表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
D1話・本当の敵はそこに居た(ほんとうのてきは そこにいた)
290/302

10 処遇と言及の先

夕刻時にやって来た感傷に浸る時間、戦いを感じさせる大事な友人の負傷。心情の変化に忙しさを感じつつも、ギラム達の元へとやって来たのはピニオとライゼの二人。彼等の口から平和を感じさせないやり取りを済ませた後、彼等は一度部屋へと移動しライゼの手当てをしだした。



彼の身体にある目立った外傷は、主に『火傷』に近くも『打撲』による内部出血と思われるモノが殆ど。幸い羽根で覆われた彼の身体から流れ出る血は無いものの、何枚かは染まってしまったのか彼の身体には所々紅い色味が存在していた。

人間の皮膚で言う『瘡蓋かさぶた』の様な状態になっている事をライゼの口から説明を受けると、ギラムは染まった羽根をそのままに包帯を巻き出し、その上から治癒力を高める薬剤を吹きかけるのだった。ちなみに薬に関してはライゼ本人が創り出した『魔精薬マエル』の為、効き目は抜群である。


肋骨の損傷に対しても抜かりは無く、別の注射器に収まった魔精薬をギラムは受け取り患部目掛けて針を突き刺しだした。本来ならば骨に対し刺さる程の硬度を持ち合わせていないはずの注射針であるが、その辺りは創り出した本人が望んだ結果なのだろう。

意図も簡単に相手の骨に刺さると同時に相手は痛みで呻くも、内部を注入し針を抜かれると暫くは苦痛に顔を歪ませていたが、徐々に落ち着いたのだろう。御礼を口にしつつ頭をさげた後、巻き途中だった包帯の残りを巻かれ処置を終えるのだった。


「よし、こんなもんか。……しかし、手酷くやられたな……肋骨が折れても平気な顔をしてたライゼも、大分無茶したんじゃないのか。」

「ヘヘッ、面目ないっす…… どうしても戦闘を回避する事が出来なくて、先輩達にも気を使って貰ったんすけど………限界だったみたいっす。申し訳ありません。」

「いや、俺に謝った所で仕方ないだろ。……ピニオはその割には怪我も無くて良かったが、一体何があったんだ?」

「「………」」


その後使っていた救急医療用セットをグリスンとフィルスターが片付けに行く中、ギラムの問いかけに対しピニオとライゼはお互いに顔を見合せだした。事情はどうであれ『既に巻き込まれている』事を理解した上で、一体何処から話し何処までを簡潔に伝えるべきなのか。少しだけ困った様子を見せるライゼであったが、彼の顔を視たピニオは静かに頷き『目の前にいる相手を信じて良いんじゃないか』と言わんばかりの顔を見せるのだった。


そこに居るのは自身の元と成った存在であり、例えどんな事態に成ったとしても決して諦める事を選ばないであろう相手。自らが成りたくても成れない夢の先に居る相手だからこそ、今の事態を打開する事が出来るかもしれない。


そんなピニオの眼を視たライゼは静かに目を瞑りながら頷くと、再びギラムの顔を見上げ静かにこう言いだした。


「……ギラム准尉。今から俺達が言う事は、確実にギラム准尉は愚かサインナ将達も巻き込む事なんです。可能であれば、招集する事は出来ますか?」

「サインナ達を? あぁ、それは構わないが…… 巻き込むって……何をだ?」



「『帝政の名の元に起こる大戦』です。」



彼の口から告げられた台詞、それは今までの平和を一瞬にして亡いモノへと変えるであろう内容の言葉であった。





夕刻時を少し過ぎた時間帯の呼び出しに対し、仮に応じてくれる相手が居るとすればどんな相手であろうか。呼び出し主に対し好意を抱く相手か、はたまた仕事の関係上『危機を回避するべく動く事』を主とする相手だろうか。

何方にせよ直々に参上して集うには少しばかり難しい事もあったからだろう、その場にやって来れる相手は限られた相手だけであった。


「まったく、みっともない姿で戻ってくるなんてね。サンテンブルクの面々が知ったら笑いものよ?」

「へへっ、面目ないっす。サインナ将のプライドも、しっかり守りたかったんっすけど………」

「何言ってるの。」


ぺしんっ


「いてっ ……サインナ将?」

「貴方は私の部下であって、ギラムの部下なんだから。恥以前に、未熟なんだって理解なさい。無茶は駄目よ。」

「……うっす。」


その場に即座にやって来た相手、それはライゼとの関係性がリヴァナラスで構築されていたサインナだった。非番だった事に加えて事態の重さを理解したからなのだろう、ラクトと共に即座に参上し負傷したライゼに対し軽めの喝を入れるのだった。

ちなみに補足を入れると、今回の喝はハリセンでは無くただのデコピンである。


「それで、何だっけ。『ていせいの名の元に起こる大戦』……だっけか。それは、どういう意味なんだ?」

「簡単に言えば『上からの命令で起こる戦い』って意味っす。普通に『戦争』って言った方が、解りやすいかもしれませんね。」

「戦争……!?」

〔えっ、じゃあギラム達は戦いに駆り出されるって事ー!? こんなに平和なのにー!〕

「メアン。あくまでその平和は『リヴァナラス側を観た』だけであって『クーオリアス側が干渉』したら、そうとは限らないよ。自分達は元々、ヴァリアナス達からすれば『目視出来ない存在』なんだからね。」

