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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
D1話・本当の敵はそこに居た(ほんとうのてきは そこにいた)
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11 叶えて欲しい依頼

流れる勢いで匿う事と成った新たな姿の友人と弟の様な存在のために、ギラムとグリスンは二人揃って沈む夕陽の照らす現代都市の中を歩いていた。行先に関しては食品の買い出しが主だった為か、今回は近場のコンビニを利用しており所要時間はそこまで要する事は無かった。


ちなみに今回追加で買ったモノ、それは主食となるであろうパンやパスタに加えて乳製品と、嗜好品側に位置する珈琲である。



「……僕、知らなかったなぁ。あのピニオって人、珈琲で動いてるなんて。」

「正確には『珈琲は飲める』って意味だから、コレが栄養源に成ってるって意味では無いと思うけどな…… 現に俺が職場に置き忘れた飲料水を持ち帰ったのもピニオだって言うが、その水の使い道も対した理由じゃなかったしな。」

「ギラムの好きな水で珈琲を淹れる為、だっけ?」

「おう。」


買い出しを共にしたグリスンは袋の中に入った食品達を視つつ言った言葉に対し、ギラムもまた同調する様に言葉を返していた。身体の造りは人間そのものだが生命的な活動源となるモノはクーオリアスの技術で造られた事もあってか、ピニオに関しては『生活の手間がかからない人造人間』という様な解釈にグリスンは落ち着きそうである。

とはいえ、手間がかからないとは言っても思考回路はギラムそのものであるが故か、その辺りの改良を日々ベネディス個人が行っていたと言うのがライゼの談である。


ギラムの食べるモノに関しては興味を持つのは当然であり、嗜好品として愛飲している珈琲に対し興味が湧かない訳がない。かと言ってクーオリアスに存在する珈琲を彼が好むかは別問題で有り、わざわざライゼに命令してまでリヴァナラスから取り寄せる程であったとかなんとか。

ちなみにその命令に関してはライゼは簡単にこなす上に文句の一つも言わなかったそうであり、本当に従順な部下であると言って良いだろう。


何処ぞの軍事組織内にて活動する、上司と部下との関係とは大違いである。



「まあでも、無事にライゼの身体が治ってからが本番だけどな。エリナス達が攻めて来るって成ると、それ相応に俺も行動しなきゃならないからな。……ライゼも一応そっち側だったって事は、リミダムが敵に回っても不思議じゃない。……サントスが言ってたのは、こう言う意味もあったのかもしれないな。」

「そうだね…… ライゼって子が着てた服も『向こうの装束』だから、そうじゃないかって思ってたけど……… 本当に、もう始まっちゃったんだね。」

「戦争は、本当に唐突に始まるからな……… 局地的に終息させられれば良いが、創憎主の時もそう簡単には行かなかったからな。覚悟だけは、決めとかねえとな。」



「……… ねぇ、ギラム。」

「ん? どうした。」


そんな彼等の帰路の道中を遮ったのは、隣を歩いていたグリスンの声だった。名前を呼ばれ振り返りながらギラムは足を止めると、そこには手荷物を持ったまま静かに立つグリスンの姿があった。


都市内を吹く風に静かに靡く彼の袖無しコートと共に背後の尻尾も少しだけ揺らぐ中、グリスンの大きな瞳は少しだけ心配そうな眼を見せていた。自らに対し余り自信の無い彼が時折見せる事のある顔付であったが、その日だけは少しだけ違っており何か大事な事を言いたそうな顔でもあった。


「急いでる所ゴメンね、僕…… 今だからこそ、ギラムに話さないといけないって思ってる事があるんだ。話、聞いてもらえないかな。」

「? それは、家じゃダメなのか?」

「う、うん……… ……出来たら、今はギラムにだけ言いたいな。ダメかなぁ………」


しかしそんな顔をしていたとしても、ギラムは彼に対し返せる言葉は今は持ち合わせていた。出会い頭の頃は疑ってしまった彼ではあったが、今と成っては疑う思考は無く、言い辛い事実を一生懸命に頭の中で組み立てている時の顔である事を知っている。


