11 烏合を統合させた長
クーオリアス内での創憎主の発生報告をキリエとリズルトが受けていた、少し前の時間軸。現地である現代都市リーヴァリィの都市中央駅近辺に存在するショッピングストリートを歩いていたギラム達はと言うと、その現象を真っ向から受ける形と成り、突如として謎の空間へと引き込まれてしまっていたのだった。
「!! ギラム、アレ!!」
「?」
周囲の空気に違和感を感じていたギラムの創誓獣『ラギア』が辺りを警戒していたその時、最初に異変に気付いたグリスンが眼にしたものを視て声を上げた時の事だ。彼が眼にしたモノは現代都市内では殆ど見かける事は無いものの、浮かんでいれば即座に幾多の人々の目につくであろう『アドバルーン』の姿。
過去に一度だけ彼等も目にした事のある代物であったが、その時の物とは色が異なっており赤色と青色の二色で構成されていた。
しかしその浮遊物体そのものを目にしたのはほんの一瞬の出来事であり、彼等が気付いた時には周囲の環境が突如として変化しており、辺りに有った建物達は姿を消し『見世物小屋』の様なサーカステントに姿が変わっていたのだった。
正確には『消えた』のではなく『差し替えられた』と言う表現の方が正しいのだろう、彼等の後ろには通って来たショッピングストリートの並びと同じ様にテントが幾多も建てられており、色とりどりの賑やかな造りに成っていたのだ。
「……コレって、何時ぞやの創憎主達と応戦した時の『空間魔法』そのものじゃねえか……! 何で急に……」
《此の空間を創り出した者、その者が創憎主に成ったからだろう。》
「創憎主に……成った……?」
「ど、どういう事なの……? ラギア。」
何の前触れも無く自らが立っていた世界が変化してしまった事に驚くギラム達とは対照的に、目の前の光景に理解を示すかのようにラギアは言葉を放っていた。しかし先程まで見せていた前身だけの氷龍の姿は其処には無く、気付けば自らの意志で空間から抜け出しており、周囲からやって来る光を吸収し美しく輝く氷の鱗で覆われた全身でギラムの周囲を漂っており、完全に臨戦態勢を取っている状態が見て取れた。
そして瞬時に何かを感じ取ったのだろう、頬から生える細長い髭を靡かせながらある一方に向かって首を旋回し、彼等に危機感を示す様に小さくも豪風に似た低い唸り声を上げだした。
《……狂いし者から創り出されしモノ達…… 汝、構えろ……!》
「!! キキキュッ!!」
バシュンッ!!
「「!?」」
氷龍がそう叫びフィルスターが何かを察して声をあげた、まさにその瞬間だった。周囲の見世物小屋の入口と思わしき場の入口が一斉に展開され、中から数多の猛き獣達が彼等目掛けて襲い掛かって来たのだ。
不意打ちに等しき襲来を目にしたギラムは突然の事に驚きつつも、龍達の声を聞き近くに立っていたグリスンを右腕で強引に身体ごと引き寄せ、幾多の鋭い爪からの攻撃から逃げる様に地面に転がり込んだ。自らの意志に反して身体が動いた事にグリスンが驚くも、先程まで自身が立っていた位置に沢山の爪痕が刻まれた事を視て、背筋が凍る感覚を覚えつつ体制を立て直し、手元に武器を召喚しだした。
同様にギラムもまた右手を動かし拳銃を召喚すると、相手との距離を取る様に威嚇射撃を開始し、転倒前に自身から離脱したフィルスターも合流し氷の吐息で応戦する様に行動を取り出したのだった。
それによって奇襲も失敗し追撃も難しいと判断したのだろう、襲い掛かって来た獣達は一度後退するようにジリジリと後ろに下がり出し、相手の隙を伺う様に低い唸り声を上げだした。よく見ると襲い掛かって来た動物達はどれも獰猛と称されるモノ達ばかりであり、豹や闘牛を始めとした四足の動物達が、大小様々な姿で彼等に目を光らせていたのだ。
しかし瞳の色は全固体共通して『紫色』をしており、とても怪しい視線を彼等に送っていた。