「第一、此方側だって上層部が土地や資源等の略奪を命じればその国との間で戦争に発展するわ。火種何て、その気に成れば幾らでも創れるモノよ。」

〔そんなーっ!〕


そんな喝を入れられたのも束の間、彼の口から放たれた『戦争』と言う単語で場の空気が乱れたのは言うまでも無いだろう。場に参加出来ない物達が画面越しの電話対談をしていた中でのその発言の威力は大きく、一部の者の電子板と音声に乱れを生じさせる程であった。ビリビリと電子音交じりに響く若い女性の悲鳴は中々に大きく、直で聞いた際には耳に痛そうである。


画面の向こうで慌てふためくメアンに対しトレランスが宥める中、冷静さを欠いていない様子でサインナは静かに言葉を告げつつギラムは話を続けだした。



「ちなみにだが、クーオリアス側の軍隊は何を望んで俺達に戦争を吹っ掛けて来るって言うんだ? 目視出来ないだけなら、土地も資源もその気に成れば使えるじゃないか。交渉する以前の問題なのかもしれないが。」

「すいません、そこまでは俺も確証を得てる情報は無いんす……… ただ解ってる事を憶測の段階で言えるのは、マウルティア司教殿は『その軍隊側とは対立する場に居た』って事と、衛生隊の壊滅が予測出来たが故に俺をリヴァナラスへと放てるだけの居場所作りをしていたって事だけです。」

「居場所?」



「『現代都市治安維持部隊』と言う此方こちら側の大きい組織との関係性を構築、そして彼方あちら側の行いの延長戦で貴方が居られる可能性がある存在に目星を付ける事。……大方、そんな所かしらね。」

「結果的にはそうっすね。……そう言う意味では、俺もスパイ同然。責められて当然です。」


ライゼの口から告げられた説明にしたいしサインナは端的に解釈を告げると、相手は静かに頷きつつ次第に顔を俯かせだしていた。


今と成っては人の姿でない自分が異端視されても不思議では無く、加えて上司二人の事を利用する立場として今まで行動して来た。この場で断罪されてもオカシク無い現状に顔向け出来ないとばかりに、顔を前へと向けていられる勇気が無かった様だ。

そんな彼の様子を見たグリスンは動揺しつつも彼の肩を支え出すと、ライゼは静かにお辞儀をし気遣いに感謝を示すのだった


「まぁ、私が貴方に対して言える事は何も無いわ。この場の決定権とライゼの処遇に関しては、ギラム。貴方に有るのだから。」

「俺に?」

「少なくともこの場に集まった全員の司令塔と成ってるのは貴方であって、彼方あちら側が危険視してる存在なのも貴方のはず。先の教団との戦いに便乗して仲間エリナスたちを助けようとして行動していたのであれば、戦力増強と同時に此方こちら側の戦力減退は狙っていたはずよ。現に貴方側に同調した一部の教団員達以外は、全員治安維持部隊側で処罰をしたその時点で、大分減っているはずなのだから。」

「……確かにそうだな。かと言って、一般都民のシーナ達を戦いに巻き込む事も気が引ける…… それにライゼの処遇云々に関しても、俺は何か言う事も罰する気も無い。」

「ギラム准尉……」

「お前さんは十分こっちの世界で出来る事を貢献してきたし、リミダムや他の獣人エリナス達と一緒に俺を助けに来てくれたじゃねえか。お前さんを信じる理由なんて、最初から問われても無いに等しいくらいには信頼してるぜ。俺はな。」

「……うっすっ」


場の主導権を握らされるも自らの考えを告げたその時、ライゼは静かに返事を返しつつ目に浮かんでいた涙を堪える様に再び顔を俯かせだした。しかしその先の両手は固く握られ拳を作ったままの体制でぷるぷると震えており、よっぽど不安を感じていた様だ。

一生懸命に自身に言い聞かせているのだろう、しっかりとした言葉は聞き取れなかったが、何度も何度も頷きながら独り言を呟いていた。


「それじゃ、決まりね。私は今後の此方側の動きを、マチイ大臣達と現状報告出来る部分を踏まえて検討して来るわ。即座に部隊を動かす事は難しくても、都民達の避難誘導位は出来るはずよ。」

〔私も可能な限り、テインさんと共に大きな動きとなる可能性の流通をピックアップさせて貰いますね。事前に情報を探す事が出来れば、対策を取りやすくなると思いますので。〕

〔アタシもイオルんとトレラン相談して、出来る事を探してみるねー!〕


「あぁ、頼むぜ皆。」


その後対談を終えた者達は各々で出来る事をすると宣言し通話が途切れて行く中、サインナはその場に立ち上がり再びライゼの元へと向かい静かに頭をポンポンと叩き出した。立場上軽い励ましをする事は出来ないが信頼している仲間には変わりなく、種族や生まれは違えど立派な『治安維持部隊員の一人である』事を伝えたかったのかもしれない。

普段であれば余り微笑まない彼女の笑顔を視たライゼは一瞬驚いた表情を見せるも、少し弱気ながらも返事を返しつつ相手を見送るのであった。



暫くして来客の見送りを済ませたギラムが再び部屋に戻って来たのは、それから数分した後の事。別室で控えていたピニオもその場に揃っており、現状四名と一匹による生活になる事を彼は改めて理解するのだった。


「さて、と。……そしたらライゼの療養がちゃんと出来る環境作りと、ピニオ達の食事の確保だな。フィル、二人を頼めるか?」

「キュッ」


「頼むぜ。グリスンは俺と買い出し、その間の留守番はピニオ。お前さんに任せるぜ。」

「うんっ!」

「了解、ギラム。」

「お手数おかけします、ギラム准尉。」


そんな彼の元にやって来た新たな居候達のためにと、ギラムは気合いを入れなおして外へと出て行くのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