ならば決まって言える事、それはただ一つだけだ。



「……… 良いぜ、何処で聞けばいいんだ?」

「ぁっ、ありがとう!」


相棒として共に居るグリスンの言葉をちゃんと聞ける可能性があり、そしてそんなグリスンの背中を少しでも押してくれるであろう環境で聞く事。ギラムはただ同意し彼の背中を付いて行く、ただそれだけだった。





そんな彼等が夜の時間に成る少し前に到着した場所、それはギラムの借家からそう遠くはない位置に存在する温室庭園『ファンケルンハギール』であった。以前外へと出ていたグリスンが独り向かうのをギラムが追いかけた際にもやって来た事のある場所であり、夜間でも営業している為かその場に入る事は左程苦難を要さなかった。

時間帯別の入場料を支払って中へと向かうと、グリスンは既に場所を決めているのか、庭園内の奥へと向かって一人進んで行った。


後を追う様にギラムも同じ速度で奥へと向かって行くと、グリスンは庭園内の開けたドーム状の空間の真下に位置する控え目に植えられた花壇エリアへとやって来ていた。小さくも可愛らしい花々がその場には咲き乱れており、気付けばひらひらと舞う様に飛んでいる蝶の姿も目にする事が出来た。


そんな場所にグリスンは一足先に到着すると、静かに庭園内の空気を吸いながら近くに飛んで来た蝶を視て、笑顔を浮かべるのであった。


「………ふぅ。何時来ても落ち着くなぁ、ココ。」

「そういや、前にも此処に来てたな。グリスン。」

「うん。僕『ジピタース』の生まれだから、自然一杯の香りがする所が一番落ち着くんだ。ギラムの家からも近いからか目に入ってね、ちょくちょく来てたんだ。」

「そうだったのか。」


気付けば何頭もの蝶達がグリスンの元へと集まる様に周囲を飛び交いだしており、イヤフォンをした右耳に止まる蝶すらも現れる程。恰も春の妖精の様な状態と成りつつあったグリスンに対しギラムもまた周囲を見渡すと、一際目立つ黄色い蝶の姿も目撃出来る程だった。


しかし戯れるモノも居ればそうでないモノも居るのだろう、その蝶だけは近くの花の上に止まったままであり、景色の一部と化していた。


「それで、話ってなんだ? ライゼの話してた『帝政の名の元に』とやらと関係があるみたいな事、言ってたが。」

「うん……… ……本当は、もっと早くに話しておけば良かったかなって思ってる。でも、もう始まっちゃったってライゼは言ってたから……それは、今更過ぎるよね。」

「まあ、そうだな。……でもま、グリスンが何か話辛い案件を抱えてる時は大体そうだからな。別に良いぜ。」

「ありがとう、ギラム。」



「あのね、ギラム。僕がギラムにリアナスとしての契約を持ち込んだ時から、僕はギラムに『やってもらいたい事』があったの。もっと言っちゃうと……ギラムをリアナスにするって言うのは、建前。利用してるって言われたら、僕もきっと向こう側。」

「………」

「ギラムに疑われても仕方ないし、利用してるって軽蔑してくれても良いの。……それでも僕は、どうしても……助けたいヒトが居たから……… 僕の力だけじゃどうにもならなくて、他の人達に頼んでも……誰も変える事が出来なかった。」

「変える……?」



「ギラム。ギラムは『世界から拒絶された事』ってある?」



唐突に始まった話と同時にやって来た質問に対し、ギラムは質問の意図が解らない様子で首を傾げだした。

人からあまり良い眼を向けられる事の少なかったギラムからすれば『人から拒絶される事』に関しては抵抗が無い訳ではない。その原因の一つと成っているのが自らの顔に刻まれた傷跡だと言う事は解って居る上、親父譲りの顔付が更に拍車をかけている事など解って居た。しかしそれだけが『世界』と括れるかと問われたら、恐らくそれは違うだろう。


ならば彼の言う『世界』とはどういう意味に成るのか、まずは其処から理解するべきだろうと彼は思うのだった。



「………いや、そこまでスケールのデカいモノは感じた事が無いな…… せいぜい『少数以上の多数から』が関の山だ。」

「うん、僕はどっちかって言うとそれよりも少ない方だから……解ってあげられなかったんだと思う。僕が助けたいって思った子は、それくらいの大きな闇を……クーオリアスだけじゃなくて、リヴァナラスでも……感じたみたいなんだ。」