「す、凄い数……! 何処からこんなに!?」
《先の戦で創憎主に染まりし者達は皆、汝の手によって壊滅したに等しい。故に此の世界に汝等の言う『創憎主』と呼べる領域の者達は、皆汝に屈している。》
「元ザグレ教団員で力が残ってる可能性のある連中って言ったら…… シーナ達と……イロニックか……?」
「で、でも……あの人達は、ギラムと和解してるんでしょ? イロニックって人は、僕はよく知らないけど……」
「あぁ。……つっても、イロニックが持ってたクローバーはライゼからサインナの手に渡ってるはずだから、魔法自体は使えないはずだ。……他にリーヴァリィで俺と同じリアナスって言ったら……」
《グルルルル………》
「「!」」
相手の出方を窺がう様に両者共に様子を見ていたその時、彼等の居る環境を覆すかのように現れる一匹の猛き獣の声が轟き出した。声を聞いた幾多の獣達は道を空けるかのように左右に分かれだし、開いた道から一匹の大柄な雄の獅子が静かに歩み寄り、一定の距離で立ち止まり彼等を睨むように目を光らせていたのだ。
口元には得物に飢えているのだろうか、鋭い牙が見え隠れするなか静かに涎が床に零れ落ちているのだった。
「えっ!! ライオン!?」
「……ただのライオンって訳じゃなさそうだぞ……グリスン!」
「!!」
新手の参入に驚くグリスンではあったが、それ以上にギラムは何かに気付いたのか別の危機感を覚えていた様だ。それもそのはず、やって来た獅子が道を空けるに鳴き声で指示を出した事に加え、猛獣達がそれに従うかのように同時に同じ行動をとった事で、一つの答えが導き出されたのだ。
〔連中を統率するだけの知性を持ち得るモノが現れた〕と。
『この状況はマズいな…… 数だけでも防げるかどうか怪しいって言うのに、統率何か取られたら……!!』
《ガァアアーーー!!》
「!!」
突如現れた獅子の存在意義を理解したその時、ギラムの目の前で獅子が咆哮を上げた時だった。先程以上に俊敏な勢いで獣達がその場を跳躍し、多方向から一斉に彼等目掛けて襲い掛かって来たのだ。
あるモノは上空から飛来し強烈な爪の斬撃を、またあるモノは陸地から駆け出しそのまま角で一息に串刺しにしようとしていた。加えて初手の一撃は後方に寄っていた為に回避する事が叶ったが、今回は前方から後方に掛けて広範囲に仕掛けられており、とてもでは無いが回避する事も叶わないだろう。だが手元にある拳銃と身一つで応戦出来る程の力では、到底統合された集団を薙ぎ払えない。
グリスンも同様に一生懸命に無力化出来るであろう魔法を考えていた為、今から魔法を発動したとしても間に合う保証はない。幼き龍の力だけでは一部の攻撃を防げるかどうかの状態で、死を覚悟した時だった。
《グルァアアアーーー!!》
《グゥウッ……!!!》
《ブモーーッ……!!!》
周囲の空気を一瞬にして凍える空間に変えるかのように、氷龍は轟く声で咆哮を上げ、彼等の周囲を凍らせる力を放ったのだ。それによってギラム達の足元数メートル先から周囲に向かって瞬く間に氷の結晶が生い茂る勢いで突き出し始め、波に飲まれた獣達が一瞬にして身動きが取れない状態になってしまったのだ。
慌てて前衛が飲まれた現象に退避したモノ達も逃すまいと氷の波は一斉に襲い掛かり、目視出来る範囲に存在する者達は全て氷の中に封印され凍結されてしまうのだった。
突然の出来事にギラムは一瞬驚くも、誰が放ったのかは即座に理解したのだろう。危機感とは別の感覚を悟り後方を視ると、そこには周囲に微量の氷の結晶を漂わせる氷龍の姿があった。
「ラギア!!」
《汝の不意を防ぐ程度、造作も無い。……だが、我にとっても不利な環境は有るという事実、痛感するべきか。》
「不利……?」
《この空間を創りし者、その者が『創誓獣』を理解している者だと言う事だ……》
パキンッ……!
