世界には自分達と同じく眼には見えない存在達が幾多も住んでおり、その中には偉大な力を持つ存在達も多数住んでいる。中には彼の事を好いているであろう『龍神』も何処かに居て、彼の事を見守っているかもしれないと言っていた。


普通の存在には一切干渉することのない偉大な相手が、自分の事を見てくれている。


そう聞いたギラムは少し不思議な感覚に陥るも、静かに感想を漏らした。

「龍、か……… ……何か聞いてみると、凄くわくわくするな。」

「ワクワク?」

「童心って言うか、そういう好奇心だな。 俺も龍は嫌いじゃないから、そう言うのが仮に居たとしたら……… 俺の知らない様な事柄を、平気でやっちまうんじゃないかって思うんだ。 今の俺は人間であって、真憧士だ。 大き過ぎない範囲で、やってみたいぜ。」

「うん。 じゃあ僕は、そのワクワクが大きくなり過ぎないように頑張らないとね。 ギラムは何時だって、憧れに成れる存在なんだよ。」

「あぁ、そうだな。」

そんな他愛もない話を交わしていると、船は徐々に目的地の島へと接近し、彼らの送迎を終えようとしていた。目視できるほどに近づいた島を目の当たりにし、2人はこれからの旅路に対し、気合を入れるのだった。


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