「両方の世界で……?」

「あの子は僕以外に親しい人は居ないみたいな事をよく言ってたけれど……まさかこっちの世界でもって思わなくて、聞いた時は……何もしてあげられなかった。励ましなんて優しいモノじゃダメなのは解ったし、かと言って僕が支えてあげられる程の心の痛みも理解出来て無かったから……… 本当に、何も出来なかったの。」

「グリスン……」


彼の言う世界、それはそのままの意味でもあり『対人』と言う意味でもあった。


自らが過ごしていた環境で拒絶された際、恐らく有識者だと思っている者達は決まって『別の場所に行けば大丈夫』と言う言葉をかけて来る可能性があるだろう。現にその場だからこそ馴染めない事も有る為ゼロではない解決策の一つとして候補に挙がるかもしれないが、大抵コレで解決出来るのは『周りが成熟していれば』であり、そんな環境など探して見つかれば苦労などしないだろう。



【お前はコレが出来ないから駄目だ。】

【こんな事も出来ないのか、何で出来ないんだ。】

【そんな事も理解出来ないで居るなんて、恥ずかしく無いのか。】



この手の言葉をかけて来る者達が『成熟している』筈も無く、理解していない事を棚に上げて相手を押し下げているのが現状であり、そんな者達で溢れかえってしまった世界に救いの場が存在するのか。無論、本人に非があるからこそそう告げられてしまえば本人は変われる可能性もあるだろうが、周りも自らも上手く変わる事が出来なければ、負の連鎖が続く一方だ。


グリスンの危惧していた者はその連鎖に滅法当たる存在であり、グリスン自身は相手の事を理解している為かそう思った事は一度もないそうだ。しいて言えば『言葉を伝える事も受け取る事も、自分よりも下手である』事を彼も気にしており、それが全てのハジマリだったのかもしれない。



ちゃんと理解してあげられなかったけれど、どうしても助けたい。



その想いだけでリヴァナラスへとやって来たグリスンを始めて視えたと思った相手、それがギラムだったのだ。


「でも、どうして俺を選んだんだ。」

「僕が視えた事もそうだけど、ギラムと契約してからずっと見て来たけど……他の人達とは違うのは、リアナスの特徴だから良いの。それ以外にも何か違うんじゃないかって、最近は特に思ってた。ザグレ教団の子達とも接点があった時からがまさにそうで、この間の戦いの時に……それが確信に成ったんだ。」

「………」

「ギラムはただのリアナスじゃない、その上の領域の可能性がある『真の憧れの導士』なんだって。今のリヴァナラスには居ない、衰退する時代に居たヒト。………でも、急に言っても……解らないよね。ゴメンね。」

「あぁいや、詫びる様な事じゃないから別に良いぜ。……それは、普通のリアナスとは違うのか。」

「うん。思考回路が少しズレてて飛躍しやすいのがリアナスだけど、僕が言ったのは更に先を行くヒトの事。魔法なんか使わなくても、周りに影響を与える事が出来る人の事なんだ。」

「?」

「良くも悪くもなんだけど、そこは……僕も良く解ってないから上手く説明出来ないかな。でも僕はそうなんじゃないかって思ったら、違和感を感じてた事が凄く綺麗に流れたの。ギラムは普通の人達とは違うし、周りに影響を与えられる可能性がある。だったらあの子も助けられるかもしれないって、僕は思ったから……ギラムにお願いしたい。お仕事の依頼って事でも良いの、お願いギラム……!!」



「僕の大切なヒト…… 『ニカイア・フィクス』を、どうか助けてあげて……!! お願いっ……!!!」



『グリスンが、本気で助けたいって想う相手……‥』


その時初めて明かされた、リアナスとしての契約を結んだ際の真実。それこそが、グリスンがギラムに対し本当に求めていた依頼内容だったのだ。



 ーEPISODE ENDー


次回の新章更新は、来年『1月28日』頃を予定しています、どうぞお楽しみにっ

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