「!! ラギア、お前鱗が…!!」
しかし先程の一撃に加えて自らの身を蝕む現象に今まで耐えていたのだろう、ラギアの身を覆っていた氷の鱗の一部に突然亀裂が走り、そのまま砕ける勢いで一部の鱗が剥がれてしまったのだ。砕け散った鱗はキラキラと輝きながら周囲の温度に耐え切れなかったのだろう、そのまま溶けて消えてしまい蒸発する様に消え去ってしまったのだった。
よく見ると氷龍自身も相当な力を放った事で身を保つだけの魔法の力が大幅に身体から欠落したのだろう、歯を食いしばる様に小さく唸っており、徐々に猛々しい立ち姿から高度を下げる様にギラムに寄りかかりだしていた。全身に疲労感を感じている事を理解したギラムは慌ててラギアの身体を支えると、そのままフィルスターが普段から定位置として止まっている左肩とは逆の右肩に彼の顎を乗せると、そのまま相手の身体を撫でつつ落ち着かせる様に声を駆け出した。
「ラギア、無理すんな。辛いなら姿を保たずに見守ってくれてて良いんだ。このままじゃお前さん、本当に溶けちまうぞ。」
《案ずるな……自らの意思で外に居なければ、この現象は続かぬ…… 汝への脅威に常に助力出来ぬ……力不足、我にとっても……成長の刻と見るべきか。》
「お前が警告を促してくれてる時があるからこそ、俺だって今の現象に左程驚かずに済んでるんだ。さっきの一撃もそうだが、助かったぜ。ありがとさん。」
《……汝からの言葉が身に染みるとは、我もまだ青いと言うべきか。……すまぬ。》
スンッ……
ギラムの声と共に大人しく指示に従う事を選んだのだろう、ラギアはそのままギラムの顔に頬を擦り付け、名残惜しそうにその場から姿を消してしまった。相手の身体の重圧と同時に冷気が瞬時に消え去った事を理解したギラムは腕を下ろすと、別次元に身を戻した事を氷龍の言う『隣人』から知らされ、改めて目の前の光景に目を向けだした。
渾身の一撃とばかりに力を使ったラギアのおかげで身の危険を脱したのだろう、猛獣達は氷の中に閉じ込められたまま動いておらず、氷自体も解ける様子を見せてはいなかった。しかしこのまま何もせずに居れば何れ魔法の力が弱まってしまうのは目に視えており、残されたグリスンとフィルスターは顔を視合わせながらギラムの元に近づき出した。
「……ラギアが此処まで苦戦を強いられる相手で、創誓獣を使いこなすリアナス……」
「うん、僕も薄々そうなんじゃないかって思ってた。……落ち着いた今だから言えるけど、さっき指揮を取っていた子には見覚えがあるよ。」
「キュッ」
「「創誓獣『インドラ』……」」
それは彼等が先程まで立ち会っていた仲間の元で行動していた、ある創誓獣の一匹の名。その言葉を互いに口をした瞬間、彼等の行先はおのずと定まるのであった。
いつも『鏡映した現実の風シリーズ』をお楽しみいただき、ありがとうございます。誠に勝手ながら『活動記録』にも書きました通り『来月から更新日未定の休載』を此処に書かせて頂きます。
万全の状態で書き続ける事を望むと同時に、現状の様な『締め切り日方法』かつ『強引な書き上げ』では作品を書き上げる楽しみが自身の中から完全に消えてしまう事を危惧し、現状の様な対策と成った事をお詫び申し上げます。活動自体は『小説』だけでなく『お絵描き』等々で別の場でも行っておりますので、応援して頂けたら幸いです。
不意打ちで更新出来る内容が出来ましたら、小説家になろう内の『活動記録』や『X』などで描かせて頂きます、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。ではではっ




